「プレイヤー集団に襲われたのにゃ!あたしが初心者なのを分かってて…」
声が震えていた。表情は分からなくても彼女が泣いているのは分かった。多分だが一人の彼女はPK集団に襲われたのだろう。許せん!複数で一人の少女を襲うとか!!
その時何かが頭の中を過ぎった。この子に抱き付かれる前に一つ水溜りを跨いだのだ。こんな晴れた草原フィールドで水溜りが出来るなんておかしい。そう思い振り向こうとした瞬間、
「貰ったぁ!!」
水溜りから姿を現した変身型スライムであろう者が人型となり飛び掛ってきたのだ。
「なぁに!?」
「ふぇ?」
何とか反応する事が出来て相手の攻撃を回避することが出来た。そして相手には短剣が突き刺されていた。
目でその先を追うとネコの少女だった。彼女は怯えつつも俺を救ってくれたのだ。感謝と同時にこいつらが彼女の言っていた連中なのだと知る。
「・・・何だお前?」
半分キレていた。我武者羅に斬り付け、何処からか矢が飛んでくるものなら盾にしてやった。
スライム系の奴がHP0になって消失しても怒りはまだ残っていた。
木の上の奴を倒そうと思ったとき、岩の陰より二人の鬼が飛び出してきた。
「・・・抜刀」
背に背負っていた村正を抜く。
村正の効果によりステータスが上昇して行くのを確認して敵へと目を向ける。
鬼は攻撃力が異常に高い種族である。ただ高いだけである。
ゆえに『当たらなければどうということは無い』のだ。真紅のいなず…じゃない、赤い彗星さんの言うことなのだから正しいと思う。それを体現するよう二人…二人と言うより二体か。二体の鬼の攻撃を避けながら斬り付ける。
そういえば鬼は体力が微量ながら高いんだっけ?少し時間がかかっちゃった。さて後はアーチャーだけだ。
ふとキリト君の台詞を口走ろうとして口を塞ぐ。そうだ。ここには初対面の子が居るんだ!変な事は言わないように気をつけねば!!
ただ作業の如く矢を切り払いながら進むとアーチャー(エルフ)が木の上より飛び降りてきた。ラッキー♪矢を撃たれる中、木をよじ登らなきゃって思ってたからちょおおおおラッキー♪
さっさと斬り捨てて彼女の元へ歩む。正直初対面の子に自分から近づきたくない。何を喋ればいいか分からないからである。けれど彼女は命の恩人である。最初の一撃を仕掛けてきたスライム種に一撃を入れて少しでも時間を稼いでくれたんだ。何か礼を言わなきゃ。
彼女を立たせてあげようと手が伸ばしたのだが中々手をとって貰えない。何か不味かったか?俺的には良いかなと思ったんだけども…ならば、礼だけでも言わなきゃね。
「・・・ありがとう。君の名は?」
「あたいは、あたいはミイ」
ミィと名乗ったネコの少女はそっと手をとり立ち上がった。
昨日といい、今日といいスレイン君たちとチームを組んで以来中々人との繋がりが出来てきたんじゃないか?
