骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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ぼっち=オリ主
アルカード=ぼっち
マイン=ぼっちの弟子
レイル=鍛冶屋
モミ=第11階層守護者
ステラ=モミの妹・騎士
ハイネ=ステラの兄・モミの弟・軍師
ザーバ=神父
ポルックス=無口な生産者・カストルの妹
カストル=ポルックスの兄


第087話 「アインズとアルベドのデート:ナザリック視点」

 カツ、カツ、カツと靴音を規則正しいリズムで刻みながらデミウルゴスは特別会議室へと向かっていた。

 今日はぼっち様の提案でアインズ様とアルベドが揃って外出しているのだ。ナザリックのあらゆる事を決められるアインズ様の外出は執務的には大問題なので今回は代行が決められた。それが自分ではなくモミに言い渡されたのが悔しくてならない。

 辿り着いた特別会議室の扉を軽くノックしてから入室する。何故だかわからないが灯りを消しているので中は当然の如くに薄暗い。本当なら暗いのだが遠隔視の鏡を作動させている為にそこから光が辺りを多少ながら照らすのだ。

 一番奥の執務席には机に両肘を付いて両手で口元を隠すように指を絡ませている。その執務席より手前に5つの机に椅子、机の上に配置された遠隔視の鏡をじっと見つめる一般メイド達。

 小さくため息を付く。

 これはモミに対しての物だ。彼女はアインズ様の今日の執務すべて任されている。が、現在執務は行なっていない。これはサボリではない。大事なことなので二回書きます。サボリではない。昨日の夕刻にアルベドのセットを行なった後に申し付けられてから徹夜でアインズ様の執務と第11階層の仕事をすべて済ませたのだ。しかも緊急時やイレギュラーなどにも対応できるマニュアルまで製作したのだ。これほど仕事が出来るのならいつもすれば良いものを…

 モミに対する考えをとりあえず置き、モミの右斜め後ろに立つ。

 

 「言われた通り来ましたよ」

 「遅かったね。…コキュは?」

 「コキュートスなら自室で手入れをしていると思いますよ」

 「ワッツ?…こっちに来ると思ったのになぁ」

 

 本来ならそうであろう。『アインズ様の様子を覗こう』と誘われた時には「至高の御方を監視するなど不敬である!!」と罵倒したが『アインズ様はナザリック大墳墓の最高責任者。アルベドが付いていると言っても暴走しがちの彼女だけではもしもの時には不安が残る。これは警備の名目で行なうの。最悪の事態を踏まえて対応できるだけの行動するのが真の忠臣ではないのか!!』と諭されたのだ。確かにそうだと納得した。これは必要な行為である。先も書いたように本来なら、いつも通りならここにコキュートスも来ていただろう。

 昨日の夜のことだ。ぼっち様に呼び出された私とコキュートスは『ゲヘナ』の褒美としてアイテムを賜ったのだ。コキュートスはぼっち様のナイフ・バットの技術とアインズ様の《リアリティ・スラッシュ》を封じ、至高42人が集めた鉱物を使用して創られた『蜻蛉切』を。私は…アイテムと言うよりチケットでしょうか。他の者には見られないように注意せねば!!で、現在コキュートスは『蜻蛉切』を手入れしているのだろう。

 

 「…状況を」

 「《セイバー》対象を確認。距離を開けて待機中」

 「《アサシン》配置完了しました」

 「《キャスター》も準備完了したと報告が来ました」

 「…よろしい」

 

 遠隔視の鏡を見つめる一般メイドからの報告を聞いたモミは何処から出したか手に取ったサングラスをかける。

 

 「マルナナサンマル。状況を開始せよ」

 「全サーヴァントへ告げる。『聖杯が満たされた』繰り返す『聖杯は満たされた』」

 

 デミウルゴスはあることに気付いた事前に聞いた話では07:20より行動開始だったはずだ。しかし10分経ってもアルベドが来ていなかった。

 

 「アルベドがまだ着てないようですが…」

 「良いの、良いの。私の指示だからさ」

 「至高の御方であるアインズ様をお待たせする事がでしょうか?」

 「あー…デミデミって恋愛経験ゼロでしょ?こういう時のほうが楽しい場合があるんだって。これから何しようかなぁ?とか何処に行こうかなぁ?とか予定を考えたりする時間が楽しかったりするんだよ」

 「そういうものなのですか…」

 「ふっふっふっ。土方さんや一君、千景様と数々の付き合いをしてきた私を信じなさい♪」

 

 デミウルゴスはモミの恋愛経験はすべて二次元という事を知らずに感心する。

 多少遅れて登場したアルベドにアインズは微笑み、手を繋いで歩み出した。それに対して黄色い悲鳴と羨む声色を漏らすメイド達。

 

 「ふぅん…歩幅を合わせたり、立ち居ちを取ったり…高評価だねぇ」

 「モミ様!対象が予測されていた所に…連絡がありました。『赤テブクロから白クツシタへ。お客は今入店した』と」

 「…《キャスター》にパターン青…じゃなかったパターンaにて対応」

 

