骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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チェリオです……
不安+不安+老執事の戦闘回です。ま、結果は見えてますがね…


第064話 「老執事と神父と蛇長女の共闘」

 モミとザーバとセバスは夜道を何の明かりも無く駆けていた。常人では問題があるだろうがこの三人には何の関係もなかった。

 向かう先は『六腕』とか言うツアレを攫って行った連中の所である。

 

 「…まぁご親切に居場所まで書いてくれてるしね」

 

 置いて行った紙に住所が書いてあり、とりあえずそこに向かっているのだ。

 

 「と言うか誘われているだけですがね」

 「…」

 「…セバスだけ超真剣だよね。それが良い!!」

 「少し黙ったら如何ですか?」

 「……はい」

 

 会話を終了したモミは常人でいう早い速度で走る事に集中する。

 ザーバはゲートを使ってさっさと移動したほうが手っ取り早いのではと進言したのだがモミ曰く、『正義の味方はさっそうと駆けて参上するべき』と訳の分からぬ事を熱弁されてとりあえず走っている。ナザリック的に正義は間違っているとは思うのだが…

 目的の場所は塀が高く、要塞を思わせるような雰囲気を持つ。

 セバスが戸を開けると案内役と思われる男が居た。

 

 「時間より早いな。こっちだ…ん?後ろの二人は…カヒュ!?」

 「深夜ですのでお静かにお願いしますね」

 

 後ろのモミとザーバに気がついた男に即座にナイフが投擲される。首に突き刺さった為に口から空気を漏らして地に伏した。何の感情も抱かぬまま三人は進む。

 進んだ先には多きめの広場があった。30人ほどの男女が周りを囲んでいた。その全員に共通していたのがニヤニヤとあざ笑うかのような笑みを浮かべていた。これから起きるであろう殺戮を楽しみに来た観客なのだろう。その中心に現れたのは予定とは違う人物だった。

 老執事と聞いていたが現れたのは目の下の大きなクマが特徴的な金の杖を構えた少女だった。

 

 「俺の心は嵐の如く猛っている。いくつもの怒りや悲しみ・・・その怒りと悲しみを我が力として、俺はお前を討つ!

人、それを・・・『修羅』という!」

 

 急に現れた上に高らかに叫ぶモミに困惑の表情が向けられる。観客の中の一人が叫んだ。

 

 「誰だお前は!?」

 「貴様らに名乗る名h」

 「さて。先へ進みましょうか」

 「ええ」

 「ふぁ!?ちょ!まだ私の台詞が…」

 「ここはお任せしますよ」

 

 ザーバとセバスは唖然としている集団を飛び越えて建物へと向かう。ため息をつき、力を抜いて両腕をだらんとぶら下げる。

 飛び越えられた事実より自分たちを無視された方が大きいのだろうか観客とは異なる四人がモミに殺気を向ける。

 

 「舐められた物ね!」

 「貴様を殺してからあやつらを追わせて貰おう」

 「『千殺』マルムヴィスト」

 

 レイピアを構えるジャケットを着た軽薄そうな優男。

 

 「『空間斬』ペシュリアン」

 

 西洋甲冑のようなフルプレートで身を包む剣士。

 

 「『不死王』デイバーノック」

 

 ローブの中からアンデット化した顔を現したエルダーリッチ。

 

 「『踊る三日月刀』エドストレーム」

 

 アラビアン系のドレスに三日月刀を持つ四人の中で唯一の女性。

 彼・彼女が『六腕』と呼ばれるアダマンタイト級で英雄級に近い連中。この世界では勝てるものなど片手で足りてしまうかもしれない。けれどそんなものどうでも良かった。

 

 「…終わった?」

 「なに?」

 「…お喋り終了?」

 

 俯いていたモミが顔を上げると皆が震えた。少女が出来るような笑みではない。見たものは曳きつけられ飲み込まれそうな瞳。そしてあの嗤い。心が凍りそうになった者達に呟いた。