画面の外でニコッと笑いながら昨日の事を思い出す。
ミイと出会う前日…
俺達vは狩りを終えて無事に宿を設定している町へと帰還した。
「今日も凄かったですよぼっちさん」
後ろを警戒するように歩くぼっちさんに声をかけた。この一週間彼と共に行動したが驚かされる物ばかりだった。
どんな強敵にも挑み、悪鬼の群れに囲まれようとも罠にかけられようとも冷静で、仲間である俺達を決して見放す事無く窮地をいつの間にかひっくり返している。
今日なんて迷子になってしまった俺と皐月を助ける為に大型の植物モンスターを掻き分けてまで助けてくれたのだ。
「本当に別格ですよ。私なんて足手まといにしか…」
「・・・そんなことは無い・・・実際助かってる場面のほうが多い」
「そう言って貰えると嬉しいです」
む!何か面白くない。皐月が照れたようなアイコンを出すのを見てから胸がモヤモヤする。
よく分かってない感情を振り払い会話に参加しようとする。
「でも実際魔法詠唱者はもう一人欲しいですよね?」
「なによ。私じゃ不安って事?」
「ちがっ!?そうじゃなくて皐月って補助や回復メインだろ?だから攻撃をメインとした奴が欲しいなと思ってさ」
「ふーん…それより私は索敵を得意とする人が欲しいかな」
そんな中ぼっちさんがぴくんと動く。
「・・・すまない・・・誰か来た」
言われて辺りを見渡すが誰も来ていない事を確認して意味を理解する。ぼっちさんは誰かが来ることがありインターフォンとパソコンを繋げているのだ。
「では今日はここまでですね」
「・・・また」
「また明日」
白いローブを纏ったエルフの皐月と白銀の鎧を着た俺、スレインの前から神父姿のぼっちさんが消えていった。
現実世界で目を開けたぼっちはプラグを抜く。凝り固まった筋肉を解すように背を伸ばしながら今日の事を思い返す。
植物プラントで皐月ちゃんが欲しいアイテムがあるとの事で同行したが探索一分後には迷子になってしまったのだ。何とかお目当てのアイテムを入手する事が出来、帰ろうとするも道も分からず走り回る事数十分。植物モンスターに襲われて戦いながら逃げている内に皐月ちゃんとスレイン君を発見し何とか脱出できたのだ。
ピンポーン
インターフォンが鳴る。ここで出なかったら何の為に戻ったのか分からなくなってしまうな。
は~い、はってま~す…は言わずにドアに向かって歩き出す。
「警察です。開けてください」
……………なんて?警察?ポリスメン?オラ何もしてねえだ!!してないよな?ワイルド7みたいな警官だったらどうしよう!?ホレイショなら会いたいな…って違うとりあえず開けないと!!
「・・・どちら様で?」
警察って言ったのになにを聞いているんだ?と思いつつ扉を開けて顔の半分だけ除かせる。もちろんチェーンは外さない。
外にいたのはまだ幼さを残す青年警官と作業着を着たおっさん二人であった。おっさん方の胸にはユグドラシルとロゴが入っていた。
「―――署の――と申します。――さんで間違いないですね?」
「・・・(コクン)」
「貴方には不正ソフトを使用した容疑がかかっています。開けて貰っても?」
「・・・・・・」
無言で扉を閉めてチェーンを外す。そして中に警官とおっさん達を中に入れる。
二人が持っていたパソコンを開いて俺のパソコンと繋げようとした時に警官が許可を得ようとしたのでとりあえず出しといた。
しかし本当に思い当たる節が無い。このパソコンは反応が良くなるように選んだ機材で組んだがソフトはユグドラシル推奨の物しか入れてない。後はウイルス対策ぐらいだが…
黙々と作業する二人を余所にキッチンに向かう。
お湯の用意をしながらお茶菓子やサーバの用意をする。さすがに客が来たのに何も出さないのは失礼に値するだろう。決して初対面の人の近くでじっと出来なかったとか、何を話せばいいか分からない重圧に負けたわけではない。違うんだからな!!違うから!違う事にさせてください…
システムチェックしている作業員のお二人と青年警官にコーヒーとガトーショコラを提供する。青年警官は遠慮したが作業員の二人はお礼を言い、食べ始めた。中々好評のようで良かった。さてこの後どうしようか?
お茶菓子を出してから三十分間置物のように動かずただ時間が過ぎるのを待った。
「チェック終わりましたよ」
「結果はどうでした?」
「不正ソフトの使用は確認できませんでしたよ」
「え!?」
「いやはや凄いですよ。ログを見ましたけ人間業じゃないくらい入力がありましたよ」
「良い物が見れて私たちは良かったですけど…っとすみませんねお茶菓子まで頂いて」
「・・・構わない」
何が「構わない」だよ!偉げに対応しちゃってどうすんのよ。表情を見た感じ気にした感じは無かったけど…
仕事が終わり部屋を後にする作業員達を見送って部屋の机の前に座る。
さて、警官が帰らない件について話そうか…てか何でこの人は帰らないの!?お願いだからぼっちをぼっちにさせて!ずっとぼっちの空間に居座らないで!!何が気に入らないの?俺か?俺が不正ソフト使ってなかったことか!?
