骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 連日投稿したチェリオです。
 昨日の九時半(夜)に外伝を投稿しているので見てもらえると嬉しいです。


第060話 「老執事と審判」

 コッコドールの対処をクライムに任せ、スタッファンの処理を物理的に済ましたセバスは屋敷へと帰る。不安の種はなくなり何の問題もないと安心してここまで歩いてきたのだが胸の中がざわめく。まだ何かがあるかのように…

 不安感を掻き消すように少し早足で屋敷へと向かいだした。

 屋敷に着くとニ、三度深呼吸を行いドアノブに手をかける。

 何かが居る。

 索敵をした訳ではないが気配で分かる。ドアの前に一人、奥に数人…上の階に居るのはツアレでしょう。不安が一気に込み上げていく。恐る恐る扉を開くとドアの前にはドレス姿ではなくメイド姿のソリュシャンが…

 理解した。奥に居る…いや、居られるのは自分達の主人であるアインズ様なのであろう。

 

 「セバス様。アインズ様がいらっしゃいました」

 

 告げられた言葉が耳に入ると同時に一粒の汗が流れた。用件は何か?分かりきっている。五月蝿く鳴り響く心臓を無視しつつ重い足を動かし主人の元へ

 奥にはヴィクティムを膝に乗せているアインズが座り、横にデミウルゴスが待機している。

 御前まで歩もうと進むと入り口付近に待機していたコキュートスが剣で先を遮る。

 己の状況を理解する。裏切り者…もしくはそれに類する者と認識されている。

 ゴクリと音を立てて唾を飲み込む。

 

 「久しぶりだなセバス」

 「ハッ!この度はアインズ様をお待たせしてしまい申し訳ございません」

 「よい。連絡も居れずに来た私の落ち度だ。それよりも任務ごくろうだったな」

 「いえ、これもアインズ様のお役に立てるなら本望でございます」

 「受け取った資料には事細かな事まで明記されてあって大変良かったぞ。なぁデミウルゴス」

 「ええ。真にその通りでございます」

 

 ニヤリと微笑むデミウルゴスの笑みにまた心臓が五月蝿くなる。

 

 「そう言えば可愛らしいペットを飼っているらしいな?」

 「…ハッ」

 「ん?返事が遅れたな」

 「申し訳ございません」

 「記憶にはペットを拾った。もしくは飼っていると言う記載はなかったように思うが私も見逃してしまったという事もあるだろう。どうだったかなデミウルゴス?」

 「私も目を通しましたがそのような記述は一文字もありませんでした」

 「ふむ…これはどういう事か説明してもらえるかな」

 

 酷く汗を掻く。どうすれば良いのだ?いや、どうするも何もない。主に本当の事を話し許しを請うしか無い。そんな時入り口からソリュシャンが現れる。

 

 「アインズ様。連れて参りました」

 「うむ、ご苦労」

 

 ソリュシャンの後ろから現れたのは出会った時の怪我と穢れを落としたツアレだった。表情は青ざめ、手は震えている。それでもアインズと対峙して逃げ出そうとはしない。彼女の視線が自分の背に集まっているのを感じる。それは助けを求める視線ではなく私を支えにしている視線。

 

 「アインズ様の前で無礼でしょう。『ひざま…」

 「よい。怯えながらも私を見て逃げ出さない勇気に免じてその無礼を許すとしよう」

 

 普通なら逃げ出しているだろう。何しろ今のアインズ様は幻術も使わずにいつものお姿で居られる。しかも強大な気を撒いてだ。むろん屋敷より外に漏らす真似はないが。

 

 「では説明を聞こうか?」

 「ハッ!アインズ様にお知らせするようなものではないと勝手に判断した結果でございます。私の勝手な行動がアインズ様にご不快を招いてしまい真に、真に申し訳ありません!もう二度とこのような事は…」

 「よい」

 「は?」

 「良いと言ったのだ。誰しも過ちは犯すものである。例え私でもな」

 

 主の寛大なお言葉を聞き安堵する。しかし…

 

 「ならば過ちは正さなければならない。そうだなセバス?」

 「ハッ!」

 「ならばその過ちであるペットを殺せ」

 「ハッ!」

 

 間髪居れずに答えたセバスは深く礼をしてツアレと向き合う。その目は怯えているのではなくすでに受け入れている。

 

 「私はアインズ様にお仕えする身…」

 「分かっております」

 

 それだけ呟くとツアレはそっと瞼を閉じた。深い空気を吸い込み一息あけると拳を握り締め頭部へ放っ…

 

 バタン!!

