感想で今回は重い話になるかもと書いたのですが…すいません。重い物をやる前にいつものをやりたくなってしまいました。
恐怖が服を着て歩いている…
私、クルシュはそう思った。
いつあのアンデットを使役していた者達の使いが来るかと見張りや戦士が見回りをしているなかを一人の男が悠々と歩いていた。
純白で質素ながらも装飾が施された燕尾服のように裾が燕の尾のようなジャケットに取り付けられたフードを深く被り、黒いブーツの上から金で出来たサンダルが取り付けられていた。顔は白い面で隠され分からない。
こんなに目立つ者が歩いているのに誰一人気付いていないようだった。いや、誰かが居ることには気付いているらしく辺りを見渡している者はいるがその対象として見られてない。気付いていないのだ。
目が合った。
優しげに微笑んだように感じると私の視界から彼は消えた。
何が起こっているのか分からない。だけどこれだけは分かる。これからとんでもない事が起きる事だけは…
ガルガンチュアを起動させて全階層守護者と移動する前にアインズは手順を確認する。
「ではコキュートスとモミ…それとぼっちさんが圧倒的な実力差がある事を証明するのだな」
「ハイ。スデニボッチ様ニハモミカラ話ガ伝ワッテオリマス」
「その際にですがモミにはクルシュと戦ってもらうことになっております」
「クルシュ?」
アインズは聞きなれない名前に首を傾げ、デミウルゴスは言葉を続ける。
「モミのリザードマンの友人です。彼女は所々で怪しい言動があるのでここでナザリックへの忠誠心を試すには良い機会と思いまして」
「ほう。そのことはモミに伝えたのか?」
「いいえ。彼女には伝えずその場の反応で判断していただこうかと」
「そうか…。では、行くか」
そう告げるとアルベド、アウラ、マーレ、シャルティア、デミウルゴス、コキュートス、ヴィクティムと共にゲートを潜る。ここで一つ疑問が浮かんだ。
「そういえばモミはガルガンチュアと移動するのは知っているがぼっちさんは?」
「なんでも現地に先に行くと言われ…」
デミウルゴスの言葉を聞いたアインズは現地に行けば会えるだろうと思っていたのだが…
「居ませんね。ぼっち様」
ガルガンチュアを配置して階層守護者と共にリザードマン達に宣戦布告(?)を済ませて天幕の中で待機していたのだがまったくぼっちの気配は無かった。
現在天幕にはモミとガルガンチュアを除く階層守護者が集まっている。ただぼっちの件で罰を欲した為にアインズの椅子になっている。
「いったい何処へ行かれたのだろうか」
「配下ノ者達ニ探サセタホウガ良イト思イマスガ」
「でもさ、あのぼっち様だよ。見つけられるの?」
確かにアウラの言うとおりであった。気配すら消すぼっちを探すのは困難であった。何か手は無いかと悩みつつアインズは隔視の鏡を弄りこれから攻めるリザードマンの集落を眺めていた。
べつに何か面白いことは無く、暇つぶしのような感じだった。隣で待機しているアルベドを同じ気持ちだったのだろう。まともに見ているのは興味心身に見ているマーレぐらいなものだろう。
デミウルゴスとコキュートス、アウラはぼっち捜索の手段が無いか模索しているが案は出てもすぐに潰えてを繰り返し隔視の鏡には目も向けていない。もちろんアインズの下で四つん這いになっているシャルティアは見えるはずもなかった。
「あ!」
声を上げたマーレに皆の視線が集まり、気付いたマーレが「え?え?」と慌しく辺りを振り返る。
「どうしたのだマーレ?」
「え、あ、あの…さっきぼっち様がそこに…」
「なに?」
一斉に隔視の鏡を見つめると確かにそこにぼっちは居た。何故かリザードマンの集落に居るのかはさておき、服装と装備がいつもと違うことが一目で分かった。
繋がらないと思いつつもメッセージを飛ばす。
ぼっちはリザードマンの集落の一番大きな建物の端で茶を啜っていた。
アインズさんに完全武装を指示されて現地に来たのだがまったく来る気配が無い。せっかく対たっちさん用の装備まで引っ張り出してきたのに…
現在ぼっちが所有している3つのワールドアイテムの中で一番のお気に入りである装備『クワイエット・アサシン(静寂な暗殺者)』を着ていた。燕尾服に深々と被れるフードを付けた純白の衣装で効果は二つ持つ。
一つは服の中に武装を複数所持できるというものだ。それと相手の視野を一部変更できることだ。皆さんにも覚えが無いだろうか?探し物をしていて目の前にあるのに気付かずに素通りする事。灯台下暗しとでも言えば良いのか分からないがそれを行えるのだ。
条件発動は所有者が指定した相手か所有者に敵対行動をとろうとした者に限られるがその効果は抜群である。ゲーム時は飛び道具や魔法のターゲティングが行なえずまず、遠隔操作や誘導系は無効となる。それがこの世界では視界に入っていても見えないのだ。
まぁ、その結果部屋の隅で誰にも相手にされず茶を啜っているわけなのだが…
装備はそれだけではなかった。かの有名なヘルメスが履いていたサンダルから作られたゴッズアイテム『黄金のサンダル』は魔法の使用せずに『フライ』や速度上昇などステータス向上系の履物を靴に取り付けた。そして上杉謙信と武田信玄との一騎討ちにて三回斬りかかって9箇所に傷を与えた話から作られたゴッズアイテム『毘沙門天の神剣』を腰に提げているのだ。
にしても暇だ、クルシュって子やシャースーリューって指揮官に声をかけたいがどうかけようか?
