学戦都市アスタリスク-Call your name-   作:フォールティア

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ま た せ た な(蛇声)

今回から原作2巻のお話になります。
どうかお楽しみに!


code2 銀風紫闇
*01 邂逅


アスタリスク中央区。商業エリアと行政エリアの境界線上にホテル・エルナトはある。

シンボリックなその超高層ビルは各国のVIPや著名人がアスタリスクに来たならば一度は利用するべきと称される。他にも同クラスのホテルならば行政エリアにあるにも関わらず、だ。

その理由はホテルの最上階にある、ドーム型の空中庭園である。

さながら西洋の豪邸、それこそ一国の王の私邸のような庭園だ。しかし、ここに入ることが許される者はそうは居ない。例え統合企業財体の幹部であろうとも。

だがそれでもこのホテルに宿泊すれば、何かの偶然でこの庭園に入れるかもしれないと、そうすれば箔が付くと考える輩が後を絶たない。

そんな者達を拒絶する、ある意味で潔白、またある意味で閉ざされた、孤空の庭。

 

「さて、人も揃った」

 

その領域に足を踏み入れる事が出来るのはたった六人。

即ち、アスタリスクに存在する六学園の長。

 

「始めようか」

 

その集いの名は、六花園会議。

 

 

 

「つっても一人居ねぇだろ・・・いつも通りだが」

 

獅子の鬣のような、くすんだ赤髪をもつ小太りの青年がぎらつく目を鋭くしながら鼻を鳴らす。

レヴォルフ黒学院生徒会長、ディルク・エーベルヴァイン。円卓に足を乗せた彼は己の不機嫌さを露も隠さず口に出す。

 

「まあ居ても居なくても変わらねぇか。偶像(アイドル)何てのはな。何回目の欠席だ?クソの役にも立ってねぇぞ」

 

「口が過ぎるよ、双剣の総代。他学園の代表を侮辱する発言は慎んでもらいたい」

 

ディルクの真反対に位置する席に座る金髪の青年が嗜めるように注意する。

聖ガラードワース学園、その校風を象徴するかのような純白の制服を纏った、貴公子然とした青年。

聖ガラードワース学園生徒会長、アーネスト・フェアクロフ。

校風も、個人の性格も真反対の二人はこうして事あるごとに衝突を繰り返す。

 

「そこまでにしておけよ、若造ども?今はそんな些事にかまけている場合ではなかろうよ」

 

「・・・そうですね。場を乱してしまって申し訳ない」

 

「チッ・・・」

 

アーネストの左隣に座った、小柄な少女の一声に二人は剣呑な雰囲気こそ残せどそれ以上は口にしなかった。

 

「"アレ"が些事とはいえ動いたのだ、そう悠長にしてはおられまいよ」

 

その姿とは裏腹に老成しきったかのような口調で喋る少女、界龍(ジェロン)第七学院生徒会長、范星露(ファン・シンルー)の言葉に、円卓に座す六花の長は眉を潜める。

 

「【仮面】、か・・・」

 

「アレにはうちの者もやられておるからのう・・・」

 

【仮面(ペルソナ)】。数年前、唐突に六花の闇に現れたイレギュラー。

六学園それぞれのバックである企業、《W&W(ウォーレン・アンド・ウォーレン》、《界龍》、《銀河》、《EP(エリオット=パウンド)》、《フラウエンロープ》、《ソルネージュ》の何れの組織の暗部もその正体を掴めない謎の存在。

六花内で起こる闇の駆け引きの中に現れてはその尽くを潰滅させてきた実力を有している。

実際、六学園それぞれの暗部が、一度は攻撃を受けている。"電子戦、通常の戦闘も問わず"。

結果は惨敗。どの暗部も碌な攻撃すら出来ずに部隊を退いてしまった。

 

「今回は、星導館学園で起きた問題で出たとはエンフィールド会長から前もって報告があったけど。彼とは接触できたのかい?」

 

アーネストの一言によって五つの視線がクローディアへと集中するが、当の本人は慣れたものなのか狼狽もせずその問いに答える。

 

「いえ、何時も通り私が現場に到着した時には遠くに背が見えただけでした。それも、すぐに見失ってしまいましたが」

 

「《影星》は?」

 

「数名、精鋭に追わせましたが、全員負傷。何の手掛かりもありません」

 

返ってきた答えにディルクは舌打ちをし、椅子に深く沈む。

はっきり言って、ディルク含めこの場にいる全員がこの結果を予想していた。

何せ相手は一人軍隊(ワンマンアーミー)。中途半端な人数で押し掛かっても潰されるのがオチだ。

何せその過激性の高さは六花随一と呼ばれる界龍の暗部、《龍生九子》からの数十人に及ぶ襲撃を文字通り瞬殺せしめたのだから。それも大剣一本で。

俄に重くなる空気の中、唯一クローディアは"表面上だけ"神妙な顔つきを浮かべていた。

 

(これで貸し一つですよ。【仮面】さん?)

