骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 はい!来ましたセバス回!王都二回目の登場ですよ!
 最近セバス回を書くのが楽しい。


第056話 「老執事と強さを求める二人」

 セバスは主の命令ではなく個人の理由で行動していた。

 午前中に助けた少女、ツアレが働かされていた店の代表を名乗るサキュロントと巡回使のスタッファンと名乗るものが屋敷に来たのだ。内容はツアレを連れ去った事で発生したと言う法令違反の件だと言うが彼らは別の目的を持っていた。出来るだけお金を搾り取ろうとしているのと、あわよくば主人となっているソリュシャンを欲しているのが容易く分かったというか隠す気もなかったようだが…

 兎も角、自ら招いた問題に主を煩わせる訳には行かないと目標である店へと昼の大通りを歩いているのだ。 

 大通りを歩いていると少し血の気の多い若者達が一人子供をいたぶっていた。放って置いても良いのでしょうがどうしてもそうは出来ない。この感情は間違っているのでしょうね。ナザリックの者以外にこんな感情を持つ事自体が…

 見てみぬ振りをする者達とは違い輪の中に入る。

 

 「あ?んだジジイ。向こう行ってろ」

 「もうその辺でよろしいのではありませんか?」

 「何だと」

 「この子供が何をしたか知りませんが少々やりすぎではありませんか」

 「引っ込んでろジジイ!!」

 

 一人が殴りかかって来た。これがやまいこ様だったらと思うとぞっとするだろうがあまりに遅く、単調すぎる動きだった。体の位置を少しずらすだけで男の拳は目標を失って空をきる。同時に足を一歩出すだけで躓き地面に顔面衝突した。

 倒れた男には目もくれず残りの者に視線を向ける。先ほどまで敵意をむき出しだった彼らはセバスの覇気に当てられ今は小鹿のように震えている。

 

 「そちらの方々はどうするのですか?」

 「え…いや…俺らは…」

 

 どうしようかしどろもどろになるが地面に衝突した男は違った。完全に頭に血が上っており腰よりナイフを抜き出し襲い掛かってきた。またも遅すぎる動きで。

 ナイフを突き出してくる前に拳の射程内に入った瞬間に顎を打ち抜いた。白目を向いて力なく男は地面に再び突っ伏した。周りの人間には立ったのと同時に崩れ落ちたようにしか見えないだろう。しかし残りの青年たちは気付いたのだろう。青色から土色まで顔色が変化していた。慌ててその場から逃げ出そうとする。

 

 「待ちなさい」

 

 静かに、そして重く告げた言葉に逃げ出そうとした青年たちを立ち止まらせるには十分すぎた。震えながら振り向いた彼らに気絶した男を指差して次の言葉を言った。

 

 「置いて行かれるのですか?」

 

 意味を理解した青年たちは気絶した仲間を抱えて慌てて去って行った。その後は少年を気遣い、近くに居た兵士に後を任せてその場を去って行く。

 コツ、コツ、コツと規則正しい足音を鳴らし、暗い路地裏へと向かって歩いている。本当なら大通りを歩いて行こうと思ったのだが何やらつけられている。一人は上手く隠れているようだがもう一人は隠れる気があるようだが気配も隠せてない。大通りの子供を助けに行ったら途中から辺りに人が集まった。その時から三人に見られていた。その内の二人が尾行しているのだろう。

 

 「すみません!」

 

 もう少し奥に行ってから何かしらアクションを取ってくると思ったのですが予想を外してしまいました。 

 

 「何か御用ですか?」

 

 振り向き声をかけてきた彼を観察する。髪を短く切り揃えた少年。服装の装備にチラッと見えたごつごつとした厚く、硬い手からして兵士だろう。

 

 「貴方は一体?」

 「わ、私はクライムというものでこの国の兵士です。先ほどは私達兵士が行なう仕事を代わりにして頂きありがとうございます」

 「いえ、私は私のしたいようにしただけですので…それでどんな御用でしょうか?」

 「はい。その…私を鍛えてもらえないでしょうか」

 

