今日はすごい日だ。
マイン・チェルシーはナザリック地下大墳墓の一室にあるソファでくつろいでいた。
この世の物とは思えないほど豪華で神々しく感じる彫像品や武器の類を見せていただき、数多くの強者の方々と会ったのだ。
プレアデスの方々とはお茶会をしていっぱいお話した。
一般メイド&各階層の配下の方達からは至高の御方の話を山ほど聞いた。
ニューロニストお姉さんに抱きついてみたら柔らかい感触よりも先に花の様ないい匂いがした。
恐怖公さんには申し訳ないけど逃げ出してしまった…
アインズ様のペットのハムスケさんとは試合を行なった。
今日は皆さんリザードマンの集落で用事があるということで階層守護者を除く方々と面合わせを行なったのだ。正直アルカード様と離れ離れなのは寂しいが皆さん本当に優しくしてくださって本当に楽しい。
そしてアルカード様に一時的にお借りした指輪で移動した『宝物殿』でお茶を頂いているのであった。その目の前では…
「どうですか!この姿似ているでしょう!!」
「うーん…何か違うんですよね」
大仰なポーズと高らかに謳う、アルカード様に化けているパンドラズ・アクターさんが居た。
パンドラズ・アクターさんはアルカード様のご友人であるアインズ様が創造?された方なのだという。種族はドッペルゲンガーでいろんな人に変身できるのだという。
「ふむ。やはり至高の御方々とまったく同じなるのは難しいですね」
「でも、かなり似てますよね。内面は正反対ですけどね」
「…あの、もしかして怒って…」
「怒ってませんよ♪」
怒ってませんとも。アルカード様に姿を似せて絶対やらないであろう大仰なポーズや台詞の数々を聞いてイライラしているなんて事無いですから!
「そ、それならいいのですが」
「にしてもその服装カッコイイですよね」
正直に言うと僕はアクターさんを結構気に入っていた。普通に見ていて面白いし、通常の動作が大衆演劇を見ているような気がするからだ。
それにあの軍服とか言っていた服装がとってもカッコイイのだ。
本音をそのまま口にすると表情は分からないのだがすごく嬉しがっているのが分かる。
「ええ!ええ!そうでしょうとも!!この服は私をっ!!↑創造してくださったアインズ様がっ!!↑私の為に用意してくださった物なのですから!!」
「そうだったんですか」
「ええ…ですが何故か敬礼とドイツ語を禁止されてしまったんですよ。これらはアインズ様が決めて下さった物なのですが…」
「敬礼?僕知ってますよ」
マインはすっくと立ち上がり手は握り締めた状態で右手の甲を腰に付け左手を心臓の位置に合わせる。
「こう、ですよね?アルカード様に習ったのですが」
「ほう。ぼっ…ん゛ん゛!アルカード様とアインズ様では敬礼も違うのですね。私のはこうです」
右手の指先まで伸ばし額に斜めになるように位置を決めて敬礼する。マインはおおと声を漏らした。
「そういえばアクターさんはいろいろな言葉を知っているのですよね?」
「いろいろ…いえ、私が知っているものは今話している言語とドイツ語ですね」
「アハトウング…ジークハイル…クリーク…カンブグルツベ…ゼーレヴェー…ヤポール…アハトアハトってアルカード様が呟いていた単語なのですが」
「『気をつけ』、『勝利万歳』、『戦争』、『戦闘団』、『あしか』、『了解』…最後のは分からないですがドイツ語ですね」
「へぇ…僕も覚えたほうが良いのかな?」
「言語を一つ覚えるのは大変なことですよ」
「むむむ…」
腕を組み悩んでいると背後から気配を感じて振り向くとそこにはシズさんとルプスさんが居た。
「やっと見つけたっす」
「ここに居たの…探すのに手間取った」
「あ、申し訳ありません」
「構わない…貴方はぼっ…アルカード様の弟子なのだから。そこまで私が制限すること出来ない…」
「そうっすよ。気にしない。気にしない」
アハハと笑うルプスさんは良いとしてなぜかアルカード様の弟子と言う単語が出た瞬間、シズさんから怒気みたいな物を感じたような気がしたのだが…気のせいだったという事にしておこう。
