ココからは王国編となります。しかーし!今日はセバスは出てきません…全世界のセバスファンの皆様申し訳アリマセン。
煌びやかな宝石や高価なドレスに身を包んだ女性陣に己の家の当主に相応しくそれなりに財を浪費した格好を見せ付ける男性陣が集まる王家主催のパーティーでクライムはため息をつく。
目に映るこの煌びやかな世界は欲と嘘で塗り固められた者達で作られているのではないか?と心の底から思う。皆それぞれ笑顔で話しているが嘘くさく、外面だけを気にしているようにも感じる。
「どうしたの?」
「い、いえ。何でもありません」
声をかけたのはクライムが心から忠誠を捧げる主のラナー王女だった。この腐った世界で彼女だけが輝いて見えた。先ほどまで感じていた不快感が一気に消し飛んだが隣にいる男性が視界に入ると再び心に陰がさした。
「そこは花を愛でる様な言葉をかけられた方がいいと思いますよ」
「…ベルローズ神父」
名を口にすると微笑を返してくるこの垂れ目の神父はどことなく信用ならない気がするのだ。街で聞く話では孤児や売られた子を集めて大きな孤児院を経営しているとか。神父でありながら様々な仕事をこなしては子達の為に稼いでいると心優しい神父と語られる。他には多くの貴族令嬢に好かれており、彼の発言で貴族間の議題に影響する事もあるとか…しかしどうも嫌な予感がするのだ。何かどうと答える事は出来ないが感じるのだ。
「おや?今日の主役のご登場ですね」
そう言われると同時に入り口の扉が開かれこのパーティーの主役が現れた。過度な装飾を施していない黒い燕尾服に身を包み、柔らかくもくせっけの強い髪を首の後ろで纏め、鼻下と顎に生やされた髭は不潔感漂う物ではなく本人の威厳を高めていた。年齢は30代から40代だろう。威厳があり、歴戦の戦士を思わせるような彼だが本当に優しげに笑う。それを見た貴婦人達の頬を染め上げていく。
彼はアルカード・ブラウニー伯爵。つい先日王様より爵位を承ったヘルシングのオーナー。「商人がいきなり伯爵を得るとは」と陰口を叩く者も居るが誰も反対は出来なかった。
伯爵になるきっかけはクライムが持っている刀にあった。ヘルシングで受け取った刀『村正』を王国の鑑定士に見てもらったところ、なんとガゼフ戦士長しか装備する事を許されていない王国の五宝物に匹敵する物だと分かったのだ。他にも王に呼び出された場で王様と六大貴族、そしてラナー王女との話し合いに参加した際に王女の道の整備の話を真剣に聞き、懐から1000白金貨を寄付されたのだ。
この事でアルカードをどうにか手元に置きたいと野心を抱いた六大貴族の意見の元で調査が行なわれたのだ。だが、ヘルシングは商業、工業、産業、傭兵団、警護隊など多くの事業に成功しており資金で六大貴族に迫る勢いだった。病気の者にはお見舞いの品を送ったり、孤児や仕事を失った者に仕事を与え、家が無い従業員の為に社宅を建てたりと人望も厚い。ゆえに手に入れるのではなく何としても味方として取り込もうとした結果、伯爵と言う地位を授ける事になったのだ。
本当に商人なのか疑ってしまうほど彼は順応していた。落ち着きを持って優雅にワインを楽しんでいる。そんな彼に次々とダンスのお誘いがかかる。彼は嫌がる素振りどころか礼儀正しくお受けして行く。
彼のような人こそ本当の貴族なのだろうとクライムは思った。もちろんラナー王女の次にだが。
クライムが見つめる中、アルカードは貴族のご令嬢とダンスを楽しんでいるようだった。
どうしてこうなったし…
貴族のお嬢さんと踊っているぼっちは踊りながら考え込んでいた。
確か三日前にリザードマンの一件がすべて片付き、後はコキュートスに任せることになった。
忙しかったのが急に暇になった。ならばとヘルシングに顔を出しに行ったんだ。もちろんマインを連れて。するとこや…、んん!ニグンより王様からの招待状が届いた事を伝えられたのだ。本当なら各店舗を見て周ろうと思ってたんだけどなぁ。
現在ヘルシングは武器屋、鍛冶屋、アイテム屋、食事処、傭兵隊、特務警備専門部隊など多くに手を出している。しかもどれもこれもが良好である。あー…表ではなく裏向きで対人用の暗部があるけどね。
採用するには面接を受けるだけ。面接官はぼっちだ。いやあ、楽だった。だってスキルで相手の性格からスキルまで全部分かっちゃうんだもん。おかげで誰にも気付かれていなかったタレント持ちを数人確保できた。
あ!それで思い出したんだけどこの世界の住人って涙腺弱くない?