 突然の申し出に首を傾げる。

 

 「ふむ…何故私に?」

 「私は強くなりたいのです。先ほどの一撃を見ました。貴方は強い。それもとてつもなく…だから失礼と思いながらもお頼みします」

 

 この少年の瞳を見ているととても心が和む。真に真っ直ぐを見ており、己の強い意志や今までのあり方を表した目だ。そう思うほど良い目をしていた。とても好感が持てる。ゆえに気になった。

 

 「どうして貴方は力を欲するのですか?」

 

 力を欲するだけなら愚考と等しいと私は思う。力だけ求め、得たところで強大な力は単なる力でしかない。それをどう使う思いや意思の強さ両方がなければならないと考えるからだ。

 与えるだけなら簡単に出来る。ぼっち様がお持ちのような魔剣の類を渡す事。マーレ様に頼んで強化魔法を施してもらう事である。

 しかしこの少年が力だけを求める事を私は望んでいないのだ。だからどのような力を欲しているか見極めたい。

 

 「…私が男だからです」

 

 再び熱意を持った真っ直ぐな瞳が向けられる。

 頬が緩む。

 

 「良いでしょう。ではここで行ないましょう」

 「はい!ってここでですか!?」

 「ええ、。すぐに済みます。一歩も動かないで下さいね」

 「っ!?」

 

 拳を構えて少年に殺気を向ける。ついでに先ほどから覗いている者には別に殺気を送る。

 ゴクリと喉を鳴らし、冷や汗を掻き始めた少年は戦っているだろう。この殺気から来る恐怖と。

 本気とまでは行かないが放たれた拳が顔の横を通り過ぎ何本かの髪を散らした。

 

 「死の恐怖を乗り越えた感想は如何です?」

 「え?」

 

 汗ぐっしょりとなった少年は何のことか分からない様子だ。

 

 「貴方は己の意思で死の恐怖を乗り越えたのです。何度か繰り返せば大抵の恐怖を乗り越える事は可能でしょう。しかしなれないで下さいね。恐怖とは生存本能を高めるので…」

 「は、はい!」

 「では私はこれで…」

 「待ってくれ!!」

 

 隠れて様子を窺がっていた者が声をかけてきた。癖のある青い髪に多少手入れをしてないひげを見る所、少年と同じ兵士では無さそうだが中々の強さを持っている。この世界ではだが…

 

 「先ほどから窺がっていたのは知っておりましたが…貴方は?」

 「!!気付いていたのか…俺はブレイン。ブレイン・アングラウスだ」

 「もしかしてストロノーフ様と互角に渡り合ったというあのアングラウス様ですか!?」

 「ああ…君に訊きたいことがある。何故あの殺気に正面から耐えれたんだ?俺…失礼、私だって無理だ。それなのに何故?どうやって?」

 「最初は怖かったです。恐怖しました。けれど主人の事を想っていたら立っていられました」

 「主人?」

 「はい」 

 

 考える間もなく答えた言葉にアングラウスは驚いていた。

 

 「人とは何かを想う事で大きな力を得る事があります。そもそも個としての力などたかが知れています。彼は主を想う忠誠心で支えることで立っていられたのでしょう」

 「……そうか。とうの昔に捨てたものだな。今から何とかなるものですかね?」

 「なりますよ。何の才能もない私が出来たのです。アングラウス様ほどの人なら出来ますよ」

 「所でアングラウス様」

 「貴方ほどの人に敬称をつけられるほどの者じゃない。アングラウスでお願いします」

 「私はセバス・チャンと申します。セバスと呼んで頂ければ…それでアングラウス君。彼の稽古に付き合っては頂けませんか?」

 「アングラウス様に!?」

 「はい。二人にとって得る物は大きいと思います」

 「お…私としては構いませんけど」

 「私はこれから火急に片付けなければならない案件がありまして…」

 「ならば彼らに手伝ってもらえばどうですか?」

 

