なんでしょう。モモンがナーベだったりチーム名が違ったりといろいろありましたけどダインさんが『である』を使ってない事が今呼んだところで一番驚いた…
「さっすが王都だな」
「そればっかりですね」
漆黒の剣の面々は王都に来ていた。
特に目的と言う目的がある訳ではない。単なる気分転換を兼ねた旅行のようなものだ。
「ペテルだってそう思うだろ」
「まぁ、エ・ランテルと比べても大きくて歴史があるからな」
「いやそうじゃなくて美人が多いって事だよ。ナーベちゃんほどの美人さんはさすがに居ないけどな」
「ははは、そういうことですか」
「ルクルットは何処に行っても変わらないのである」
「それが良いところでもあるんですけどね」
半ば苦笑いしつつルクルットの発言を聞く一同は見知ったマークを見つけた。刃を下に向けた黒い短刀。ヘルシングのマークが入った店だった。
エ・ランテルでもそうだが質がよく、値段もそこそこの物から高級なものまで揃えて品揃えも良い為、ほとんどの冒険者が利用しているのである。
「さすがアルカードさんですね。王都にまで店を出しているなんて」
「食事処から武器屋まで何でもやってましたね」
「さすがニニャの初恋の相手だな」
「だから違いますって///」
あれ以来この冗談で弄られることが多くなってしまった。恋をするとかそういう次元の相手ではないのだ。自分達の命の恩人で大商人。正直住んでる世界が違うのである。
「あー…いろんな方面で仕事しているってことはもしかしてあの人ならニニャの姉さん見つけられんじゃね?」
「!?」
「ふーむ、あの御仁なら出来ると思うのである」
「そんな!悪いですよ…」
「あの人なら嫌な顔せず手伝ってくれそうだけどな?」
アルカードとはあの一件が終わった後に一度だけ会えたのだ。何処からか怪我をしたことを聞きつけたらしく、見舞いに果物を頂いたのだ。その時に皆と話したのだ。あの時はルクルットが失礼な事を言わないか皆でひやひやしたものだ。
「み、店に入りませんか?」
「もしかしたら居るかもしんねぇしな?なぁニニャ(ニヤニヤ)」
「だ~か~ら~///」
皆に笑われつつ店に入っていった。
ぼっちはマインを連れて昼の大通りを歩いていた。予定ではセバスに会いに行くはずだったのだが生憎の外出中。ならばと王都に出店した鍛冶屋の様子を見に行こうと予定を変更したのだ。見に行くだけでなく用事も出来たし…
チラッとマインを見ると目が合ってしまい申し訳無さそうに俯く。
先に言いたいんだけどぼっち怒ってないからね。俺悪くねぇだ!!
マインが申し訳無さそうにしているのは今も抱えている刀にあった。蒼の薔薇との共闘にてマインが使用した武技『乱華』は一定の速さで振り回した斬撃を鞘に仕舞い、再び抜刀した際にすべてを解き放つ武技。肉体にダメージが無い為に何度も使える武技…とでもマインは思っていたのだろう。この武技には致命的な弱点がある。それは使用するごとに武器の耐久度が下がっていくのである。ティアとティナに見せてからガガーランやクレマンティーヌに見せて欲しいとせがまれているうちに耐久度を限界近くまで下げてしまい終わったときにはこの世界での名刀がなまくらへと変わっていたのだ。
ちなみになまくらへと変わってしまった刀は前にぼっちが渡した刀ではない。渡した刀は汚したくないと言って無限の背負い袋に仕舞ってある。これもぼっちが他のギルドから失敬してきた物である。
帰ってきた時は正直怖かった。朝方にしくしくとすすり泣く声で目が覚めたのだ。まだ日も昇っているかどうかの時間帯。何事かと焦った、焦った。
目的地の鍛冶屋に到着するとさっさと用事を済ませてしまおうと店内に入った。
「らっしゃい。って鬼の店主様か…」
いきなり店員に悪態をつかれた!もう言われなれたけどね。
髪は黒でさらさら、後ろで髪を括りポニーテールにしているが前髪は左目を隠すほど伸ばしており少しだらしなさが見て取れる。身長は年齢から考えると低めの145cmで顔立ちと合わせるとまるで女の子のようだがれっきとした17才の男の子だ。
服装はカッターシャツだったのだが袖は肩までで、へその辺りが見えるように切り取っている。特注で作った皮手袋で手から肘を隠し、腰から足の付け根までしかない短すぎる短パンを愛用している。笑えばとても可愛らしく、容姿と揃って男でもときめくそうなのだが店員、『レイル・ロックベル』の表情はヤル気のヤの字も無いと言うかいつも通り無気力感しかないんだが…
「あれ?アルカードさん!?」
「・・・ニニャさん?」
