骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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これでナザリックとリザードマン連合の大戦も終盤!
…やっと戦闘描写から開放される…


第044話 「ナザリックVSリザードマン連合軍 其の参」

 多くのアンデットとリザードマンが横たわる湿地帯を一人歩む者が居た。

 イグヴァ=41

 ナザリック地下大墳墓を統べるアインズ・ウール・ゴウンに作られしアンデット。

 魔法を使えるスケルトン『エルダーリッチ』。

 レベル22にだがアインズのスキルにより実力はレベル30になる。

 彼は指揮官役として参加するだけで戦場に赴く命令はアインズからも受けていなかった。

 『幕引キヲ命ズル』

 半分が潰れた頭蓋の中でコキュートス様が命じられた言葉が再生される。

 杖を持つ手が力の入れすぎで震える。

 視界にヒュドラに跨って居る者、右腕が異様に肥大化している者、全身が白色の者。三体のリザードマンが映る。

 まだ有効射程外だと分かっていても杖を構えてしまう。

 例えコキュートス様の命令があろうとなかろうと出撃する気だった。その結果自害を命じられることになっても良いと考えたのだ。

 奴らは我が主でいらっしゃるアインズ様の唯一無二のご友人に対してあろう事か矢を放つと言う暴挙に出たのだ!!これを許してなる物か!!

 もう我慢の限界だった。射程外からヒュドラに跨るリザードマンに対してファイヤーボールを放つ。直撃して地面に横たわるが生死は不明だった。構わない。生きているのならまた撃ち込んでやるだけの事だ。

 

 

 

 突然の攻撃に足が止まる。

 一体のアンデットが現れザリュースが倒れたのだ。

 今すぐにでも駆け寄りたいがそれは出来ない相談だった。目の前に現れたボロボロの黒いローブを纏うスケルトンの前で一瞬でも隙を見せたら死ぬ。それが分かるのだ。

 

 

 「てめぇ!!」

 「やりやがったな!!」

 「馬鹿が!!前に出るんじゃねえ!!」

 

 ゼンベルの叫びが届く間もなく突撃して行くリザードマン二体が一撃で葬られていく。圧倒的な強さだった。

 こんな敵を二人で相手をしなければならないのだ。逃げたい。でも逃げるわけには行かない。勇気を振り絞って足に力を入れる。

 

 「おい、植物系モンスター」

 「その呼び方…なによ」

 「ザリュースの所まで行け」

 「あなた一人で勝てるの?」

 「馬鹿!勝てねえからあいつの力がいるんじゃねえか!」

 「あの一撃を受けて無事なわけ…」

 「けっ、あいつを舐めるなよ。当たる直前にフロスト・ペインで防いだのを俺は見たぜ」

 「!?」

 「俺が奴の相手をするから何とかあいつの目を覚まさせろ。良いな?」

 

 頭を縦に振るとクルシュはザリュースの元へと駆け出した。もちろんイクヴァがそんな事を許す気はなかった。火炎を球体にしたファイヤーボールをクルシュ目掛けて放つ。

 

 「《レジスタンス・マッシブ》!!」

 

 それを遮るように飛び出したゼンベルがスキルを発動させ立ち塞がる。魔法のダメージ軽減したのだが存外に喰らってしまう。

 

 「貴様!?」

 「俺の相手をしてもらおうか!」

 「フン!イクヴァ=41。貴様らに死を運んできた者の名だ!!」

 「『ドラゴン・タスク』族長のゼンベル・ググーだ」

 「援護するよ」

 「わたしも…ゆく」

 

 そこに現れたのは『スモール・ファング』族長と『レイザー・テイル』族長であった。周りには居る筈の部下は居なかったが…

 

 「雑魚が何匹群れようとも!!」

 「させない」

 「させるかよ!!」

 

 杖を構えるイクヴァに二人が突っ込んでいく。これを援護しようと杖に矢を当てて射線をずらす。

 思うように攻撃できず忌々しそうな表情するイクヴァに二人が接近していく。

 獲物が触れるか触れないかの直前で止まった。

 一人に対して片手で受け止めたのだ。

 

 「なんていう…」

 「馬鹿力だよ…」

 「舐めるなあああああああ!!」

 

