この戦いは正直見せ掛けの物だと思っていた。いや、実際はそうなのだ。
『漆黒の英雄』モモン様ことアインズ様はヤルダバオトと名乗っているデミウルゴス様と戦っている振りをして異空間へと消えていった。ユリ姉さまとシズは付いてきた冒険者…名前は忘れたがそれと戦っている。彼女にはこの戦いを他の虫けら共に伝える為に生かさないといけない為に二人も本気ではない。
なのに…
「観念するっすよ!!」
「っ!?」
仮面を着けたルプスレギナの殺気のこもった攻撃を何とか回避する。それで油断は出来ない。続いてソリュシャンが襲って来た。後ろに飛び退き距離をとろうとしたらエントマが追撃をしてくる。
何故か私、ナーベラル・ガンマに対してだけ本気で襲ってくるのだ。
「くっ!!ドラゴンr…」
「サセナイ」
「カハッ!?」
さすがにレベルを偽りこの三人と戦うとなると不利でしかなかった。エントマに本気で吹き飛ばされたのを利用して岩陰に隠れる。続いてエントマ、ソリュシャン、ルプスレギナがやってくる。その目には濃厚な殺気が込められている。
さすがに説明を要求するべきだろう。エントマの声がおかしい点もあるのだがそれよりもこの状況についてだ。
「はぁ…はぁ…。三人共どういうことか説明してくれる?」
「どういうことってどういうことかしら?」
「何故そこまで殺気を放ちながら攻撃を仕掛けてくるのかって事よ」
「そんなの自分の胸に手を当てて考えるといいっすよ!」
「思い当たる節が無いから聞いているのだけど…」
「ソレ…本気デ言ッテル?」
意味が分からない。一応考えてみる。
アルベド様の名前を口にしてしまいンフィーレアにモモン様=アインズ様という事をばらしてしまった事?いや、あれはアインズ様直々にお許しを頂いたはず。
なら未だにさん付けが出来ていないことだろうか?
本気で理解出来ていないナーベラルに痺れを切らしたルプスレギナが口を開く。
「ぼっち様の事を『まあ、大した事ないでしょうに…』とか言ったらしいじゃないっすか」
「あ!!な、何でその事を!?」
「本当だったのね」
「モミ様カラ詳シク聞イタ」
「違うんです!あれは…その」
「問答無用っすよ」
三人の殺気のこもった瞳よりこのことをぼっち様に知られたと思うと頭が真っ白になった。
軽い説明を受けたモモンは異空間より元の空間に戻ってきた。
鎧にはデミウルゴスに傷をつけてもらった。これで鎧からも激戦だったことも分かるだろう。しかしそれだけでは足りない。ここには目がある。あとで王都の者達に伝えるであろうアダマンタイト級冒険者のイビルアイが居るのだ。ならばその前で戦いを披露したほうが良いのではないかと言うのがアインズの考えだった。その判断にデミウルゴスも頷いた。
「ぐぅ!!」
呻き声を上げながら飛び退いて距離をとったように演技するデミウルゴスはイビルアイの視界に入るように着地する。追撃するモモンが大剣を上段に構えたまま斬りかかる。再び後方に飛びのき回避する。
『・・・大剣二つより…』
以前に接近戦を習おうとぼっちさんに話しかけた時の事を思い出した。速度や反応速度を重視したぼっちさんの動きは真似できないがいくつかのアドバイスは貰った。その中で派手に見せる為にはどうしたら良いかと聞いた事があった。それを試そうと思う。
あの話の後に大剣の柄を改造しており、柄と柄を繋げれる様にしている。その柄と柄を繋げて頭上で回転させてから構える。ただでさえ大きい物がくっつき二倍の長さになり見る者の視線を釘付けにする。
それはイビルアイもプレアデスも関係なかった。
「なんと…」
「行くぞデ…デーモン!!」
「はっ!?こちらも行きます」
今までと同じく大剣と交えようとしたデミウルゴスが衝撃でよろめいた。
重さは二倍で回転させることにより遠心力を合わせてその攻撃力は何倍にも上げられた。そんな物を今までと同じでは防ぎきれるはずも無かった。
反撃に出ようとする前に二撃目が襲って来た。腕でガードするものの数歩押し戻されてしまう。
「さすがでございます。先ほどとは攻撃力も速度も段違いです」
「そ、そうだろう。まさかこれまで使う事になるとは思わなかったよ(まさかこんなに変わるなんて思ってもみなかった。って言うか身体ごと回りそうなんだけど。もう少しぼっちさんに扱い方を聞いてればよかったかなぁ)」
「これが貴方の奥の手と言う事ですか…これは非常に不味いですね」
「それはこちらにとっては好都合だな(何にせよボロが出る前に早く済ませないと)」