 

 「絶望のオーラⅤ」

 

  突如発生した黒いオーラに触れた観客を含め全員が死に絶えた。ただ一人アンデットのデイバーノックを除いてだが…

 肩を回しながら近づくモミに恐怖を感じ一歩、二歩と後ずさる。

 

 「ああ、アンデットだから死ねなかったんだ。えーと不死王だっけ?」

 

 ただ一言呟いた。もう腕を回すのを止めてただただ見つめてくる。

 

 「寿命で死なないからと言って殺し続けて死なない訳じゃないでしょ?」

 

 エルダーリッチには瞼がない。だから瞬きする間もないと言うのはおかしいだろうが表現的には合っていると思う。5メートルあった距離が一瞬にして0まで縮められた。

 

 「雛罌粟から沈丁花まで打撃技混成接続…」

 「グオオオオオオオオオオ!!」

 

 残像が残るような速度で打撃を連続で当て続けられるデイバーノックは声を出すだけのサンドバックになっていた。

 

 「…あんたは272回死んだよ」

 

 身体中がボコボコにへこんだ屍骸が崩れ落ちた。それを踏み締めながら杖を振り上げる。

 

 「……時間潰しにもならない…出ておいでプライマル・ファイヤーエレメンタル」

 

 黄金の杖に取り付けられた紅玉より火で出来た龍のような顔を持った精霊が召喚された。

 

 「…焼き払え!!」

 

 命令に従って転がっている物を灰へと変えていく。つまらなそうに一瞥したモミはさっさと帰るべくザーバと合流する為に歩き出す。

 

 

 

 ザーバはセバスと別れて牢屋の前を歩いている。

 もし人質が居るのなら牢に閉じ込めている可能性がある。ゆっくりと歩きながら見てみるとこちらに背を向けているメイド姿の者が居た。

 

 「………ふむ」

 

 牢の前に立っても何の声も出さない事に唸ったわけではない。牢の入り口は閉じている。ならばと蹴りをお見舞いする。開ける訳ではなく出れないように変形させる為に…

 まさかの行動に驚いたメイド服姿の者が扉を必死に開けようとする。

 月明かりに照らされた顔はツアレのものではなかった。『六腕』の一人でブレイン・アングラウスに敗れたサキュロントであった。ここで待ち伏せをしていたのだろう。

 

 「貴様!何故だ…何故変装だと…」

 「おや、偽者でしたか?」

 

 まるでツアレを閉じ込めたかったような発言をした神父に驚きの表情を隠せない。

 

 「ま、その方が良いですがね」

 

 楽しそうに呟いたザーバは牢の中を指差し唱える。

 

 「サモン《ファイヤー・デビル・アント》」

 

 指差された位置より蝙蝠のような羽を生やしたアリが現れた。サキュロントは何も考えずに叩き潰す。同時に手に激痛が響く。

 

 「いってええええええ!!なんだこれは!?」

 「私の召喚で呼び出された極小の悪魔ですよ」 

 

 牢から離れて壁際にもたれたザーバは痛み苦しむサキュロントを眺めながら淡々と喋る。

 

 「私の転移魔法のひとつに入れ替え型のがありましてね。その悪魔たちはその時に使用する為に習得させられたものなんですよ。たかがレベル20の小悪魔です」

 「レベル20!?何を言っている?何の話だ!」

 「気にしないでください。そうですね…アダマンタイト製の棍棒でもあれば多少のダメージが与えれます。っと言ったら理解できますか?」

 「嘘だ…嘘だ、嘘だ!!」

 

 無数に湧き出るアリを踏みつけ潰そうとするが潰れるどころか靴にへばり付きよじ登ってくる。

 

 「歯には麻痺毒があり、多少の火炎ダメージ追加などの効果を持つ肉食系なので注意してくださいね」

 「肉!!待ってくれ!何でもする!召使でも奴隷でも何でもする!それとも金か!?俺の全財産をくれてやる!いいえ、差し上げます!だから助けてくれ!!」

 

