忙しかったり他のSS書いてたりで遅くなりました。すみません!!
青空が広がる草原を一台の馬車が進んでいく。道は整備されていない土道。二頭の馬が一歩、一歩踏み出す度に振動で馬車が大きく揺れる。
「うー…」
馬の手綱を引きながらニニャは荷台で唸って青い顔をしているマインを見て苦笑する。
漆黒の剣は仕事で警護についていた。荷台で唸っているマイン・テェルシーのではなく、頭の後ろで腕を組んで寝転がっているレイル・ロックベルの護衛である。
先日退院したマインがアルカードより休みを与えられ、久しぶりにカルネ村に帰る事になった。それにレイルがくっ付いて来たのだ。何かあった時に自分では戦えないとの事で漆黒の剣を雇ったのだ。
「でも俺達雇う必要なくね?」
ペテルも道中思っていた事のなので頷いて同意する。もちろんニニャもダインもである。
荷台には王国戦士長とも渡り合い、多くの民を救った英雄の一人であるマインが居るのだ。漆黒の剣を雇う必要は無いように思える。
「このぺっぽこが使えると思うか?」
片目だけ開いて気だるそうに答える。その視線の先のマインはまだ唸っている。
マインは先日退院したと言っても出来るだけ安静にしていた方が良いのだ。と言う訳で今の移動方になったのだが…
「うぷっ…」
「こっちに吐いたら二度と打たねぇ」
慌てて口を押さえるマインに対し、心配する気配も見せずに言い放つ。
絶賛酔い中なのであった。確かにこの状態では戦闘になっても話にならない。
「見えてきましたよって…」
「ヒュ~(口笛)。すげえ」
「まるで砦であるな」
見えてきたカルネ村を見た皆が口々に呟いた。それは以前見た時と大分変わっていた。村を覆っていた柵は城壁と言っても良いような立派な物へとなっていた。たかが一つの村が出来る範囲ではない。
一同は入り口の門番していたゴブリンと話てカルネ村へと入って行った。
門を潜ると中は以前見たカルネ村のままだった。そこにゴブリンに呼ばれたエンリ(現村長)がやって来た。
「お久しぶりですエンリさん」
「マインちゃん!?帰ってきたんだ」
にこやかにハグし合う二人をエンリと同じ方向から来た男の子がムスっとした顔で見つめていた。
漆黒の剣皆にはその理由は理解出来たし、レイルも何となく察した。分かってないのはハグしている二人である。
少年は服から草花を煮詰めたような臭いを漂わせている以外に特徴としては茶色の髪で目が隠れきっている事。
マインはそんな少年に気付いてエンリより離れる。
「薬草取り以来ですよねンフィーレアさん」
「あ、う、うん、そうだね」
さっきまでむっとしていた表情を直し普段どおり振舞うが振舞えきれず何ともいえない表情をしてしまっている。
「それに漆黒の剣の皆様も…えーと」
「冒険者…じゃなさそうね」
「鍛冶屋で働いているレイルって言ってボクの友達…ですかね」
「宜しくねレイルちゃん」
『レイルちゃん』
ニニャとマインが顔を合わせて苦笑いした。それを見たルクルットはクスクス笑っていた。
マインもだが初対面の時には女の子だと思ってしまったのだ。大抵は怒ったりするのだがレイルの場合は…
「始めましてエンリさん。レイル・ロックベルと申します」
いつもは見せない微笑みを浮かべて会釈をする。慌ててペテルとダインがエンリに説明すると驚いた表情をした。
レイルは相手が女の子と認識すると悪乗りして演じるのだ。
男の子と知ったエンリはレイルに『本当?』と疑問符を浮かべて話しかける。ンフィーレアは何かを思い出したように手を叩いた。
「そういえばロートルさんに会った?」
「先生にですか?これからですけど…」
「なら早く会ってあげたほうが良いよ。マイン君に会うのを楽しみに…」
「―――――っ!!」
ンフィーレアの話を遮るように叫び声とも悲鳴とも言えない声が響き渡った。
振り向いた先にはひげを生やした西洋甲冑を身に纏った骸骨だった。初めて見たレイルは嫌そうな顔をしたが逆にマインは嬉しそうに笑った。
「ロートル先生!!」
嬉しそうに叫ぶと刀を鞘から抜き放ち、いきなり斬りかかる。奇襲の如くに襲い掛かったはずなのだが知っていたかのようにいつの間にか抜かれた剣で軽く受け流された。
剣と刀がぶつかり合う。それは本気の斬り合いであったがまるで子供のように笑っていた。本人はもちろん村の人も笑っていた。
「あれじゃあどっちか死ぬんじゃねえ?」
「そうですよ!止めないと」
「エンリ、ジュゲムさんなら何とか出来ないかな?」
「さすがに無理だと思うわよ。それにいつもの事だし大丈夫よ」
「「「「「いつもの…」」」」」
「ンフィー、ネムを呼んできてくれない?あの子、マインちゃんに懐いていたから」
「うん、分かったよ」
ロートルが強いのはジュゲム(ゴブリン)に剣の練習で試合をしているので知っていたが初めて本気の戦いを見て漆黒の剣同様唖然としていた。
笑いながら今もてる剣術を駆使して斬りかかるマインをレイルは拳を握り締めながら真剣な眼差しで見つめていた。
夕刻まで続いた二人の戦いはマインの惨敗で幕を下ろした。肩で息しながら悔しいなと呟やくマインにネムはお水を渡す。
「ありがとうねネムちゃん」
「うん♪」
少し乱暴な手付きではあったけど頭を撫でられたネムは幸せそうに笑う。
