突撃した12人が殺されてゆくのを残りの8名は見続けていた。
「ど、どうするんですかゴラン隊長!?」
残った部隊長のミューディーが怯えながら口を開いた。あの相手には勝てないと分かっているのだろう。それはここに居るすべての者の総意であった。だが、ゴランは…
「これより我らは奴らに突撃し逆賊の首を取る!」
意気揚々とそう宣言したのだ。周りの者達の顔が青ざめていく。
「な、あの実力差を見なかったんですか!?私達ではもう…」
「笑止!我ならあの小僧ぐらいなら討ち取れる。貴様らに期待はしていない。小僧を殺すまでの時間を稼げ」
「そうすれば勝てると?」
「愚問だな。ミューディーの三人はニグンに、我の三人はクレマンティーヌへの時間稼ぎをせい!」
「…あの私は…」
「今の貴様は役には立たん。ゆえに本国への連絡へ向かえ。このことを必ず伝えるのだ。良いな?」
「!?はっ!必ずや…」
力強く頷くミューディーに満足したのか満足げに『ヘルシング』へと駆け出した…
「よくザイードをやったな小僧…まずは貴様からだ」
クレマンティーヌとマインの前に現れたゴランは躊躇う事無く剣を抜き放ち斬りかかる。刀と剣が交わり火花を散らす。
「手伝おうか~?」
三人に囲まれてもなお余裕があるのかマインのことを気にかけていた。
「大丈夫です!クレ…ピトーさんはそこの三人をこいつは僕が…」
「言ってくれるな小僧!我の剣を受けるだけでやっとと言うのに」
確かにマインは押されていた。あたりまえだ。相手は大剣とまではいかないにしても大きな剣に体付きも立派な大人でこちらは15歳前後の少女なのだ。剣を交わらせば力負けするのは必須なのである。
上から振り下ろされた剣を弾き返せず右手で峰を押してなんとか受け止める。目は苦しそうに相手を睨み、口は歯をむき出しにして食い縛っていた。肺に溜まっている空気を一気に吐き出す。
右手を引き、柄を前に突き出す。すると今まで受けていた力を受け流しゴランが前のめりにバランスを崩す。隙を逃さぬように刀を左手だけで振り抜く。
「あ――おしいね」
「ええ、やっぱり左手だけでは切り裂くまで力が入りませんね」
距離を取りつつ口を開く。その表情には焦りの色は無く余裕が見えた。対してゴランは左目のすぐ上を斬られて怒り心頭だった。
「ぐぅううう!?き、貴様は絶対に殺す!手を!指を!爪を!一つずつゆっくりと斬って後悔しながら嬲り殺してやる!!」
「そうですか。ではその前に片をつけましょう」
刀を思いっきり振り付いていた血を払い鞘に収める。目を細めていつでも抜けるように手を添える。それを鼻で笑うゴラン。
「はっ!?ガキがそうそう出来る物かよ」
遮二無二突っ込むだけのゴランではなくそこには策があった。多分使用する技は抜刀術。ならば初撃に全力を注ぐ為、その一撃さえかわせば必然的に相手は隙だらけとなる。そこを狙えれば良いだけと判断した。
ゴランは先程の刀の長さを思い出し射程内に踏み込むと同時に後ろに一歩引く。すると予想通りに自分が居たであろう位置を刀が通り過ぎていった。
勝った!!
頭の中では勝敗を決して次に誰を狙うか考えつつマインに突っ込んだ。これが最悪の悪手でマインの策と気付かずに…
振りかぶった右腕が在らぬ方向に曲がった。力は入らず代わりに激痛が襲ってくる。悶絶しながら腕を押さえる。
「ば、馬鹿なぁああ。鞘で二撃目を放つだと…」
その通りでマインは避けられるのを知っていたかのように刀を右手で抜くと同時に鞘を腰より抜いていたのだ。それがゴランの右肘を砕いたのだ。
「飛天御剣流『双龍閃』…うまくいきました」
「さすがですねチェルシー殿」
向かった三人の処理が済んだニグンも合流してゴランを見る。
「さて、どうしたものか」
「やっぱり後を残さないほうが良いんじゃないでしょうか?」
「えー私遊びたかったのになぁ」
「うるさい。ならば私が焼きますか」
話を聞き命乞いを行なおうとするゴランにニグンは一言も話す事無く灰にした…
「はぁ…はぁ…はぁ…」
暗闇の街中をミューディーは逃げるように…いや実際逃げているのだが…駆けていた。
あの時のゴランの命令を受けた時にはその場で踊りだしたくなるほど嬉しかった。あんな化物達と戦って死ぬのなんて真っ平御免なのである。
まずは小屋に戻り隠してあった馬で本国へ帰還して報告。それから部隊再編までゆっくり過ごせば良い。もしも隊長達が全滅していれば自分が隊長になる可能性だって…そんな思いをめぐらせていると何やら歌が聞こえてきた。ゆっくりと立ち止まり辺りを見渡す。
それは正面より現れた…
「~♪」
ぼっちは上機嫌で闇夜を歩いていた。誰も居ない夜の街を歩くというのはこう…何て言うか肝試しをしているような緊張感?高揚感?よく分からないが気分が高まる。高まるぞ~!なので先程から鼻歌交じりながら『ヘルシング』へ向かって行く。
