骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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外伝07話:拠点攻略戦

 「三番隊HP半分切りました!!」

 「左翼に新たなモンスター群確認!!」

 「正面大型ゴーレム残り三割!!」

 

 怒号のような叫び声が山中に駆け巡る。

 ここは前に攻めた拠点『ヴァイス城』を再攻略中なのである。すでに前回撤退した地点を超えて今は城門にて戦闘を開始して20分が経った。城門には大型ゴーレムが立ちはだかり脇を重戦士風のオーガが固めていた。

 前の戦力は総勢6名だったが今は主力隊だけでも36名である。vの新人であるみのりこ、エスデス、スサノオを含めた9名にグリードを含んだギルド『ウルブス』18名。そしてクロノが以前ギルマスを勤めていたギルド『サバト』9名。 

 

 「三番隊は後退してください!!長門武士団前に出てください!!」

 

 前線に出ているプレイヤーに指示を出すのは参謀兼第一支援攻撃隊長を務めているクロノだ。指示通りに三番隊が後方へ引くと同時に戦国武将の様な鎧を着た集団が突っ込んで行く。彼らはクロノが連れて来た同盟を結んでくれたギルドの人たち。

 戦国時代の鎧で身を包み皆が刀や槍の接近戦オンリーの『長門武士団』総勢11名。ギルマスは礼儀正しく無口で2.5メートルの長身の獅子丸。

 盗賊から傭兵までこなすギルド『エルドラド』総勢21名。ギルマスは黄金の西洋甲冑に真っ赤なマントを羽織った優男のガルド。

 黒いローブに身を包んだ大鎌集団のギルド『デスサイズス』総勢12名。同じく黒いローブに髑髏の面を被ったギルマス『アイオン』。

 そしてゴーレム三体を操り後方支援攻撃隊の直営に回っているプロフェッサー。

 身体は細く、2メートルの長身で種族はエルフ。髪は金髪のオールバックで瞳はかけている丸眼鏡の光の反射で窺えないプロフェッサーと名乗るプレイヤーはクロノが声をかけたわけではなくビオの知り合いだそうだ。能力は創作系で主にゴーレムを作ることに拘っている。ちなみにプロフェッサーと言うのは白衣を着た科学者みたいだとのことでビオが付けたあだ名で本当は『ファウスト』というプレイヤーネームである。

 

 「ゴーレムを削ります。第一小隊はアイオンと混ざってゴーレム撃破を!!エルドラドは突入準備してください」

 

 第一小隊のスレインは自慢の盾を前に押し出してゴーレムへと突撃する。ゴーレムの重い一撃を受け止めると後ろから第一小隊に組み込まれたウルブスのメンバーが切り込む。自身の身体が緑色の光を帯びたと同時に押し負けそうだった一撃を押し返すことが出来た。

 

 「アシスト助かったよ皐月」

 「そんな事より早く倒しちゃおうよ」

 「ああ!勿論!!」

 

 気合十分のスレインは防御系ではなく攻撃力をアップさせて斬りかかる。スレインの第一小隊の第一任務は第零部隊の露払いである。ちらっと自分を後ろから見つめているぼっちに視線を向ける。必ず無傷でボス部屋まで守りきると誓いながら。

 

 

 

 ~ぼっちSIDE~

 

 ゴーレムに突撃をかけるスレインをボーと眺めるぼっちは胃が痛くてしょうがなかった。

 クロノ君が立てた作戦では第二小隊から同盟ギルドだけでボス部屋までのモンスターを排除。高火力を誇る部隊で短期決戦を挑むらしい。その部隊が第零小隊。ぼっちが隊長を勤める部隊だった。つまりぼっち達の活躍如何では皆の働きが無に帰るのだ。

 ああ…胃が痛い。いらぬ期待と失敗した時の事を考えたら胃が痛い。ただでさえ人が多すぎて初っ端からオートリバースしまくったのに…。もう胃の中空っぽだよ…

 大きくため息を付こうとした時いつもより静かな事に気がついた。

 

 「・・・ミイ・・・調子悪いのか?」

 「にゃ!?な、なんでもないにゃよ。元気いっぱいにゃ」

 

 いつもみたいに絡んで来ないから調子が悪いのかと思ったけど。まぁ、俺も調子は良くないのだが…

 ぼっちがミイを心配した言葉を聞いたビオが鼻で笑った。

 

 「こやつはその方が静かで良いのではないか?」

 「それは酷いにゃ!!」

 「それぐらい元気な方が僕は良いと思いますよ」

 「…スサノオ。言葉が戻ってるぞ」

 「…コホン。その方が貴方らしい」

 「キャラ作りがボロボロではないか…」

 「ネコさんはぁ~いつも通りの方が可愛いですよぉ~」

 「ありがとうにゃ~」

 

 みのりこに撫でられるミイを眺めなて空を見入る。何かが揺らめいて…

 何かがゆらゆらと近付いてくるのに気がつきクロノにメッセージを飛ばす。 

 

