骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 コミックス4巻出ましたよ~。チェリオは買ってすぐ読みましたよ。早く王都の辺りを読みたい。怪我を直した彼女の顔を見てみたい。


第089話 「ぼっちと領地での揉め事:其の一」

 太陽が容赦なく照り付ける中でぼっちはジャケットを脱ぎ、カッターシャツの袖を捲って一人草むしりに没頭していた。

 王都より馬車で移動して数時間。…道中は寝ていた為に正確な時間は知らないが…ぼっちの領地へと到着した。各村長との会談は明日だがそれより先に前準備をして置かなければならないのだ。

 ナザリックよりアルカード領に来たのは3名。当然ながらのぼっちに秘書兼世話係でユリ・アルファ、そして護衛でステラ・シュバリエ…

 

 「マスター!!」

 「・・・?」

 「作業終了しました!!」

 

 広大な土地だった為に時間がかかると思っていたが案外早く終わるものだなとステラ担当の位置を見渡す。

 焼け焦げていた…

 デバフ対策はして来たものの疲れは溜まる物。長時間の労働に目がやられてしまったかと目を擦って再び見渡す。

 焼け焦げていた…

 フード付きのコートを着て頭の蛇を隠しているステラの表情はキラキラと輝いていた。

 

 「良くやった・・・次は柵を・・・」

 「マスターの命、賜りました。早速!!」

 

 ヤル気十分の忠臣を見送りながら少しばかり後悔する。護衛としての人選は間違ってないはずだ。マインはモミが用があると言って貸してしまったからな。まぁ明日には合流できると思うのだが。

 視線をステラ本体から鞘に仕舞おうとする炎を纏った剣に目をやる。

 …レバ剣を草の消去に使うってどうなのよ?

 疑問を浮かべながらちまちまと手で雑草を抜き続ける。最初はユリやステラに「私達が致しますゆえぼっち様は休んでいて下さい」と反対されたのだけれど、あの二人に任せるわけにはいかなかった。ユリには現在廃墟となっている領主の屋敷の手入れの陣頭指揮とそこにあるはずの書類と王都に蓄積されていた書類の検証を任せているし、ステラは…不安だしねぇ。それに暇すぎるじゃない。

 草をむしり終わり、柵が設置されていることを確認して動物の像を取り出す。

 

 「スタチュー・オブ・アニマル・・・」

 

 像が消えて一頭の白馬が現れた。通常の馬より一回りも大きい馬には一本の角が生えていた。

 『ユニコオオオオオオオン!!』

 そう来たか…いきなりの叫び声で驚いたわ。このユニコーンはサイコフレームで出来てないからな。にしても名前をつけた方が良いか?

 腕を組んで悩んだ時にステラが視界に映った。 

 

 「・・・モルドレッドで」

 

 命名モルドレッド。はい、これ決定。ステラが興味深々で近付くとモルドレッドが鼻息を荒くして警戒する。召喚者以外には敵対行動を行なってしまうらしい。

 なので命令を与えることに。

 一つ、ぼっちが紹介した者には手出しは極力避けよ。正し2,3の場合はそちらを優先せよ。

 二つ、柵を乗り越えたり、ここでの戦闘行為、柵内の無断の持ち出しが行なわれた場合はその者への攻撃を許可する。出来るなら殺さぬ程度に。

 三つ、捕縛・殺害を目的とした自身に対する攻撃の場合は相手の殺害を主としての攻撃を許可する。

 四つ、一から三までの条件化で柵内の守護を命じる。

 この四つの命令を聞いたモルドレッドは頬を寄せて擦り寄ってくる。優しく撫でるとステラの視線を感じた。左手で頭を撫でると嬉しそうに表情をトロンとさせた。

 

 「さて・・・さっさと終わらせるか」

 「ハッ!」

 「ヒヒーン!!」

 

 柵内に一定間隔を開けて葡萄の成る木をを配置して行く。これはユグドラシルで飾りとしてアイテムショップに置いてあった置物である。いくつものギルドから盗み…拝借してきた時に適当に適当に放り込んでいた為に結構な数があったのだ。ただの置物と思っていたのだが実が食べられたのだ。モーションとして実が成るまでの動きがあった事から食べ物になったのだろう。

 後は中央に無限の水差しの置物版を設置する。ここの土だが葡萄を成すには保水性と保肥性を持った土が必要なのですでにそれなりのアイテムは使用済みだ。職業で料理人が出来てからこういう簡易型栽培アイテムが出てくれていた事に感謝である。それらも設置型で土壌成分が変化すると範囲内を設定した土壌成分にするといったものだ。