病気で働けない?ゆっくり休んで良いよ。え?休んだら居場所が無くなる?そんな事ないけど。見舞いに果物の盛り合わせを用意しなきゃ。
住む家が無い?気がつかなかった。だったら社員が暮らせる社宅を用意しよう。家賃は安めで。
結婚した?なら祝いに鯛…はこの世界にあるかどうか分からないから大きな魚を買って行こう。もしくは狩って行こう。
こんな感じの事をすると大袈裟に泣きながらお礼を口にするのだ。当たり前の事をしただけなのにおっかしいな…
おっと、話が逸れてしまったかな。
兎に角、王様からの招待を受ける事にしたのだ。いずれは王都に店舗を出してみたかったし。…店を始めた理由はすでに忘れている…下見兼一週間の休暇と言う事で。とりあえずはセバスとソリュシャンの所にでもお邪魔しようかなと思いながら来たはずなのだが、王に会うと『五宝物に匹敵する刀を王国に献上した褒美として爵位と領地を与える』って何ぞ!?あの刀はラナーちゃんの彼氏?のクライム君に売ったはずだったんだけど。しかもその後よく分からない会議に出席する羽目に会うし…その中で唯一納得できたのがラナーちゃんの道の整備計画だった。ここに来る道中の馬車の揺れが酷かったのを体験したぼっちは即座に賛成して懐のお金を渡しちゃったんだよね。そういえばここでもクライム君に凄い感謝されたっけか。
ダンスが終了して少しお話をして人の輪から気付かれぬように離れる。そんな時にメッセージが入った。周りには聞こえないよう小声で話す。
「・・・どうした」
『不快感を抱いて御出でかと思いメッセージを送らせて頂いたでありんす』
「大丈夫だ」
シャルティアが言っている不快感を抱くであろう事案は今行なわれているパーティーのことである。実はこの新たな貴族となったアルカード伯爵の顔見世のパーティーに行く事の一報を入れた際に一悶着あったのだ。
『え!?貴族になったんですか!』
「何故か分からないが・・・」
『分からないって…思い当たる節も無いんですか?』
「節はあったが・・・」
『ア、アインズ様!今ぼっち様が貴族になったと聞こえたでありんすが!?』
『う、うむ。王国の貴族に』
『何と不敬な!!崇めるべき存在の至高の御方を人の身でありながら下につけるとは万死に値します!!』
『「え?」』
『ちょっと僕、王国に出かけてきます…』
『待ちなよマーレ。あたしも行くよ』
『アインズ様!ドウカコキュートスト第五階層全軍ニ出撃命令ヲ!!』
『待つでありんす!私と私の配下が行くでありんす!!第一から第三までの全軍ならすぐに片がつくでありんす』
『いいえ、それなら私の第七階層全軍が相応しい。奴らにありとあらゆる責め苦を味わわせてやる!!』
『落ち着くのだ…はっ!ぼっちさんからも何か言ってください』
「・・・任せた(プチッ)」
『ちょっと!?ぼっちさああああん!!』
と、まぁこんな事があったんですよ。
「普通にダンスしているだけだしな・・・」
『なっ!?虫けら同然の人間とぼ、ぼ、ぼっち様とダンスなど…』
「・・・・・・落ち着け。問題ない」
『そうでありんすか…ぼっち様』
「ん」
『もし今度お帰りになったら…私と!!』
『あんたは何を言おうとしてんのさ!?』
『言わせません!!』
『ちょ、アウラ!!マーレも!!』
『切っちゃってくださいぼっち様!!』
またわやになったメッセージを切った。ため息を付きつつ手に取ったワイングラスを見つめ、中にあった赤ワインを一口含んだ。そんなとき再び声をかけられた。
「少し宜しくて?」
「何でしょうマダム。それにそちらのお嬢様は?」
「娘ですの。舞踏会は今日が初めて。よろしかったら1曲お相手してやってくださる?」
「よろこんで」
ご婦人の横に立っていた17、8のお嬢さんの手を取るとお嬢さんは熟れたトマトのように頬を染めた。
そしてぼっちは思った。
俺だって初めてだよ!!全然慣れてねえよ!!周りからは落ち着いてて紳士的って呟いているのが聞こえるがお前ら全員節穴か!?落ち着いてるのは精神の安定化が連続発生+こういう場でどんな風に対応していいか分からないから壁際で一人ワインを傾けていただけなのに……
おっと、いかんいかん。負の感情が表情に出そうになる。誰だったかいつでも笑ってるべきだって言ってたっけ?
『威圧的に喚いてないで常に笑っているべきだ。ボスってのはそういうもんだ』
そうだ。思い出した…って俺、ボスじゃねえよ。ボスはアインズさんだし。俺は……寄生虫?ナザリックで一番働いてない自信がある!ごめん嘘。モミには負ける。何かこのままだったらアウラやマーレにおんぶに抱っこされて生きてそう。助けてエコー!
『エコーがやられた!?』
違う!!そっちの、ヘックスとこのエコーじゃなくて、ココのとこのエコーな!!
ぼっちは頭の中の幻聴と会話しつつダンスを続ける。早く終わる事を祈って…
ぼっち舞踏会でぼっちしたかった。何か矛盾している気が…
次回『王国最強と少女と少年』
さて誰の事でしょう?次回お楽しみに