 「クロノ君・・・」

 「なんでしょうかぼっちさん」

 「・・・上」

 「上?…っ!?後方支援攻撃隊、対空戦闘用意!!」

 

 上空より迫るワイバーン竜騎士に対して一斉に魔法攻撃が加えられた。空で光り輝く魔法が幻想的で心の底から綺麗だと思った。

 こんな良い物も見れたし…帰るか。え、駄目って?デスヨネー…。

 

 ~ぼっちSIDE OUT~

 

 

 

 正面に居座ったゴーレムを撃破したことがきっかけだったのだろうか。城内からではなく城外から多数のモンスターが沸き始めた。さすがにこのままの戦闘となるときついものがある。

 

 「第一小隊と第零小隊は城内へ!ここは僕らで死守します!!」

 「しかしクロノさん!?」

 「良いから先に行ってください。この規模のならこれ以上モンスターは出てこないでしょう。早く行ってください!!」

 「…でも!!」

 「・・・15分」

 「え?」

 「・・・それまでに戻る」

 「分かりました!!では15分後に」

 

 それだけ呟いてぼっちさんは城内へと駆けて行く。第零小隊も続いていく。唸りながら悩んだがここで仕事を放棄するわけには行かない。第零小隊の後を駆けて行く。

 城内は荒れ果てていてモンスターは居なかった。城の入り口までは大きな庭園が広がっていたのだろうが今は見る影も無く廃れていた。所々に雑草やツタが好き放題に伸びていた。

 城の中へと駆けていこうとした時、ぼっちさんの足が止まった。それに気付かなかったウルブスの4名が前に出たと同時に火炎に飲み込まれた。

 

 「皐月!!俺の後ろに」

 

 火炎はそのままこちらへと向かってきて火に包もうとしたが何とか盾で防ぎきった。周囲を見渡して皆の安否を確認する。

 

 「この餓鬼共が!!俺は貴様らのお守りする為に居るんじゃない。手を焼かせるな!!」

 「ひぅ!!す、すみません…」

 「ごめんなさい…」

 「フンッ!!」

 「ぼっちさん助かったにゃ~」

 「・・・」

 

 振り返ると火炎を回避する為にエスデスとスサノオを抱えたビオとミイを抱えたぼっちは火炎が通った道より飛び退いて無事であった。ただみのりこは別だったが…

 

 「うふふ~。《火炎吸収》」

 

 受けた炎ダメージの70%を吸収して次に放つ攻撃にプラスするスキル。しかしダメージは大きく半分ほど削られてしまっている。

 皐月が回復魔法をかけているから大丈夫だ。火炎が放たれた上を見るとそこにはこの前の真紅の西洋龍が翼を広げて威嚇していた。

 

 「あれが…ボスなのか?」

 「卑怯だにゃ!ドラゴンなんて卑怯だにゃ!!」

 

 ユグドラシルでドラゴンといったら最強の種族と言っても良いほどに強化されているものが多い。エスデスとスサノオは先程から己のキャラを忘れて悲鳴を上げている。そこまでではないにしてもスレインも臆していた。

 

 「ハッ!!良いではないか!相手にとって不足無し!!」

 「・・・ぼっち・・・抜刀」

 「うふふ~。焼きがいがありますわぁ~♪」

 

 …三名のみヤル気十分だった。そのヤル気に答えるかのように赤龍は火炎ではなく突進攻撃を行なってきた。皐月はスレインに、スレインは自身に防御系の魔法やスキルを発動される。龍の突進を受け止めようとするがさすがに押されてしまう。

 

 「くぅうううう!?やっぱり無理か!?」

 「・・・動くな」

 

 肩に衝撃が走ったと思ったらぼっちがスレインを踏み台にして龍の頭に跳びかかっていた。同じくビオもだ。

 

 「・・・切り刻む《雷光弐式》」

 「《エア・ムーブ》と《クラッシュ・ファング》」

 

 電気を帯びた二刀の刀の斬撃と滑るように動きつつ連打を叩き込まれて怯んだ。 

 《雷光弐式》は武器に電気属性を持たせた上で麻痺を付与するスキル。ただし部位のみに限定される。

 《エア・ムーブ》は風の力で足を浮かせて地を滑るように進めるスキルで《クラッシュ・ファング》は部位破壊のダメージ蓄積量が増えるスキル。

 さすがに部位破壊は出来なかったがぼっちが斬りかかった右翼は麻痺が発生して動かせなくなっていた。

 

 「行きますよ~」

 「なぁ!?ちょっと待て!!」

 「・・・退避」

 「《獄炎龍撃》!!」

 

 みのりこの後ろより大きな門が発生して中より青い炎で出来た龍が赤龍に突っ込んで爆発を起こす。みのりこは炎属性の魔法しか使わない。その為に装備しているアイテムも装備も炎属性を強化する物で統一されている。超強化された上級魔法の上で《火炎吸収》で得た70%が加算され、いかに炎属性の赤龍であろうとも大きなダメージを負った。

