骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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さて大戦も中盤です。
戦闘描写は特に苦手と思っているチェリオですがそれらを書くよりコキュートスにヘルシングの台詞を書きそうになるのを堪えるほうが大変でした…


第043話 「ナザリックVSリザードマン連合軍 其の弐」

 もう何分経っただろうか?ヒューリック殿が指揮を執ってそれほど経っていない筈なのだが何時間も経ってしまった様な感覚が支配する。

 同数での指揮でこちらは勝つことが出来た。こちらは敵の動きを封じた上で有利な布陣を構えられた。対して敵は左翼を掻き乱されて陣形も何も無くなってしまっていた。さすがとしか表現しようがなかった。

 

 『…よし。全軍攻撃を開始せよ。ゼンベル隊は敵の崩れた陣形突入!ザリュース隊は援護に回って!重戦士隊はそのまま前進。敵弓兵隊の攻撃を引き付けつつ殲滅せよ!』

 『聞いたか皆!攻撃開始だ!!』

 

 待ちに待った攻撃命令である。雄叫びを上げつつ全速力で突っ込んでいく。

 

 「シャアアァァァァ!!」

 

 先陣を切ったのはゼンベルであった。溜まりに溜まった力を解放したのだろう。一撃でスケルトン数体が吹き飛んでいた。

 負けてはいられぬとフロスト・ペインで切り裂きつつ前へと進んでいく。

 視線が合わさり口元がにやける。行ける!

 

 「おりゃああ!!さてこのまま本陣まで行って見るか?」

 「それも!一手だが!」

 

 確かに現状敵は何とか陣形を立て直そうと後退し始めた。が、歩みが遅いのである。これはコキュートスのミスであった。ぼっちに湿地帯ではゾンビとスケルトンの歩む速度が極端に変わることからスケルトンにゾンビの速度に合わせるように指示してあったのである。これにより種族別で速度が変わる事無く乱れが少なくなったのと同時にスケルトンの速度を殺してしまったのである。

 

 『行けザリュース!敵第一陣を突破せよとさ』

 「分かった。聞こえたか!?」

 「ああ、聞こえたぜ!行くぜ、突撃!!」

 

 ゼンベルを先頭に乱れた敵の隊列に遮二無二突っ込んで行く。数は同数だが連携も取れていないゾンビなどただの案山子でしかなかった。

 それに敵弓兵は完全に狩って行っていた。弓兵に気付いたヒューリックの指示で重戦士達が鎧で矢を受けつつ前進して蹴散らしているのだ。おかげでこちらは矢などの飛び道具に恐れずに済む。

 身体の赴くままフロスト・ペインを振り回し敵をなぎ払っていく。前衛を突破して本陣へと近づく。その時、獣の声を耳にした。

 

 「ッ!?皆、気をつけろ!何かが来るぞ!!」

 「何かって…なんだありゃ?スケルトン?」

 「違う…スケルトンビーストだ!!」

 

 狼や熊などありとあらゆる獣の骨格がこちらに向かって走ってきていた。

 一体のリザードマンが恐れて膠着したのを大型の狼のスケルトンが何もせず通過する。まるで別の目的があるように…

 一瞬頭の中に嫌な映像が流れた。

 

 「不味い!!」

 

 感情を口から吐き出すと同時に横から切り伏せる。一撃で頭部を失ったスケルトン・ビーストはそのまま地に伏した。

 

 「不味いって何がだ?」 

 「ビーストの目的は俺達の相手ではなく後方撹乱だ!後ろが乱れると…」

 「へっ!俺達が孤立するってか!!」

 「その通りだ。ビーストを一匹も通すな!!」

 

 通り抜けようとするビーストに攻撃しつつ思考を巡らす。

 ビーストを投入して来たと言う事は攻勢に出たと言う事か?いや、違う。攻勢に出るのなら陣形を立て直してからだろう。それと先ほどからスケルトンやスケルトン・ライダーの姿が消えている。

 もっと思考しようとするが嫌な映像が頭から離れない。

 突破したスケルトン・ビーストに襲われるクルシュ…

 現在クルシュは本陣近くの待機する祭司隊の隊長を務めてる。軽症者など治療すれば復帰できる者の治療に当たっているのだ。ゆえに防衛隊は少数でありそこを襲われたらひとたまりもない。

 

 『敵が後退して行く!?』

 「兄者違う!敵は確かに後退しているが残っている奴らも居る」

 『それは…』

 『時間稼ぎ…だろうな』

 『出来るだけ減らしておきたかったんだが…』

 『敵の第二陣か…予定が狂ったな』

 『戦争で予定通りに動くことの方が少ない。これで良いと思うよ』

 『むぅ…しかし』

 『それより深追いはするなと全軍に伝えて。特にゼンベルに』

 