『始めましてヒューリックと名乗って指揮を執っときながらこれから君らと死闘(笑)をするぼっちです』なんて言えないしねぇ…てかそんな事を考えたら何でここでぼっちしなければならないんだろう。
ふと斜め上から何かの視線を感じた。
「貴様、見ているな!」
はい!こんなこと言っても誰も気付かないから良いよねこの装備。正直寂しいです。モモンガさんまだかなぁ。
そんな事を考えていたらメッセージをオフにしていたことを思い出してオンにする。すると丁度メッセージが届いた。
「・・・私だ」
『分かってますよぼっちさん。相手を指定してメッセージしてるんですから』
ごめん。言いたかっただけなの。寂しがり屋のぼっちを攻めないで。寂しくなくなったらぼっちになりたがるけどね。
『こちらの位置は分かりますね?合流してくれますか?』
「・・・(コクン)」
短いメッセージを切ると立ち上がりスキルで捜索する。案外あっさりと見つかった為にすぐさま移動を開始する。
「さすがぼっち様!スキルも何も使わなくとも隔視の鏡に気付かれるとは…さすがでございます」
到着したぼっちをまず出迎えたのはデミウルゴスの賛美の数々とアウラ・マーレの純粋な瞳攻撃だった。
デミウルゴスの言っている事が正直何のことか分からなかったけどそんな事はどうでも良かった。天幕を潜った瞬間に思考を含めたすべてが停止した。
急に固まったぼっちに対して不思議に思う守護者達を除き、アインズは理解した。
さて、皆様。ご想像ください。
目的地である天幕を潜って目に入ったのが自分を慕ってくれる少女を四つん這いにして尻に敷き、ぷるぷると震えていることに目も向けず堂々と座っている大柄の友人…
貴方ならどうする?ぼっちの答えは…
「今日の俺は紳士的だ。運が良かったな・・・一撃で決めてやる」
スキルを使用しつつ刀へと手を伸ばす。
「待って!!ちがっ!とりあえず待ってくださいぼっちさん!!」
急な殺気にたじろぎながら守護者達が宥めようとしつつ、アインズが説明を開始する。
~アインズ必死の説明中~
理解したぼっちはシャルティアと向き合っていた。シャルティアの上に座っていたアインズは普通の椅子に腰掛け安堵していた。
話を聞いて納得した。罰を与えなかったのは俺が悪くシャルティアは悪くないよ。って事で言ったのだが彼女からすれば自分が悪いと思っているのだから罰を与えて欲しいところを与えないと言われたほうが罰を与えられるよりも酷だ。
「・・・すまなかったな・・・辛かったな」
「!?ぼっち様は何も悪くないでありんす。悪いのはぼっち様がお許しになったことをいつまでも掘り起こしていた自分でありんす」
そういうが彼女に何かしなければならないだろう。でも罰って何を与えれば…そうだ!
思いついた事を行動に移そうとシャルティアを手招きして一応用意されていたソファの端に座らせる。何が行なわれるのか不安げな表情を見つめながら膝の上に頭を乗せる。
空気が凍った。
どうだ!見た目良い大人に膝枕させられるって!俺なら嫌だ!これで罰に…
「こ、こ、こ、これはご褒美でありんす」
「ず、ずるいです!」
え!?これがご褒美になんの?マジで!!えー…じゃあこれって俺が膝枕ねだっただけみたいじゃん。はっずかしい!!
不安げな表情から満面の笑顔になったシャルティアは恐る恐る手を髪へと伸ばしてきた。
「・・・じゃあ撫でるの禁止」
「そんな!殺生でありんすぅ…」
触りかけた手が残念そうにふるふると震えていた。それを見ていたアウラがニヤっと笑った。
「ぼっち様。撫でても宜しいでしょうか?」
「!!ぼ、僕も撫でたいです!!」
「・・・・・・良いぞ」
許可を出すと二人は恐る恐る触りだした。とても優しく初々しくだが中々気持ちが良かった。それに二人ともとても嬉しそうな笑顔で触っている物だから触られている側も気分が良いものだ。
「うわー!うわー!本当にさらさらで気持ち良い」
「本当です。ずーと触ってても飽きること無いです」
「~!ずるい!ずるいでありんすよ!ぼっち様後生でありんす。触らせてくださいまし」
「なぁに言ってんのよあんたは!ずるいって膝枕してるじゃないの!」
「そ、そうですよ。それに前に一人だけ触ってたじゃないですか」
「そうでありんすけど…そうでありんすけど!」
こんなやり取りを遠めでアルベド、デミウルゴス、コキュートスが眺めていた。
「まったく子供なんだから…」
「確かに羨ましいですがああもせがむとは」
「無礼ダト思ウカ?シカシボッチ様ガ許可ヲ出サレタ訳ダカラ」
「私はアインズ様にしてもら…コホン。さすがにお止めしたほうが宜しいでしょうかアインズさま゛っ!?」
振り向いたアルベドの先では椅子に深く腰掛けたアインズの膝上に腰掛けるモミの姿が…
「うーん…肉がない分、柔らかさが足りないけど肋骨が背中に当たる感触がなんとも…」
「モミさん…君は何をやっているのかね?」
「アインズ様ノゴ許可ハ勿論伺ッタノダロウナ?」
「もち!…聞いてないよ」
「モミ!貴方、何て羨ましい…じゃなかった。いや、羨ましいけどそうじゃなくて!」
「落ち着きたまえよアルベド」
「コホン。兎に角降りなさい。そして私と交代しなさい!」
この状況をこれから戦うリザードマン達が見たら何と思うのだろうか…そんな事を思いつつぼっちは少しだけこのまま寝ることとする。
次回後編少し重い物になると思います。それ以降はそれほど重いものは無いと思います。