骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第055話 「共闘」

 マインはティア・ティナと共にある村を離れた草むらより観察していた。

 すでに日は落ちて時刻は二時頃であろうか。人影はなく無数の花畑が風で揺らいでいるぐらいしか動く物は見えない。

 マインは『マスタング』と名付けられたチームに居る。別にチーム名はいらなかったのだがアルカード様が教えてくれた中で集団が別々に行動する時はチームごとに名を決めて指示したら良いといわれた事があったのだ。確かに地図で配置や行動の指示をする際、名前を挙げていくより楽だった気がする。

 一番最初にその事に賛成したのはラキュースさんだった。凄く目が輝いていたような気がする。それも魔剣の影響か何かなのだろうか?

 ちなみにボクがいる『マスタング』以外には『スカル』に『グランナイツ』が名付けられた。各隊長にはニグンさんから通信用護符が渡されている。一回話が終了するごとに消滅し、効果範囲が狭いらしいがこの作戦では支障はないとのことである。

 大事な作戦前の現状で問題が発生していた。 

 

 「…あの」

 「どうした?」

 「何かあった?」

 「お二人とも近すぎません?」

 「そんな事はない」

 「問題ない」

 

 首筋に左右から吐息がかかるほど接近されているのである。これは隠れる為に寄っているとかでなく何故か寄られているのである。

 問題と言うのはこの事ではない。いや、この事も十分問題なのだがそれ以上に厄介なのは『マスタング』以外であった。

 一時間前

 マインは蒼の薔薇面々をニグンとクレマンティーヌ…ルーク(ニグンの偽名)とピトー(クレマンティーヌの偽名)と共に集合場所で待っていた。

 

 「で、いっぱい殺していいんだよね」

 「貴様は何時まで…」

 「いいじゃない。それも任務の内でしょう?逆に残した方が厄介よ」

 「なら積極的に殺した方が良いのでしょうか」

 「マイン殿はあの馬鹿に惑わされないで下さい。第一任務は麻薬の元を断つことです」

 「あ!そうでした。ルークさんすみません」

 「むー…もうちょっとで楽しいことになったのに」

 

 むくれるピトーさんを眺めつつ装備を確認する。刀はこの前鍛え直して貰ったばかりで何の問題もない。他のアイテムも良いだろう。後は蒼の薔薇の皆さんを待つのみ。

 すると暗闇の中からラキュースさんを先頭に蒼の薔薇が現れた。

 

 「あ、来ました!!待ってましたよ」

 「ええ。ちょっと準備で遅れて…」

 

 そこでラキュースは石造の如く動きを止めた。表情は何か信じれないものでも見たかのようだった。視線の先に何があるのだろうと振り返るとそこには同じような表情をしたルークさんが居た。

 

 「あの時の!?」

 「貴様は!?」

 

 二人は咄嗟に己の武器に手を伸ばす。それにいち早く気付いたマインは振り上げられた札にナイフを投げつけ、鞘から抜かれる前の剣の鞘を抜かせないようにもう片手で押し止める。

 

 「ちょっと待って!!どうしたんですかいきなり!!」

 

 慌てふためいてるのは一人だけで悠々と眺めているピトーを除く皆が殺気立っていた。

 

 「確かあん時は法国の部隊率いてたよな?」

 「法国?ルークさんってスレイン法国出身だったんですね」

 「そーいやマイン君は知らなかったっけ」

 「それだけじゃない。モンスターだからってかなりの数を虐殺してたわ」

 「昔はそれが主な任務だったからな」

 「ブラウニー伯爵の部下に居るって事は伯爵も法国と繋がっているのかしら」

 

 お互いに殺気だって睨み合っているが怒鳴り声は上げていなかった。が先の言葉を耳にしたルークが声を荒げた。

 

 「あの御方を!!あのような連中と一緒にするな!!アルカード様は私を止め、改めさせ、救いの手を差し伸べてくれた御方…その御方をあのような者共と繋がっているなどと言う妄言を撤回してもらおうか!!拒否は認めない!!」