 二人をそのまま持ち上げ地面に叩きつける。すぐに杖を拾い上げ振り向きつつ構える。撃つ直前にまた矢によって方向を逸らされるが近くに着弾した為、『スモール・ファング』族長が吹き飛ばされる。

 圧倒的過ぎる力の前に死を覚悟した。

 

 

 

 ザリュースは暗闇の中を漂っていた。

 身体に力が入らない。

 と言うか入れたくなかった。何もかもがどうでもいいと思えてしまうのだ。

 昔の記憶が映像として流れていく。

 

 子供の頃、兄者とよく遊んだあの場所…

 

 まだ小さかったロロロと初めての出会い…

 

 何度も鍛え合ったあの日々…

 

 あの悲惨さを極めたリザードマン同士の戦争…

 

 前の持ち主と戦い四秘法の一つを手に入れた時…

 

 旅人になると告げた時に止めたかっただろうに俺のことを想い背を押してくれた兄者…

 

 いろいろな所を見て知った知識…

 

 兄者と姉者の結婚式はすばらしかったな…

 

 初めて俺が心の底から惚れる事が出来たクルシュ…

 

 戦い、認め、酒を飲み交わしたゼンベル…

 

 リザードマン全体を守ろうと集まった五部族族長…

 

 いろんな事が通り過ぎては消えて行く。

 ここで理解した。

 俺は死んでしまったのだな…

 大丈夫だ。俺が死んでもゼンベルやクルシュ、そしてあの兄者が居るんだ。これからも上手くリザードマン達をまとめていけるさ。

 ああ、大丈夫だ。

 安心して……………………………

 ………………………………

 ……………………………

 ……………………………

 

 『ザリュース!起きてよザリュース!!』

 

 誰だ?…俺を呼ぶのは…この声は……クルシュだ。

 声が震えている。泣いているのか?

 

 『お願いだから起きてよぉ…私まだ答えてないんだよ…』

 

 そうだった。あの答えを聞いてなかったな…

 何か他にも声が聞こえる…ゼンベルや他の族長達の声だ。何かと戦っているのか?

 

 『こんの化けもんが!!』

 『もう矢が無くなる!?誰か矢を持って来てくれ!!』

 『そろそろげんかい』

 『諦めてんじゃねえ!!』 

 『諦めろ。貴様らでは私に敵う事は無い!!』

 

 劣勢なのか?あのゼンベルが!

 何が『大丈夫』だ!何が『安心して』だ!!

 動け!動いてくれ!!俺はまだ死ぬわけには行かないんだ!!

 

 

 

 クルシュは泣き続けていた。

 何度治療魔法をかけようと彼の意識は戻ることは無かった。

 ゼンベル達が何とか猛攻をかけて足止めしているが長くは続かないだろう。

 

 「ザリュース!起きてよザリュース!!」

 

 泣きながら叫ぶ。もはや動くことは無いのに。無い筈なのに心が期待する。彼が再び起き上がりこの世に存在することを。

 

 「お願いだから起きてよぉ…私まだ答えてないんだよ…」

 

 この色から煙たがられていた私に告白をしてきた唯一の雄。心から惹かれてこの人ならと答えも決めたのに。言うだけ言って去って行くなんてずるいよ…

 

 ピクンッ

 気のせいか、視界の端で彼の指が動いたように見えた。

 ピクン!

 いや、確実に動いた。

 名を呼びながら彼を揺すった。

 

 「カハッ!!」

 

 短く息を吐き出し意識を覚醒させる。大きく空気を吸い込み身体に新鮮な空気を含ませる。

 暗闇から一気に視界が広がった。

 最初に映ったのはクルシュだった。

 

 「ザリュース…」

 「聞こえたよ。クルシュの声が…あとで答えを聞かせてもらうからな?」

 「…馬鹿ぁ…」

 

 泣いてるクルシュの頬に手を伸ばし涙を拭く。

 身体はまだ動く。立ち上がるとロロロが横に並ぶ。ゼンベルと共に立ち向かっていたのだろう。深い傷や火傷にまみれていた。もうこれ以上は無理だろう。

 

 「ありがとう。ゆっくり休めロロロ」

 

 ロロロは軽く頷きゆっくりと地面に伏した。

 それと同時にイクヴァに向かって駆け出していく。

 

