前編・後編に分けますが…
ぼっち=オリ主
アルカード=ぼっち
マイン=ぼっちの弟子
レイル=鍛冶屋
モミ=第11階層守護者
ステラ=モミの妹・騎士
ハイネ=ステラの兄・モミの弟・軍師
ザーバ=神父
ポルックス=無口な生産者・カストルの妹
カストル=ポルックスの兄
無いはずの鼓動が高鳴る感覚がする。
短く息を吐き出し空を見上げる。雲ひとつ無い青空で太陽が眩しく感じる。
「絶好のデート日和…か」
アインズ…いや、今は『サイト』と名乗った方が良いのか…は待ち合わせに設定した広場で木を背もたれにして待っていた。
なんと言って良いのかそわそわするな。こういうものなのか?楽しみであるような不安であるような…不安…そういえばアルベドも変装しているらしいがどんな姿をしているんだ?
今更ながらぼっちやモミに聞くのを忘れていたアインズは頭を悩まし始めた。メッセージを使おうにもぼっちは切っているだろうからモミに聞くしかない訳だが…
「お待たせしてしまい申し訳ありませんア…サイト様」
声をかけられ振り向くとブロンドの髪が煌びやかに輝かす美女が立っていた。一瞬誰かと警戒したが向けてくる表情で誰なのかすぐに分かった。
「アルベドか…いや、今来たところだ」
いつもの黒髪ではなくブロンドだったのにも驚いたが頭に生えた角や腰辺りの翼が消えていた事にも驚いた。何かしらの幻術で隠しているのだろう。しかし何の魔法か分からない。あとでモミに聞いてみるか。
モミが勝手にぼっちのアイテムを使用したことは誰も知らない。もちろん消費アイテムではない物を使用してはいたがね。
「それでも至高なる御方を待たすなど…」
「良い。良いのだアルベド。それにこうして待つというのも楽しいものだ。…ところでそのまま呼べば良いのか?」
「モミからは『マリエール』と」
「マリエールか…では行こうか、マリエール」
「っ!?はい」
差し出された手を嬉しそうに握るとアインズのほうから指を絡ませてきた。いわゆる恋人つなぎである。顔を真っ赤にさせて嬉しさのあまり叫びそうになるのを必死に我慢する。モミに言われたのだ「人が多いところで暴走すると迷惑になるし引かれるよ」と。
照れた様子だが嬉しそうなアルベドの顔を見て安堵する。ぼっちさんのアドバイスを聞いてよかった。正確には『聞く』ではなく『書いて』だけれども。
『男がリードすべし。ただし勝手に押し決める訳ではない』
メモの内容を思い返しながら次の行動に移る。移ると言ってもアルベドを道の内側ではなく外側に位置させる。
『道の内側だと馬車の砂埃や人とぶつかり易い為、端っこを歩くのであれば彼女を守るように立ち居地を取るべし』
あと歩く速度を合わせる事を忘れずに実行する。
向かう先は決めてある。決めてある…というかそこしかないのだが…
ヘルシングが運営する服屋である。正直この世界で店に行ったとしてもレベルが低過ぎて買う気が起きないのだがぼっちさんの店には自分が住んでいた世界の物を元に売っているから目を引く物がある。
「いろいろな服がございますね。これはなんでございましょうか?」
「ん?………はぁ?」
デート中だが思わず怪訝な顔をしたアインズは自分は悪くないと思う。
店内には下着類からコート類まで数多くの品々が並んでいる。日本でも売っていた物ばかりの光景なのだがアルベドが指差した物だけは目を疑いたくなった。
「女性用の…警官服かな」
「警官?」
「異世界の…アインズ・ウール・ゴウン42人が行き来できた世界の…ある職業の制服だ」
「至高の御方々の!?」
何をしているのだろううかぼっちさんは…
良く見てみるとある一部はコスプレ専門店のようだった。異世界の服と言った事に興味を引かれたのか自然とアルベドの足がそちらへと向かって行った。
看護服に丈の短い巫女服、終いにはSM用の物まで。こめかみを押さえつつアルベドに付いて行く。中でも一番目を引いたのはゴスロリ系の服装だ。ふわっとしたスカートに何十にも重ねられた肩掛け、所々にレースやフリルが使われ重厚かつ可愛らしさを持ち合わせ、モチーフに十字架や薔薇など使用されている。目立つように黒と白の二着が置かれていた。