正座して申し訳なさそうな青年を見つめたままどうやって話しかけようかと考え込んでいると彼の方から話してきた。
「すみませんでした」
謝られた。まぁ不正ソフト使用の容疑で来て使ってなかったんだから謝るのは分かる。だが謝られるよりでて…
「この前の戦いを見て僕…不正ソフト使ってるものだとばかり考えてて…」
この前の戦い?俺何かしたっけ?と言うかこの人もしかしてユグドラシルプレイヤー!?誰だ!顔を見て思い出せ!!無理だった。ゲーム内はアバターだからこのままってことは無いはずだ。
「僕は剣士に憧れててたんですけど剣士は向かなくって魔法詠唱者になったんですけど諦め切れなかったんでしょうね…だから貴方を見て嫉妬してしまってそれで…」
魔法詠唱者の知り合い…皐月ちゃん!?いや、彼女は女の子だしな…男の魔法詠唱者………あ。
「・・・クロノ君?」
「!?あ、はい、そうです。サバトのギルド長をやっていたクロノです…」
「・・・・・・やっていた?」
「ええ…あの後ギルドから抜けたんですよ。貴方のあの戦いを見て嫉妬して何もかもがどうでも…あ、違うんですよ!それだけではなくてそろそろギルドから抜けようかなと思っていましたのもあったんで」
俺のせい…じゃないのか…良かった。本当に良かった。彼の魔法の腕前が無くなるのは勿体無いと思ったから…ん?
『攻撃をメインとした奴が欲しいなと』。スレイン君は攻撃型の魔法詠唱者を欲している。
『ギルドから抜けたんですよ』。ギルドから抜けたと言う事は今はフリーと言う事。
「今日は本当にすみませんでした!!僕に出来ることなら何でもしますんで…」
ん?今何でもするって言ったよね!うーん、確かに彼は線が細く、男と言うよりも女顔でかわいい感じの…って今なに考えてたんだ俺!そうじゃなくて勧誘だ。勧誘しなきゃ(必死)!!
「・・・vのメンバーになって貰えますか?」
言えた!言えたよね今!!すごく緊張したけど言えた!!やったー♪さぁて、答えプリーズ♪答えははいか、Yesだ!それ以外だと俺の精神にダメージが来るから…
驚いたともなんとも言えない表情をしたクロノ君はこちらを見つめ嬉しそうに答えた。
「はい。…というか良いんですか?僕は貴方のことを…いえ、分かりました。宜しくお願い押します」
「・・・こちらこそ」
その後冷めていたがコーヒーとお茶菓子を食べて明日の集合時間を告げると部屋から外へ出て行く。去り際に『貴方は強いだけではなく心も広いのですね』とすんごい笑顔を向けてきやがって…ドキドキしてしまうじゃないか!!
はぁ~…とため息を付きつつ洗い物を片付けて夕食の用意を始める。明日のことを考えながら…
「にゃは♪」
あたしは道端の岩に持たれて座り込んでいた。
ただ座り込んでいたわけではない。獲物を待っていたのだ。
それもモンスターではなくプレイヤーをである。
待った甲斐があった。座り込んでいる道を一人のプレイヤーが歩いてくる。神父姿で衣装に凝った初心者であろう。腰には初期の剣が提げられていた。
男があたしに気付いて近づいてくる。獲物がかかりつつあった。
「…助けてにゃ!!」
困ったアイコンを表示しながら抱きついた。
「・・・どうした?」
「プレイヤー集団に襲われたのにゃ!あたしが初心者なのを分かってて…」
勿論嘘泣きだ。だが、こんなのでも引っ掛かる者は多い。
彼から見えないように目で仲間に合図を送る。彼の後ろの水溜りは変身型スライム種のエドガー、近くの木の上には弓矢を構えたエルフのグラッツェ、岩陰には赤鬼のトウガと狼男のロウガの兄弟が隠れている。
「貰ったぁ!!」
人型をとったエドガーが後ろから斬りかかる。同時にあたしも腹を切り裂かんと愛用の小太刀を突き立てる。
これでいっちょ完了して分け合うのがいつもだったのだけど…
「なぁに!?」
「ふぇ?」
とっさにあたし達の攻撃を身体を少し逸らすことで避けたのだ。それだけではなく避けられた為に短刀は彼ではなくエドガーに突き刺さっていた。
「・・・何だお前?」
冷めきった一言に動きが思考が止まる。
振り返ると同時に剣撃の嵐がエドガーを切り裂いていく。腹部に突き刺して援護射撃しようとしたグラッツェの矢の盾にしたのだ。
エドガーが消えると同時に岩陰に隠れていたトウガとロウガが左右から斬りかかった。
「・・・抜刀」
呟くと背に背負っていた日本刀を抜く。気付く。こいつは初心者なんかじゃない!