 二人が驚きつつ背後へと振り返ると牧師の格好をしたザーバが壁にもたれて薔薇を弄りながら微笑んでいた。相手を認識したクライムは少しだけ怪訝そうに表情を歪める。

 3つの視線で残っていた一つは彼だった事は分かっていた。彼の場合は隠す気も無かったようだが。

 

 「これから起こる事は少なくとも稽古にはなるでしょうから」

 

 私は彼が何を狙ってこのような事を言ったのか不安でしかなかった。

 

 

 

 セバスがクライムの稽古をつけている頃…コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

 ソリュシャンはドアを開けるか開けないかで悩んだ。今日は朝に人間が来てから執事役のセバス様が出かけているのだ。別に相手が人間ならば居留守を使っても良いのだ。むしろ演じている性格なら使ってもおかしくないだろう。しかし…

 ドアの前から気配がしないのだ。索敵系スキルや魔法を使った訳ではなくただの己に備わった感覚なのだが居ないのだ。誰も。いや、一人は感じた。ドアより少し下がった位置に居る。しかしその位置だと手が届く範囲ではない。ならば何かを投げつけた?それは無い。あの音は確かに手でノックした音だった。

 可能性としては私の感覚を持ってしても察知できない相手。人間でそんな相手が居るだろうか?

 ふとそんな考えをした時ある御方の事を思い出した。今この王都に居られる至高なる存在…

 慌てず恐る恐る扉に手をかける

 

 「どちら様で…」

 「・・・」

 

 扉の前にはぼっちが立っていた。その少し後ろにはマインが追従していた。

 心臓が飛び出るほど驚いた。まさか至高の御方が自ら出向いてくるなんて!?すぐに屋敷に入って頂こうかと思った瞬間、セバス様が拾ってきた物を思い出した。伝えるべきだろうか?それよりも至高の御方があのような物と一緒に居る事に不快感を覚えられたら?不味い…

 

 「・・・セバスは居るか?」

 

 思考中のソリュシャンは自分達の主人がセバスに用があったことを理解した。けれど本人は外出中。自分に話さなかったという事は今日の来訪をご存じなかったらしい。

 

 「現在セバス様は出掛けております」

 

 外に居る人間には見えない角度、聞こえない音量で答える。

 『出掛けております』…本当なら素直に出かけた理由を話したいところだがこれはセバス様の招いた事案であり、自らの主人の手を煩わせる訳にはいかない。『任務中であります』と嘘も付く訳にもいかず誤魔化す事にしたのだ。

 手を顎に押し当てて少し考えているぼっちに対して冷や汗を掻きそうになるのを必死に堪える。

 

 「そうか・・・すまないな」

 

 踵を返したぼっちは『・・・また来る』とだけ告げてマインと共に去って行く。深々と頭を下げて見送る。本来なら外に出てお見送りしなければならないのだが演じている性格からしてありえない。その事を理解して微笑み返してくれたのだろう。息をつきつつドアを閉めた。コツンと額を扉に当てて呟く。

 

 「…すべてばれていますわね」

 

 索敵で勝るものの無いぼっち様がアレの事に気付かないはずはない。それに『出掛けております』と言葉を選んで使った事にも…

 

 「やはりお話しするべきですかね」

 

 ソリュシャンはドアから離れて、仕舞っているメッセージ用の巻物を探し始めた。

 

 

 

 

 




 セバスの用事に原作通りクライム&ブレインが協力…そして皆様の不安要素の一つ『ザーバ』がかかわり始めた。どうなる!?というかどうしよう?

 次回『鍛冶屋』
 え?セバス?出ませんよ。次回はぼっち回です。そして久しぶりにあの四人が登場します。お楽しみに

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