今更ながら中に他の客が居た事に気づいた。まさかここでニニャさん達に会うとは思ってなかった。
「お久しぶりですね」
「ええ、本当に久しぶりです///」
「おお~ニニャがアルカードの旦那を見て照れてるぞ」
「っ、ルクルットさん!!」
慌てて顔を真っ赤にしてぽかぽかとルクルットさんを叩いている。何か見てて微笑ましいんだが…
「とりあえず何しに来たんだ鬼の店主さまっ!?」
「くぉら、糞ガキ!!伯爵様に何言ってんだ!!」
奥から出てきたまさに『昔ながらの職人』って感じの爺さんが出てきたと同時にゴツンとレイルの頭をどついた。
「すいません伯爵様。うちの孫が無礼を…」
「いや構わないさ。気軽に話しかけられたほうが私としても気楽で良い」
頭を下げる(レイルは下げさせられている)爺さんたちの相手をしているぼっちの後ろでニニャ達が驚きの表情をしていた。どうやらぼっちが伯爵だって事を知らなかったらしい。
「えっとブラウニー伯爵様と呼んだ方が良いのかな?」
「いえ、今まで通りアルカードさんで良いですよ」
「じゃあ俺は今まで通りアルカードの旦那って呼ぶぜ」
「「「ルクルット!!」」」
「ふふふ」
そんなやり取りを見ているとレイルがゆっくりと近づいてきた。
「で、結局何の用だったんだ?」
「!?…えーと」
「?」
「ごめん!これなんだけど…」
表情が暗く落ち込んでいるマインが刀を差し出すと、受け取ったレイルが刀身を確認するとすぐに鞘に収めた。レイルにも怒られると思っていたが表情はまったく変化しない為に首を傾げている。
あの刀はレイルが打った物だ。『作った武器の仕上がりを二段階引き上げる』というタレントを持っている。おかげで彼のレベルでは最低値の刀剣しか作れないはずなのだが名剣と謳われる刀剣を製作する事が出来るのだ。
いつまでも不思議そうな表情をしているマインに気づいたのか本人も首をかしげた。
「なに?」
「こんなにした事に対して怒ってないのかなって思って…」
「別に怒んないよ。あんたが死んだんだったら別だけどな。人は死んだらそこまでだが刀はまた打てば良い。この状態でここにあるだけで満足だよ」
「本当!」
「けどもっと大事に扱えヘッポコ」
「ヘッポコ!?」
「自分の相棒を何を考えたかこんなにしちまう奴なんてヘッポコ以外の何になると思う?」
「…返す言葉も御座いません」
じと目をしているのかいつもの表情で見つめるレイルの前で正座を自主的に行なったマインを無視してニニャが近づく。
「あの」
「ん、買うもん決まった?」
「そうではなく『鬼の店主様』と言うのはどうしてですか?私は優しくて理想の貴族様って感じなのですが…」
「ああ…それは俺の打った刀を店に出すことは許しても合格点はくれねえんだ」
「?」
「持っている刀を超えるもんじゃないと合格点をくれないんだ」
皆の視線がぼっちの持っている刀に集まる。この刀はレジェンド級に匹敵する刀でこの世界ではどのランクになるんだろう?まさに神話に登場する武器になるんだろうか?とりあえずそれぐらいの武器じゃないと使う気が無いのだ。一応形的に気に入ったレイルの刀は数本持っているけど…そんな想いがあって言ってしまったことを思い出す。
「ま、それだけの事なんだけどな。とりあえず、ほれ」
「わっ、と、っと」
投げられた日本刀を慌てて受け取った。
「このなまくら直すのに時間かかるし、丸腰でもなんだろ?それまでの繋ぎ」
「!レイル…ありが」
「貸してんだから折るんじゃねぇぞ」
「……はい」
「あー…旦那、ちょっと良いか?」
用事も済んだし帰ろうと思ったとこでルクルットさんから声がかかった。
「なんでしょう?」
「ちょっと相談したい事があるんだけど。ニニャの事でさ」
「ちょ、失礼ですよ。それにさっきも言ったように」
「言うだけならただって言うだろ?」
「そうかもしれないが…」
「さすがに本人の前でそれを言うのは失礼なのではと自分も思うのである」
「構いませんよ」
この後、ルクルットよりニニャのお姉さんの話を聞いて出来る限りの協力をする事を約束した。彼らはあとニ、三日は王都に居るとの事なのでその間に何とかするとしよう。
この時はまだ誰も王国を揺るがすような大事件に巻き込まれるとは誰も夢にも思っていなかったであろう。漆黒の剣の面々も。もちろんぼっちも…
ニニャ達が出た回って大概不安要素を最後に書いている気が…
さてと、ぼっちが鍛冶屋に言っている間にセバス達は『八本指』のコッコドールが仕切る店に到着する。そこには『八本指』最強部隊『六腕』の一人サキュロントが!
次回「老執事と襲撃」
お楽しみに