学戦都市アスタリスク-Call your name- 作:フォールティア
「おい、生徒会長。なんだこの愉快な空気は」
「それについては私が聞きたいくらいですわ」
エルネスタの爆弾発言によって何とも言えない雰囲気が漂う中、思わず真顔になった晶の問いにクローディアが苦笑いで返す。
なにせ件の襲撃事件の仕立て人が堂々と胸を張って「私が黒幕です」と被害者の前で宣言したのだから、驚かないわけがなかった。
相方であるカミラに至っては疲れきった顔で天を仰いでいた。
それだけで普段からどれだけ振り回されているのか、想像に難くない。
「そんで、君が噂の剣士くんだね?ふむふむ、なーるほーどねー」
「え、えぇと」
この場の空気をつくりだした張本人のエルネスタは何処吹く風といわん態度で綾斗に近付くと下から覗きこむように眺めながら感心したような顔で何度も頷いた。
「なかなかいいわねー。気に入っちゃった♪」
「何が気に入ったのかは知らんが、そこまでにしておけよ、狸」
更に近付こうとしたエルネスタの眼前に立ちはだかるように晶が身体を二人の間に滑り込ませた。
流れをぶつ切られたエルネスタはしかし、楽しそうにほくそ笑む。
「狸とは、失礼だなー」
「つまらん真似事をするような輩は、狸で十分だろうよ。その考えを相方の心労にでも向けたらどうだ?」
「そうつんけんしないでさー、仲良くしようよー。あたし的には剣士だけじゃなく《何でも屋(きみ)》と《華焔の魔女》ともお近づきになれたら嬉しいんだけどなー」
「生憎と私はサイラスの件を抜きにしても、貴様らアルルカントが大嫌いでな。ご免こむる」
「リースフェルトと同意見だ。そちらのカミラ・パレートならまだしも、貴様とは相容れそうにない」
ユリスと共にエルネスタの誘いをきっぱりと拒絶する。
アルルカントの内情について裏の依頼で何かと知る晶にとって、彼女の言葉は決して表面上だけで捉えてはならないと感じさせるものだった。
また、ユリスの声に含まれた理由についても少し知っている故に、アルルカント自体、信用に足らないのだ。
「ちぇー、残念っ」
「申し訳ない、このエルネスタは・・・まぁ、ご覧のとおりの性格でね。代わりに私がお詫びする」
カミラは疲れた苦笑いを浮かべて軽く頭を下げる。
やはりというか、カミラはすくなくともエルネスタよりかはマトモな性格のようだ。
寧ろそうでなければ、端から見ても暴走特急のエルネスタの相方など勤まらないだろうが。
ふと、そのカミラの視線が紗夜が今の今まで持っていた〔ウォルフドーラ〕へ移った。
「それは、また面白い煌式武装だ。個性的というべきか。コアにマナダイトを二つ・・・いや、三つかな?強引に連結させて出力を上げているのか。なんとも懐かしい設計思想だ」
その言葉に紗夜が珍しく驚いた表情をして、カミラを見る。
「・・・正解。なぜわかった?」
「わからいでか。私の専門分野だからね。しかし言わせてもらえば、あまり実用的な武装とは言いがたいな」
紗夜の片眉がぴくりと上がった。
それを知ってか知らずか、カミラは言葉を続ける。
「複数のコアを多重連結させるロボス遷移方式はもう十年以上も前に否定された不完全な技術だ。出力が安定しない上に、使用者に掛かる負担も大きい。更に言えばコア連結のために大型化を免れない。しかも高出力の維持のために過励万能現象を引き起こさなければならないから、一回の攻撃ごとにインターバルが必要になる。・・・大型の戦略兵器ならまだしも、人が持つにはあまりに非効率的だ」
つらつらと述べられるその内容に綾斗はまだしも、ここに来て長い筈のリスティ、レスターも理解が追い付いていない様子だった。
彼女の言いたいことを端的に言えば、紗夜の使っている煌式武装はとことんピーキー過ぎる代物だと言っている。
何せ、〔ウォルフドーラ〕然り〔ヘルネクラウム〕然り、一発射つごとに過励万能現象、すなわち流星闘技と同等の出力が必要ということだ。
燃費としては最悪と言って過言ではない。
その事をもっとも知るが故に、紗夜は悔しげに唇を噛みながらカミラを睨む。
「それは事実。だが、それでもお父さんの銃を侮辱することを私は許さない。撤回を要求する」
「お父さん・・・・・・?」
紗夜の発言に一瞬目を見開いたカミラはすぐさま、納得といった表情を浮かべた。
「ああ、もしや君は沙々宮教授のご息女なのか?」
「だとしたら、何?」
「ますます撤回するわけにはいかないな」
腕を組んだカミラは嘲るような声音で話を続ける。
