骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

33 / 233
第023話 「二人の吸血鬼のお仕事」

 ぼっちは馬車の中で会話を楽しんでいた。と言っても町と言う場所から離れると精神の安定化されなくなりいつも通りの聞く側だが…

 

 現在ぼっちはシャルティアと合流しセバス達が調べた野盗の巣へ向かっている。ぼっちの右にはシャルティアが座り、左にはシズ、正面にはセバスにソリュシャンと空いたスペースにシャルティア眷属のヴァンパイヤ・プライド二体が座っている。

 セバスとぼっちを除けば美女ばかりのこの状況だけでも嬉しいのだがギルドの皆で創造した子供のような彼らから俺らの話を聞くのもなかなか面白かった。もちろんぼっちが聞いたのではなくセバスとシャルティアの会話の中でである。

 

 シャルティアとアウラが仲が悪いのは設定上とかペロロンさんと茶釜さんが姉弟なのをセバスが初めて知ったりなんか見てて面白い。それでアウラとは姉妹のようなものと言ったが姉妹と言うより従姉妹の方が正しくない?そしてキャラクターに声を吹き込む茶釜さんの職業である声優が生命創造系の職業になってるんだろうか。ああ、キャラクターに命を吹き込むと言えば正しいのであろうが…

 

 「……あ゛?…セバス もう一回言ってくれない?」

 

 場の雰囲気が凍り付いた…セバスが何やら失言をしたらしい。少し考え込んでたらしく聞き逃してしまった。

 

 「…それともさぁ…竜人であるあなたがその形態でさぁ…わたしとやりあう気かっ!?」

 

 このままでは喧嘩が始まりそうだったのでシャルティアの額を指で軽く、軽ーく弾く。

 

 「そこまで・・・・・・」

 「は!?ぼ、ぼっち様の御前で申し訳ありんせんでした」

 

 そんなに大仰に頭を下げなくとも良いのに…

 急に馬車の揺れが大きくなり止った。目標の者達の元までついたのだろう

 

 「ついたか・・・」

 「では始めましょうかえ?」

 

 シャルティアの言葉に皆が頷く。今回も見学なのだからぼっちは離れてぼっちしてよう…悲しいけどこれ戦争なのよね…関係ないけど言いたくなった…

 馬車を一番最初に降りたシャルティアに熱い視線が注がれる。なんなのだろうか先頭の男の目に下卑た物に感じた。

 

 「ヘン。なかなかの上物じゃねぇか。ヒィヒィ鳴かせてやるからな」

 

 男の手がシャルティアへと伸びていく。触られる前に反撃するだろうと分かっていた。分かっていたが…

 

 「あん?」

 

 何かを胸に押し当てられ怪訝な声を上げた。銀色の長方形の鉄の塊がシャルティアの後ろから伸び、男の胸部に押し当てられていた。見たこともない物を押し当てられている男よりシャルティアの方が不可解な顔をしていた。

 

 ダアァァァン!

 

 野盗達もセバス達も聞いたことのない轟音に驚く。そして轟音と同時に男は胴体に大きな風穴を空け吹っ飛んだ。

 

 「ヒィィィィ!?」

 「な、なんだアレは!?」

 

 多々の声が挙がる中、ぼっちはシャルティアをそっと横へ移動させ前に出た。

 

 「テメェら・・・」

 

 いつもの表情は少しも残ってなかった。目や雰囲気から怒気を感じた。今まで感じたことがないほどの…

 

 「下卑た雑種風情が触れて良いものではない!生きて帰れると思うなよヒューマン!!」

 

 声を挙げる間もなく最初の男と同じように二人が同じように風穴が開いた。突然の事に野盗達の動きが止まる。しかしこんな事ぐらいで怒りは収まらない…一族郎党根絶やしにするぐらいでは…

 

 「ぼっち…様…ぼっち様!」

 

 自分を呼ぶ声で我に返り声の主へ振り向く。

 

 「ぼっち様…それ以上やられると私の仕事がなくなるでありんす…」

 

 申し訳なさそうにこちらの様子を窺がうシャルティアに驚くセバスとソリュシャン…

 

 「すまない・・・後は任せる・・・」

 

 馬車に戻り腰をつけると同時にそれぞれが仕事にかかった。

 やってしまったぁぁぁ…あの下卑た男の手が触れるかと思ったら頭真っ白になって皆の仕事奪ってたなんてどうモモンガさんに言い訳しよう…言い訳するほど喋れないけどな。ソリュシャンの顔がキラキラッして、いつもより輝いて見えるな。ってぎゃあああああああ!なんか男が取り込まれているぅ!いやいやいやソリュシャンなんでそげに楽しそうなんですか!?そして相手の方もこの殺戮の場でなんで誘われるがままついて行くの?まあ、いいけど…楽しそうだから…

 

 ぼっちの護衛でついてきているシズが見張りを予ねて馬車入り口に立つ。

 

 「さっきのぼっち様…勇ましかった…」

 

