骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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前回投稿した昼時。ランキングを見てみると19位のところに『骸骨と共にぼっちが行く』のタイトルが!?嬉しすぎて一瞬夢かと思うほどでした。
 皆様本当にありがとうございました。まだこれからも楽しんでいただけるよう頑張りたいと思います。


第047話 「絶対者降臨:後編」

 リザードマンの集落ではこの前の勝利が嘘のように静かだった。それも通夜のように。

 それもそのはずだ。先ほどアンデットの軍団を仕向けてきたナザリックの者達と話して戦う事となったのだが、実力差が圧倒的過ぎる。湿地帯では足が汚れるとのことで湿地帯すべてを凍らせるなんて事を誰が出来るというんだ。

 そして相手は少数を出して来ると言う事はその少数はアンデットの大群以上の力を持っているのは皆が分かったであろう。戦えば死は決定的。そんな中でもっと俺は絶望的な言葉を聞いたのだ。なんとかそれだけはと懇願したのだが却下された。

 

 「ザリュース…そんなに思いつめないでよ」

 「いや、でもな…」

 

 横に座るクルシュだけでも戦うメンバーから外そうと思っていたのだが何故か指名されたのだ。戦うのはクルシュを入れて5人。後は俺、ザリュースにゼンベル、『スモール・ファング』と『レイザー・テイル』族長の五人である。兄のシャースーリューはもしもの時の為に残ってもらう事となったのだ。

 

 「何しんきくせぇ面してんだよお前ら」

 「分かっているだろ?」

 「分かるも何も俺らが勝ちゃ良いだけだろうが」

 「その言葉の意味分かってるの?」

 「たくっ、クソ真面目に聞きやがって…俺も分かってるよ。なら負ける為に戦うか?」

 「そんなわけ無いだろう!!」

 「なら勝つ為にただ戦うだけだ。だろ?」

 「…そうだな。確かに」

 

 ゼンベルの言う通りだ。勝てば何の問題も無いんだ。勝てさえすれば…

 

 

 

 指定された時刻に場所に来て見ると武人の様な二足歩行する虫型のモンスターに貴族のようなスーツに帽子を着て白い面で顔を隠した男そして…

 

 「…やっほぅ」

 

 いつも通りにへらにへら笑っているモミが立っていた。何故そこに立っている?俺達を騙していたのか?など多々の疑問が湧き上がるがあまりの驚きに口が開かなかった。クルシュだけは困ったように笑っていたけど…

 

 「…ん?あんまり驚かないね」

 「驚いているんだけど貴方ならおかしくないかなって思えちゃって…」

 「そ。んー…とりあえず何か言っておく事ある?…聞くだけなら聞くけど」

 「だったらリザードマンの未来を託してもいいかしら」

 「…それはコキュートスにパス。私に管理運営なんて無理だしね」

 「ソロソロ時間ダ」

 

 クルシュとモミの話を虫型モンスター…コキュートスと言うのだろう。彼が止めた。すると仮面の男が一歩前に出た。戦いを始める気なのだろう。腰に提げている刀に手をかけていた。

 

 「あいては3にん…ぜんいんせっきんせんかな?」

 「らしいな。だったら後衛2人に前衛3人でなんとかなるか?」

 「あいつには気をつけろよ!何たって俺を簡単に負かした奴なんだからよ!!」

 

 後ろにクルシュと『スモール・ファング』族長が移動して俺とゼンベル、『レイザー・テイル』族長が前に出る。相手には飛び道具などは見えない。剣を持った者が二名にモミはあの力から接近戦…武器を持ってないことからモンクだろう。ならば俺ら三人で何とか防ぎ、後衛の支援で何とかなるかもしれない。そんな期待が現れた。が、そんな事あるわけも無い事はすぐに思い知らされた。

 

 「《グラスプ・ハート》」

 

 手をクルシュに向けたモミが呟いた。すると薄っすらその手の上に鼓動している肉塊が現れて軽く握りつぶした。同時に後ろで何かが物音を立てた。振り向くとクルシュが倒れていた。一瞬何が起こったのか…いや、今だってあまり理解出来てない。分かることは一つだけだ。クルシュを友人と言っていたモミが顔色一つ変えないままクルシュを殺したのだ。

 なぜそう嗤っていられる?友人の演技をしていたのか?いいや、そんな感じではなかった。ならこれはどういう事だ。

 思考がパンクしそうなぐらい感情が溢れていると仮面の男が消え、横をそよ風が吹いた。コキュートスの隣に立っていた男はいつの間にか首から上が無い『スモール・ファング』族長の後ろを悠々と歩いていた。少し間が開き首から大量の鮮血が溢れ出る。男は一滴たりとも浴びることも無かった。

