ナザリック側へ移ったニグンとクレマンティーヌ、そしてマインの発戦闘回となります。それではお楽しみいただけたら嬉しいです。
深夜2時
人だけではなくこの町に住まう生物すべてが寝ている時間。そんな時間に『ヘルシング』を囲む集団が居た。
「隊長…魔法の展開終了致しました。これにより音は範囲外に漏れることはありません」
「ふむ。部隊の展開も完了したようだ。では狩りを始めようか」
見下ろすように歪んだ笑みで獲物が寝ているであろう店を見ていた
「すー。すー。すーっ!?」
規則正しい寝息を立てていたマインは突如目を見開き飛び起きた。すぐに近くに置いていた刀に手を伸ばす。
殺気…数は17…いや20人か…
数ヶ月前のマインではこんな芸当は出来なかっただろう。これもロートルの訓練の賜物だろう。
木々の多いトブの大森林にて目隠しをさせられたまま放置され、不意に襲ってくるのだ。何度も何度もそれも死ぬような目にあったこともある。そんな中で気配の察知を身に着けさせられたのだ。
刀を持ったまま廊下へ飛び出て一階のニグンさんの書斎へ駆け込む。
急いで起こして話をしようと思っていたのだがすでにニグンもクレマンティーヌも起きていて準備をしていた。
「あ~れ~?これから起こしてあげようかと思ってたのににゃ~」
「さすがあの方の弟子と言うことだろう…状況は分かっているのかな?」
「は、はい。殺気を放つ者が20人と言うところですか…」
「おお!私のセンサーに引っ掛かった数と同じだ。さすが…」
「では、どうしますか?僕も…」
「客人にそのような事は…」
「って言ってる場合じゃないんじゃない?まともに戦えるのはあんた一人で私は怪我人なんだけど」
「っ!?貴様は彼の実力を知りたいだけだろう!!」
「でもどうするの?不参加で行く?」
「行きます!僕も貴方達と共に…」
腕を組み考え込み何度目かのため息をつく。諦めたような苦笑いをして口を開いた。
「分かりました…ではチェルシー殿はクレマンティーヌと共に正面を頼みます。私は裏口の連中を…」
「うふふ。久しぶりの狩りだね」
闘志に燃えるマインと違い二名は残酷な笑みを浮かべていた。
裏口にウラガンと三人の部下が集まっていた。
各々装備を確認する。通常の剣の半分ぐらいの剣に投げナイフ数本、毒薬などを確認しいざ突入しようとした時ドアが開かれた。
「こんな夜中にお客とは困った物だな?」
「ニグン!ニグン・グリット・ルーイン!?」
「今は『ルーク・バレンタイン』と言う名なのだがな…」
一瞬ウラガンを含める4人が思わぬことに焦るがでも逆に有利なことに気付く。現在ニグンを囲むように距離を保っている。天使召喚などをされていたら問題であったが今はまだ召喚されていない。ならば魔法を発動する前に攻撃すれば良い。この距離なら4人の誰でも勝てる自信がある。焦った顔が残忍な笑みに変わっていく。
そんな結論に最初に思い至った部下の一人が駆け出す。ニグンは手に持っていた札を無造作にばら撒いた。それに触れた突っ込んだ者が突如燃えた。
「ぎゃああああああ!?」
燃え盛りながら慌ててもがくが火は消えず、力尽き倒れていった。ウラガンはその光景を唖然としつつ見ることしか出来なかった。魔法の詠唱もなしに仲間がやられたのだ。理解が追いつかない。
ニグンが使った札はぼっちがモモンガと同じくとあるガチャを回していたときに出たハズレアイテムである。札そのものがアイテムではなく札を作製する能力を与えるという物だ。作製できる札は回復から属性攻撃の札から撒くだけで発動する召喚術である。ただどの物もレベルが低く他の物を使った方が良いという物でハズレとなっていた。
ばら撒かれた札から3メートルほどの炎の人型であるレベル25のイフリートが現れた。
「な、な、な…」