「ミス・シズどうしたんだい?マイン君をずっと探していたように聞こえてたけれども」
「……他にも紹介しないといけないから」
「ではあくたーさん。お邪魔しました」
「いえいえ、またいらして下さいね。では」
それぞれの敬礼をして去っていく。不思議そうにシズさんが首を傾げていたけれどそんなに変なことをしただろうか?っと何かを思い出したのか『あ…』と声を漏らした。
「ニグレドには会ったっすか?」
「ニグレドさんですか?いえ、まだ会っていないですけど…」
「…会ってみる?」
「はい!ぜひとも」
期待で胸がいっぱいなマインと違い少しイタズラっぽくルプスが微笑んでいる…。その中シズだけは何が起こるか予想したので内緒でユリにメッセージを送った。
ニグレド
守護者統括であるアルベドの姉でナザリック第5階層『氷河』に存在する館の『氷結牢獄』に住まう情報収集に特化した魔法詠唱者。その能力は生物から無機物まで捜索できるほどである。ぼっちがバーサーカー状態だった際には監視を行なったりもしていた。
子供に対して慈悲深く、子供などに対しては良心的なNPCであろう。
彼女はこのナザリックである偉業を成した人物なのである。子供関係でも索敵関係でもなく至高の御方に対して行なった…というか製作者タブラの意図した通りの事と言った方が良いのか。
タブラ・スマラグディナは趣味の為ならば全力を尽くすプレイヤーだった。ある目的の為にニグレドや『氷結牢獄』の内装、通常ではポップしないはずの腐肉赤子を出現するようにしたりなど時間や労力だけではなくかなりの金額を支払って作ったのだ。
ある目的とは仲間であるギルド『アインズ・ウール・ゴウン』メンバーを驚かす一点である。ちなみに実用性を考えると皆無である。
そんな事を知らなかったメンバーは驚いたり、武器を手に取ったり、魔法を唱えたりと驚き+攻撃まで行なうほどだったのだ。
大の大人であったメンバーでこの様だったのだ。そんな所にホラー耐性ゼロの少女が入ったらどうなるだろうか?答えは分かりきっている。
「きゃああああああああああ!?」
ナザリック第5階層にマインの悲鳴が響き渡った。シズからのメッセージを受けたユリは駆けつけると同時にルプスの頭を『スパーン』と叩いた。
「いった!?痛いっすよユリ姉…」
「黙りなさい!ぼっ…アルカード様のお弟子様を泣かせるとは何事ですか!?」
「うー…まさかここまでの反応するとは…」
「あたりまえです。ニグレド様を初めて見た時の至高の御方々の話を聞いた事があるでしょう?もしこれでマインさんがニグレド様をお嫌いになったらどうするのですか?」
「ユリ姉……それはない」
怒っているユリの裾を引っ張り、ある方向を指差す。そこには驚いて涙目になっているマインを優しく抱きしめて宥めているニグレドの姿があった。
ニグレドは喪服に黒髪で顔はすべてのパーツが整っておりアルベドに似ているのだ。皮膚が無い点を除けばだが。そうだ。皮膚が無い為、本来なら見えない内部がむき出しなのだ。初見で見れば普通はトラウマ物であるはずなのだがマインは怖がったり嫌がる素振り一つ見せない。大した方だと感心した。
「ごめんなさいね。驚かしてしまって」
「ぐずっ…いえ、驚いてすみませんでした。傷つけてしまいましたか?」
「大…丈夫そうですね」
「それにしてもマイマイは驚きすぎっすよ」
「…確かにこっちも驚いた」
「す、すいません…僕自信も驚きました」
「まぁ、無理は無いですが男の子なのですからしっかりしないといけませんよ」
「はい………ん?」
今度はニグレドを加えて本日二度目のお茶会を始めた。その前にマインは『男の子』と言われた様な気がしたが勘違いとして処理したのであった。そしてお茶会で出されたケーキを食べ終わる頃にはすっかり忘れ去っていた…
次回から三話続けて特別編を書こうかと思っております。