今回は前編・後編二つに分けたお話です。第二巻はその二つで完結します!
「やっぱり遊んでもいいかな?」
「時間が無いと言っている」
ニニャは泣き出しそうになるのを必死に堪えて敵と対峙していた。
数日前に冒険者組合で出会ったモモンさんと共にンフィーレア・バレアレからの依頼を達成した後、モモンさんはトブの大森林で手懐けた魔獣を冒険者組合に登録する為に一旦別れたのだ。
荷物をンフィーレアさんの家の中に運ぶまではすべてが順調だった。
現在、年老いたマジックキャスターとンフィーレアさんの家で待ち伏せをしていた女剣士に襲われているのだ。
老人の元には気を失っているンフィーレアが居る。
女剣士は殺す事を楽しんでいるようだった。
相手はオリハルコン…もしくはアダマンタイト級の腕の持ち主だろう。こちらは4人と言えど現状戦えるのは後衛を務めていたニニャだけでペテルもルクルットもダインも辛うじて動けるだけで重症であった。
「後がつかえているのだ早くしろ」
「ん~。仕方ないか」
老人が急かすと女剣士は残酷な笑みを浮かべながら近寄ってきた。
(助けて…モモンさん!)
「ンフィーレアやーい。モモンさんが来たよー」
モモンことアインズはナーベラル・ガンマ…ナーベと依頼主であるンフィーレアの家に来ていた。家の前に待機している森の賢王ことハムスケを冒険者組合で登録と組合からの報酬を受け取っていた為に遅くなったのだ。道中でンフィーレアの祖母であるリィジー・バレアレと出会い一緒に向かったのだ。
中は暗く返事も返ってこない。
気配を多少ながら探っては見たものの誰の気配も無い。
「な、なんじゃあこれは!?」
奥に行ったリィジーが叫び声を上げた。ナーベを連れて奥へと向かうと奥の一室は血で汚れていた。それも結構な量である。
「モモンさん!?」
後ろから声がかけられ振り向くとそこには血まみれのニニャが立っていた。
「ニニャさんどうされたんですか?」
「ンフィーレアさんが…ンフィーレアさんが連れ去られました!」
「ンフィーレアが!?」
リィジーは孫がさらわれた事を聞きパニックになっている。アンデット化しているおかげで冷静なのは本当に助かる。
「ナーベ…ついて行って守ってやれ」
短い返事と共にナーベは孫を探しているリィジーについて行く。
「ペテルさん達は?」
「こ、こっちです」
案内された他の部屋に漆黒の剣の面々が寝かされていた。医者を呼ぶ暇も無く必死に一人で応急処置を施していたのが良くわかった。
とりあえず状況確認を始める事にする。
「何があったんですか?」
「へ、部屋に入ったら女の人が居て…その人はンフィーレアさんを…」
「落ち着いてくださいニニャさん。相手の目的は?」
「叡者の額冠ってのをンフィーレアさんに使わせてアンデス・アーミーという魔法を使うと」
「アンデス・アーミーだと?」
アンデス・アーミーは下位アンデッドを大量に召喚する第七位階の魔法。
(ぼっちさんから得た情報ではこの世界では第3位階までだったはず…プレイヤーか?…いや、叡者の額冠というアイテムを使えば可能なのか…用心に越した事は無いな)
「相手の数は?」
「えーと短剣を使う女性の剣士と老人のマジックキャスターでした」
「何処で行うか分かりますか?」
「それは……!墓地でどうとか言ってました」
そこまで聞くとナーベとリィジーが戻ってきた。
「ニニャさんは冒険者組合へその事を伝えてください。リィジーは彼らの治療をお願いしても?」
「しかし、ンフィーレアが…」
「仲間の事をお願いします!僕は急いで伝えてきますので」
冒険者組合へとニニャは駆けて行く。リィジーは奥で寝ている者達の治療を始める…
「リィジー・バレアレ…取引をしないか?」
ハムスケにまたがったモモンはナーベと共に墓地へと向かっていた。
血塗れの部屋で特殊な魔法を感知した。あの魔法はぼっちさんの魔法武器ナイフ・バットで発生した魔法の跡だ。敵ではなくニニャが使ったのだろう。
(ならばぼっちさんの関係者だったのだろうか…)
一瞬ぼっちさんを呼んだ方が良かっただろうかと思ったが数日前に…
「シャルティアを・・・」
「ええ、この世界にはガゼフが使ったような武技と言う物がありましたよね?」
「・・・・・・(こくり)」
執務室でぼっちさんと町へ行く打ち合わせをしていた時にある話が出たのだ。ぼっちさんは頷き話を聞く。
「シャルティアにはそういう者の捕縛を任せようと思いまして。ちょうどセバスのほうでかかった者達の中に居ないかと…」
そこまで言うとぼっちさんは何か考え込み口を開いた。
「・・・ついて行っても?」
「え?ええ、かまいませんよ」