「ご飯にする?って言う前にお風呂に入った方が良さそうね」
「え?ああ、そうだね。汗でびちょびちょになっちゃったよ」
「ネムも一緒に入るぅ!!」
あれだけの戦いを繰り広げたのだ。汗だくになるのは当たり前だろう。幼いネムが一緒に入ることに対して誰も何も言わなかった。ネムに対してはだが…
「久しぶりに私も一緒に入ろうかな?」
「ファ!?エエエエエ、エンリ何言ってんだい!?」
エンリの一言に周囲が驚いた。特にンフィーレアが。困惑した表情でエンリに言うが逆に疑問符を浮かべられてしまう。
「どうしたのよ?」
「どうしたのじゃなくて一緒にって…」
「?何か変なこと言ったかな?」
「別に言ってないと思うけど?」
「いやいやありまくりだから」
疑問符を浮かべるエンリにマイン、ネルに対してルクルットがツッコんでしまう。
「昔はよく一緒に入ってたわねよ」
「それは小さかった頃の話だよね」
「ンフィーが薬草取りで皆と来た次の日に一緒に入ったわよ」
「ナン…ダッテ…」
「三人で洗いっこしたよね」
「うん、楽しかった」
「洗いっこ!!」
「さっきから皆どうしたの?」
「ニニャさんまで困ったような顔してますけど」
「いや…したくてしている訳じゃないんですけど」
「ペテル。この場合どう言った方が良いのであるか」
「さすがに「羨まし過ぎるでしょ!!俺も一緒にいいいってえええええ!!」少し黙っていような」
後頭部を思いっきり殴られたルクルットは置いといて正直どうして良いか分からないペテルは一番困惑しているだろうンフィーレアを見た。困惑と言うより真実を受け入れられないって感じである。
「え、エンリは何度も彼と一緒に入っているって事なのかい!?」
「『彼』?ちょっと待ってよンフィー。マインちゃんは女の子よ」
場が凍った。馬鹿馬鹿しくて黙っていたレイルも目を見開いていた。
「「「「「えええええええええ!?」」」」」
「やっぱりボクって女の子には見えないんですね…」
「よしよし」
驚きの叫び声がカルネ村にこだまする中、ネムに慰めてもらったマインであった。
いろいろあったがお風呂に入り、夕食を食べてからは王都やアルカード伯爵の話などで盛り上がった。
明日もあるからとマインの家でレイル達は横になっていた。
ニニャを始め漆黒の剣の面々は寝息を立てていた。マインは転んだままレイルの方へ向いた。
「レイル、起きてる?」
「………寝てる」
「起きてるじゃないか」
くすくすと笑うとムスッとした表情で顔を向けてくる。怒っているのではなくいつも通りめんどくさそうって顔に書いてあった。
「で、なに?」
「なんでレイルはついて来たの?」
「何となくだよ…そういうヘッポコは何で帰ろうと思ったんだ?」
「ヘッポコはやめて欲しいな。…王都の戦いでさ。いっぱい人死んだよね」
「そりゃあまぁな」
「ボクは何をしてきたのかなぁ…」
「ああ?」
「もっとボクに力があれば死なずに済んだ人も居た。いや力はあった。足りなかったのはボクの強度…。もっと身体が頑丈だったら多くの人を救えたかもしれないのに」
「あほか…やっぱヘッポコのままだな」
今にも泣きそうなマインの言葉に心の底からため息を付いた。
「救えなかった命があるように救った命もあるだろうが。ヘッポコが責任を負う話じゃねえよ」
「でも…」
「だったら鬼の店主様もそうだろうが。アレが最初から参戦してたら被害は大きく減っていたと思うぞ」
「それは…そうだけど」
「……さっきここに来た理由『なんとなく』って言ったろ。ほんとは見てみたかったんだ」
「何を?」
「前に話していたろ剣の先生の事を」
「ああ。何回か話したっけ。でも聞き流されていると思ってたよ」
「俺はあの戦いでは何も出来なかった。ただ眺めるだけで…」
「レイル…」
「俺はとりあえず刀を打っていれば良いと思ってた。美術品としても武器としても上等と言われてたし、鬼の店主様に死ぬまでに認められよう程度にしか思ってなかった。だけど違った。俺が作ってきた刀なんて鈍らとなんら変わりしなかった」
「なに言ってんだよ。凄く良い刀だよ。レイルが打ってくれる刀は」
「それは実戦で使った感想か?俺の打った刀に本気で命を預けられると思うか?」
マインは黙ってしまった。なにか言い返したいのだが言えなかった。今までの戦闘を考えると足りないのだ。言ったとおり良い刀だと分かる。でもそれではマインには足りないのだ。
「俺も思ったよ。あの時もっと凄い刀が打てていたらあんなに死ななくて良かったんじゃないかなってよ」
「それはレイルのせいじゃ…」
「だから俺は過去ばかり見ない。少しでも早く本当に良い刀を打つ。あの店主様にも認められる刀を打つ。それが今を生きてる俺がする事だ」
「今を生きる…『過去を悔やんでばかりでは前に進めないぞ』か。そうですよね。うん!ボクも未来に生きるよ。いつかアルカード様を超える剣士になるよ」
「なら俺はそんなマインが本気で命を預けれるような刀を打つよ」
「アルカード様に認められるような?」
「うっ……及第点ぐらいには」
「ふ…ふふふ」
「あはははは」
笑いながらマインとレイルは各々の夢を確認しながら笑いあった。
次の日の朝にはレイルは王都に帰っていった。