 咆哮をあげて威嚇する。HPバーは五つ。今の攻撃で一つ目のバーの半分ほど削れた。どうやらこの龍は中級ぐらいの奴なのだろう。だからと言って手を休めるわけには行かない。

 

 「《トワイン・プラント》!!」

 「・・・《重鈍なる楔》」

 

 煙が晴れると同時に皐月が魔法で地面より複数の植物のツタで動きを封じる。そしてぼっちが切り刻み、速度低下の楔が打ち込まれて行む。

 一気に叩き込むしかない。それを分かってか分からずかビオは突撃し、怯えていたエスデスとスサノオが続く。赤龍が睨み手を振り上げる。

 

 「させるか!!《注視の的》」

 

 スレインの身体が輝きヘイトが一気に溜まる。プログラム通りにヘイトが著しく高いスレインへと攻撃が変更される。

 

 「ナイスだ!行くぞ!!無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

 「フフ、凍り付け《零度の軌跡》」

 「砕けろ!《二の太刀要らず》」

 

 三人の攻撃がヒットして行く中、赤龍があるものに気を取られたように見えた。ここ一帯を無数の魔方陣が取り囲んでいるのだ。

 いつの間にか後ろへと下がったみのりこが杖を構えて待機していた。

 超位魔法。通常の第十位階を遥かに凌駕する魔法で攻撃力も多大な物がある。しかし、デメリットとして発動時間が長い。なんとしてもそれまでの時間を稼ごうと攻撃するも中級とは言え相手は龍。反撃は辛い物があった。新人のエスデスとスサノオはスキルを使いきる前に後退。皐月は回復に専念する為に攻撃は出来なくなり、前線で戦えているのは何とか回避しているぼっちに盾で防いでいるスレイン、それと己の技量で何とか持たしたビオだけである。

  

 「さすがに…きついな…」

 「弱気な事言うんだな…」

 

 初めて弱音を聞いたスレインは笑いながら呟く。ぼっちは以前無言だが何となく疲労感が伝わる。あと少しで良いのだ。あと少しで超位魔法が…

 赤龍の口が開き、灼熱の炎が喉奥より漏れ始めた。ブレスが来る。

 

 「《アイス・アンカー》!!」

 「ゴーレム達に命ずる。彼らを死守せよ」

 

 ブレスが放たれる前にゴーレム五体がぼっち達の前に立ち、壁となりブレスを凌いだ。ゴーレムはボロボロになり崩れ落ちた。そして赤龍の姿を確認すると氷で出来た鎖が巻き付き地面に食い込んでいる錨と繋がって動きを止めていた。

 

 「15分経過しちゃいましたから来ちゃいましたよぼっちさん」

 「・・・感謝する」

 「プロフェッサーも助かったぞ」

 「い~え、皆様のお役に立てたなら幸いでございます」

 

 援護に来てくれた二人に感謝を述べながら空中の魔方陣の輝きが微妙に強くなった。範囲内に居た三人は急いで飛び出し、中には鎖を引き千切ろうともがく赤龍だけだった。

 みのりこが笑みを含んだ声で呟いた。

 

 「超位魔法《フォールンダウン》」

 

 範囲内が白い光で満たされていく。超位魔法の直撃を受けた赤龍はHPバーを一本と半分だけ残して怯んでいた。

 

 「すげえな…龍を数人でここまでやるとは」

 「さすが二つ名持ちを複数持つ精鋭部隊…」

 「ケケケ、俺様もおでれェた…」

 

 いつの間にかぼっちの後ろに立っていた獅子丸、ガルド、アイオンが口々に感想を漏らした。それだけではなく生き残っていた城外を担当していたプレイヤー達が並んでいた。

 すでに弱り果てていた赤龍に数の暴力で攻めるぼっち達を返り討ちにする力は無かった。かくして『ヴァイス城』はぼっち達の拠点となり、それぞれのギルドは同盟を結んだのであった。

 

 

 

 スレインはふと途中からミイが居なかったことに気付き辺りを見渡す。

 城壁に近い木々の影でミイが耳に手を当てているを発見した。

 

 「…で…。うん。終わった…分かってる…」

 「そんなところで何してるんだい?」

 「ひゃ!?」

 「おう!?」

 

 声をかけた事に驚いたのか飛び跳ねながら声を上げたミイにスレインが驚く。

 

 「なんだ?メッセージ中だったか」

 「あ、うん。…友達が話したいって…あ、私も混ざってくるね」

 

 余所余所しく皆の下へと駆けて行くミイを見送り、何か引っ掛かるスレインは口元に手を持って行き考える。

 

 「あ!そういえば口癖だった『にゃ』が無かったな」

 

 その時のスレインはそんな事を思い、それ以上の考えを持たなかった…




次回…「裏切りの対価は…」

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