骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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朝だけどこんぼっちわ~(前回同様使っていくスタイル)

不安回が終わったはずだったのに終わらなかった…


第063話 「老執事と少女の行方と問い」

 日は傾き、夕日が街を赤色に染め上げていた中をセバスはソリュシャンと共に屋敷へと向かっていた。

 数日後にはこの王都から撤退する為にお世話になった商人に挨拶に行ったのである。

 

 「思ったよりも時間がかかってしまいましたね」

 「今日ぐらいゆっくりしてもばちは当たらないと思いますが…いえ、セバス様はツアレに早く会いたいのですね」

 「そういう訳ではないのですが」

 

 と否定するものの、今も彼女の事を考えていた。

 数え切れない暴行の痕に何重にも重なっている病気をソリュシャンに治してもらったが心は別だった。

 

 傷が癒えて輝かしい金髪に愛らしい顔立ちの彼女を見たときの事。

 

 壊れた人形のようだった彼女が食事を得て、徐々に人間らしい表情を取り戻した事。

 

 今までの不平不満をぶつけられたが優しく抱きしめ安心させようとした事。

 

 ボソボソと喋り、メイドとして自分を出迎えてくれた事。

 

 温かく、美味しい料理を振舞ってくれた事。

 

 綺麗だと言ってあやすように抱きしめた事。

 

 アインズ様に対して内心震えていたがそれでも正面から向き合った時の事。

 

 命を差し出しても良いと本気で想い、覚悟を決めた彼女の事。

 

 そして『ちくちくしました』

 

 そっと唇を触れるセバスを心配そうに覗き込むソリュシャン。

 

 「どうしましたか?」

 「いえ、どことなくセバス様が赤く見えるのですが…何かあったのでしょうか?」

 「……夕日のせいでしょう」

 

 本当に顔は赤くなっているのだろう。しかしそれを認めるのは何とも恥かしいものがある。

 忘れよう。

 彼女は助けられた恩を恋愛感情と誤認しているだけなんですから。

 『幸せなキスは初めてでした』

 自分でも分かるくらい体温が上がった。耳まで赤くなったセバスを不思議そうにソリュシャンは見つめていた。

 

 

 

 屋敷に着くといつも通りドアを開けようとするがそこで気付く。

 無いのだ。

 いつもなら『お…りなさい。セバス様』と入り口付近まで駆けて来る気配が…

 「何かの間違いだ」と頭を振るい、不安を吹き飛ばそうとする。

 

 「鍵穴に新しく傷跡が着いてますね」

 

 ソリュシャンの一言で不安が現実の物としっかりと理解する。

 ドアを開けたセバスはいつもは見せない焦った表情を見せ、彼女の名を呼びながら屋敷の中を駆けた。

 彼女の部屋まで向かって立ち止まった。ここを開ければもう探す場所は無い。頼むから居てくれと心の底から望み、扉をゆっくりと開けた。

 扉を開けた先には一人の神父が立っていた。

 

 「やっと帰られましたか?鍵が開いていたので勝手にあが…」

 

 ザーバの言葉など耳には入ってこなかった。気がついた時には殴りかかっていた。拳が貫こうとした瞬間に薔薇が散り、彼は消えた。

 

 「おやおや…せっかく用意した薔薇の花束が台無しですね」

 「ツアレをどうしたのですか!!」

 

 構えたセバスは敵意を剥き出しにして背後へと転移したザーバを睨み付ける。

 

 「私は何も。ここに来たのだって貴方と彼女を祝福しようと思って来ただけですので」

 

 手に持っていたワインを見せて自分の目的を確認させる。

 

 「あのような粗末なピッキングを私がすると思いますか?」

 「……」

 「それに私が貴方と争って何のメリットがあると?」

 「………確かにその通りですね。殴りかかってしまった事を深く謝罪いたします」

 「いえ、構いませんよ。誤解が解けたのなら」

 「おっじゃまー」

 

 入り口より声が聞こえて何者かが上がってきた。

 

 「再び参上!!ってあれ?どったの?」

 