 水晶から聞こえてきた兄者の言葉を否定しつつ辺りを見渡す。ヒューリック殿が言ったとおり残っているゾンビやビーストは時間稼ぎをするつもりなのだろう。こちらを倒すのではなく倒されないように動いている。

 それでも少しでも減らす為に振り続ける。

 

 

 

 第一陣が敗北して行くのを眺めていたコキュートスは息を吐き出した。

 周りではデミウルゴスが興味深く、マインが楽しそうに次の手を期待していた。

 

 「第二陣前進セヨ。マーチ!!」

 

 指示されると残りの全軍が隊列を組み配置に付く。そして一歩ずつ確実に進んで行った。

 まるで軍事パレードのように行進するアンデット達は真っ直ぐリザードマン達へと向かって行く。

 

 

 

 隊列を組み前進してくるアンデットの群れに恐怖を感じる。思い描いていた数よりも多く強大に感じてしまう。今斬りかかってもすぐに飲み込まれてしまうだろう。

 

 『全軍後退せよ。陣形を無視しても構わないから本拠点まで後退せよ。重戦士隊と祭司隊は急ぎ帰還されたし。繰り返す。全軍後退……』

 「撤退かよ!?チッ」

 「なら一人突っ込むか?」

 「…撤退するぞ!」

 

 そう言うと全速力で駆けて行った。さすがに無謀だと分かるだろう。ザリュースも拠点に向けて撤退する。

 

 

 

 アンデットの軍団は一定のスピードを維持したままリザードマン達を追い、拠点へと進んでいた。

 拠点の周りには泥で覆った壁があり、その前には2メートルもの溝が掘られている。

 ここに至ってあの穴の意味を知った。

 伏兵を潜ませていたあの穴である。あの時は中からリザードマンが出てきたから伏兵が身を隠す為の物と判断したがそれはフェイクだった。

 ゾンビとは生者が死に腐敗しつつ生者を求め動き続ける死者である。腐敗している肉体は所々腐り、死後硬直も起こっておりそれほど関節部を動かすことは出来ないのだ。だから穴に引っ掛かり転んでしまうと立つことは出来ないのだ。その上を多数のアンデットが踏みつけていき全軍が通り過ぎると動く死者が動かない死者なってしまったのだ。それで数百体も減ってしまったのだ。同じ手には乗らない。正面入り口前で全軍が待機して先頭のアンデットが門を壊すのを待つ。

 壁にはいろいろ施されているが門は木で作られた門が設置していただけである為、あっさりと突破することが出来た。昨日までリザードマン達がせっせと働いていた拠点へと大量のアンデットが雪崩れ込んで行った。

 

 「コレデ終ワリダナ」

 

 コキュートスは勝利を確信して背もたれへ全身を託して息をついた。

 

 

 

 シャースーリューは壁の上からアンデット達を一人眺めていた。

 この拠点はクルシュの案で一応で考えられていた籠城用に防御力を高めていたのだがそれを相手を封じ込める囲いとしてあの男は使用したのだ。

 ここに入って行ったザリュース達はすでに裏口から抜け見えないように待機していた。

 布を巻いた木の棒に火をつけながら呟く。

 

 「酒を蒸留することで火の水を作る…俺達では思いも付かないことだったな」

 

 酒を無限に出す酒の大壷とヒューリック殿が居ればこその作戦だなと思いながら火のついた棒をアンデットで充満した拠点内へと投げ込み壁から滑り降りるように外へと出た。

 火のついた棒は重力に従い、度数90%以上のアルコールをそこらかしこにかけられた拠点内へと落ちていった。しかも所々にアルコールを詰めたタルが配置されていた。

 

 

 

 勝ち誇っていた皆の前で信じられない光景を目の当たりにした。

 敵拠点内が突如炎上して突入した三分の二近くものアンデットが火達磨になったのである。アンデットは火に弱い為に次々と火でやられてしまう。

  残存2000近くまで減ったアンデット軍団に拠点内に入って行ったはずのリザードマン達が現れ必要に攻勢に出てきたのだ。

 今までにない焦りで胸の中が掻き乱される。

 

 「コキュートス!このままでは不味いですよ。すぐに陣形を立て直さなくては!!」

 「ソウダ…ソウダナ」

 