 キャスターと呼称されたニグンは店内の店員に指示を飛ばす。一人は対象が試着する際に試着室を使えるように中で待機させ、もう一人には相手の表情や雰囲気を読んで対応できる人材を待機させる。もちろんモミの命令通りに夫婦と思われている感じの言葉をかけるように言ってある。

 遠隔視の鏡を自分の前にも設置したモミはアインズの口元を読んでずっこけた。何事かとデミウルゴスが見るがすぐに遠隔視の鏡に視線を戻す。

 

 「今…シャルティアって言おうとしたよね…まぁセーフかな?」

 

 聞こえない様に呟くと元の体勢に戻って監視を続行する。

 試着室に入ったアルベドを待つ間にアインズがネックレスを買うのを確認して「よし!!」と声を漏らした。

 

 「何が「よし」なのですか?」

 「ネックレスにはね『相手を束縛』や『独占したい』の意味があるんだな」

 「貴方が言うと胡散臭く聞こえるのですが」

 「…ぼっち様が言ってた」

 「おお!それは確かですね」

 「…うん、そうなると思った」

 

 二人で会話していると一人のメイドが慌しく振り返る。

 

 「イレギュラー発生!対象に接近する人間を確認!人数5、武装は目視で確認できず、レベル5以下と推測」

 「アインズ様の外出を邪魔するとはただでは済ませません!!コキュートスに連絡を!!出撃準備を…」

 「はい、はい。今騒ぎを起こしたらその外出自体を無にしちゃうよ。近くに王国の兵士とか居ない?」

 「ポイント《デネブ》にて王国の兵士を確認。ぼっち様の資料で見たことあります。確か…王女お付のクラインでしたか…」

 「…クライムね。ポイント《デネブ》にはマイn…《セイバー》が居たよね?《セイバー》に対象の元まで誘導させて」

 「了解」

 

 クライムに偶然を装って出会ったマインはなにやらあちらが騒がしいと告げてアインズの元へと誘導する事に成功した。王国の兵士が来たことで退散して行くイレギュラーたちであるが逃がす気はなかった。

 

 「…《アサシン》にイレギュラーの位置を教えてあげて。あと『狩れ』って伝えて」

 

 ヘルシング極秘部隊『ブラックドッグ・バスカヴィル』。元漆黒聖典であるクレマンティーヌが指揮を執り、直々に鍛え上げた女性のみの暗部と呼ばれる部隊である。女性のみと言うのは結果的にそうなっただけで女性限定の部隊と言うことはない。

 今はナザリックの管理下にある王都を裏から操っていた『八本指』には奴隷売買部門に麻薬取引部門がある。

 買われた相手に人間の最低限の生活さえ奪われ、殴られ、犯され、好き勝手に命まで脅かされる。

 麻薬を勧められた者は金の為に麻薬漬けにされ、金が払えなくなったらそのまま捨てられる。

 彼ら・彼女らの末路はこの世界では死ぬまでそのままか死ぬかの二択である。しかしぼっちは目に付いたそういう者を保護して施設に入れてきたのだ。ほとんどの者が不信感を抱いて来るが衣食住など今まで味わった事の無い、もしくは失った人間らしい生活に徐々に心を取り戻した。その間の医療費や生活費などぼっち持ちでその後の仕事の斡旋まで面倒を見ている。そんな彼ら・彼女らがぼっちに対して狂信的な想いを抱くの少なくなかった。中でも絶対的な想いを抱いている者達が集まった部隊が暗部なのである。

 誤解が無いようにここに書くがぼっちにそんな思惑は無かった。ただたんに放って置けなかったから拾っただけだし、医療関係にも手を出そうと思っても居たから看護学校で実習相手にでもなってくれたら嬉しいな程度なのだ。『ブラックドッグ・バスカヴィル』は名付けたが部隊の内容まで知らない。ただ極秘部隊を作りたいと言って来たクレマンティーヌとニグンに許可を出しただけなのである。

 彼女達は裏路地に入ったイレギュラー…いや、獲物に肉食獣の如く襲い掛かっていた。慌てて一人が音を遮断する魔法をかけた。中には獲物の取り合いをしている者も居た。自分にされてきた恨みを晴らすかのように自由に殺し尽くす。

 そこまで見ると興味をなくし、再びアインズ達の動向に注視する。と言っても二人で街を歩きつつ会話するという他愛の無いものだった。

 最後にザーバが居るパーティー会場に着くと監視終了を告げる。

 

 「本当にここで止めてしまうのですか?」

 「うん…あとはザーバの仕事だからね」

 

 納得できてなさそうな表情をするデミウルゴスは一度頷き室内から退場する。一般メイド達一礼してから退場して行った。遠隔視の鏡を回収しながら片づけをしているとザーバより『願いは成就されましたよ』とメッセージが届き、心の底から嗤った。

 

 「ああ…違った」

 

 手で頬を触ると今度はにへらと笑った。


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