 やめてぇぇぇぇ!?今後悔真っ只中なの!傷口に塩塗りこむどころか美帝骨でぐりぐりされるぐらい痛いからやめて!!あ、ちなみに美帝骨とはとある侍ゲームに出てくる刀で、相手の腹部に差込んでかき回す技があるのだ。

 先ほど使った銀色の長方形の鉄の塊とはこの世界では存在しない銃である。シズと同じくガンナーを後からとったがレベル的に上位までいけずにハンドガン止まりであったがぼっちはそれで十分だった。

 

 トーラス・レイジングブルModel 454と言う大口径のリボルバーを手にしている。本当は454カスールカスタムオートマチックと言う銃を使いたかったのだが架空の銃の為にユグドラシルでは存在しなかったのだ。ゆえに454カスールで調べたところこの銃がヒットしたのである。求めていた銃とは違うが中々愛着が出た銃でもある。見た目は銀色をメインカラーに日本の警官が持つ拳銃の三倍はあろう長い銃身を持つ。そしてオートマチックではなくリボルバーと言う所にまた感じ入る物がある。『オレのリロードは革命(レボリューション)だ!!』…また幻聴か…もう馴れた…

 

 作業が終わりセバス達が戻ってくる。席を立ち皆の下へ…

 

 「ではぼっち様。私達はこれで失礼いたします」

 「・・・(コクン)」

 

 セバスとソリュシャンが礼儀正しく礼をして馬車に戻る。良かったソリュシャンがいつもの笑みに戻って…人を身体に飲み込んでいた時めっちゃ怖いんだもん…

 

 「では参りんしょうか?」

 「・・・うむ」

 

 こういう時は男が女性をリードするもんだっけ?そんな思いが頭に過ぎりシャルティアの腕を自分の腕に絡ませた。一瞬驚いていたが楽しそうに共に進む。良かった拒否されなくて…あとヴァンパイア・ブライド以外に何かついて来るんだけど…なにあれ下位吸血鬼?何時からいたっけ?まあ、どうでも良いけど。

 

 元野盗だった下位吸血鬼の事を考えるのを止めてただ進む。

 

 

 

 「ストライーク!」

 「「お見事です」」

  

 下位吸血鬼はそんな風に使うんだと思いながらガッツポーズをとるシャルティアに拍手していた。野盗の巣の前に到着すると下位吸血鬼を見張りに投げつけたのだ。シャルティアの力と投げた物の大きさで当たった見張りが文字通りミンチになった。さっきのトーラスより威力があるんじゃないかな?と思う間に二人目に直撃して「ツーストライクでいいんでありんしょうかえ?」と楽しそうにはしゃいでいる。

 

 「では行って参りますぼっち様」

 「・・・気をつけてな・・・」

 

 いらん心配ではあろうが声をかける。なぜぼっちが残るって?行ったら邪魔になるからでしょう。言わせんな泣けて来る…さっき仕事を取っちゃったからな…

 

 ヴァンパイア・ブライドの一人に入り口見張りともう一人に突入を指示する。突入を指示されたヴァンパイア・ブライドが勢い良く走り出したのだが…

 ズドン!!

 落ちた…

 物の見事に入り口付近で落とし穴にはまった…

 「えー」声を漏らしながら肩を震わすシャルティア…

 

 「……ぶち殺すぞ…とっとと出て来い…」

 「申し訳ありませ…」

 「あまり私を失望させるなよ」

 

 またシャルティアの言葉に場が凍りつく。

 

 「!!す、すぐに…!?」

 

 落とし穴にはまったヴァンパイア・ブライドに手が差し出された。

 

 「そんな…御手を汚してしまいます!?」

 「構わない・・・さぁ」

 

 手を掴むヴァンパイア・ブライドを落とし穴から引っ張り挙げる。これぐらいはいいだろう…シャルティア…なぜに後ろからでも分かるようにさっきよりこの娘に怒気を放つし…止めて…胃が…胃が痛い…

 

 「ぼっち様のお手を煩わせてしまい申し訳ありんせん」

 「いや良い・・・行って来い・・・」

 「行って来ます」

 

 大きく礼をした二人の姿が巣である洞窟の中に消えていった。

 今はシズと二人っきりである。二人っきりのはずである…

 

 「・・・ところでそこの者・・・何か用か?」

 「!?」

 

 ぼっちの言葉に辺りを見渡すシズ。森の影に白金の西洋甲冑で身を固める者がそこに居た。

 

 「…いつから気がついていたんだい?」

 

 優しげで落ち着いた声に安心した。強面の声だったらどうしようかと内心びびっていたのだ。

 

 「馬車から降りて少し・・・」

 「まさか最初っから気付かれていたなんて…」

 「で・・・『空虚なる人形』よ・・・何用か?」

 

