骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第076話 「王女と伯爵」

 悪魔達の侵攻から三日が経った昼下がり。

 未だ王都北東部の復興もままならない状況下で、ラナー王女は私室で優雅にお茶を飲んでいた。

 何もお茶会を開いているわけではない。この場には六大貴族の中で最大勢力を誇るエリアス・ブラント・デイル・レエブン。通称『蝙蝠』とも呼ばれるがここではレイブン候と書かせて貰おう。

 そしてもう一人。ラナー王女の兄でリ・エスティーゼ王国の第二王子であるザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフである。

 この三人はあの悪魔侵攻時にとある約束事をした。内容はザナック第二王子を次の王とする事である。レイブン候は王国の未来を『まとも』に、ここ重要なので二回書きます。王国の未来を『まとも』に相談できる者は第二王子かラナー王女しか居ないと判断している。周りからは愚者と称される第二王子はレイブン候の狙いとラナー王女の真意に気付いた。ゆえにラナー王女には王になった暁には絶対に結婚できないであろうクライムとの結婚を約束して仲間に引き込んだのだ。

 ちなみにレイブン候の子供との偽装結婚してお互いに別の好いた相手を持つとの事。

 話が逸れてしまった。ここに集まったのはこれからの事についてある者と話す事になっているからだ。しかも王国の、自分達の運命さえ左右されるものとラナー王女は考えている。

 現在の彼らの立ち位置はそれほど危ういものではない。むしろ良過ぎるほどである。

 悪魔侵攻時に王が自ら前線に出た事で国民からの支持を勝ち取った王と王派閥は大きく発言力を増し他派閥を圧倒している。第二王子のザナックはレイブン候より兵を借りて自ら街を見回り国民からの評価は上がった。レイブン候は先も書いたように六大貴族で最大勢力であり捕らわれた国民の救出作戦に手を貸している。ラナー王女は自ら前線で指揮を執り、救出作戦も自らの騎士(クライム)を向かわせるなど多くの戦功を立てている。

 上記四者除く権力者、貴族達と王族である第一王子は兵を自分の身を守る為に使った。これは兵を持っている者からすればごく当然のことではあるが国民からすれば臆病者以外…つまり彼らの評価は駄々下がりしてザナック達と王はうなぎ上り。

 であるからして彼らを追いやれる者は居ない。ただの一人を除いて…

 カップを置くと同時にノック音が響く。

 

 「ラナー様。いらっしゃいました」

 「分かりました。どうぞお入りください」

 「失礼します」

 

 ドアが開かれるといつも付けているシルクハットと仮面を外したアルカード・ブラウニー伯爵が現れた。

 彼こそがこれからの王都を左右し、ザナック達の脅威である存在である。

 「どうぞ」とザナックに対面する席を示すと敬意を表すかのように深くお辞儀をした伯爵はゆっくりと歩み席に付いた。話が話だけにクライムは同席させず扉の前で待機させている。

 

 「ラナー王女様にザナック第二王子、そしてレイブン候を私のような新参者がお待たせしてしまって申し訳ない(寝坊しましたなんて言えないよな…)」

 「ははは、そんなに畏まらないでくれアルカード伯爵。遅刻と言っても5分も経っていないさ。最近忙しかったからこうしたのんびりとお茶をする時間もなかったんだ。久しぶりにゆっくり出来てよかったよ」

 「そう言ってもらえると助かります(良かった。怒ってない)」

 

 さっきまでまだかまだかと表情で示していた癖に当の相手を前にしたら別人のように豹変した。優雅に余裕を持った態度で自らを大きく見せようとしている。これが今まで周りに愚者と思わせていた兄の実力なのだろう。少し前の彼を目撃してないものにしたら気付くはずもない。ただそれが伯爵に通じるかどうかは別だが…

 

