骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第190話 「グリーザ戦終結」

 アインズは驚きと興奮を隠せないまま眼前に現れたたっち・みー達を見つめる。

 ボロボロになったセバスとコキュートスが運ばれ、アイテムにて回復される。シャルティアも同様に回復され、三人共アインズ以上に興奮と驚きの表情を浮かべていた。

 

 「至高ノ御方ガ…」

 「戻ってこられた」

 

 NPC三名で戦っても返り討ちにしたグリーザに【たっち・みー】、【武人建御雷】、【弐式炎雷】が斬りかかり、【やまいこ】が後方支援に徹している。本来ならペロロンチーノが支援攻撃をすれば完璧なのだろうがここには居なかった。そして【ぶくぶく茶釜】がアインズ達を護るように立ち塞がり、【タブラ・スマラグディナ】が近くに降り立った。

 

 「久しぶりですねモモンガさん」

 「タブラさん…茶釜さん。どうやって――」

 「そーれーは!!」

 

 空から聞き覚えのある声が響き、地面に激突して土煙を立てながら姿を現した。

 それはナザリック防衛を担当していたモミ・シュバリエだった。

 

 「モミ!?何故お前が?ナザリックの護りはどうした!」

 「問題ナス!残存兵力と至高の御方31名が援軍として来てくれたからね。もっと早かったらこんなに苦労する事なかったのにねぇ」

 「―ッ!至高ノ御方ニ失礼デアロウ!!」

 「良いのよコキュートス。ねぇ、モミちゃん」

 「はい。ちゃがまお姉ちゃん」

 「ん~♪やっぱり弟より妹よね~」

 「ふひひ♪」

 

 ピンク色のスライムである【ぶくぶく茶釜】に抱き締められたモミはドヤ顔を見せ付ける。NPC全員が冷めた視線を集める事になったがそれよりも説明が先だ。

 

 「…モミ」

 「はいはーい。

  どうもぼっちさんとプロフェッサーのおかげでさぁ―――アインズさん達の世界とこの世界が繋がっちゃってさぁ」

 「繋がっただと!?」

 「ああ!来るにはユグドラシルのアイテム所持者、もしくは転移した拠点ギルドのメンバーでないと不可能って条件があるっぽいけどね。

  ワールドアイテムの効果って本当に絶大って話でね。【ワールドエンド】は強制的なログアウトがアイテム効果なんだけど、時間設定を儲けられた【ワールドエンド】にはもう一つの役目があって―――強制ログアウト後のログイン可能状態への復帰。つまりは異世界への移動手段の確保があるんだな」

 「それで皆がこちらに…」

 「っと、ちゃがまお姉ちゃん。そろそろ」

 「うん。また後でね」

 「アインズ様。城壁上でウルベルトさんが待ってるよ」

 「ウルベルトさんが!?分かった!」

 「――モモンガさん」

 

 フライで浮遊した瞬間呼ばれて振り返ったアインズとタブラの視線が合った。

 

 「後で話があります」

 「ア、ハイ」

 

 片言で返事をしつつ、アルベドにアイテムを渡してウルベルトが待っている城壁へと飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 シャルティアは目の前の光景に感激していた。

 ナザリックを去られた至高の御方が戻られた。それだけでも感激しているのに洗礼された至高の御方の技の数々。言葉にせずとも一糸乱れぬ連携。すべてが夢のようで現実。感激しすぎて涙が溢れる。

 

 ただここに自身の創造主であるペロロンチーノ様が居ない事だけが気がかりだ。

 先ほどモミはナザリックに31名の御方が守りについていると言ったが、ここにはアインズ様を含めて八名しか居ない。つまりは三人ほど足りない。もしかしたら…。

 

 「ぶ、ぶくぶく茶釜様!ペロロンチーノ様は何処でしょうか?それにぼっち様は!?」

 

 居ても立っても居られずに不敬かも知れないが単刀直入に聞いてしまった。

 聞かれた茶釜は別段気にする様子はなかったが間を空けた。それがシャルティアの不安を掻き立てる。

 顔色を青ざめ始めたシャルティアに対してぶくぶく茶釜は悩んだ。弟のペロロンチーノもこの異世界には来ている。来ては居るのだが伝え辛い。

 

