最近戦闘や不安げな物ばかりでのほほん成分が枯渇してきました…
『あれ?デイバーノックってアンデッドだよね。絶望のオーラって効果あるのかなあ……?』との感想があり、チェリオも解らなかったので『老執事と神父と蛇長女の共闘』に少し内容を付け足しました。
なぜこんな事になってしまったのだろうとイビルアイは考える。
周りには戦闘態勢をとっている仲間達。
目の前には自分と同等クラスのメイド服を着た化け物…
数刻前…
イビルアイは仲間の蒼の薔薇と共に王女のラナーに謁見していた。
内容は王国に巣くっている『八本指』の拠点を潰す作戦の為だった。主だったメンバーはラナー王女に仕えるクライム、王国戦士長のガゼフ・ストロノーフ、そのガゼフと互角の腕を持つと言われるブレイン・アングラウスとかなり優秀なメンバーが集まった。
本来ならここにアルカードや弟子であるマインを呼ぶ予定だったのだがここ最近忙しいらしく、屋敷にも帰っていないらしい。
私とティア、そしてガガーランの三人はヒルマという幹部を捕縛するはずだった。
しかし屋敷には人食いらしき化け物が居た。可愛らしいメイド服を着てニコニコと笑っているメイド。容姿と違って血の匂いが彼女から発せられる。どれだけ殺したのか。いいや、どれだけ食べたと言うのだろうか。
先に戦闘を行なっていたガガーランとティアは苦戦を強いられているようだ。焦る事無く第四位階魔力系魔法《水晶騎士槍》を上に投げる。
「~♪…!!」
ティアを捕縛しようとしていたメイドは気付いたのか、飛び退いて《水晶騎士槍》を避ける。初めてこちらを意識したのだが何とも興味の無さそうな視線を浴びた。何故だ?
「それぐらいにしてもらおうか」
「誰ぇ?今はこの二人を食べるからどっか行っててくれるぅ?子供のお肉って柔らかくて好きだけど食べるところが少ないのよねぇ」
「なるほど。メイドにしては血なまぐさいと思ったら人食いか。お前のような化け物を近くに置いて喜ぶ者が居るとは思えないがな」
「ナンダトキサマ!!」
先ほどまでのゆったりとした可愛らしい声色からどすの利いた声へと変わった。どうやらそれほど気に障ったらしい。
「至高の御方に仕える私を…創造された私に…あいつは…あいつは」
何か呪詛のように呟くメイドを余所にガガーランとティアに視線を送る。まだまだ戦えると視線を交わしただけで理解した。
「コロス!コロス!コロスウウウウウ!!」
「それはこちらの台詞だ。仲間を苛めてくれたお礼をしてやろう」
背に5メートルはある大ムカデが4匹取り付き、手には剣のように鋭い蟲がくっつく。どうやら蟲使いのようだ。ならばこちらにとっては好都合だ。
「不快な女ぁ!そいつらと一緒に潰れろ!!」
「くだらないな…《重力反転》」
上段より振り下ろされる大ムカデに対して焦るどころか余裕を見せて魔法を使用して浮かす。メイドは表情を変える事無く口を開いた。中から無数のハエが放たれる。
その光景にとある魔神を思い出す。あの魔神の関係のものならと白い靄を放つ。白い靄に触れたハエは地面に落ち、もろに浴びたメイドは悲鳴を上げる。
「ゴアアアア!!」
「何の魔法?」
「殺虫魔法《蟲殺し》だ。二百年前の蟲を使う魔神用に作った私のオリジナルだ」
「俺達には何もないんだろうな?」
「ああ、まだ人間であるならな」
「何でティア同様で俺を化け物にしたがるんだ!!」
「…それより顔が溶けている」
ティアの一言でメイドに大きな変化が出たことに気付いた。文字通り顔がどろどろに溶けていたのだ。《蟲殺し》に皮膚を溶かすなんて力は無い。あるとすれば…
溶けた顔がぼてっと重い音を立てて地面に落下した。人の面を写したような蟲だった。それだけでも衝撃的だったのだがそれだけでは終わらなかった。嗚咽しながら吐き出した蟲が地面に這い蹲る。
口唇蟲…
人間種などの声帯を貪り、被害者の声を発する蟲…
仮面の蟲や口唇蟲だけではなく素顔が明かされた化け物の素顔を見て少し後ずさる。こんな化け物が存在するとは…
「ヨクモォ…ヨクモォ!!」
「ハッ!良い声になったじゃねえか」
素の声で叫ぶ化け物に対して敵意を込めた皮肉をガガーランが浴びせた。
「人間ガァ!人間如キガァアア!!」
叫びながら猛ダッシュしてくる化け物はどうやら自分を狙っているらしい。さらに好都合だ。
「出し惜しみは無しで本気で行くぞ!!」
「おうよ!!」
「…了解」
狙ってくる己自身を囮として移動する。そして不意をつくようにティアが右から左と一撃離脱して行く。注意がティアに向きかけるとガガーランの猛攻と私の《蟲殺し》を浴びせる。
あの化け物は一対複数の戦いに不慣れらしい。行ける!私達の思いはすぐに現実になった。