 「正直我々より貴方の方が力を持ってますしね」

 「ご冗談を。私のような者より王家のお二人や六大貴族のレイブン候の方が持っているでしょうに(相手は王族に大貴族…嫌味か!?)」

 「何を仰るアルカード伯爵。財力では六大貴族を。国民からの支持率は王や六大貴族を遥かに凌駕している。謙遜も過ぎれば嫌味に聞こえますよ」

 

 ハハハ、と笑いながら言うレイブン候の言う通りだ。

 財力は元々大商人と言う事で軽く見ても六大貴族の2、3人と並ぶと思われていたが今回の一件で考えが大きく変わった。アレだけの補給物資を無料で提供し続けるなど財力を弱められる以前の王国でも出来たかどうか分からない。かれにはそれだけの余裕があるのだ。六大貴族が束になろうとも無理であろう。

 王派閥は国民からの支持をかなり得ていると言ってもそれはアルカード伯爵を除いた貴族達を引き合いに出したときだ。無料での食料から治療アイテム、寝袋などの必要である物を無料で提供し続けている事と自らが兵を率いてではなく最前線で戦った事などで国民からの支持は凄まじいものである。しかも戦った相手は王国戦士長やアダマンタイト級冒険者が束になっても勝てなかった相手。それを一人で撃退したのだ。漆黒の英雄と称されるモモン程ではないが冒険者からもかなりの支持を得ている。

 ゆえにザナックとレイブン候は伯爵をこちら側に引き込みたいらしいがはラナーは違った。

 名前は聞けなかったけれどラキュースの報告によればアダマンタイト級冒険者を手元に三名置いている。それに警備や傭兵として多くの兵力を持っているとの話を聞く。王都の防衛にも何人か無料で貸し出されている。

 財力・国民からの支持力・兵力のどれをとっても他の貴族の追従を寄せ付けない。

 

 「で、ラナーに用件があったんじゃないかな?レイブン候より会いたいと聞いたが」

 

 ザナックもレイブン候も笑いながら話しているがラナーだけは微笑む中でも見定めようとしていた。

 伯爵はヤルダバオトと繋がっている。そうラナーは考えている。と言っても確信ではなく可能性がある程度だが気のせいで済ませるわけにはいかない。繋がっていると感じたのは物資の準備の速さと侵攻で狙ったかのように力を広げた事だ。これは伯爵が自分の力を増す為に行なわれた計画ではないか?疑う余地はあった。でなければ偽善行為だけであれだけの支援は行なえないだろう。しかしながら可能性で留めたのは計画していたにしてはおかしな点がある。

 何故自分ではなくヤルダバオトと戦う役がモモンだったのか?

 計画していたにしろ物資の用意は確かに早かったがそれは前々から用意していたにしては遅い。

 そして一番に思うのがヤルダバオトにシャルティア・ブラッドフォールンにアダマンタイト級と言われるメイド達に悪魔の軍勢を自分を持ち上げる為なんかに使ったのか?あれらの力だけを使えるなら王国、いや帝国も落とせる筈なのに。

 今回はこれらがどうなのか見定めなければならない。私に用があるのならそこから何を考えているのかを探れる筈だ。

 ラナーはカップを完全に置き、伯爵の言葉を待つ。

 

 「ええ、実はラナー王女に頼みたい事がありまして…」

 

 微笑みながらも内心では焦りが生じる。もしここで下手を打てばクライムとの幸せが遠退いてしまう。なんとしても防ぐかあちら側に取り入らなければ…

 

 「王都北東部の住居のデータが欲しいんですよ。しかも何処までが誰の所だったか正確に分かるぐらいの物が」

 

 内心の焦りが消えた。まぁ最初から自分の企みを話さないだろう。最初は軽い話から。立場が逆だったら私だってそうするだろう。

 