「・・・・・・感謝・・・」
あのときのぼっちさん嬉しそうだったな。
そう言う訳でぼっちさんは今頃シャルティアと合流している頃だろう。
ピピッとメッセージが入った。
《アインズ様。至急お伝えしたい事が…》
「今は忙しい。後でかけ直す」
《分かりました。ではアルベド様にお掛け直しください》
エントマとのメッセージを終了させると近くまで迫った墓地の入り口を睨んだ。
「くそ!あの糞ガキ…っ!?」
いつもの余裕が無くクレマンティーヌは顔を苦痛で歪ませつつ路地裏を歩いていた。痛みが左肩を襲い右手で押さえる。その右手は大量の血で汚れていた。
「後がつかえているのだ早くしろ」
「ん~。仕方ないか」
カジットに急かされたクレマンティーヌは止めを刺そうとと相手に近づく。
シルバーのプレートが4人だが自分と比べると雑魚でしかなかった。大した技量も大した魔法も使えない冒険者など恐れる事も無かった。
急に何かを思い出したのかニニャと呼ばれた少年が何かを取り出したのかが分かった。
「ぷはッ!?なぁにそれ?マジックキャスターがナイフ一本で私とやりあう気?」
取り出したのは一本の短剣。柄に装飾が施されている事から高価な物と分かる。ただそれだけの物。
小鹿のように震えるニニャをカジットも笑った。
「目標をつけて投げる…」
一言呟くと馴れない手つきで短剣を投げた。届く事の無く短剣はクレマンティーヌとニニャの中間あたりに落ちていった。
落ちて行くはずだった…
跳ねた。
地面に当たって跳ねたのではなく空中で跳ねたのだ。跳ねた短刀は左肩目掛けて跳んで来た。
すかさず愛用のスティレットで迎撃する。スティレットと短剣がぶつかり合い弾く。……予定だった。
ぶつかり合う瞬間、クレマンティーヌだけではなくカジットもありえない物を目にした。
短刀の柄に小さな羽根が生えたのだ。羽根をばたつかせスティレットを避けクレマンティーヌの左肩に突き刺さる。同時に肩の後ろまで実体ではない黒い剣が貫通した。
「ぐあっ!?」
壁まで吹っ飛ばされたがすぐに戦闘態勢を取った。
このナイフ・バットは中級の一点特化型の亜種であった。通常の中級ならば当たった瞬間に身体の半分を持って行かれていただろうが一点特化型は貫く事に重点を置いているため肩を貫く程度ですんだのだ。
「ぐぅぅぅ…何なんだよそれは!?」
とんでもない一撃を受け余裕が無くなったクレマンティーヌは叫んでいた。カジットは青ざめニニャを恐れていた。
「まさか!?…聞いた事がある…昔話に出てくる伝説級吸血鬼が使っていたと言われるアイテム。どんなに離れていても外れる事の無い投げることに特化した短剣…まさか存在していたとは…」
今度はカジットも攻撃に参加しようとした時、他の4人に目がいった。
彼らは黒い短剣を持っていた。
「まさかまだ持っているのか!?く、目的は達した。わしは墓地へ向かう貴様は好きにするがいい!」
絶望的に不利と判断したカジットは一目散に逃げ出し肩をやられ激痛に苦しむクレマンティーヌは追いつく事が出来なかった。
「何が…何でも…生き延びてやる…」
血を失いすぎて意識が朦朧となっていく中、ある紙を見て目的地に進む。
この町にはカジット以外の仲間も知人も居ない。こんな血塗れの女を助ける事でメリットよりデメリットの事を考える者がほとんどだろう。
『貴方の事を少なからず気に入りましたので…』
なぜかあの時の変わった貴族を思い出す。理由は分からないがあの貴族なら助けてくれる…そんな気がしたのだ。
意識を失う前に何とか扉までたどり着いたクレマンティーヌは扉をノックした。
「はーい。今行きます」
中からあの貴族以外の男の声が聞こえた。何処かで聞き覚えのある声だった気がした。
「すみません。今日の営業は…」
出てきた頬に大きな傷がある男と目が合って二人して固まった。
「あんたは陽光聖典のニグン!?」
「そう言う貴様は漆黒聖典のクレマンティーヌか!?」
ニグンが杖を構える。この距離での戦闘なら確実に勝っていただろう。
紙が手から離れる。もう限界が来ていたのだ…力なくその場に倒れこむ。
「なに?おい、どうした?なんだこの傷は!…この紙…!?おい、しっかりしろ!!」
叫んでいる声が聞こえるがもう反応する事も出来ず、クレマンティーヌは意識を失った。
モミ 「生存戦略ー!」
チェリオ「叫ばなくとも漆黒の剣は生存したからね。まあ、ナザリックと関わるかは別だけど」
モミ 「…そういえばあらすじに誤字あったよ」
チェリオ「はい?」
モミ 「二回かいたユグドラシルが間違ってた…」
チェリオ「マ・ジ・デ」
モミ 「まじで」
チェリオ「…まっこと申し訳ありません!」