 「おせぇぞ!!」

 「すまない遅れた」

 「!?やはり生きていたか!しかし!!」

 「させない!」

 

 身体中火傷を覆っている『スモール・ファング』族長が杖を矢で弾き始める。

 

 「あと四本以内に辿り着け!!」

 「助かる!!」

 「この虫けら共があああああ!!」

 

 射線を矢で弾いているものの、ファイヤーボールは接近するザリュース付近に着弾して爆煙を上げる。その煙を熱気ごとフロスト・ペインで切り裂きつつ進む。

 

 「化け物か貴様は!!」

 

 アンデットのイクヴァが言うのはおかしいと思うかも知れないが思うだけの理由があった。有効射程外と言ってもこの世界では高威力で当たれば即死、もしくは重体だろう。そんな状態のリザードマンが全力疾走で駆けて来るのだ。回復魔法をかけたとしても直すことは不可能である。先ほどからファイヤーボールの爆煙と熱気を切り裂きつつ走っているが無傷のはずが無い。高威力の熱気が奴を蝕んでいるはずなのだ。なのに何故奴はそんなに動けるのだ?

 化け物…

 イクヴァがそう思うには十分だった。

 その化け物を撃ち抜こうと狙うが先ほどから雑魚の一人が矢で杖を弾く為に狙いが定まらない。それに白い鎧を纏った雑魚と右腕が肥大化した雑魚がちまちまと邪魔をしてくる。

 

 「ぐうううう…どけええええ!!」

 

 杖を投げ出し二人を両腕で弾き飛ばす。その瞬間を逃さぬようにザリュースは距離を詰める。狙うは一点のみ。

 拾う事もせずに殴りかかってくる攻撃を骨が軋むのを感じつつ受け流す。 

 

 「そこだあああ!!」

 「ぬう!?」

 

 狙った一点は目である。

 ゼンベルの攻撃を受け止めていたあの骨の強度はかなりの物だろう。攻撃して倒すには時間がかかるうえ、人数が居るだろう。それに今のザリュースでは長期の戦いは無理であった。すべにぼろぼろを超えて死に体である身体を無理やり動かしているのだ。少しでも気を許してしまうと倒れてしまいそうだ。

 目に深くフロスト・ペインを突き刺す。呻き声を上げつつナイフを握ってきて抜こうとするイクヴァの力が込められていくがその前に決着をつける。

 

 「《アイシー・バースト》!!」

 

 フロスト・ペインを中心に冷気が発生する。内部から喰らったイクヴァはもちろんザリュースも大きなダメージを負う。

 さすがにこの一撃で倒れてはくれなかった。歯を食い縛りながら再び力を込める。

 

 「《アイシー・バースト》!!」

 「ごああああああああ!!」

 

 悲鳴と共に再び体内を凍らされるイクヴァは右手をザリュース頭部へ伸ばす。

 

 「《アイシー・バーストオオオオオオオオオオオ》!!」

 

 最後の力を振り絞り一日に使用できる最後の《アイシー・バースト》放つ。

 手は止まる事無く伸びてくる。

 まだ足りなかったか…

 伸びていた腕が途中で粉となり散っていく。

 イクヴァの身体が限界を超えたのだ。腕が散ると身体の至るところで粉になり散り始めた。

 

 「申し訳ありません…アインズ…様ぁ…」

 

 最後にその一言を残しイクヴァは消滅した。ほっとしたザリュースがその場に伏してクルシュやゼンベルが心配そうに駆け寄る。

 その光景を眺めていたコキュートスは「見事」と呟き陣を引き払わせ始めた。

 ぼっちも同様に眺めていた。コキュートスのように天幕内ではなくシズと共に移動している最中にスキルで見たのだ。

 もうこの戦でモミに頼まれたことは理解した。ただそれを怒る気などしなかった。

 『友達を助ける為に…』

 友達か…ギルドメンバーを戦友と思った事はあっても言った事は無かったな…

 そんな事を思いながらアインズにメッセージを入れる。

 あー…またコキュートスに謝らないと…

 

 こうしてナザリックとリザードマン連合の大戦は一時的に幕を下ろしたのだ。

 




ロロロの出番がすくな!?って自分で思った…
次回はナザリックに帰ったモミのお話です…

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