 到着早々モミに説明を受けて――

 

 『なに!?ベドベドヌルヌルの泥人形(マッドゴーレム)複数に神に仕える神聖なシスター(美少女限定)が襲われているだと!!それは急いで見に――じゃなかった、助けに行かねば!いざ行かん!夢にまで見た遥か彼方の理想郷《アヴァロン》へ!!』

 

 ――などと馬鹿な事を口走りながら法国にただひとり飛んで行ったなんて…心の底より心配し、尊敬の眼差しすら含んでいるシャルティアに伝えるのは心苦しい。

 

 「ま、まさか…ペロロンチーノ様は」

 「いや、来てはいるのよ。……ただ法国を助ける為に向かっただけだから」

 「なんと!御身一つで向かわれるなんて…」

 

 自身の創造主が居る事とたった一人で勇猛に戦っている姿を想像して感嘆の吐息を漏らす様子に罪悪感が沸いてくる。

 

 「あ!あと【ぷにっと萌え】さんはぼっちさんの…えと、アルカード領の部隊を率いてこっちに進軍・残敵掃討を行なうそうで別行動でぼっちさんは…」

 

 視線を向けた先では必死にたっち達の攻撃を凌ごうとしているグリーザが。

 グリーザは戦闘が長引くに連れて目の前の三人を倒しきるのは難しいと判断。後方に居る【やまいこ】を狙っていた。先ほどからダメージを多少与えても回復され、ステータスアップの魔法が掛けられたり、やっかいこの上ない。

 

 「ぬけられた!?」

 

 回避も一応しているが斬撃を受けてでもたっちの真横を駆け抜けて迫る。やまいこは拳を握り締めて構えるだけで殴りかかりはしなかった。まるでなにかのタイミングを会わせるように。

 

 聞き覚えのある轟音が当たりに響き渡った。

 レベルの違いすぎて介入する事も出来ずに見守るしか出来ない付近の人間の目も注がれる。

 伸ばされたグリーザの右腕に轟音の数だけ何かが鎧にぶつかり、大爆発を起こして右腕が吹き飛ばした。

 

 「第1位階《クィック・マーチ》付与特上鋼鉄製

  第3位階《ファイヤーボール》封印劣化鋼KB

  第8位階《エクスプロード》封印特上水銀弾頭

  全長45cm

  重量20kg

  装弾数8発

  13mm魔法式KB弾

  『ラグナロク』

  パーフェクトだ。セバス」

 

 鮮血を浴びたかのような真紅のコート。

 闇夜を形にしたような漆黒のスーツ。

 腰には日本刀を差し、手にはセバスに用意させた専用の銃器を握る。

 楽しげに、慈しむ様に、嬉しそうに、懐かしそうに笑うぼっちは次弾を装填する。

 

 「…ぼっちさまぁ」

 

 涙を流しながらぼっちへ視線を向けると軽く微笑み、睨みつけながら銃口をグリーザに向ける。

 たっち、武人建御雷、弐式炎雷に囲まれて、なす術のないグリーザは顔を下げて、ぶりをつけて頭を上げようとした瞬間にぼっちに8発の弾丸をぶち込まれる。

 本来なら頭を上げるモーションと共に電撃を拡散させる魔法を展開するのだが、創り出した時から関わっているぼっちがさせる訳はなかった。なにせNPCのネタを欲していたプロフェッサーにグリーザを教えたのは他ならないぼっちなのだから。

 

 弾丸を撃ち込まれた箇所が爆発を起こして怯んだグリーザにやまいこが接近し、思いっきり振り被って殴り飛ばす。

 やまいこの装備である巨大な拳で殴られれば見た目的にかなり痛そうだが、威力はそれほどないのだ。代わりに思いっきり殴った対象をぶっ飛ばせる。

 

 「これで―」

 「―チェックメイトですね。頼みますよギルマス」

 