 これでワインの為の葡萄畑が出来るだろう。

 

 「では、行くか」

 

 ぼっちはステラを連れてユリがいる屋敷へと向かって行く。

 屋敷は立派な豪邸だった。これは着いた時の感想である。壁にはツタが生え、庭は雑木林のようにいろんな植物が生えていた。屋根には大穴が開いておりその室内にはきのこがびっしり…

 そんな屋敷が数時間で人が住める状態になっていた。ヘルシングの社員を20名ほど連れて来ていたが確実にオーバーワークではないか?そんな考えが頭を過ぎると屋敷の中よりユリが急ぎ足で現れた。

 

 「申し訳ありませんアルカード様。まだ屋敷の手入れは完全には終わっていません」

 「・・・あれでか?」

 「彼らでは『あの程度』と言う事です」

 「・・・十分だ・・・後は後々」

 「はい、後ほどナザリックより数人手配しましょう」

 

 先程の『あの程度』の言葉には驚いたが聞こえない距離を保った上で、聞こえない音量を選んでいた為に彼らには聞こえていない。

 ユリに関して本当に連れて来れて良かった。どうしても他のプレアデスの子だとこうはいかないだろうからね。確実に本人達に聞こえるように言う上に見てなかったら彼らがどういう目にあっていたか分からない。

 社員達には酒でもご馳走するとして先に資料の確認しようか。

 

 「ユリ・・・資料は?」

 「すでに終了して執務室に置いてあります。ご案内いたします」

 「ん・・・」

 

 見違えるように変わった屋敷の中に入るとキノコや生い茂った草木とは出会わなかったがシミなどが目立つようになっていた。ナザリックで暮らしているから凄く気になる。向こうはしみ一つ無いのが標準だから…100分の1サイズのしみが出来た時点ですごく汚いって言われるレベルなので。

 執務室に着いたぼっちはレバ剣で焼けた大地を見た時と同じように目を擦って見直す。執務室の机の上に飾られているとしか思えない書類の山。山。山…

 

 「左端は王都にて保管されていた資料で中央の書類はこの屋敷で埃を被っていたものです。右端にあるのはアウラ様とデミウルゴス様が調べて新たに作製された資料です。…失礼致します」

 

 4つあるうちの三つの資料の山の説明をしたユリは爪先立ちをしてぼっちの顔に顔を近づける。仮面を付けているがくっ付きそうなぐらい接近されたらドキッとしてしまう。あ、光った。精神安定が発動した。

 

 「・・・どうした?」

 「目を擦られていらしたのでもしや目に埃が入られたのかと」

 「大丈夫・・・ありがとう」

 「いえ、お手数おかけしまいまして申し訳ありませんでした。最後になりますがこちらの資料が三つの資料を比較・検証した書類です」

 

 スラスラと仕事をこなすユリを見て感心した。ナザリック内でお礼を言ってしまったらお礼の応酬が始まったり、赤面して膠着する者がほとんどだ。さすが長女。これぐらいでは動じないな。

 感心しているぼっちであったが当のユリは赤面した顔を見られるのが恥かしく顔を合わせないように必死なだけだった。

 あまり座り心地の良くない椅子に腰掛けて資料に目を通し始める。

 ユリは「お茶を淹れてきます」と頭を下げて部屋を出て行き、ステラは斜め横に待機して護衛を始める。左手は鞘を握ったままでいつでも抜ける用意はしている。

 最初はこの領地で得られる税が書かれていた。その後には比較データが…

 

 「お茶を淹れて参り…」

 「あ゛?」

 

 苛立ちのあまり声を出してしまったがそれが濁ってしまい威圧感を生み出してしまった。ユリもステラも青ざめた顔のまま硬直しちゃったよ。

 

 「・・・二人にしたんじゃ・・・ない」

 

 呟きながら目の前の資料を指差す。

 資料には定められた税に王国に納めた税、デミウルゴスが計算したであろうこの領地で得られる富にこの屋敷にあった取り立てた税などが書かれていた。

 確か中世ローマでは半分が税で取られたっけ(記憶曖昧)?それを基準として多めに6割としよう。

 ここで得られる富を200とします。そこからの6割が120。王国側からは100を納めるように定められているから領主には20ほど得る事になる。徴収した税120-納める税100-領主が得た20で0。

 王国は100納めるように言っているが最近は不作で人手が足りないとの事で前の形だけの領主が85まで下げてもらったのだ。しかしここの屋敷にある資料では160ほど徴収してあったと書いてある。さてここで計算の時間です。徴収した税160-納める税85-領主が得た20で残り45。この残った55は何処に行ったでしょう?