 「構いませんが何にお使いになるので?」

 「はい。王都北東部に住まう国民達は家や財産のすべてを失っております。ゆえに私が資金を出して街を再建しようかと思いまして。…それとその許可を頂きたく存じます」

 「街の再建ですか?それはありがたい事です。この前の悪魔の一件で倉庫の財が奪われ王国側としても支援できない事を悔やんでいたのです。お父様には私から話しましょう」

 「ありがとうございますラナー王女様」

 「それはこちらの台詞です。王都の民の事を真剣に考えてくださり感謝します」

 

 話に区切りが付くと無音に包まれた。魔法がかけられたとかそういう訳ではない。伯爵が黙ったのだ。

 

 「それで用件とは…」

 「え?今のが用件だったのですが…」

 

 意味が分からなかった。許可を取る為だけに私に合いに来たの?しかもまだ自分への支持を欲して?これ以上は無意味だろう。それとも街を再建するに当たって何かを仕掛ける気なのだろうか?否。解らない…伯爵は何を狙っているのか解らない。

 微笑みながら思考するラナーを余所にどうしたものかと悩む二人に伯爵は首を傾げる。こういう時は何か話題を出した方が良いのかなと考えた伯爵はラナーを見つめながら口を開いた。

 

 「そう言えばラナー王女はクライム君とはどうなのですか?」

 「どうとは?」

 

 思いもしなかった質問に途惑いながらも平静は崩さなかった。

 

 「結婚など…」

 「ぶふぅ!!」

 

 丁度お茶を飲んでいたナザックが咽た。ラナーも同じく飲んでいたら噴きはしなかっただろうがそれなりの反応をしていた所だろう。まさかあの時のナザックとレイブン候との話を何処から知ったのか?ありえない。ではこれは偶然?

 咽たナザックの背をレイブン候が擦りながら説明する。

 

 「彼はラナー王女の騎士になれはしたが結婚となると話は別なのだよ」

 「出来ない理由があるのですか?(両思いだったと思ったんだけどな…親が反対しているとかかな?)」

 「ラナー王女は王家の血筋を引く由緒正しい家系。対してクライム君は平民…しかも路上で拾われた者。まず無理だろうね」

 「無理なのですか…何か方法は無いのですか?二人とも互いを想っているように感じたのですが(感じたって言うかステータスを覗き見したんですけど)」

 「そうだな…クライム君が大貴族を得るか、王家が無視できないほどの貴族の養子になるしか無いのではないかな」

 

 悩みながらレイブン候が口にした言葉を聞いた伯爵はにっこりとこちらを見て優しげに笑った。

 

 「だったら私の養子にしましょう」

 「「「え?」」」

 

 三人同時にハモった。いえ、そんな事はどうでも良い!何と伯爵は言った?私とクライムが結婚できるように養子にすると…

 開いた口が塞がらない三人に対して言葉を続ける。

 

 「レイブン候が先ほど仰られたじゃないですか。財力は六大貴族より有って、国民からの支持は大きい。って事は王国に対してそれだけ無視出来ないほどの影響力があると言う事ですよね?(合ってる?これ合ってるの?助けてデミえもーん!!)」

 「た、たしかにそうだが…」

 「どうでしょうか?ラナー王女が宜しければ…いえ、クライム君にも聞かなければなりませんね」

 

 出過ぎた事を言ったかなと内心不安に襲われていた伯爵の両手を力強くラナーの両手が包んだ。

 

 「喜んでその提案に乗ります!!」

 

 先程まで疑いしか向けてなかったのは何処の誰だろう。ここに居るのは仲間にしたはずの妹に裏切られた知恵の周る兄とこれからどう動くか考えを練り直すレイブン候。そして堂々とクライムと幸せに暮らす事を思い浮かべている少女だけだった。

 




 第一王子派に第二王子派
 王族派閥に貴族の派閥
 ならばラナー王女とぼっちはどうなるのか?

 次回『王家と六大貴族とぼっちの関係』
 今度はサブタイトル詐欺しないようにしないと…
 次回お楽しみに

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