 

 あまりの迫力にティナとティアが一歩下がる。が、ラキュースやガガーランは下がるどころか今にも斬りかかりそうだった。

 

 「伯爵が繋がっているにしろいないにしろ貴方と共同作戦なんて…」

 「後ろからやられても洒落になんねえしな」

 「だったら!!」

 

 札を全部地面に置き、その場に腰を下ろしたルークはラキュースの目を見つめて顔を向けた。

 

 「だったら私をこの場で斬ればいい。我が主に私が居る事であらぬ疑いがかけられるぐらいならこの命捨てる覚悟」

 「あなた…本気?」

 「主の与えてくださった任務に参加できないのは心残りではあるがな」

 「そう」

 

 押し止めようとしていたマインの手をゆっくりと除け、剣を鞘から放った。

 もう止めようとは思わなかった。構えたまま数秒が経つ。それが長く、長く感じる。

 見つめていた目を閉じ、姿勢を正したルークの首元に剣が振り下ろされた。皆が見守る中で剣は首筋ギリギリで止められる。

 微かにも動かないのを確認したラキュースは剣を鞘に収めた。

 

 「良いのか?」

 「ええ。とりあえずはね」

 「そうか…」

 「さっきの伯爵が法国と繋がってないってのは信じてあげる。貴方を信じたんじゃないから。あの伯爵にそんな感じがしないから」

 

 そんな事があって作戦内容の確認や配置、役割決めなどを行なっていた。何より『スカル』チームはラキュースさんとルークさんだけなのである。不安だ…

 

 

 

 『グランナイツ』

 村の出入り口付近を監視できる草むらにガガーラン、イビルアイ、ピトーが待機していた。

 

 「…」

 「なぁにかな?さっきからじろじろと」

 

 ニヤニヤ笑っているピトーをイビルアイはずっと監視していたのである。警戒ではなく監視である。イビルアイは先ほどのルークの部隊と蒼の薔薇が戦った事を思い出す。奴もそれなりに強かったが目の前に居るこのピトーの方が確実に上であると判断している。少なくともアダマンタイト級であると。その事はガガーランも感じており監視はしてないがいつでも戦えるように警戒はしている。

 

 「別に…」

 「そう?んふふ♪ねぇ、何人やれるか競争しない?」

 「ハッ!あのおっさんもとんだ狂犬を飼ってるもんだな」

 「んふふ~。確かに私は狂犬の部類に入るけどあの人の前では忠犬よ。あの人に殺されたくないしね」

 「やっぱ強えのか?」

 「この面子で行っても勝てないと思うよ」

 「…」

 

 へらへら笑いながらアダマンタイト級冒険者チームを相手に出来るなど冗談だろう。冗談のように聞こえるがイビルアイはその言葉を信じた。あの伯爵は只者じゃない事は分かっている。ゆえに信じて警戒レベルを引き上げた。

 

 「さぁて、そろそろ仕事だな」

 「…ああ」

 「~♪」

 

 三人はゆっくりと獲物を確認した。

 

 

 

 「…」

 「…」

 

 麻薬の元である花畑に一番近い『スカル』チームは他のチームと違い沈黙に包まれていた。

 このチーム分けは三つの仕事を行う為に振り分けたのだ。『スカル』は麻薬の元を断ち、『グランナイツ』は護衛や傭兵などの排除を行い、『マスタング』は『八本指』に関わる資料を廃棄・持ち出す前に奪う事。

 人数は3・3・2と別れる。麻薬処理にルークが選ばれた時、ラキュース自らペアを名乗りだしたのだ。

 

 「…その傷」

 

 短いながらも長く感じた沈黙を破ったのはラキュースだった。

 

 「その傷はあの時のか」

 「ああ…貴様に付けられた傷だ」

 