トウガの連打とロウガの斬撃を軽くあしらいながら二人の命を削っていき傷を負う事無く二人を消滅させた。
木の上にいたグラッツェが飛び降り矢を連射し始めた。それの事如くを剣で叩き落しつつ距離を詰めていく。
化け物…
なんて相手に手を出してしまったのだ…
彼は何事も無かったようにグラッツェを消してからこちらに歩んでくる。
殺される…
手が伸びてくる。目を閉じて消える瞬間を待つがいっこうに何も起こらない。
そっと目を開けると彼はこちらに手を差し出して待っていた。
「・・・ありがとう。君の名は?」
「あたいは、あたいはミイ」
ミイはそっと手を取るとやさしく握り返された。ただの0と1で構成された世界のはずで感じることはないはずなのにとても温かく感じた。
あたいはずっと一人だった。もちろんリアルでだ。友達も居らず毎日苛められ日々で疲れていた。
あたいは求めていた。一緒に話せる仲間を。だからこんな初心者狩りする彼らの仲間になり同じムジナとなってしまったのだ。
そんなあたいに彼は…
「・・・もし良かったらうちのクランに入らないか?」
「!?いいのかニャ?あたいが入っても!?」
「・・・ええ」
それは変化すること無いアバターの顔なのだが心より微笑んでくれている気がした。涙が出そうになるのをぐっと我慢して彼に返事する。もちろんはいか、Yesしかなかった。
ちなみにぼっちは『ケット・シーは索敵で活躍する』と言う記事を見ていたのを思い出して皐月ちゃんの『私は索敵を得意とする人が欲しい』と言う事で勧誘したのであった。
ぼっち達のクラン「v」が良く使っている宿屋「暁」は一階が酒場となっている。カーボーイが出てきそうな騒がしい酒場ではなく静かに飲める酒場である。そこの奥にvの指定席が存在する。そこには皐月とスレインが待っていた。
「ぼっちさん遅いねぇ…」
「…確かにいつもなら10分前からでも居るのにな」
「え!?十分前から!私何回か遅刻してたよね…何か言ってた?」
「いんや…いつも通り無言で待ってたけど…」
「・・・遅れた」
独特の間が開いた喋りを聞きぼっちさんだと二人が振り向くとぼっちさんと共に見慣れないケット・シーが居た。
「えーと誰ですか?」
「あたい?あたいはミィ。宜しくね」
「へ?ああ、宜しく…ってぼっちさんまさか勧誘してきたんですか?」
「・・・不味かった?」
「いえ、そうじゃなくて俺らでやったのに…」
「ん?今『ぼっち』って言ったかニャ!?」
「貴方知らずについて来たの?」
「ニャ~…噂に挙がった大物ニャ。『無口の英雄』『負け知らずの神父』………そして『疑惑の英雄』」
「その疑惑は解消されたよ」
急に声をかけられ振り向くとそこにはサバトのギルド長であるクロノさんが立っていた。
「クロノさん!?どうして…」
「僕は今日から君らの仲間だよ。ぼっちさんに誘われてね」
「え、えー!?」
「ちょ、皐月。声が大きいって」
「ご、ごめん」
「すごいニャ~。『無口の英雄』に『氷結の魔術師』が一緒になるなんて」
「その二つ名は恥かしいから止してもらえると助かる。それとさっきの疑惑は無くなったよ。ユグドラシルの運営から捜査結果が配信される筈だからね」
「・・・・・・」
ぼっちさんとミィ、クロノさんと三人が話している中、俺と皐月は呆然としていた。もしかしてこのクラン…とんでもないくらいの物になるんじゃないだろうか?
そんな期待を胸に俺、スレインはぼっちさんと新たな仲間を見つめるのだった。
次回の本編はナザリックの超実力者の皆でリザードマンの集落へハイキングに行こう。
完全武装でハイキングに…