 

 勢い良くドアが開かれた音が耳に届き寸前の所で止まる。同時に侵入してきたものに対して迎撃体制をとる。それはコキュートスもデミウルゴスもソリュシャンも同じだった。侵入者はどたどたと一直線にこちらに駆けている。急には止まれず滑りながら現れたのは…

 

 「私、参上!!」

 「モ、モミ?」

 

 思いもよらぬ来訪者にアインズが間の抜けた声で名を呼ぶ。 

 何故か自信満々の顔をするモミは呼ばれた事でアインズ様が居た事を認識したのだろう。それでも態度は変えないのだが。

 

 「ナザリックからまたも抜け出したと聞きましたが貴方はここで何をしているのですか?」

 

 ひくひくと額に血管を浮き上がらせたデミウルゴスは主人の前と言う事で出来る限り平静を装うように努力をしていた。隠しきれて居ないが…

 対して自信満々の表情でこちらを振り向き答える。

 

 「セバスが女を連れ込んだと聞いてきぶっ!?」

 

 玄関より鞘が投げ込まれモミの側頭部に直撃する。

 

 「キン!ケドゥ!ナウ!!」

 

 衝撃により地面を三度跳ねたモミはアインズに向かって行ったがその直前でデミウルゴスに蹴り返される。

 

 「ドラッ!ツェ!!」

 

 跳ね返されたモミをぼっちが片手で受け止める。

 

 「・・・何をしてる?」

 

 目を回しているモミをマインに渡して、セバスとツアレに近づく。

 

 「・・・君がツアレか?」

 「答えなさい」

 「はい…ツアレニーニャ・ベイロンと申します…」

 「ニーニャ・・・そういう」

 

 微笑むぼっちにアインズは疑問符を浮かべていた。

 

 「どうしてここにぼっちさんが?」

 「・・・?ザーバに聞いた・・・セバスが一人の女性を拾ったと・・・許可を与えて欲しいと」

 「ザーバ様から?」

 「ん?頼まれたと聞いたが・・・」

 

 そんな事は頼んだ覚えが無い。何よりあのザーバがそんな事をするとは思えない。となるとこれはどういう状況なのだ?

 

 「しかしアインズ様には何の報告も」

 「アインズ様だからじゃないの?」

 

 デミウルゴスの問いに答えたのはさっきまで目を回していたモミだった。

 

 「アインズ様は至高の御方のまとめ役。ぼっちさ――まと違って忙しい身。なら近場に居て同じ至高の御方に許可を貰おうって事じゃない…」

 「今ノ発言ハボッチ様ニ無礼ダト思ワナイノカ?」

 「ソ、ソウダネー(棒読み)」

 「…」

 「すみません。謝るから構えた斧を下ろしてください」

 

 モミの挙げた理由に「確かにそうかもしれないが」と言いかけるデミウルゴスの横でアインズが頷く。

 

 「ぼっちさんに相談しているならそう言って欲しかったな。危うく過ちを犯す所であった…帰るぞ」

 「宜しいので?」

 「構わないさ。ぼっちさんが承諾したのなら。ぼっちさんは報告お願いしますよ?」

 「・・・(コクン)」

 

 今度こそ本当に安堵した。それと同時にぼっち様に迷惑をお掛けしてしまった事を謝罪しなければならないだろう。

 ゲートを使いアインズが帰ると同時にぼっちも踵を返す。

 

 「・・・今日は晩い・・・また来るよ」

 「ありがとうございましたぼっち様」

 「ありがとうございました」

 

 ツアレと共に深く頭を下げる。出て行く際に一輪の薔薇の前で足を止めた。それはザーバが投げ渡してきた黄色い薔薇であった。

 

 「これは・・・恋人か何かから?」

 「いいえ、ザーバ様からですが」

 

 ふむと呟きながら考え込む仕草をする。

 

 「黄色い薔薇の花言葉は愛情の薄らぎ、嫉妬・・・そして友情」

 「友情?」

 

 それだけ告げられると帰っていかれた。一人の人間の少年が放られた鞘を大事そうに抱えて一礼し、追従して行った。多分彼が噂のぼっち様の弟子なのだろう。

 黄色い薔薇の花言葉をいったん置いてツアレが認められたことを二人で静かに喜んだ。

 

 ちなみにモミはいつの間にか逃げ出していた。後でステラが来るとでも思ったのだろう。連絡は来たが…




 不安の種は刈り取り、至高の御方より許可も頂けて何の不安もなくなったセバス。しかし王都全体には魔の手が迫る…

 次回「悪魔の作戦と裁判」

デミウルゴス「おや?そういえばモミは何処に?」
コキュートス「?ココニハ居ナイナ…」
デミウルゴス「あのサボリ魔めっ!!」

 お、お楽しみに…

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