骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 最近指先が冷えすぎてうまく打てなくなって来た。
 ペースが落ちそうで怖い…

 5月21日一文変更!!


第036話 「姫と騎士」

 クレマンティーヌは唇を軽く嘗め回し、獲物を観察する。

 右手に鞘から抜き放たれた刀を持ち、左手は後ろで組んでいる。それだけを見ると明らかに舐めている。英雄の領域に足を踏み込んだ人外を…

 そんな考えを脳内から弾き出す。彼は利き足をやや後ろに下げていつでも動けるようにして、油断なくこちらの動きを窺がっていた。油断どころか隙すらなかった。

 今の自分は挑戦者であり格上なのは彼であり、それは動かぬ事実である。

 いつも通り、いや、いつも以上に身を地面に這わすように構える。

 

 「《疾風走破》、《超回避》、《能力向上》、《能力超向上》」

 

 武技を一つ唱えるたびに身体が光り輝き力を得た。元々身体能力の高いクレマンティーヌは速度を上げ、回避力を超上げ、自身の能力を向上させた上で超向上させた。

 相手をひと睨みして覚悟を決める。

 ゴウっと言う風切り音を鳴らし爆風と共に相手へ直進する。

 彼は微動だにする事無くスティレットを突き出されるのを待ち構えている。

 嫌な予感に心の中で舌打ちしながらスティレットを突き出した。常人であるならば刺された事に気付かず絶命するだろうが彼は異常すぎた。

 見えていた。

 正直見えすぎていたのだ。

 当たる直前になって立ち位置を変えて最小限で避けたのだ。さらに下を向けていた刀を下から上へと斬り上げてきた。

 

 「《流水加速》」

 

 冷や汗を掻きながら強化された自身の神経と速度を上昇させる。身体を捻り何とか回避する。が、それで終わりではなかった。振り抜かれた刀の刃を返し、振り下ろしてきたのだ。

 

 「《不落要塞》」

 

 上位防御武技《不落要塞》を発動させて何とか刀とスティレットをぶつけて弾いた。

 勝った!

 弾かれた彼は隙だらけとなり左手で持つもう一本のスティレットで貫かれる。

 油断だった。あまりに上手く行き過ぎたために一瞬見てしまった夢である。

 確かに刀は弾かれた。それに対して彼は動じる事無く手を離した。目で捉えるのも難しい速度で手の向きを変えて逆手で刀の柄を握り再び振り下ろし………

 

 「そこまで!!勝者ぼっ…じゃなかった。アルカード様」

 

 マインの終了の言葉が耳に入り、首の皮手前で止めたぼっちは刀を鞘に戻す。

 体中の空気を吐き出し地面に座り込むクレマンティーヌに対して手を差し出す。

 

 「・・・見事・・・また手合わせたいな・・・」

 「じょーだんじゃないよ…こんなの命がいくつあっても足りない」

 

 お褒めの言葉と共に述べられた次なる誘いに顔を青くして答えた。そんな時店内で大きな物音がした。

 何事だろう?とぼっちはゆっくりながら店内へ向かう。

 

 そこには途惑うニグン以外に二人の男女が居た。

 男性と言うより少年は不釣合いな鎧を着ており見るからに兵士なのだろう。

 その鎧より隣に立つ少女の方が少年とは不釣合いに見えた。腰まで伸びた艶やかな金髪、細身の身体に大きく育った胸部、幼さが強く残る顔立ちで特に青き宝石のような瞳が魅力的であった。

 まぁ、ぼっちが最初に注目したのは少年の方であった。断じてBL的発想ではない。ここ大事。

 短く切り揃えられた茶髪やその熱意感じる瞳でもなくただその純白の鎧である。安っぽい鎧であったが純白であったことからある騎士を思い出す。

 

 「ぼ…!?アルカード様」

 「貴方がこの店の店主ですね」

 

 少女が礼儀正しく会釈をしてこちらを向く。着ているドレスから貴族だと思うがぼっちの脳裏には「誰だ?」の一言しかなかった。

 スキルを発動させいろいろ読み取る。

 

 「私はr」

 「ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフ」

 

 読み取った名前を読み上げると少女、ラナーと声が被った。その瞬間隣の少年が殺気立つ。

 確かに無礼だと思うけど底まで怒らなくてもいいじゃんか…えーと職業はアクトレスは女優でプリンセスは……ん?プリンセス!?王女!王女様ですか!?

 

 「・・・ようこそヘルシングへ・・・店主のアルカードです」

 

 こちらも礼儀正しく挨拶を返そうかと努力したが無駄だった。人ごみを歩いているのなら兎も角、たった二人見も知らない人がいるだけでは安定化が起こらない。

 だから睨むな名も知らぬ少年よ。俺はもういいけど君の命が危なくなるぞ。頬に傷のあるお兄さんの口端がひくひくしてるぞ♪それよりも何か買いに来たのだろうか?