「その服がどうかしましたでしょうか?」
「ああ、シャ…」
素直に答えそうになった口を閉じる。
『デート中に別の女性の名を出すな。比べるような発言は特に』
危なく「ああ、シャルティアに似合うなと思って」などと言ってしまうところだった。
「シャ…シャツも黒いのかなぁと」
苦し紛れに呟くと黒い方が良いのでしょうか?と呟き始めたアルベドを連れてその場を離れる。が、離れたのは良いがどうすれば良いのか分からない。何か買って上げたほうがいいのだろうがどれが良いのか分からない。しかし店員に聞くのも…
「どうなさいましたかお客様?」
ニッコリと営業スマイルで近づいてくる黒髪の女性と相対する。この店の店員なのだろう。悩んでいる事に気付いて近づいて来てくれた事に心の中でナイスと叫んだが、アルベドが殺気だった事に申し訳なくなる。
その殺気に気が付いた店員は少し冷や汗をかきつつも引くことが無かった事は凄いと感じた。
「お、奥様との買い物ですか?」
「おおおお、奥様!?今私のことを…コホン、少し取り乱しました」
「う、うむ。あー…彼女に似合う服を探していてね」
「ではこちらなどは如何でしょう?」
店員が手に取ったのは白いワンピースと黒いダウンコートだった。何故その二つ?と問いたくなったが選びやすくて良いといえば良いのか。とりあえずアルベドに似合うと思った白いワンピースを指差した。
「こちらですか。どうぞご試着ください」
「行っておいでア…マリエール」
「しかし御身を守らなければ…」
「問題ない。それよりお前のワンピース姿が楽しみだ」
「~っ///すぐに着替えてまいります」
この店は人が多いため試着室も埋まっていたがちょうどひとつが空いて入れ替わるようにアルベドが入って行った。それを確認すると店員が横まで接近して来た。
「今の間に奥様へのプレゼントなど如何でしょうか?」
「プレゼントかぁ…指輪が良いのだろうか?」
「ネックレスなどお似合いになると思われますよ」
「ほう。見せて貰っても?」
「勿論です」
ネックレスを飾ってあるガラスケースには様々な種類があった。ハート型から十字架などあった。目に止まったのは髑髏のネックレスだ。どう見てもモデル俺だろう!!と突っ込むほど似すぎている。これが知らない店ならばオーバーロードをモデルにしたと思うのだがぼっちさんの店だからなぁ…
「このネックレスですか?」
「へ?」
「お目が高いですね。このネックレスは特に腕の良い職人に作らせた一品でこの店一の商品のひとつです」
「いや…」
「奥様にお似合いだと思いますよ」
「あ、はい」
押しに押されて髑髏のネックレスを買う羽目になってしまった。
ワンピースは試着したもののいつものアルベドを想像していたものと違った為に買うだけ買って帰ってからの楽しみとなった。
店を出るとめんどくさい事態に巻き込まれた。
「かわいい彼女連れてんねぁ。おにいさん」
アルベドを見てなんぱに来たのだ。皆が創った子を褒めてくれるのは嬉しいところだがこんな下卑た男に言われても不快感しかない。
「ねぇ。こんな冴えない奴より俺らと遊ばない?」
殴っても良いのだろうか?というか殴りたい!!殴れば一撃で殺せるがそんなことすれば問題となり騒がしい事になってしまう。それに冴えないとは何だ!?ぼっちさんがわざわざ設定してくれた顔を!!別に俺が殴らなくてもアルベドが殴りそうだが…
「止めて貰えませんか?」
睨みを利かせながらアルベドを庇うように前に出る。アルベドは後ろで庇ったアインズに対して顔を赤く嬉しそうにし、対峙した奴らはニ、三歩引いた。一人だけ噛み締めながら引くことは無かった。彼らのリーダー的存在だろう。何かを発しようと口を開こうとしたが…
「そこで何をしているのですか!!」
白銀の騎士風の少年が勢い良く走って来た。王国の兵士が来たと彼らは逃げて行った。追いかける前にこちらに近寄り気遣ってから去って行った。気を悪くしたような嬉しそうなアルベドの頭をひと撫でしてから行くぞと声をかけて二人で進んで行く。まだまだ楽しむ時間はあるのだから。
次回後半へ続く