 驚いた。まさかそこまで看破されることなど無かったツアーは恐怖を感じていた。確かにこの鎧は遠隔で操っている物で本人はここより遥か遠くの地に居る。十三英雄「白金」と呼ばれていた時、一緒に旅した仲間でさえ気付かなかった事に彼の者は物の見事に看破している。

 

 「単刀直入に聞くんだが君は八欲王と同じく『プレイヤー』かい?」

 「?八欲王・・・知らないな・・・」

 「そうか…すまないね。邪魔をしたようだ。用事があったのは君達ではなく別にあったんだ…でも…」

 

 話を切るや否や白金の鎧がぼっち目掛けて突っ込んできた。当たり前だ。八欲王の件もありプレイヤーに対する危機感は人一倍強いツアーがぼっちを見逃す事はない。先ほどの探知能力に相手を見破った能力…プレイヤーと見て間違いない…その上アレだけの強者達を引き連れていたのだ。八欲王と同格、もしくはそれ以上…そんな厄介ごとの種が武器を持たずに背を向けている。

 一撃で決める!そんな意思での突撃…だが一撃で蹴りをつけたのはぼっちだった。

 

 「ジャッジメント!」

 

 叫ぶと同時に轟音が鳴り響く。振り向き様に向けられた銀色の長方形の鉄の塊から何かが射出された。避ける事は出来ずに武器で防ごうとした。

 武器が当たった先から潰れていく。射出された物は武器だけでは飽き足らず当たった衝撃だけで腕ごと持って行ったのだ。

 

 「…驚いた…」

 

 たった一撃でこんな事になるとは…白い面の男は散歩でもするかのように歩いてくる。こちらに注意すら払ってはいなかった。

 

 「・・・君が何で襲い掛かってきたのかは知らない・・・だが、私達と敵対するならばただでは済ませない・・・」

 

 それだけ告げられてその者はこちらに怒りを向けている少女を撫でながら元の位置に腰掛ける。

 何か思い出したように反応しこちらを振り向く。

 

 「ところで・・・見えたのは一発だけか?」

 

 声が届くのと同時に鎧が崩れ落ちた。鎧の頭部から最後に見た光景は腕を除き五つの大きな風穴を開けられた鎧と銀色の長方形の鉄の塊に何かを入れている者だけだった…

 

 

 

 

 今回の任務の事をアインズ様から聞いた際には至高の御方の命令である以上喜びを感じていたが少し残念だった。武技を使える者の捕縛…本来なら相手を操るスキルを持つデミウルゴスやアウラが適任なのだ。だが二人とも別件で動いている為周って来た仕事…だからセバスに適任はデミウルゴスと言われた際にぼっち様が居ると言うのに声を荒げてしまった。

 だが、出発前にアインズ様から発せられた発言で最高の物へと変わった。

 

 「ぼっちさんが見学の為、同行するから」

 

 あの至高なる御方が自ら自分の仕事を見に来てくださるのだ。嬉しかった。特にセバスとソリュシャンが宿を出るまで馬車内で二人っきりでたくさんのお話が出来た事が…(ヴァンパイア・ブライドも居たが視界に入ってない)

 さらには下種な者の手が触れそうになった時には本気で怒り、守ってくれようとしてくれたり、腕を組む事すらしてくれた。当分アウラに自慢してやろうと意気揚々で突入したのだ。

 しかし結果は散々だった…武技を使える者を見つけたが他の雑魚と遊んでいる隙に逃げられ、外で展開していた冒険者達と戦闘を行った。その冒険者の中には至高の恩方々しか持っていないポーションを持つ女と出合った。様子を見に来たぼっち様が知らないという事はアインズ様の関係者…もしくは計画の一部に手を出してしまったのだ。ぼっち様は「・・・焦らずに今出来る事をしよう・・・」と慰めてくれたが焦らぬ訳には行かず森へと突入しある一団を発見してしまった…それこそツアーが用があった者達だった…

 

 

 

 ぼっちは慌てているシャルティアを宥めて見送った。

 外での初仕事なんだから少しの失敗ぐらいあるよね。もし何かあればフォローしてあげればいいし、無いと思うけどモモンガさんが怒る事があれば守ってあげれば…

 そんな後のことを思いつつ森に対して索敵スキルを使用した。

 

 「・・・!?不味い!」

 

 気付いた時にはシズを抱えて走り出していた。赤くなることなく不安げにこちらを見上げるシズ。

 索敵に引っ掛かったのは武技の使い手とポーションを持っていた女の仲間のレンジャーだけではなかった。5,6人の集団。中でも一人高レベルの者が居た。そんな者はどうでも良かった。感知したのは『ワールドアイテム』…

 

 森を書き分け集団の所まで辿り着いたぼっちの前には荒れ狂い襲い掛かろうとするシャルティアとシャルティアに対して『ワールドアイテム』を使用しようとする老婆…シズを投げ捨てるように放り出し何も考えずに駆け出していた…

 




婆さんのチャイナ姿とか…どうしろと…
それよりもシズごめん…放っちゃったよぼっち様…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。