 

 「どのような用件で・・・」

 「彼、クラインの剣を買おうと思いまして」

 「そんなラナー様、私になz」

 「いいでしょクライム」

 

 何だこのカップルモドキ。早々にお帰り頂きたい。

 

 「ではこちらの剣など如何でしょう?」

 

 品を進めたのはニグンでなくマインであった。一応剣士である為、ニグンよりは剣を見る目は有るようだ。というかいろいろ剣を見せるうちにそうなったのだが。

 にしても何なんだろうな。王女は優しそうに少年はちらちらとお互いを見ている。恋人関係?いや、そうでもないか…

 そんな事を考えているとクライムに「こっちの方が良いんじゃない?」とクレマンティーヌが近づく。

 

 「む」

 

 そんな声が漏れた。

 今、一瞬王女さんのハイライト消えたよね!?この子もしかして病んでる?てかヤンデレ?その対象はあの少年か…がんばれよ少年。拒絶なんてしたら速攻バットエンドだからな。受け入れろよ。でもその前に気付けよ!

 

 「いえ、これは少し…」

 「だったらこっちはどうでしょう?」

 

 少し少年を観察する。

 ラナーに対する忠誠心や努力家なのをスキルで読み、瞳から熱く強い意志を感じる。多分、最後まで諦めないタイプの人間だと思うとワクワクすると共に低いステータスなのが残念でならない。

 先ほどちらちら見ていると思っただけだが徐々に犬に見えてきた。例えるなら柴犬かな?

 『貴様…今犬と言ったか!!』

 はい、全身青タイツの方はお帰りください。というか自害せよ。

 『ランサーが死んだ!?この人でなし!』

 うるさいぞ。そもそも人じゃないし。

 ふとヤンデレ王女を見る。もし彼女を吸血鬼化させたらどうだろうと思考する。あの青く宝石のような瞳が紅く変わり闇夜を歩くのだろう。良いんじゃないかと思ってきた。

 『やめて、フリじゃないからマジやめて、マジで悍ましくてかなわんからやめて』

 !!!!!!今の誰!?今までに聞いたこと無い声が!!

 

 「アルカードさん?」

 

 考え込んでいると先ほどから呼んでいたラナー王女を無視ってしまっていたようだ。

 何でもないように言うととりあえず店の奥に入っていく。

 皆から見えなくなった所で何もない空間から一本の刀を取り出す。

 それを持ってクライムに突き出す。

 

 「これは?」

 「・・・村正・・・これを」

 

 受け取ったクライムが鞘から刀身を抜いた。

 魂を吸い込まれるような刃に皆の視線が奪われる。刀を知らないラナー王女ですらかなり高価な物だと理解したのだろう。当然剣類を知っているクライムは…

 

 「こんな高価な物頂くわけには!」

 「な!?ぼ…アルカード様がせっかく…」

 「よい・・・おd」

 「おいくらでしょうか?」

 

 おおう…今「お代はいりませんよ」と言おうとしたのに被せやがったこの王女さん。瞳がキラキラしてやがる。何で?

 ぼっちは知らなかった。この王女、ラナーはクライムが一生かかっても買えない+実戦で彼を守れる実戦的な物を欲していた。ただ彼の事を想ってではなくそれだけの物を与えたと言う『鎖』を欲していた事を。この店を選んだのも伝説級の短剣を扱っているこの店なら求めている物があるのではないかと期待していたのだ。結果はそれ以上過ぎるのだが。

 

 「・・・ルーク」

 

 ニグンの偽名を思い出し後はニグンに任せる。

 マインもクレマンティーヌは申し訳なさそうにラナーを見つめるクライムが持つ村正を見つめていた。

 村正はぼっちが昔使っていた刀である。攻撃力も耐久力も中々の物だが効果が「己より強く、強大で、多い時に挑む力を与える」つまりはステータスの向上。武技で言う《能力超向上》を1.5倍した物である。しかし自分より強い相手や一対多数の時しか発動じない為にあまり使われない武器である。

 ぼっちに至ってはその戦況が多かったので重宝したが…少年はこれから苦労する事になる予感がしたので送ったのである。

 会計を済ませた二人は会釈して去って行った。それを見送りマインに出かける準備を促す。

 目標はコキュートスが向かっているだろうリザードマン達の集落である。

 

 ここでぼっちは思った。なぜあの王女はクレマンティーヌがクライムに近づいた時にハイライトが消えたのか?もちろん自分のペットに自分以外の雌が寄って来たからだ。ではなぜマインが近づいた時はそうならなかったのだろう?女の子と思われていない…と言うことなのかな?




 次回コキュートスと合流する前に王都の話をします。セバスの話ではないですが…

 

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