 思考を巡らすゾンビを足止めにスケルトン達で陣形を整え攻勢に…しかし先ほど指揮で相手に負けてしまった自分が勝てるだろうか?いや、勝たねばならぬのだ!!不安を押しのけ口を開こうとしたが天幕に駆け込んできた部下を見て止まる。

 

 「大変です!火を!火を放たれています!!」

 「ナンダト!?」

 「あっ!?ぼっち様は!!」

 「っ!?万が一のことがあってはいけません。ぼっち様を…」

 「すでにぼっち様はシズと共にここを離れられました」

 「消火作業ヲ急ゲ」

 

 憎らしげに戦場の方を見やる。これも敵の指揮官の策なのだろうと理解したし、その考えは正解であった。作戦の中に拠点に火を放ち敵の半数近くを燃やす作戦があり、同時に敵指揮所付近に火矢を放つ予定になっていたのだ。その為に『スモール・ファング』族長は少数を引きつれ見張りに気付かれないギリギリまで近づき放ったのだ。数本放つと撤退していたが目的は指揮所近くでトラブルを起こし戦場より意識を離すことにあったため大成功と言えるだろう。

 こうなるなら水を扱える者を配置しておけばと後悔していた。

 そしてこの状況を打開すべく動いたのである。

 

 

 

 「暴れてんな…」

 「さっきまでずっと本陣で見てるだけだったからね」

 「あんな兄者は前の戦以来だな」

 

 ベンゼルにクルシュ、そして複数の頭を持つヒュドラのロロロに乗るザリュースは最前線でアンデットを屠っていくシャースーリューを見つめていた。いつもの優しさはなく、荒々しく敵を砕いていく。

 すでに作戦は大成功して敵の半数近くは屠れたと思う。残りは同数ぐらいだと思うが陣形は崩れ、奇襲部隊のおかげで指揮も来ていないのだろう。少しほっとしてしまう。戦場では油断は禁物なのだが気が緩んでしまったのだ。

 

 「これで答えを聞けるかな?」

 「~///」

 「白から赤に変色しやがったな。それが答え見てえなもんじゃねぇか」

 「口で言う事に意味があるんだ」

 「そう言うもんか…なら今言えばいいんじゃ…」

 「いえる訳ないでしょ!!まだ戦いの最中なのよ」

 

 軽口を叩いているがクルシュの言うとおりである。さっさと終わらせる為にロロロと共に前に進む。

 

 「危ないザリュース!!」

 「右だ!!」

 

 クルシュとゼンベルの叫びを聞き振り向くと身体中を高温で包まれ視界が真っ白になった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 指揮所の天幕から離れた自分用の天幕内でぼっちはベットに寝転びながら指揮を執っていた。今しがた最後の策を実行させ指揮を終了させたところである。

 疲れた。

 こういう策を練るのはデミウルゴスかハイネにでも任せるものだと心の中で呟いた。

 にしても楽しかったのは良かったのだがやけに敵の軍隊がコキュートスのリストと同じ感じだったのが気にかかるが…

 少し真面目に悩んだぼっちだったがすぐにそんな考えを余所にやる。

 今日はコキュートスが活躍する日である。ならばと勝ち戦のあとに美味しい物をたくさん食べさせてやろうと用意もしているのだ。

 そろそろオーブンで焼いていた料理が終了する頃だろうとベットから立ち上がる。するとシズが入って来た。普段なら「失礼致します」とか言う筈なのにとか思いつつ顔を向ける。

 

 「ぼっち様。敵が火矢を放ってきたようです。念のためここから避難してもらおうかと…」

 「・・・火矢?」

 「…はい、火矢です」

 

 あれ?さっき話していた策と同じような…

 少し考えながら天幕から出る。確かに火矢が所々に刺さっている。まぁ、当たっても大した事ないけど…ねぇあ!?

 燃えていた。

 ぼっちが用意してもらった調理場の天幕が燃えていた。

 『俺のうなぎパイがああああああ!?』

 違う!!アップルパイがああああ!!コキュートス用のアップルパイがああああ!?焼きすぎ!焼きすぎですよ!!

 『ウルトラ上手に焼けました♪』

 だから焼けすぎだって!!真っ黒の黒ずみの出来上がりじゃねぇか!?ああああああああ…燃える。燃える。燃える…

 心にダメージを受けたぼっちは放心したままシズの誘導に続いていく。

 まさか自分の策で自分が被害をこうむるなんて思いもよらなかっただろうに…




ぼっち様登場&終了!!

●火矢の成果
・コキュートス陣営一時的混乱

・ぼっち専用料理用天幕炎上
・ぼっちが作ったアップルパイ炎上
・ぼっちに対する精神的ダメージ大

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