骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

77 / 233
 さて間もなく始まる戦闘…いや、悪魔との戦争の為にアダマンタイト級から一般兵士までラナー王女の下に集う。


第067話 「王都に集った者達」

 現在王都では非常事態宣言が通達されていた。それもそのはずである。王都では今まで見たことないほどの悪魔の軍勢が現れているのだ。

 これからその最前線に行くと思うと身体が震える。

 

 「どうしたニニャ?やっぱり怖いのか」

 「そりゃそうでしょう。これから私達があの悪魔たちに向かって行かなければならないんですから」

 

 ペテルの視線の先には悪魔達が居る炎の壁が見える。

 作戦は簡単だ。モモンさん達三名が悪魔の指揮を執っているとされるヤルダバオトの元に辿り着くまで多くの兵士と冒険者で他の悪魔の相手をするとのことである。

 

 「厳しくなりそうですね」

 「うむ。しかしやり遂げねばならないのである」

 

 数ではこちらが有利にも見えるがほとんどが兵士だ。モンスターとの戦闘経験がある冒険者ではなく対人戦の兵士なのが問題なのだ。彼らはモンスターの特性を知らない。ゆえに冒険者が頼みの綱なのである。

 不安で胸が押しつぶされそうな時、ある人物が視界に映った。

 血の気が引いて顔が青ざめる。相手はこちらに気付かなかったのか人ごみのなかに紛れていった。

 

 「おいおい、本当に顔色わりぃな?」

 「いた…」

 「ん?なんだって」

 「居たんですよ!ンフィーレアさんの家で襲って来た女性が!!」

 

 皆の顔色が変わった。あの圧倒的な力を持ち、人を殺すことに快楽を持っている女性を忘れることなど出来なかった。

 なぜここにあの人が…

 ニニャは不安げな表情のまま人ごみを見続けるのであった。

 

 

 

 悪魔が大量に発生した事が王宮に知れるとすぐに指揮所が作られた。簡易な天幕だがそれに時間をかける訳にもいかない。そんな時間があるならば一刻も早く現状に対応しなければならない。

 現在、天幕には指揮を執るラナー王女にアダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』と『漆黒』の面々が顔を合わせていた。

 

 「でだ。私とナーベ、そしてイビルアイさんでヤルダバオトと戦うのは良いとして他の悪魔たちはどうするのですか?」

 

 漆黒の鎧で身を包んだままのモモンが口を開いた。それはまともな質問だ。イビルアイ達が見たところではヤルダバオトとモモンの実力は互角、もしくはモモンのほうが上回っている。しかしそれは万全の状態でだ。ヤルダバオトと出会うまでに大量の悪魔と戦って消耗させられればその分不利になる。

 そのような事を理解できない者はこの場に居なかった。

 

 「ですのでヤルダバオト討伐隊の援護としてここに集まっている兵力で悪魔達の注意を引き、足止めを行なわなければなりません」

 

 ここに居る兵力。それは王都での守備任務などに勤めている兵士だけと言う意味である。王国最強の戦士長ガゼフ・ストロノーフは役職柄、王の護衛の為に参加できない。あとは王都に訪れている貴族達の私兵達は言うまでもなく、自らの護衛に当てる為にここに来るわけもなかった。

 

 「しかし兵士は兵士でしょ?冒険者と違ってモンスターとの戦闘経験なんてない。そこはどうするの?」

 「ラキュースの言う通り彼らは兵士。だから頼りにしてるわね」

 「ええ、任せて」

 「蒼の薔薇以外にも王都にいる冒険者に、たまたま王都に来ていたエ・ランテルの冒険者にも協力してもらっているの」

 「それでも数が少なすぎないか?いくら俺達でもアレだけの数相手に出来ないぞ?」

 「ガガーランなら大丈夫…」

 「なんでだよ?」

 「だってもう青い血が流れてるでしょ?」

 「お前達は俺をなんだと思ってんだよ!?」

 

 気持ち的には少しの余裕があるのか冗談の混じった会話が起こったが、数的には余裕がないのは事実だった。圧倒的に多い兵士達を冒険者達がすべてカバーできるわけもなく、中には冒険者の指示無しに戦わなければならない者達も多い。ならばもっと数が欲しいのだが…