 必死の叫び声を音楽でも聴いているかのように目を閉じて楽しんでいる。それでも諦める事無く叫び続ける。その間にもアリが服の隙間から侵入して噛み付く。

 

 「ヒギィ!?くがあああああ!!止め、止めて!!痛い、痛い、痛いいいいいい!!」

 「やはりこういう演奏はニューロニストの専売特許ですね。今度彼女の演奏を聞きに帰るとしましょうか」

 

 アリを払おうとするが噛まれ続けて悶え苦しむサキュロントを見て神父は微笑む。ただただ楽しみながら…

 

 「ああああああああああああああ!!」

 

 最後の絶叫が牢屋全体に響くとアリの召喚を解除して何事もなかったように帰って行く。もちろん召喚したアリを消してだが…

 その後には何もなかった。サキュロントの肉片一つ残されなかった…

 

 

 

 セバスは布に巻かれただけのツアレを見つけた事を喜んでいた。表情には出さないが。

 

 「セバス…ま。私…」

 「もう大丈夫ですよ。すぐに帰れますから少しだけ待ってて頂けますか?」

 「は…い」

 

 ツアレに自分の上着をかけて振り返る。

 禿げ上がった頭に筋肉隆々の男が余裕のある笑みを浮かべながら眺めていた。

 

 「一つ聞きたい。サキュロントを倒したのはてめえか?」

 「いいえ、私ではありませんよ」

 

 答えた事は事実なのだが信じてないような何か隠していることを言えと言う様な睨みがセバスに向けられる。 

 

 「まぁ良い。どうせここで死ぬのだからな」

 「ご自身がどうなるか分かっておられるのですね」

 「なに?まさか俺に勝つつもりか」

 「貴方も先の彼も別段変わり無さそうなので」

 「!?舐めた口をきくなジジイ!!」

 

 馬鹿にされたと思ったゼロは拳を振りかぶる。その一撃には彼が持つ指輪の力やスキルが使われているのだろう。

 決して馬鹿にしたつもりはない。ただ事実を述べただけなのだが…

 突き出された拳を上へと弾く。伸ばされた腕は曲がるはずのない動きを見せて肩より折れ曲がる。そして一歩踏み出して胸部に力を込めた掌底を打ち込んだ。

 悲鳴を上げることもなく、名乗ることも出来なかった『六腕』最強の男、ゼロは背より臓器をぶちまけながら吹き飛ばされていった。

 何事も無かったようにツアレに笑みを浮かべて手を差し出す。

 

 「お待たせしてしまって申し訳ありません。立てますか?」

 「…すみ…せん。力が入らなくて…」

 「分かりました。では失礼します」

 「!!セバスさま///」

 

 セバスはツアレをお姫様抱っこの形で抱きしめながら立ち上がった。ほんのりとその頬は赤らんでいた。最初は真っ赤になり照れていただけのツアレだったが徐々にセバスの胸板に安心してすべてを預けた。

 

 「では参りましょうか?」

 「…フヒヒ…リア充爆ぜるべし!!」

 

 いつから見ていたのかモミとザーバが微笑みながら立っていた。若干モミには殺意が篭っている様な気がする。

 見られていた事に対して真っ赤になるセバスとツアレを余所にザーバがゲートを開く。セバスとツアレが通過したのを確認するとモミが火炎魔法で火をつける。

 証拠隠滅の為に燃え盛る建物を気にする者など居なかった。時同じくしてデミウルゴスの『ゲヘナ』が始動したのだ。ナザリックメンバーが動き出す。

 ただ至高の御方々を除いて…




 瞬殺された『六腕』。アダマンタイト級とはいったい……
 さて、ナザリックの知恵者であるデミウルゴスが計画したゲヘナが始動した。悪魔が立てた作戦に人類はどう挑むのか!?

 次回『悪魔の襲来』
 お楽しみに…

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