そして気分は絶好調を向かえ口ずさみ始めた。
歌詞は書かないが北斗の拳一期OPである。
目が合った…
誰も居ないと油断し過ぎていた。まさかこんな時間に全力疾走している女性が居るなんて思わないじゃん。って、聞かれてたんじゃね!?恥っず!ちょ、うえ、どうしようじゃないや………良し、知らない振りして通り過ぎよう。
そう思い再び歩みだそうとした瞬間彼女はナイフを顔目掛け投げてきた。焦る事無く落ち着いて手の平を見せるように突き出して人差し指と中指で止める。
『北斗神拳二指真空把』
手の平から甲へと返して投げナイフを返す。ナイフは迷う事無く彼女の首元を貫いた。呆然としながら徐々に力が抜けていき地に伏した…口からはヒュー、コヒューと息と共に空気の抜ける音が…
………やべ!?つい投げ返しちゃった…まだ生きてるから取り合えずポーションで回復させて…それから…
「…どうしたの?」
焦りすぎて接近されたのに気付かず振り返ったぼっちはモミの姿を見た。
なぜここに居るのかと言う疑問より先にこの瀕死の子をどうしようかの方が重要になっていた。
「あ、あー…理解理解…その子何とかしようか?」
「!?・・・頼む・・・殺さぬように・・・」
「うっうー…行ってら~」
ぼっちはモミに任せてヘルシングへと向かう。
モミは未だ空気を漏らし続ける物に目を向ける。その目はいつもと変わらず笑っていた。
「…さてとりあえず生かしますか…」
手をかざし呪文を唱え始める。その言葉に安堵を浮かべるミューディーだったか…
「ああ…勘違いしないでね?ぼっち様が言われたのは『殺さぬように』との事でそれ以外のことはしていいって事だから♪曲解もいいとこだけど……宜しくね人間…」
もはや逃げることも出来ず死ぬことも出来ず治されていく…彼女はなんであの化物たちに手を出してしまったのかを後悔し始めていた…
薄暗い部屋の中、ステンドガラスを背後に6名の老人・老婆が並んでいた。彼らはスレイン法国が誇る特殊部隊『六色聖典』の各最高指揮官である『六大神官長』とそれらをまとめる『最高神官長』であった。
部屋の中にはその七人を除けば六人しか居なかった。
一人は地面に髪がつきそうなくらい長く、ぱっと見女性とも見える漆黒聖典隊長の第一席次。
残りの内4人は第一席次と同じく漆黒聖典メンバーであった。
最後の一人は首から十字架をぶら下げ灰色のコートを纏った神父なのだろうか。コートの下から黒の鉄プレートと合わさった服が見え、手は手袋で覆い、丸っぽい逆光眼鏡をかけている。
年齢は30歳ぐらいでここに居る者達と比べて大柄でいかつく頬には大きな傷跡、両腰には一本ずつ日本刀を備え、背には布で巻いた棒状の物を背負っている。
服装だけなら神父に見えなくも無いが後の物を考えるとベテランの戦士のほうがしっくり来るだろう。
この間は本来武器の持ち込みは禁止された区画である。にも拘らず彼がここに持ち込めるのは特例中の特例である。
そんな彼は神官長に敬意を払うように膝をつく漆黒聖典の面々と違い、壁にもたれて短く切り揃えた金髪を掻き毟っていた。
「漆黒聖典第一席次よ…報告を」
神官長が重々しい口を開くと短い返事と共に第一席次も口を開いた。
「トブの大森林へ赴いた際、強力な吸血鬼と遭遇。戦闘となりカイレ様が『傾城傾国』で仕掛けましたが吸血鬼の前に飛び出した者には効かずカイレ様を含んだ五名が肉片も残さず死亡。気がついたときには『傾城傾国』もその場にはありませんでした…」
「なんと…漆黒聖典4名にカイレ様だけでも手痛いと言うのに…」
「六大神の残した至宝の一つでもある『傾城傾国』を奪われるとは!」
「この事態をどう収拾するか…」
「収集も何も今の我らにはどうする事も出来まいよ…」
「姿を消した陽光聖典だけでなく一週間前から風花聖典からの定時連絡も無い」
「それにニグンを探らせた土の巫女姫と水の巫女姫は突然の爆発で死亡」
「闇の巫女姫は叡者の額冠を盗まれ発狂。盗んだクレマンティーヌは行方知れず」
「強大な吸血鬼に六大神の残した至宝も通じぬ化物にアインズと名乗るマジックキャスター、騎士達を一人で壊滅させるほどの腕を持った男…こちらでは手は出せん…」
「貴方はどうお考えでしょうか?」
ここまで話に入って無かった彼に第一席次が尋ねる。彼は顎を撫で少し間を空けて答えた。
「……今は現状回復が先…」
その一言で皆が頷き了解した。
「もしもの時は頼みましたぞ…ぼっち殿…」
「…………」
『ぼっち』と呼ばれた彼は静かに頷く…
歌詞を書いては駄目って規約か何かにあった気がして書けなかった…
モミに北斗の拳二期OP歌わせたかった…
ところで替え歌ってOKなんだろうか?私、気になります!!