やったあああああ!!
「俺の…負けだ…」
「しょ、勝負あり!!」
一人の兵士が力が抜けたようにその場に座り込んだ。驚きを隠せないまま審判が試合終了の声を上げる。
私、クライムは正直に驚いている。
今居るのは王宮内に造られてた訓練場に来ていた。と言うのもラナー王女が試合を見たいとの事で護衛できていたのだ。他には国王であるランポッサ三世にアルカード伯爵を始めとする貴族達が観戦していた。
別にこの『試合』は予定されていた物ではなく現在国王の護衛として近くに居るガゼフ戦士長が国王に伯爵の剣の腕が凄いと伝えたことから始まった物だ。実際には見ていなかったらしいのだが自分を追い詰めた敵を一人で壊滅させた実力があるらしい。それで国王から『実力を見せてくれないか?』と言われて『私の剣術は人に見せられる物ではありません(人間の目では捉えられないと言う意味)。私の弟子を代わりに出しましょう』との事でその弟子と兵士との試合が行なわれたのだ。
「挑む者はいませんか?」
「俺だ!次は俺が相手になってやる!!」
審判の声に一人の兵士が勢いよく立ち上がる。王がご覧になっている事からここで強さを証明できたら王様の目に止まり、出世できると思っている者がここに居るほとんどの兵士だろう。それが理由かそれとも純粋に戦ってみたいのか。兵士は長さ2メートルはある木製のグレートソードを手に取る。
「俺は今までの奴らと違うぞ」
「そうですか。では宜しくお願いします」
伯爵の弟子のマイン様は深々と礼をして木製の剣を構える。
マイン様は小柄な少年で相手は大柄な大の大人。武器の見ても、使い手をみてもマイン様の敗北と誰もが思うだろう。
「では始め!」
「どおおおりゃあああ!!」
兵士は叫び声と同時にグレートソードを何の手加減なしに振り払った。あんな一撃を受ければ腕の骨折だけではすまないだろう。………当たればだが。
振った瞬間、地面擦れ擦れまでしゃがんだマイン様は剣が頭上を通り過ぎるのと同時に前へと立ち上がり、振り切った頃には相手の首筋に剣を当てていた。
「……ま、まいりました」
「ふぅ…ありがとうございました」
今までの兵士と同じく座り込む兵士に対し、一息つき礼を言う。
これで40戦40勝0敗。しかも一撃も受けることも無く、一撃で兵士達に勝っているのだ。中には戦士長の部下の方まで居たというのに。
驚きと興奮と共に歳もあまり変わらないであろう彼に嫉妬してしまう自分がいた。出切れば私も戦ってみたい。が、今はラナー様の護衛としているのだ。そんな事が出切る訳が無い。
「もう挑む者は居ませんか?」
ここまで力の差を見せられれば立ち向かう者など居なかった。試合は終了かと思われた時、この訓練場全体がざわめいた。
「私が相手をしよう」
名乗りを上げたのは王国最強の王国戦士長のガゼフ様だった。一度国王へ振り向き頭を下げた。
「このような勝手な行動をお許しください陛下。しかしこのまま試合が終わってしまえば王国の沽券にかかわります。どうか」
そのガゼフの言葉に国王は微笑みながら頷いた。どうやら私と同じ気持ちだったのだろう。顔が子供のように笑っていた。
「やるからには真剣勝負でいかせてもらう」
「はい。かの有名なガゼフ様との一騎打ち…こちらも全力で挑みます」
「では…え?」
審判が始めの合図を出そうとした時、伯爵がそれを止めた。
「私にさせてくれないか?」
「え、あ、は、はい」
「…いざ尋常に」
二人とも剣を構えて相手を見据える。動きの一つも見逃さないように。ゴクリと喉が鳴った。距離があるはずなのに二人が生み出した空気に飲み込まれそうだった。
「始め!」
上げていた手を振り下ろしながら開始の合図を宣言した瞬間に二人は動いた。上から降り下ろされる剣を受け止めるのではなく受け流したマインは剣の上を滑らしながら相手の首元を狙うが読まれており、首を傾けるだけで避けたのだ。二撃目を行なおうとした時、目を見開いて飛び退くように距離をとった。跳んだ瞬間、振り下ろされた剣が振り上げられたのだ。