再び斬りかかったモモンの猛攻をイビルアイは戦闘中なのを忘れて魅入ってしまう。
一太刀振るう度に空気が大きな音を立て、逸れた攻撃が地面やそこらの物を激しくふっとばして行く。ヤルダバオトも反撃できず防ぐ一方であった。
荒々しく力強い攻撃をイビルアイは舞のように感じた。一生見ること無いであろう舞に心から魅入っていた。
「そりゃぁあ!!」
「ガハッ!!」
自らを軸とした一撃がヤルダバオトの腹部に直撃した。その衝撃で10メートルほど飛ばされたが体勢を何とか立て直し、地面を蹴って飛んだ。
「悪魔の諸相:煉獄の衣」
炎を纏ったヤルダバオトがあっという間に10メートルの距離を詰めて肉薄する。再び交えると今度は衝撃で吹き飛ばされることは無かった。指が大剣を熔解してめり込んで押し止めたのだ。
あまりの熱気と風圧に耐えつつ戦闘を見続ける。仮面を被っているおかげで目を閉じなければなら無い事は幸いだった。レベル…次元の違いすぎる。
「この武器を熔解させるとは…かなり強化されているな」
「ええ、その通りでございます。………ところでモモンさん」
「なんだ?停戦でも申し入れるつもりか?」
「停戦…と言うより申し出ですね。現在、王国の兵士と戦っている悪魔以外の配下の悪魔達が配置を終了した所です。いつでも王都に対しての総攻撃を行なえます」
「…それで?」
「このままでは勝ったとしてもただでは済みますまい。ゆえにここで手を引きませんか?もし引いてくださると言うのであれば全軍を引きましょう」
「…良いだろう。出来れば二度と出くわしたくないものだな」
「ええ、まったく…では」
礼儀正しくお辞儀したヤルダバオトは空高く舞い上がり、そのまま見えなくなった。見えなくなったのを確認したモモンは軽く息を吐き出して大剣を下げる。
「や…や…やったー!」
胸のうちが徐々に騒がしくなり口から漏れていた余りの興奮にモモンに抱き付き、赤面するのはもう少し冷静になってからだった。
何にせよこれで王都での悪魔との戦いに幕が下りたのである。
王都が勝利に沸いていた頃、闇夜に覆われる王都近くの平地に30人近くの者達が潜んでいた。
神父服を着込んだ男や騎士の鎧を装備した者達が王都の方をただ見つめていた。その集団の一人、肩で息をしながら駆け寄って来た者がいた。
「ご報告いたします。王都を攻めていた悪魔達は撤退を開始しました」
「撤退!?ヤルダバオトとか名乗った悪魔はどうしたのだ?」
「王国のアダマンタイト級冒険者のモモンとの一騎打ちの後に引いたとの事」
「そ、そうか…それは良かった」
「何が良いものか!?せっかくここまで出向いて来たと言うのに」
「いや、これはチャンスだ。王都は多くの悪魔と交戦して余力もあるまい。ならば我らで…」
「国攻めをすると言うのか?私は反対だ」
予想外の出来事に皆、口々に話し出す。が、ひとりの男の咳で再び静けさが戻った。
咳をした男は騎士の鎧とランスを装備している漆黒聖典の第一席次であった。奥でひとり佇んでいる神父の前で膝をつく。
「どう致しますかぼっち様」
ぼっちと呼ばれた神父はゆっくりと口を開いた。
「撤退する…」
「ハッ、直ちに」
「待ってくだされぼっち様!!」
撤退を告げたぼっちに年老いた神父が慌てて詰め寄ってきた。それを制するように第一次席がランスで牽制する。はっと我に返って膝をつく。
「今の王国は衰退しております。ならばいっその事、我らが攻め落とした方が民の為と言うもの。どうか進撃の号令を!!」
「却下する」
「なぜですか!?なぜ…」
「我らは多くの人を悪魔から助ける為にここに来た。悪魔が撤退をしたのなら引くのが道理」
それだけ呟くとさっさと法国へ帰還すべく歩き始めた。それに従い皆が撤退を開始した。ぼっちの後ろを追従するなかで第一席次だけが横に並んだ。
「ぼっち様、少しお話があるのですが…」
「…なんでしょう」
「ご存知の通り法国は力を失いすぎました。王都偵察の為に戦力をお貸し頂きたい」
「…分かった。ではエリオ隊を任に付かそう」
「そう言えば『博士』は見つかったのですか?」
「……現在キャロ隊が捜索している」
「『彼女』なら知っているのではないでしょうか?」
「……『彼女』は私には協力してくれないだろう」
そこで二人の会話は終了し、夜が明ける前には一団は消えていた。
これで王都に平和が戻りました。…今はね…
さて次回から王都での後処理からナザリックでの報告会とやること山済みだ♪
次回『王都の夜明け』
お楽しみに