 勝てるわけが無い…

 絶望と虚無が押し寄せてくる。そんな中でも戦いは続く。コキュートスに殴りかかったゼンベルも攻撃を防ごうとした『レイザー・テイル』族長も放たれた一撃で死んでしまった。

 恐怖を叫び声で払いのけ、怒りをフロスト・ペインに乗せて斬りかかる。せめて一撃だけでもと思ったのだがその一撃は掠る事も無く視界が反転する。多分俺も同じように…

 そこでザリュースの意識も途絶えてしまったのだった。

 

 

 

 深い暗闇が視界を覆っていた。払いのけるように、そこから出るために重い瞼を開けるとそこには先ほどのザリュースが居た。

 

 「ここは…何処?」

 「目を覚ましたか!?良かった。中々起きないから心配したんだぞ」 

 

 よく周りを見渡したら木で作られたリザードマンの集落にある指揮所と名付けられた建物の中だった。何か心に不安感が残っていたが身体を支えてくれるザリュースより感じる体温で和らいでいった。だが…

 

 「目が覚めたようだね」

 

 聞きなれない。違う、聞き覚えのある声が耳に入り振り向くとそこには仮面の男が…慌てて体制を立て直そうとしたがザリュースが優しく押し留めた。

 

 「大丈夫だクルシュ。彼はもう私達の味方だ」

 「『もう』と言うより前より仲間だったのだがね。・・・この声に聞き覚えはないかい?」

 

 何を言っているのか理解できなかったが確かに聞き覚えはあった。何処か…最近聞いたような…あ!

 

 「ヒューリックさん?」

 「その通りだ。だがその名は偽名でね。本当の名前はぼっちと言う」

 「そうですか…」

 

 彼を私達に紹介したのはモミだ。

 モミは私たちを騙していたのだろうか?何がしたかったのだろうか?分からない。頭の中に多くの疑問と騙されたのかなと悲しみが溢れてくる。そんな私の前に膝をついて目線を合わせてくる。

 

 「一つ言っておきたいのだがモミはあの戦いのことは知らなかったと思う」

 「え?」

 「あの戦いはアインズさんがコキュートスに命じた物でモミは知らされてなかったはずだよ。それにモミは私に『友達を助ける為に…』と言ってきた結果、彼女は今回友人である君を殺すことで忠誠心を計られたりといろいろあったんだ。あと君たちを生き返らせるようにアインズ様に言ったのは彼女なんだ」

 「モミが…」

 「ああ。君にも君の考えや想いがあるのだから押し付けはしない。だから…その…彼女の友達で居てくれたら嬉しいんだけどな」

 

 そう言うと微笑み立ち上がる。用は済んだと呟きこの部屋から出て行く。

 私は何て馬鹿なんだろう。私達の為に助けを求め、罰を受け、そんな中でも私たちを救おうとしてくれた友人を一瞬でも疑ってしまうなんて…

 涙が流れた。それを優しくザリュースが包んでくれた。

 

 

 

 「おはようございますモミ様」

 「おっはー…」

 「おはようございますモミ様」

 「にゃんぱすー…」

 

 ナザリックが支援を開始したリザードマンの集落にモミは散歩(サボリ)がてら来ていた。

 これはどういう事だろう?

 道行く人から心の底から尊敬やありがたみを持って挨拶してくる。

 訳がわからない。私は前回なんの容赦も無く一番にクルシュを殺した。その残忍性や恐怖感を植えつけるには良い手だったと思う。自分に敵対心を向けさせることでその後、リザードマン達の支援するコキュートスを引き立てようなんて考えていたのだが何故にこんなに慕われているのだろうか?

 原因は分かっている。あの創造主であるぼっちさんだ。あろう事かクルシュに私が彼女たちを蘇えらせて欲しいとアインズ様に懇願したみたいな話をしたのだ。そんな記憶は無い。あるのは…

  

 「モミよ。これからあのリザードマン達に何をした方が良いと思う?」

 「…死んだ者達を甦らせるのが良いと思う」

 「先ほど殺した者達もか?」

 「ん…彼らはリザードマン達の長達。彼らを甦らせることでリザードマン達に恩を売り、蘇生自体がこの世界では出来る者が少ない事から戦闘力以上に力を見せ付けることが出来るでしょう」

 

 そんな会話はした。確かその場にぼっちさんも居たはずなのだがどうしてあんな事になったのか…それに…

 