 忌々しそうに呟きながら頬の古傷を指でなぞる。

 

 「消そうと思えば消せたでしょう。なのに残した…何故?」

 「貴様に敗北した戒めの為に残した。が、今では過去を忘れないように残している」

 

 その言葉を聞くと一度頷き再び沈黙が支配する。

 開始時間が来るときまで…

 

 

 

 『こちらスカルリーダーより各員へ』

 

 時刻になったと同時に水晶から声が聞こえた。いがみ合っていた時とは違い、生き生きしているのが声から分かるのだが…何故なのかは分からない。

 

 『行動を開始せよ』

 「マスタング0-0、了解」

 

 花畑の方から大きな火柱が起こった。3メートルを超える火の巨人『イフリート』が次々と麻薬の元となる花を根元から焼き払っていく。

 慌てふためいて飛び出した何人が必死に水をかけて『イフリート』を消そうとするが一瞬にして斬り殺された。そこに立つのは腰まで届く白い髪を取り付けられた般若の面をかぶるラキュースさんだ。

 深夜で真っ暗の上、殲滅戦を行なうつもりだが万が一と言う事がある。せめて顔だけは隠そうと皆がヘルシングから持って来た面をつけている。

 ニグンさんは草むらから出てくる事はしないので何もつけていない。ボクはゴム製のマスクをつけている。特徴としては左目が隠れてない事と口元に歯むき出しの絵が描かれて、ジッパーで口が開くのだ。別に開く予定はないが…

 ティア・ティナは目の辺りを『不忍』と書かれた白い面を、ピトーさんは三日月状の目と口を描かれた笑っている白い面、イビルアイさんはピトーさんの面を無表情にして右目の青い雷マークが被っている。ガガーランさんは…桃色の兎の仮面である。

 そんな可愛らしい兎さんの仮面をつけたガガーランさんが4,5人を一撃で吹き飛ばす。

 すでに『スカル』『グランナイツ』と作戦を実施しているのだ。『マスタング』も目当ての物を見つけに走り出す。

 

 「我は白夜叉!だれぞ我を楽しませれるものは居らぬのか?」

 

 怯えている警備の者に叫んでいるラキュースさんを見る。

 先ほど書いた様に皆は仮面を着けている。逆に仮面以外に身元を隠すものを着けているのは一人である。黒い忍び装束に真っ赤なスカーフ、赤く刺々しい篭手を装着している。今叫んでいるラキュースさんの装備である。

 今も何かと戦っているんだと思うと心配になる。まるで別人のようなラキュースさんを見てティアとテイナも表情を曇らす、おかげで三人共対応が遅れてしまった。

 視線を前に戻すと弓矢を構える村人達が視界に入った。ここからでは走っても間に合わない。剣で弾く事も出来るがそれは自分だけが助かるだけで後ろにいる二人を守り切れるものではない。

 

 「武技―」

 

 呟くと足を止めて出来る限り素早く出鱈目に刀を振り回し鞘に収めた。村人が弓を放つと同時に気付いたティア・ティナが回避行動を行なう。が、矢は二人のもとまで届く事はなかった。

 

 「乱華(ランカ)!!」

 

 再び鞘から刀を全力で振り抜くと抜いた先に無数の斬撃が現れて大きな華を咲かせた。その華に触れた矢が一瞬にて粉々になる。

 驚く隙もなく、左右から挟み撃ちにされた村人たちは地に伏した。三人は目を合わせると一度頷き先に進む。

 ここでは資料をいくらか手に入れることが出来た。その後、予定されていた村を襲撃し続けた。

 蒼の薔薇はルークさんの事を秘密にしてくれた。もちろんラナー王女にも黙ってくれる事になった。とてもありがたかった。

 夜が明けた頃には全員無傷で王都で休んでいた。

 ちなみに「衣装を手放さなければならないのか?」ととてもラキュースさんが残念そうにしていたのも皆の秘密だ。

 


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