 

内心では口端を吊り上げ怪しげに微笑んでいた。

そう、今の報告は一から十全てが嘘の話だ。普段ならその違和感にこの四人は気付きそうな物だが、【仮面】の持つネームバリューがその思考の回転を鈍くするのだ。

 

『【仮面】なら仕方がない』

 

そんな言葉が彼らの脳内を席巻している限り、この報告の真偽に気づく事は恐らくないだろう。

 

しばらくの沈黙の後、進行役のアーネストが手を鳴らし話題を替えるべく口を開く。

 

「彼については統合企業財体(うえ)からも余り刺激しないよう言われている。この話題はここまでにしようか」

 

その言葉にディルクらも否やも無く頷く。どうしようもない天災について長々と話すより他の事を論じるほうが有意義だと考えたからだ。

 

「では、次の議題だけれども」

 

「あ、あのすいません、意見を宜しいでしょうか」

 

場を仕切り直そうとしたアーネストの言葉を遮り、弱々しい声が円卓に響く。

声を発したのはクローディアの隣に座る、見てからにひ弱そうな雰囲気を醸し出す青年だった。

アルルカント・アカデミー生徒会長、左近 州馬(さこん しゅうま)は四人からの視線を一身に受けながら言葉を続ける。

 

「私から一つ議題に上げたい事があるのですが・・・」

 

「ふむ」

 

州馬の意見を聞いて、アーネストは他の三人を見渡し反応を見る。

反対は無し。態度こそそれぞれだが、結論は是であった。

 

「キミからの意見というのも珍しい。構わない、言ってみてくれ」

 

「ええ、はい・・・今回、我々アルルカント・アカデミーが上げたい議題、それは」

 

途中で言葉を切って、州馬は柔和そうな目を静かに開く。その瞳は声音とは真逆の冷静さを顕していた。

それは正しく策を弄する者(せいとかいちょう)としての姿であった。

 

「ーー人工知能の取り扱い及びその権利についてです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・思いの外、依頼に時間が掛かってしまったな」

 

緑生い茂り、日も暖かいというより熱いと感じ始めるような時節。

夕暮れ前のせめてもの足掻きと言わんばかりの陽光に制服の襟元を弛めながら八十崎晶は急ぎ足で歩く。

 

サイラス・ノーマンが実行犯となって起こった《星武祭》参加者襲撃事件から二週間。

諸々の後処理を終えた晶は、かねてからのリスティとのスパーリングに付き合う約束を果たすために今日と言う日を設定したのだが、直前に受けた探し物の依頼が長引いてしまったため約束の時間ギリギリになってしまったのだ。

 

「不味いな・・・間に合うかわからんぞ」

 

いっそ全速力で走り抜けようかとも考えるが教師に見つかると色々と面倒だ。放課後ともなると教師達も何かと外に目を光らせている。

それに人とぶつかりでもすれば一瞬でスプラッターな事故現場が出来てしまうのは想像に難くない。

で、あるならば。

 

「諦めよう」

 

最早手だて無し。そう結論付けて晶は携帯端末のメール機能を使ってリスティへと遅れる旨を伝える。

そもそもからして向かっている訓練棟が遠いのだ。いや、訓練棟のみならず学内の各施設同士の距離が離れすぎている。

中、高、大の学舎がそろっていればこうもなるのは当然なのだが今の晶にとっては愚痴る要因でしかない。

 

「いっそ地下に抜け道でも掘るか?夜吹を使って」

 

さらっととんでもない事を呟きながらも速度を上げ、中等部と大学部にそれぞれ向かう別れ道に差し掛かったところで人の気配を感じる。と同時、気配の正体が晶へと突っ込んできた。

否、相手も気付いていながらも止まるに止まれなかったのだろう。視線が交錯し、お互いに避けようと"体を同じ方向に動かしてしまった"。

どんっ、と体がぶつかり合い、相手の体が小柄なのもあってか弾かれる。

 

「っと」

 

足を踏ん張って体勢を直し、倒れそうになっている相手の腕を掴み寄せ、抱き止める。

ぽす、とぶつかった衝撃の強さとは違い、軽さを感じさせるようにすっぽりと収まる。

 

「・・・すまん、怪我はないか?」

 

「あ、え、ひゃわぁ!?すすすいません!」

 

胸元の小さな少女が自分の状況を把握したのか、バッと離れる。

腰辺りまで伸びる銀髪、小柄な体、そして中身は刀であろう細長い袋を肩に掛けている。

その立ち姿を見て、晶は何処かで見た覚えを感じる。

 

「あ、あの、ぶつかってしまって申し訳ありませんでした!」

 

「気にするな。幸いそちらに怪我も無いようだしな」

 

既視感を払い、慌てふためく目の前の少女を宥める。

わたわたと動く様は小動物的で非常に愛らしいのだが、

こうも必死になって謝られるとなると流石に罪悪感が強くなる。というか良心が針の筵を受ける。

 

「それよりも、走っていたと言うことは急いでいたんじゃないのか?」

 

「あ、そうでした!」

 

「綺凛!何をしている!」

 

少女に訊ねると同時遠くから怒鳴り声にも似た大声が渡り廊下に響く。

それを聞いた少女はビクリと肩を跳ねさせると再度深く頭を下げてから小走りで去っていってしまった。

その後ろ姿を眺めていると少女の向かう先に一人の男性が立っているのが見えた。

少女が合流すると男性は苛立ちを隠そうともせず荒々しく歩き出し、廊下の角へと消えていった。

 

「今のは・・・刀藤 鋼一郎、か」

 

ぽつり、記憶から滲み出た名を口にだす。

 

「となれば、あの少女は・・・そうか、彼女が」

 

二人が立ち去った方向に背を向け、止まっていた足を踏み出す。

 

「ーーー序列一位《疾風刃雷》、か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局。

 

 

「で?最後に言い残すことはあるかな、あっきー?」

 

「いや本当にすまない、だからその無い胸を張って怒るのは止めぐほぁ!?」

 

待ち合わせ時間を大幅に過ぎた晶はリスティからの熱烈な歓迎(物理)を受けることになってしまったのだった・・・・・・。


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