 どんだけ私腹肥やしてんだよ!?って言うか民に対する税率が8割て…納めている税と10しか違わないておかしくないか?その前に受け取る役人も気付けよ。視察だってするだr…ああ、賄賂代も入ってるんですね分かります。

 『腐ってやがる…』

 早すぎたんだ…。何思ってんだろ。幻聴の方が正しい件について。

 次の資料をめくると今までの領主(本人は王都暮らしをしていた為に形だけ)や王国に対しての嘆願書。つまりは不満だ。見ることも無く棚に押し込められていたらしいが。

 

 -税を下げてもらえませんか?このままでは家族全員が飢え死にしてしまいます-

 本当にすみませんでした!!すぐに改善させて頂きます。

 

 -モンスターが近隣で暴れています。後生ですから対処を-

 モンスター退治は冒険者組合に頼もう。金は…俺持ちだな。俺の資産は王都で90%失ったけどね。

 

 -山の麓に盗賊やら傭兵やらが屯っていて治安が悪いんです-

 ああ、ステラを行かせれば良いかな?規模は知らないけど一日あったら…いや、俺も少し暴れよう。

 

 -戦の度に男手を取っていかないで下さい。すでに人が少なく老人・子供・女性しか居ない村もあって農業が成り立ちません-

 んー…先の奴ら使えないかな?

 

 -息子が難病にかかっており街の医者に見せたいのですが関所での税を免除していただけないでしょうか?-

 関所の税?この資料か…高っ!?どおりで街から街へ向かう商人のルートでここ一帯通行されない訳だ。了解しました全部何とかしましょう。

 

 一通り読んだぼっちの表情に二人はぞっとした。仮面をしているから片目しか覗いていない筈なのに解った。嗤っていた。背筋が冷たく感じるほど嗤っていた。

 

 「アア、蛆虫共ノ処理ヲシナイトイケマセンネ?」

 「マ、マスター!どうかしたのですか?」

 「ドウモシテマセンヨ」

 

 二人が怯えているのに気が付いて深呼吸をして心を落ち着けようとする。最後に大きく息を吐き出すとメッセージを起動した。

 

 「デミウルゴス・・・」

 『こ、これはぼっち様。どうかなさいましたか?』

 

 少し声が上ずっている気がするが今はとりあえずスルーで。

 

 「ここの元領主・・・賄賂渡してた・・・そいつらを調べて」

 『畏まりました。その後はどう致しましょうか?消すだけで?』

 「日にち・・・場所・・・バラバラで・・・事故死や病死」

 『ハッ!誰にも気付かせることの無いよう偽装も致しますか?』

 「・・・任せる」

 

 メッセージを終えると再び大きく息を吐いた。するとユリが恐る恐る前に出てきた。顔を見ると明らかに何かを言いたげであった。

 

 「ぼっち様にお願いがあるのですが…」

 「・・・何?」

 「領地に住まう者達は勉学どころか文字の読み書きも出来ないようです。そこで勉学に励めるものを設置してみるのはどうでしょう?」

 「・・・学校か?」

 「はい、民が文字の読み書きが出来れば…」

 

 教師をしていたやまいこさんに製作された子だもんね。そういう所、親に似ちゃうのかな…

 

 

 

 『なんで――には出来て貴方はこんな事も出来ないのですか?この役立たず…貴方、しn…』

 

 

 

 「ぼっち様?如何なさいましたか?」

 

 大きな声で呼ばれて意識を頭の中から呼び戻された。ユリの説明の途中であの事を思い出してしまったのだろう…

 

 「・・・良いと思う・・・けど・・・読み書きのみ・・・」

 「お聞き頂きありがとうございます」

  

 もう少し言葉を発せれたら良かったんだけどな。まだこの領地では子供を勉学だけに集中させる事は財政的に無理だろう。俺的にも領民的にも。だからせめてで読み書きまでだろうな。

 明日の村長達との会談までにいろいろ資料を完成させとかなきゃ…胃が痛い。

 ため息を付きつつ仕事に集中するぼっちはナザリックで何が起ころうとしているのかをまだ知らない…




 次は中篇…と行きたい所ですがその前にアインズ様のほうを。モミも出ますよ!!

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