「やっとかよ…」
「…赤字」
「そんな事、言ってられるかよ」
戦いの末に勝利したが装備品のほとんどを消費しておりこれ以上の戦闘は不可能だろう。だからその前にあの化け物が倒れてくれたのはありがたかった。
「カヒュー…カヒュー…」
まさに蟲の息である。このまま放置していても良い事はないので止めをさそう…
「手酷くやられましたね。後は私がやりますので先に帰還してください」
仮面を被ったスーツ姿の男が何処からともなく現れた。
背筋が凍った。
二人は気付いてない。目の前の男は正真正銘の化け物だ。いや魔神と言って良い。勝てる訳がない…だからと言ってむざむざ殺される訳にも、殺させる訳にもいかない。
「ティア…ガガーラン…全速力で逃げろ」
「…何?」
「おいおい、何を言って…」
「良いから全速力で逃げろ!」
余裕もなく叫ぶイビルアイにどれだけの危険があるかを理解して走り出す。仲間を見捨てるわけではない。いざとなったら転移出来るイビルアイを信じての行動である。
後ろへと下がって行くメイドを見送った男は肩を竦める。
「出会って早々別れると言うのはどうなのでしょうね?私としては挨拶と共にが礼儀的にも感情的にも嬉しいのですが…まぁ、時間も押していますので始めますか」
狂気が優雅さをまとって喋る。
死を直感した。200年以上生き、伝説にも謳われた存在であるがこの逃げようのない死を覚悟した。
「お先にどうぞ。来ないのでしたら私から攻撃しますが?」
「なら好意に甘えさせてもらおう!《魔法最強化・結晶散弾》!!」
イビルアイはお気に入りの魔法を放つ。無数の尖った水晶が男に向かって飛翔して行き、当たる前に直撃した。目にした事実に唖然とした。対抗策をする事無く消失するほどの実力差があると言う事…
男は演奏を指揮する指揮者のように手を振るう。
嫌な予感がした。
奴が何かをすれば大事な何かを失う。直感的にそう思ったのだ。急いで懐に手を伸ばす。
私、イビルアイはあいつ、アルカードがあまり好きではない。
奴は何かを隠している。
少なくとも私の素性を知っているだろう。しかし自分を知りうる存在に奴のような者は居なかった。それに奴からは魔神に近い感覚を得る。感じというだけで実際にオーラを放っていると言う訳ではない。雰囲気が似ている気がする。そう、気がする程度なのだ。
ゆえに好きになれない。そもそもあんな怪しい奴をなんでガガーラン達は信用しているのかが分からない。
あいつが好きではない。同時にあいつが関わる店も好きではなかった。しかし一度だけガガーランに誘われて行ったのだ。
目に止まった…
形は違うものの懐かしくも感じるアイテムを…
超高額なのも頷ける品だ。別段買うこともなかったのだが店員に無理を言って買わせて貰ったのだ。心のどこかでは偽者、レプリカだろうと思っていた。
あいつも嫌っている事に気付いているだろう。謝る。許してくれないなら許してくれるまで何でもする。だから本物であってくれ!!
男は何をされても余裕で受け流す事が出来ると確信していた。しかしその考えは一瞬で霧散した。
「頼む!行っけぇー!!」
懐から取り出されたのは見間違う事はないアイテム。自らの主が使っていた武器。相手を追尾して行く黒い短剣。《ナイフ・バット》
ズキリ
まだ投げられた訳ではないが前のトラウマが甦り、足に痛みが走った気がした。おかげで狙いが逸れて逃げ出した二人の前方に《獄炎の壁》が出現する。二人の人間がどうなったか見てないがとりあえず投げ出された《ナイフ・バット》を迎撃する。
「本物…だった…」
投げた瞬間、飛び立って行った短剣を見つめながら呟いた。奴は驚き狙いがずれたのだろう。ガガーランとティアの前方に炎の壁が出現する。二人が無傷なのに安堵する。
思い出す。今や伝説として語られることも少なくなってしまった存在。大昔に出会ってしまった金髪格闘家の吸血鬼を…
何時までも思い出に浸っている訳にもいかない。未だ絶望的な状況なのだ。
そんな時、上空より一人の剣士が降りてきた。
漆黒のフルプレートでその身を包み、二本の大剣を背に担ぐ剣士。
「私の敵はどちらかな?」
冷たくも強く発する剣士に希望の光を見た。
「親方!空からモモンさんが!!」
モモン・ザ・ダークウォリアーが降って来たところで今日は終了。
もうすぐ連休ですね。チェリオは大忙しですけど…
五連続投稿決定!!
4月30日『巻き込まれた至高の御方々』
5月01日『特別編13:ぼっちの怖い物』
5月02日『王都に集った者達』
5月03日『特別編14:モミの一日…』
5月04日『必死の救出劇』