 そんな事を思っていると急に天幕の入り口より何者かが入ってきた。

 

 「遅くなってすみませんでした」

 

 入ってきたのはマイン・チェルシーだった。彼はアルカード伯爵の弟子だから彼の護衛を勤めていると思っていたのだ。

 

 「どうしてここに?伯爵の護衛は宜しいのですか?」

 「はい。ヘルシング代表のアルカード・ブラウニー伯爵よりラナー王女様の命に従って最善の行動をするようにと指示を受けて参りました」

 「伯爵の?」

 「それと王都に身辺警護の店を出す為に呼び寄せた兵士20名と…『蒼の薔薇』の方々は知っているピトーさんもこちらに着ています」

 「それは心強いわね。彼女はかなりの腕だったしね」

 「戦力的にはありがたいわね…貴方にはクライムと一緒に人質捜索の方に回ってもらって良いかしら?捜索にはクライムを含む少数精鋭で行なってもらう必要がありますので」

 「了解しました。では20名の兵士の隊長はピトーさんにお願いしてきます」

 

 マインは捜索隊のクライムとブレインに頭を下げてから天幕の外へ出て行った。すると入れ替わりにスカーレット・ベルローズ神父が入ってきた。

 

 「お久しぶりですねラナー王女様」

 「ええ、お久しぶりですね神父さん」

 「援軍として来たのですが宜しいですか?」

 「援軍!?」

 

 いつも通り礼儀正しく現れた神父の言葉にそこに居た皆が違和感を覚えた。一教会の神父が援軍を?

 天幕の入り口から外を見てみると神父・シスター姿の者が30人近く居た。

 

 「教会には子供達も居ますから護衛や備えで待機を命じた者達がほとんどですが私を含めた『武装神父隊』34名が微力ながら援軍として参りました」

 「おいおい、神父さんよ。神に仕えるあんたらが争いごとなんて良いのかよ?」

 「本来なら良くありませんよ。ですが神の敵となる悪魔は別ですから」

 

 これで戦力はまあまあ良いだろう。後は成功することを祈るだけである。外から神父・シスターの祈りの声が聞こえる。

 

 「我らが祈りを捧げる神々よ。我らを見守りたまえ。お力を与えたまえ。守りの女神『桃色の守護神』様。戦の神『白銀の騎士王』様。遠的の神『黄金の鳥神』様。そして願わくば死後の我らを導きたもう神々の主神『死の大神』様」

 

 祈りの声がその場を満たす。 

 

 

 

 マインより指揮権を渡されたピトーは嬉しそうに微笑む。

 久しぶりの狩りなのだ。相手がモンスターだろうが関係なかった。ふと何かの視線を感じ取った。目を凝らしてみると人ごみの中に前に襲った冒険者チームを見つけた。かれらもこちらを見ていたが見つけたというよりは探していると言うのが正しいだろう。

 

 「さきにあっちを狩るべきかなぁ~」

 

 ニヤケながら目には怒りの炎が灯っていた。あの時に付けられた傷はぼっちのアイテムで消えた物の彼ら如きに逃げ出さなくてはならなかったという屈辱は残っている。

 

 「どうするかなぁ」

 

 『好きにして良い』の範囲に入っているか思考する…

 

 

 

 

 

 

 

 ぼっちはレイルと共に戦場の最前線になるであろう場所に向かっていた。

 

 「ねぇ鬼の店主様…」

 「・・・なんだ?」

 「いや…言いたくないんだけどさ」

 「・・・(?)」

 「ここさっきも通ったぞ」

 

 足を止め微動だにしなくなった。少しの間を開けてギギギと音が鳴りそうに振り向く。

 

 「・・・地図を」

 「迷子なんだな?」

 「・・・・・・ちz」

 「迷子なんだよな?」

 「・・・はい」

 

 最前線に着くのはもうしばらくかかりそうだ。




 多少の戦力アップできたかな?
 ちなみに遠的の神『黄金の鳥神』はエロスの神でもある。誰の事かはわかるでしょう。
 さて次回はナザリック唯一のさぼり魔であるモミのある日常
 次回『特別編14:モミの一日…』
 お楽しみに

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。