「どうした言葉も出ないか?無駄な足掻きを止め、そこで大人しく横になれ。せめてもの情けに苦痛なく殺してやる」
絶望の中でウラガンは動けないまま炎の中に取り込まれていった…
裏で4人を瞬殺したニグンを余所に正面入り口ではマインとクレマンティーヌが睨みあいをしていた。
「あ~らら、すんごーく警戒されてるっぽいね?」
「そうですね。でもやる事は変わりませんよね」
「すこーし残念だけどちゃっちゃと済ませますか」
「何人いけますか?」
「全部いけるよー」
「では半分貰います」
ザイードとルチアーノは目の前の二人を舐めきっていた。片や負傷した英雄にただのガキ…なのにあの余裕は何だ?急に悪寒が走る。そんな二人を知ってか知らずかマインは一直線に駆け出す。
反応したザイードの部下が応戦しようとした。だがマインは相手の剣撃を回避するか剣が振られる前に突き出される指を斬り飛ばす。一撃一撃は弱いが反応速度にその数多の戦場で得たかのような技量はザイードを遥かに超えていた。
正直ぼっちが技を教える為にロートルを召喚したのは間違いであった。なんせマインはロートルの技を会得する事は出来なかったのだ。そもそもどうやってこの世界の者が習得できるかも違うのだ。
しかし命令は絶対。ならばと召喚されたロートルは少なからずぼっちの記憶を得ていた。その記憶の中から剣技を教えればいいと…気配の察知の練習もぼっちの知識なのだ。
技を教える物としては失敗だったかもしれないが師としては最適だった。妥協しないのだ。こんなもので良いかではなくもっと上を目指すように教え込んだ。何度も殺しかけ何度も意識を刈り取った。その度にアウラ様経由で渡されたポーションで回復させまた合格するまで剣を交える。マインにとって死線とは日常茶飯事なのである。ゆえにこの程度で焦ったり怯える事もないのだ。
一撃では無理なら何度でも切り裂く。その光景に怯えるザイードは《マジック・アロー》を放った。マインはぽかーんと口を開けながらあっけなく切り払った。…遅いと思ったのだ。訓練には投げナイフなどの飛び道具迎撃もあった。最初は村人の弓で次にゴブリンの弓、最近ではナイフ・バット下級で行なっていたのだ。まだ落とせたことは無いが…
マインは戦闘しながらモモンさんが来る前に一度だけ様子見をしにきた師匠が呟いた一言を思い出していた。
「どんな高速魔法も対物ライフルの弾丸よりは遅い」
そう呟くと下段の構えのまま突っ込んできた。恐怖した。こんな年端もいかぬ子供が暗殺に特化された者共三人をいとも容易く屠り、今無邪気な笑みを浮かべてこちらに向かってくるのだ。
「く、くそおおおお!!」
自分のMPが持つ限りの《マジック・アロー》を放つ。そのことごとくが打ち払われ足止めにもならなかった。50メートル以上あった距離がどんどん詰められていく…50…40…30…20…10…5…
何故自分はこの者を見て殺す事など容易いなどと思ってしまったのだろうと、今では後悔しか出来ない事を頭の中で繰り返す。
「あれを……恐れる事はない、だと――!?」
その呟きを最後にザイートは崩れ落ちた。マインは冷静に辺りを見渡した。残りの4人はザイードを切る前にクレマンティーヌが仕留めていたのを横目で確認していたがこうして見て見ると全員の急所を寸分の狂い無く刺していた。
(あれで左肩に大怪我をしている人間なの?あれが英雄級の戦士なんだ…僕はもっと強くならないといけない…)
(へぇ…武技も使わずあんなに強いんだ。怪我が治ったら手合わせしてくれないかな?彼女なら本気で戦えるかも…)
二人とも何も語らず相手を称えていた。その様子を見ていた風花聖典隊長がゆっくりと現れた。
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