 モミはぴちぴち跳ねている魚を持って部屋に入るのだがあまりの空気の重みに首を傾げた。

 

 

 

 ~説明中~

 

 現状を聞いたモミはわざとらしくうんうんと頭を上下させる。そしてニヤケながら口を開いた。

 

 「ツアレを奪われてどんな気持ち?ねぇねぇ今どんな気持ち?」

 

 怒りで拳が振るえ、今にも殴りだしそうになる。

 

 「いや、マジでごめん!本気謝るから拳振り上げないで!!」

 「それよりもこれよりどうするんですか?」

 「…取り戻しに行きます」

 「それはいけません!次にアインズ様のご指示に背くような事は…」

 「…」

 

 今すぐ駆け出して行きたいのをぐっと堪える。ツアレを独断で拾ったことでアインズ様やぼっち様に迷惑をお掛けしてしまったばかりだ。これ以上の失態は許されることではないだろう。しかし彼女を見捨てて良いのか?

 

 「ねぇ今どんな気持ち?」

 

 再びモミに同じ質問をされ、怒りが先程よりも強く現れそうになった時、彼女の瞳を見た。

 

 深い漆黒の闇…

 見ているだけでそのまま飲み込まれそうな闇が嗤いながら自分を見ていた。

 背筋が凍りつく感覚が襲ってくる。いつもの彼女とは180度違う。見たこともない。

 

 「ねぇ今どんな気持ち?」

 

 言葉が怪しい魔力を持ったように耳の中にこだまする。

 脳が揺れ、足元がふら付く感覚…

 ゴクリと喉が大きくなる。

 デミウルゴスが前にぼっち様に恐怖を与えられた時の事を嬉々として話してくれたことを思い出していた。

 何かを言わなければ…口を開くがぱくぱくと開き閉じするばかりで言葉が出ない。

 アインズ様への忠義をとらねばならないのに彼女の顔が脳裏に浮かぶ。それと同時に目の前に居る神父の言葉が頭を過ぎった。

 『タッチ様ならどうしたのでしょうね』 

 「憤っています。彼女を奪われたことで怒りでどうにかなりそうなくらいです」

 

 不思議と心が落ち着き言葉が出てくる。

 

 『あなたはどうでしたか?正義の行いを行なえましたか?』

 「困っている人が居たら助けるのがあたりまえ…たっち様のお言葉です」

 

 一区切り置き、正面からモミを見据えて再び口を開く。

 

 「私は自分の意思で彼女を助けたい。今すぐにでも駆けて行きたい…いえ、行きます」

 

 セバスの言葉にソリュシャンは驚き、ザーバは微笑み、モミは口元を緩めていつも通り『にへらにへら』笑った。

 

 「そっか…そっか…分かった」

 「いけませんよセバス様!そのような勝手は…」

 「良し!行こうか」

 「ですね」

 「モミ様!?ザーバ様まで!!」

 「ナザリックに仕える者としてさ。見過ごせないじゃん?」

 「ですがアインズ様に何の連絡も」

 「モミさんが勝手に私と彼を連れて行ったとでも報告しておいて頂けますか?」

 「ファ!?私に押し付けるのかぁ……ま、いっか」

 「本当に良いのですか?」

 

 行く気満々の二人に驚きを隠せないセバスが問う。

 これは自分の我侭に近い物だと思う。それがこうも…

 

 「…ナザリックの理を考えて別に見捨てても良いような気もするけどいろいろ思案してたんだよね。そこんとこを考慮してこんな事で消費して良いものでもないし。それにぼっちさんが後で五月蝿そうだしね」

 「私は仮にも神父でしてね。迷える子羊にはいつでも手を差し伸べないといけませんから」

 「…胡散臭っ」

 「貴方にだけは言われたくないのですが」

 「ありがとうございます。御二人とも…」

 

 セバスとザーバにモミ。三人が夜の街を駆ける。

 …時を同じくしてデミウルゴスの作戦が始まろうとしていた…




 はい。六腕終了のお知らせ~。
 慈悲?そんな物はゴミ箱に捨てて来た
 
 次回『老執事と神父と蛇長女の共闘』
 お楽しみに

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