骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 今日がオーバーロードDVD&BDの発売日です。チェリオはこれから買って来ます!!もちろん両方!!


第038話 「コキュートスの戦支度」

 コキュートスは酷く怯えていた。

 どんな敵が来ようと命を賭して戦う覚悟もニューロニストが得意とする拷問にも耐える肉体も供えているナザリックの階層守護者が怯えている。

 たった一人眼前に座る男の目に恐怖する。

 その目には自分のみが映っていた。怒りとも呆れとも取れる眼差しは恐怖でしかなかった。

 自分に失望されたのではないかと。

 至高の存在の一人であるぼっちに……

 

 

 数十分前

 

 「コキュートス様。一覧が届きましたよぉ」

 「ウム。受ケ取ロウ」

 

 天幕が張られた指揮所内でエントマから渡された紙をコキュートスは目を通していた。

 現在ナザリックから出ているコキュートスはアインズより軍勢を率いてリザードマン達と戦をする事を命じられてこの地にいる。

 今渡されたのは今回指揮を執るモンスター一覧と総数である。数にして5000近くの軍勢に対し相手は6個別々の集団で数は少ない。

 どうやっても負けることの無い戦だが今まで活躍が無かったコキュートスが初めて活躍できる場面である。熱が入る。その上…

 

 「ぼっち様が来られました」

 

 告げに来たのはアインズ様に造られたエルダー・リッチ「イグヴァ41」である。

 短く返事すると天幕から外へと出てこちらに向かってくる馬車に向かって立ち止まる。

 馬車はこの世界で見ることは出来ない豪華の物で馬はスレイプニールを四頭も繋いだナザリックの馬車である。

 ゆっくりと止まった馬車に近づき膝を突き待つ。

 

 「・・・良い・・・楽にせよ」

 「ハッ!!ボッチ様ヨクゾオ越シ下サイマシタ」

 

 言われたままに立ち上がり横へと並ぶ。天幕へ向かって歩いて行くぼっちに続こうとしたら見慣れない者に途惑った。

 それは人間の子供だった。若干緊張しているが恐怖していない所を見ると中々胆が座っているのだろう。

 

 「ボッチ様、コノ者ハ?」

 「・・・?・・・ああ、挨拶を」

 「は、始めまして!僕はマイン・チェルシーと申します。宜しくお願いいたします!!」

 「モシヤ、ボッチ様ノ弟子ト言ウノハ…」

 「あ、僕の事だと思います」

 

 デミウルゴスなどの話で聞いた事があった。『ぼっち様は人間の弟子が居る。ただの人間のようだが決してそのようなことは無いだろう。何たってあのぼっち様の目に止まった者なのだから。確か名前はマイン・チェルシーだったか…』

 その通りだと本当に思う。高レベルモンスターに囲まれても物動じないあの態度。高レベルかどうかは別としてエントマを除けば一目見れば逃げ出してしまうような異形の者達に対し礼儀正しく挨拶している。

 それより何より索敵や相手のステータスを見ることの出来るぼっち様が認められたと言うことはただの人間であるはずが無い。

 

 「では、こちらにどうぞ」

 

 エントマに連れられぼっち様と共に天幕内へ入って行った。

 この時の私は自分の活躍が至高の御方に見ていただけると内心ワクワクしていたのだ。

 そして時は動き出す。

 

 上座に座ったぼっち様は資料を見せて欲しいと言われ持てる資料をすべて出した。エントマが用意したお茶を含みながら目を通していく。

 その姿は優雅で美しく、同姓であるコキュートスですら魅入ってしまうものだった。

 資料を見終わり手を止める。

 

 「・・・他の資料は?」

 「?ソレデ終ワリデゴザイマスガ」

 「・・・はぁ?」

 

 背筋が凍った。

 今まで聞いた事のない声色でぼっち様が問うたのだ。コレだけかと…

 目が鋭くなり空気が一瞬にて重圧な物と変わる。息をすることすら神経を使ってしまう。

 

 「敵の種族は?」

 「リ、リザードマンデス」

 「数は?」

 「……分カリマセンガ派遣サレル軍団ヨリ相当少ナイカト」

 「不安的要素壱・・・地形は?」

 「湿地帯デス」

 「敵の平均レベルは?」

 「……分カリマセンガ」

 「不安的要素弐・・・」

 

 すでにため息を付きつつ頭を抱える。

 何かを切り替えるように手を手を勢いよく合わせて乾いた音を響かせる。

 

 「ではこちらの話だ・・・こちらの手駒の大きな種類は?」

 「スケルトントゾンビデス」

 「湿地帯においてのその二種のメリットとデメリットは?」

 「エ!?エット…」

 「不安参・・・陣形は?」

 「………」

 「戦術は?戦略は?配置は?偵察は?部隊分けの構想は?」

 