 「よぉ。『慈悲多き女神様』」

 

 これだ。自分の立場を危うくしても友を救う為にと、友を生き返らせる為に至高の御方に懇願したり、友であり女性であるクルシュを惨たらしく晒さないように一瞬で外傷も無いようにせめてもの情けをかけたなどの話の結果、リザードマン達に『慈悲多き女神様』などと呼ばれる始末…

 

 「なんだよ。嬉しくねえのかよ?『慈悲多き女神様』」

 「……『ドラゴン・タスク』の支援打ち切り申請しようか?」

 「ちょっ!?いやいや待ってくれよ!」

 「ふふふ。私の友達を苛めようとするからよ」

 「おー…クルシュ…違った。植物系モンスターでしたか」

 「ちょっと!」

 

 ゼンベルとの会話の間に入ってきたのはどこかに出かけていたのだろう植物で身を隠したクルシュだった。もちろん隣にはザリュースが居る。

 皆、楽しそうに笑っている。あの戦いが嘘のようだ。そんな事を思いつつ私も笑う。

 

 「あ…これ食べりゅ?」

 

 持っていた箱を開き中にあったアイスクリームを器ごと取り出す。皆、不思議そうに見つめた後思い思いに口にした。

 

 「あっま!うっま!」

 「何これ!?口の中で溶けて行く!」

 「こんな食べ物があるのか…」

 

 街であるにはあるが高級品の枠に入っている物を食べたことは無いだろうと思って持って来たのだが正解だったようだ。

 

 「モミは料理も出来るのね」

 「…出来るけどコレ作ったの私じゃない…」

 「え?じゃあこれって…」

 「知らない。何か冷蔵庫に入ってたから持って来た…テヘっ♪」

 

 テヘっ♪じゃない!と皆につっこまれるモミは頬が緩み、心が温かくなる感覚を味わっていた。時々起こるこの現象の意味を理解できぬまま…

 

 

 

 

 

 

 

 ~ナザリック厨房~

 

 「・・・無い」

 

 厨房にて冷蔵庫を漁り始めて三十分が経過しようとしていたぼっちにコキュートスが近づく。

 

 「ドウナサレマシタカボッチ様?」

 「・・・コキュートスにこの前の詫びとしてアイスクリームを作ったのだが…」

 「!?ソンナ…私ハ気ニシテオリマセンノデ…」

 「だったら私が頂きたいぐらいなのだが」

 「あ、あたしも欲しいですぼっち様!」

 「デミウルゴス!?ソレニアウラマデ!駄目ダ。アイスハボッチ様ガ私ノ為ニ作ッテクダサッタモノナノダカラ」

 「・・・そのアイスが無いんだ」

 「?」

 「・・・・・・ここに入れたのだが・・・」

 

 皆も冷蔵庫を見渡すが中にはアイスらしきものは無かった。すると…

 

 「ぼ、僕…知ってます…」

 

 何か申し訳無さそうに言ったマーレはぷるぷると震えながら服の裾をぎゅっと握り締めていた。

 

 「まさか…マーレ!勝手にぼっち様のアイスを食べたって言うんじゃないでしょうね!」

 「ごめんなさい」

 「君は何を…至高の御方の物を勝手に!!」

 「アイス…ボッチ様ノアイスガァ…」

 「・・・そこまで怒ることはない」

 「本当にごめんなさい。僕知らなくて…こんなにあるから一つ位食べても良いよなんて言われて…グズッ」

 「ん?今『言われて』って言わなかった?」

 「…うん。モミさんが渡してくれたの。……そういえば大きな箱を持っていたような」

 「・・・じゃあ残りはモミが持っているのか」

 

 その発言を聞いたデミウルゴスとアウラ、コキュートスは立ち上がる。

 

 「ボッチ様少シ出カケテキマス」

 「ふむ。ならば私も行こう。彼女なら最近は集落の方でさぼっているらしい」

 「へぇ~。ならお説教が必要だよね」

 

 殺気だった守護者三人が駆け出した後には泣きながら謝るマーレと呆然と見ていたぼっちだけが取り残された。とりあえず泣いているマーレを抱きしめてあやしながらその場を去っていく。

 この後、リザードマンの集落で激しい戦闘が起こったのは言うまでもないだろう…




 重…かったのかなぁ?途中で思いの書く事に指が動かなくなりそうでこういう話にしました。
 ところで皆様はリザードマン連合VSナザリックの後からマインの姿が消えていることに気付きでしょうか?次は彼女の話です。

次回『マイン、ナザリックでのお留守番』

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