学戦都市アスタリスク-Call your name- 作:フォールティア
IS終わってないのに投稿してしまった・・・だが後悔しない。
やった以上は駆け抜けよう、ドミナントとの約束だ!
*00 Prologue
ー己の命に価値を見出だせー
「・・・成程、つまり私はそちらのしょうもないミスで天寿を全うすることなく『殺された』と。そういう事か」
「誠に申し訳ない・・・!」
目の前で頭を見事な角度で下げたローブを纏った老人を見て、世捨て人然とした、落ち着いた、或いは何かを諦めたような空気を持つ男は溜息を吐いた。
チラと廻りを見れば白、白、白。全然全く一切合切天地万物尽く真っ白な何もない空間が存在していた。
これならまだ星の瞬きがある分、宇宙空間の方がマシである。
ーー男はこの何もない空間に来る前、特に何をしていたわけでもなかった。
只生きていただけだ。暇潰しにとやっていたオンラインゲームからログアウトして、いざ床に着こうとした途端、視界か暗くなったと思えばここに立っていたのだ。
果たして現れた妙ちくりんなこの自称神である老人から告げられたのは先に男が言った通りのしょうもない、ともすればふざけた理由だった。
「神様とやらも、ミスをするのだな。勉強になったな・・・授業料は些か割高が過ぎたが」
「返す言葉もない」
『死神による魂の管理ミス』。それによって男の命は唐突に『寿命を迎えた』。
男は未だ齢二十一。至って健康体であり、大学卒業後晴れて社会人となったばかりであった。
人生を謳歌し始めるような若い男はしかし、特段慌てる様子を見せなかった。
「まあ、もとより天涯孤独の身。死んだところでどうということも無し、ではないな。孤児院の連中に恩の一つも返せなかったのが唯一、心残りだが」
寧ろ、死んだというのにどうでもよさそうだった。
「お主・・・ワシが言える立場ではないが、辛くは無いのか?」
「生憎、先に言った事以外心残りも無いのでな。それに喩え天寿を全う出来ずとも、十二分に幸せな人生であったからな。私は貴方を責めんよ」
そう言って笑う男を見て、神は頭を上げ、一つ頷くと男にあることを提案した。
「お主、転生をしてみる気は無いか?」
「ほう・・・?」
興味を示したのか、片眉を上げて男は神を見る。続けろ、と言いたいのだろう。その意を汲み、神は説明を始める。
一つ。転生する場合、通常であればリセットされる前世の記憶をそのまま引き継いで転生することが出来る。
二つ。転生する世界は記憶を引き継ぐ関係上、必ず『人間』として生まれられる世界である。
三つ。転生する世界は前世とは違う理が存在する場合がある。
四つ。神による特別処置として男の望む力を与える。(複数可)
短いながらも要点を押さえたその説明を受けて、男の目に光が灯る。
「まるでライトノベルか漫画の世界の話だが・・・本当なのか?」
「ワシの名と、神の権能に掛けて誓おう」
「ふむ・・・悪くない」
現実に半ば飽きていた男はその提案を是とした。
男にとっては魅力的な提案だったのだ。自身がそれこそ数多存在する、所謂『神様転生モノ』を経験することが出来るのだから。
「その提案に乗ろう。何より面白そうだしな」
クックッと笑って男は頷いた。
「そうか・・・では能力はどうする?神に対する越権的な物以外であれば幾らでも付与できるが」
「そうさなーーでは、私がやっていたゲームのステータス、クラススキル、武器を貰いたい。ああ、スキルは同時展開出来るようにしてほしいものだ」
「・・・それだけなのか?」
男の言葉に神は怪訝そうな顔をする。
神自身がかつて見てきた他の転生者はもっと多様な能力を求めてきていたのだ。
時間停止にベクトル操作、はたまた神の権能にギリギリ触れかねない『神座』の力等々・・・
この男も同じだと思っていたが故に神は少し気が抜けた。
「それだけ、と言われてもな・・・ああ、ならば以前、というか大分前だが私がやっていた携帯ゲームがあってな。それのとある人種の能力を出来れば使いたい」
「・・・ふむ、成程な。この程度であれば御安い御用じゃ」
男の心を読み、彼の言うゲームの人種の能力を確認した神は首肯する。
「ここで普通、というかテンプレートに沿うならもっと能力を求めるんだろうが、生憎と私は物覚えが悪くてね。余り多く持っていても忘れかねん」
皮肉げに笑いながら肩を竦め、それに、と前置きして男は言葉を続ける。
「今上げた能力だけでも十分強いだろうしな。最強を気取る気も無し、これで十全だ」
「成程のぉ・・・その若さにしてお主は中々に達観しておる」
「生憎と、そうしなければならないような環境で幼少期を過ごした故な。・・・さて、いつ私は転生するんだ?この殺風景な空間にも飽いて来たのだが」
相も変わらず上も下も解らないような謎空間を見て男が鼻を鳴らすと神はその皺だらけの細腕を上げて何やら動かし始めた。
「今御主の魂に能力を付与しておる。それが終われば直ぐにでも転生できよう」
「そうか・・・では神とやらよ」
「なんじゃ?」
「私を育ててくれた孤児院の先生方に言伝を頼みたいのだが、構わんか?」
それまで纏っていた達観した雰囲気を消して、男は神に頼む。
何としても、最低限の挨拶は済ませておきたいのだ。礼の一つも言わずに消えるなど、男の矜持がそれを許せない。
「元はこちらが招いた事態、お主の願いは可能な限り応えよう。して、伝えたいことはなんじゃ?」
「すまない。そしてありがとう、と」
「短いの」
「長ったらしく語るのは、私らしく無いのでな。それに、私を知る人間ならこれで判ってくれるさ。そういう人達ばかりだったからな」
「委細承知した、必ず伝えよう。さて、付与も終わった。これから行く転生世界はランダムじゃ、ともすれば動乱の最中かも知れん。直ぐにでも行くか?」
腕を下ろし問うてくる神に男は頷くと薄く笑った。
「ああ、頼む。何時までも立ち止まっては居られないからな」
「そうか・・・うむ、では転生を始めよう」
男の言葉を聞き届け、神は再度腕を上げる。すると男の回りから黄金の粒子が舞い上がり始めた。
それはさながら雲間から射す陽光のような暖かさを持って男の意識を段々と薄くさせてゆく。
「次に目を覚ませばお主は転生後の世界じゃ。どうか、息災での」
「ああ、天寿を全うしてまた会えたのなら、その時は土産話でもしてやろう」
「はっはっ、楽しみにしておるぞ」
「期待していろ・・・では、な」
最後にそう言い残し、男は光に呑まれて消えた。
後に残ったのは真白の空間と神だけ。
「全くどうにも、『らしくない』若者だったのう・・・まぁ、土産話に期待しとくかの」
豊かな顎髭を撫でて好好爺然と笑んで神はその空間を後に・・・しようとした所で不意に動きを止めた。
「何、また死神のミスじゃと?ふざけおってからに・・・管理をしかとせよと警告しておけ!・・・は?またミスで一人死んだ?・・・もう勘弁して」
虚空を睨んで叫んだ神は唐突に肩を落とすと振り返って男が消えた場所へと戻る。
「はぁ・・・後で有休取りたいのぅ・・・」
何も写さない天を仰いで神が吐いた溜息は、やはり何も残さず消えていった。
ーーこれより始まる物語は、在り来たりで、それでいてどうしようもなく面白い(つまらない)物語。
ーーこれは一人の男が己の為すべき事を見つける物語。
さあ。
幕を上げようーーー