 答えることは出来なかった。もとよりそれらは別にと思っていた為に何もしていなかったのだ。

 4,5,6,7と数字を口にしたぼっち様は荒々しく席を立ち眼前まで迫ってくる。

 

 「なぜ答えない?」

 「…申し訳…」

 「そんな言葉を聞きたいわけではない。

  合戦そのものはそれまで積んだ事の帰結よ。合戦までに到るまで何をするかが私は戦だと思ってる」

 「…ハイ」

 「・・・・・・それだけだ」

 

 言い終ると早足でぼっち様用に設置した天幕へと去っていくぼっち様。この場に居たすべての者が動けずにいた…

 

 

 

 自分に用意された天幕に篭ったぼっちはスキルで近くに誰も居ないことを確認して勢いよく地面に突っ伏した。

 やってしまった…

 先ほどのコキュートスとの話の感想である。

 嬉しかったのだ。ナザリックに篭らせっぱなしだったコキュートスに活躍の機会が与えられてそれに自分が見ることが出来る。とても楽しみだった。

 だが資料を見て愕然とした。少なすぎるのだ。こちらの数や種類以外には詳しい資料がなく相手の情報なんて~らしいみたいなものばかりだった。

 怒るつもりなどなかった。けれどあれほど情報を、偵察を軽視されると…

 

 “自分はいらない”と言われている気がして悲しかったのだ。

 ギルド内でぼっちは偵察面で活躍して重宝されていたと自信があった。その自信その物が否定されたようでいつの間に怒ってしまったのだ。

 ため息が出る。どうやって謝ろうか…

 今は会いづらいから少し間を空けてからで。

 

 

 

 天幕の外で一人地面に座り込むコキュートスは肩をがっくりとおとし嘆いていた。

 何故自分は偵察などを行なわせなかったのだろう?

 何故自分は考えなかったんだろう?

 何故自分はぼっち様に言われるまで気が付かなかったんだろう?

 失望された…

 初めて活躍できると浮かれて、その結果がコレでは他の階層守護者達に合わせる顔がない。

 ため息が白い冷気となり排出される。

 

 「過去を悔やんでばかりでは前に進めないぞ」

 

 ふいに後ろから声が聞こえて振り返った。そこに立っていたのはマイン殿だった。

 

 「コレハマイン殿」

 「殿何て止めてください。マインでいいですよコキュートス様」

 「様付ケハ止シテクレ…私ハボッチ様ニ失望サレタ無能ナノダカラ…」

 

 そうだ。自分は様付けされるような存在ではない。もう私は…

 

 「さっきの言葉…」

 「…ン?」

 「カルネ村にいた時にたまにぼっち様が見に来られたんです。そのとき僕が親を殺された事を悲しんで悔やんでばかりの時に言われたんです。『過去を悔やんでばかりでは前に進めないぞ』って」

 「…………」

 「僕は聞いたんです。『だったらどうすれば良いんですか!?』って怒鳴って聞いちゃったんです。今思うととんでもない事ですけど…」

 「ソレデ…」

 「え?」

 「ソレデボッチ様ハナント?」

 「『自分で考えろ。立って歩け。前へ進め。あんたには立派な足がついてるじゃないか』」

 「………」

 「それからいっぱい考えました。僕はどうするべきか?今何が出来るか?そうやって僕は前に進むことが出来ました」

 「前ヘ進メ…カ…」

 「はい。だからぼっち様は謝罪を受け取らなかったんだと思いますよ。謝罪をするぐらいならもっと前へ。一歩でも半歩でも進めと…多分ですけど」

 「フフ…ハハハ」

 

 先ほどまでの陰気なオーラは消し飛びいつもの…いつも以上に力強いオーラが感じられる。

 立ち上がったコキュートスはマインに一礼する。

 

 「アリガトウマイン殿。貴方ノオカゲデ私ハ前ニ進ムコトガ出来ル」

 「何かその…照れますね。ヘヘ」

 

 そんなマインを満足げに見つめ天幕へと急ぎ戻る。やるべきことはたくさんあるのだ。

 

 

 

 ぼっちはどう謝ろうか悩みに悩み…朝になっていた。

 本気でどうしようと考えていると、

 

 「失礼致シマスボッチ様」

 

 コキュートスが来た為に思考が停止した。まだ心の準備が!?

 

 「コチラヲオ持チ致シマシタ」

 

 手渡されたのは資料だった。それも昨日見たのよりは分厚くなっている。

 少し読んだだけだが昨日の事を反省していろいろな計画書が含まれている。

 

 「昨日は言い過ぎたと思ったのだが・・・」

 「イエ、私ノ考エガ甘カッタノデス」

 「・・・そうか」

 「デハ、資料ニ書イテアル通リニ行動ヲ開始シマス」

 

 自信満々に去っていくコキュートスを見てぼっちは満足感でいっぱいになった。

 謝ることを忘れていたが…

 


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