「沙々宮教授はその異端さ故にアルルカントを、我等《獅子派》を放逐された方だ。武器武装は力であり、力は個人ではなく大衆にこそ与えられなければならない。それが《獅子派》の基本思想だ。私はその代表として君の父の歪さを認めるわけにはいかない」
「・・・・・・言葉にクーリングオフは効かない」
「知っての事さ」
「「・・・・・・」」
まさしく一触即発。紗夜とカミラの交錯する視線の狭間には言い様のしれない圧が発生していた。
「んんっ、さてお客人。そろそろ本題のほうへ取り掛かりませんか?」
爆発一秒前。絶妙なタイミングで放たれたクローディアの言葉にカミラの肩が弛緩したように下がる。
「・・・・・・失礼した」
「待て。断固として撤回してもらう」
紗夜の言葉には答えず、クローディアに促されてカミラは去っていってしまった。
「・・・・・・」
「カミラはああなったら頑固だからねぇ。そうそう自分の意見を覆すことはないかな」
にやにやと笑いながら成り行きを見守っていたエルネスタが身体を揺らしながらそう言う。
「成程、カタブツのようだな」
「そそ、かったいのよー。どうしても認めさせるんなら力づくしかないだろうねー。直近に良いイベントがあるんだし」
「まさか、《鳳凰星武祭》に出るってのか?」
「そのまさかだよ。そっちが決勝までくれば、どっかで当たるっしょ」
レスターの問いに答えたエルネスタは冗談を言っているようには見えない。
そしてその言葉には決勝まで自分達が勝ち進められるという自信に溢れていた。
「エルネスタ、行くぞ」
「はいはーい!じゃ皆さんまったねー!《鳳凰星武祭》で待ってるよー!」
入口からのカミラの呼び声に応え、晶達にそう言い残してエルネスタはトレーニングルームを去っていった。
「・・・・・・ふざけた連中だな」
さながら嵐のあとのような静けさの中、ユリスが小さく呟く。
それを皮切りに全員が揃って張っていた肩肘を弛緩させた。
「しかし《鳳凰星武祭》に出るとか言ってたが・・・・・・あの二人どうみても実戦クラスじゃくて研究クラスだろ?正気とは思えねえな」
「確かにな。両人ともに《星脈世代》ではあるようだが、闘う術を持っているようでは無かったからな・・・・・・む?」
二人に対する考察の途中で何かが引っ掛かったのか、晶が言葉を止める。
「どうしたんだよ、八十崎」
「ああ、いや・・・・・・なあマクフェイルよ。一つ確認なんだが、《鳳凰星武祭》含め、全ての《星武祭》で擬形体(パペット)の使用、及び代理出場は禁止されている筈だな?」
唐突な小声での質問にレスターは片眉を上げて何となく同じく小声で答える。
「あ?んなこと当たり前だろ。各学園の生徒たちの実力を見せる場所なんだぞ、擬形体なんざ出したら単なるメカの性能披露会になっちまうだろ」
「・・・・・・だが、擬形体を一から作り上げた場合、それもある意味生徒の実力、とはならないか?」
何とはなしに放たれた疑問符に、レスターは晶が言いたい事を理解する。
「八十崎、お前まさか・・・」
「だとすれば繋がるだろう、今回の襲撃事件ともな」
晶の予想としては、恐らくアルルカントが六花園会議、ひいてはその上に掛け合い《星武祭》での擬形体の代理出場を可能とする、ということだ。
だとすれば先のエルネスタの態度にも理由がつく。さらに襲撃事件が《星武祭》出場に対するテスト、あるいはデモンストレーションだった可能性が出てくる。
「だが、あくまでも予想だ。本当の所は《鳳凰星武祭》当日にならなければ分からんだろうさ」
「お前の予想ってだけで充分怖えよ、ったく」
ガシガシと頭を掻いて荒々しく息を吐くレスターに対し、心外だと晶は鼻を鳴らす。
そして、話を終えた二人が多少の騒がしさを感じて振り替えると、
「綾斗を私のパートナーにする」
「却下だ!断固としてな!」
「ちょちょ、リースフェルト先輩も沙々宮先輩も落ち着いて!?」
ユリスと紗夜が綾斗を挟んで口論し、リスティがそれを必死になって諌めようとしている、なんともシュールな光景がそこにはあった。
(助けて、二人とも・・・・・・!)
ラブコメよろしく両腕を引っ張られた綾斗からの視線に込められたメッセージを受けた二人の対応は奇しくも同じだった。
「「・・・・・・」」
無言で首を切るように親指を横に引く。
「薄情すぎない二人ともー!?」
リア充死すべし、慈悲は無い。
目の前の光景に背を向け、晶とレスターはほとぼりが冷めるまでと、外へと歩き出すのだった・・・・・・。
オッサンもといレスターは仲間になると頼もしい・・・筈