凄い。まさかガゼフ様と渡り合えるなんて…こんな戦いは二度と見れないだろう。そう思った…
飛ぶように距離を取ったマインにガゼフは体勢を整えさせる間を与えなかった。距離を詰めてきたのだ。横に振られた一撃を飛び越えて回避、振り返るながら剣を振るう。対してガゼフは驚きつつも背後を見ることもなくしゃがんだ。剣はその頭上を通過したのだ。先ほどの返しが来る前にマインは後ろへと跳び、体勢を整えた。
「想像以上です…さすが王国戦士長…強い!」
「ふふ。まさかさっきのが避けられるとは思わなかった。さすがブラウニー殿のお弟子さんだ」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
「こんな戦いブレイン以来か…行くぞ」
「はい!」
そこからは剣の打ち合いだった。力と技術ではガゼフが勝っていたが速度と反応速度はマインが勝っていた。いや…技術の面も分からなくなってきた。確かにガゼフは敵を殺す技術で勝っていた。だがマインはまったく別方向の技術を持っていた。両手で攻めていたかと思えばいきなり片手で軽く切りつけたり、連続の突き技(フェンシングのような)を繰り出してきたのだ。その技の数々はその場に居た者達を驚かせた。
特に驚いたのが剣を横へ構えたガゼフに対して剣を上に投げ出したのだ。困惑しながら振り抜かれた剣を滑り込むように下に潜り込む様に回避したのだ。しかしその避け方は読みきっており剣を振り戻そうとした瞬間、嫌な予感を感じて跳び退いたのだ。さっきまで居た位置に投げ出された剣の刃の部分が下となり降って来たのだ。それを拾いながら距離を詰めたマインは姿勢を低く潜り込もうとした。それを剣を振り下ろす事で終わらそうとしたが…
「飛天御剣流『龍翔閃』!」
「なにっ!?」
跳び上がると同時に両手で支えた剣がガゼフの剣にぶつかりガゼフを後退させたのだ。3メートルは跳び上がったマインは縦方向に一回転して剣を振り下ろした格好でガゼフ目掛けて降って来たのだ。
「飛天御剣流『龍槌閃』!!」
「くっ!」
その勢いの剣を受け止めるのは危険と思い、身体を捻って回避する。
本当に凄い戦いだ。手に汗握るとはまさにこの事なのだろう。だが、そんな勝負に決着がついてしまったのだ。避けられて着地したマインの首元に剣が向けられたのだ。
「私の勝ちだな?」
「ええ…僕の負けですね」
「そこまで!」
終了の合図が響くと二人とも滝のような汗を拭い、身体に溜まった空気を吐き出す。
「できればこのままリベンジマッチを行ないたいですね」
「まだ戦えるのか?それは凄いな」
「ええ…僕は負けで終わりたくないですから…特にアルカード様の前では…」
笑顔だったマインの表情が一気に引き締められる。空気が変わった。
「第6r…」
ドクンと心臓が大きく脈打った。よく分からないが何か不味いことが起こる。そんな気がした。しかしそれは起きなかった。
「止めよマイン」
「!!も、申し訳ありませんでした!!」
伯爵の言葉により止められ変わろうとした空気が元に戻った。
拍手が起こった。観客から惜しむ事のない拍手に彼は困ったような表情をする。
「…次は負けませんから」
「そうか。それは楽しみだ。本当に楽しみだ」
二人は固い握手を交わし、試合は幕を閉じた。
「凄い試合だったわね?」
「はい!もう見られないくらい凄い物でした」
「ふふふ。クライムは本当に楽しそうね。もしかして戦ってみたかったの?」
「はい!あ、いえ!その…自分では相手にならないかもしれませんが…戦ってみたかったです…ね」
自分の弱さを噛み締めながらまさに英雄級の腕前を披露した二人を見続ける。
クライム君が力を求め始めた所でそろそろセバス出したい。