 吹き飛ばされて城門より外部へ飛び出したグリーザは幾重にも折り重なった魔方陣を見た。

 広い範囲に引かれた魔方陣は光り輝き、辺りを照らし続けていた。

 直感で不味いと感じようとも空中での移動手段は持ち合わせていない。着地すると同時に離れなければと考えるも何かに抱きつかれて動けない。振り返れば白く輝くぼっちが腕をロープのように伸ばして巻き付いていた。

 

 「まさかエインヘリアルを相手の捕縛に使うなんて普通思いませんよね」

 「アレは攻撃目的のスキルだからな」

 「この世界だからこそ出来る技だよね。フヒヒ♪」

 

 城壁上で杖を構えるアインズとモミ、そして【ウルベルト・アレイン・オードル】は微笑みながらグリーザを見つめる。

 グリーザを倒す方法。

 それは強固な魔法耐性も相手の攻撃魔法を多少HPに返還するスキルをも突破し、HPを削りきるだけの魔法攻撃を仕掛けること。それも逃げ切られない状況にして広域殲滅魔法のような広範囲技…位階魔法内でもトップに君臨する超位魔法クラスの使用。

 アインズとモミが発動している間にたっち・みー達が時間稼ぎをし、後はやまいこさんにここまで吹き飛ばしてもらえれば完了。

 二人の超位魔法だけじゃ倒しきれないのだが最強の魔法職――ワールド・ディザスターであるウルベルトが居るからこそ倒しきれる。

 

 「さぁ~て、時間だね」

 「ああ!行きますよウルベルトさん」

 「唸れ!我が秘儀!降りよ、究極の災厄!絶望と憎悪の涙を溢せ!―――《グランドカタストロフ》!」

 「「フォールンダウン!!」」

 

 グリーザとぼっちのエインヘリアルを中心に起こった爆発により周囲のゴーレムは一瞬で灰塵と化して行く。

 そしてナザリック勢の全員が気付いた。エ・ランテルの城壁に迫っている事に…。

 

 「ま、不味い…アルベド!」

 「ウォールズ・オブ・ジェリコ!そしてイージス!!」

 「だったら私もウォールズ・オブ・ジェリコ&イージス!!」

 

 アルベドとぶくぶく茶釜が防御スキルを使用するが超位階魔法二発とワールド・ディザスターの最大火力はキツイ。

 さすがに正体がばれるのは不味いぼっちはアルカードの見た目だけを残して、中身を地中から別の位置に移動させて形作る。

 

 白いスーツに白い上着を羽織った黒髪のロングヘアーの少女…カーミラと名乗った時の姿だ。

 

 「シャルティア!肉の壁を作るよ!」

 「うぇ!?ぼっ――カーミラ様!?」

 「眷属招来!」

 「け、眷属招来!!」

 

 二人の吸血鬼により大量に現れたエルダー・ヴァンパイア・バット、ヴァンパイア・バット・スウォーム、ヴァンパイアウルフが指示に従って寄って来る光に飛び込んで威力を下げて行く。微々たる物でも今は少しでも下げなくてはエ・ランテルの被害はすごい事になってしまう。

 持てる技や魔法を打ち込んで何とかしようとしながらもぼっちは発案した者として後で怒られるだろうなぁと冷や汗を掻いていた。

 

 

 

 

 

 

 研究所として用意した洞窟の奥でプロフェッサーはエ・ランテルの様子を見て驚いていた。ぼっちが戻ってきたこともそうだが、あんな手段でグリーザを倒すとは思ってなかったからだ。

 

 「目が!目がぁ~!?」

 

 超位階魔法の輝きが眩し過ぎて見れなくなったプロフェッサーは遠隔視の鏡を投げた。

 閃光で目が開けられず指で揉み解しながらフラフラとふら付き誰かが支えてくれる。呻くような声が聴こえた事でフランと認識する。

 

 「おお…すまないフラン。前が見えなくてね」

 「ぁう………っぁ」

 「ん?なにかあったのk―」

 「ほう!中々住み心地の良さそうな穴倉だなプロフェッサー!」

 「・・・その声は」

 

 聞き覚えのある声に無理やりにでも目を見開いて顔を向ける。

 ぼやける視界が定まり、壁に肘をついてにやけているオレンジ色のジャケットを着た吸血鬼と目があった。そして隣でハイライトの消えた瞳で笑みを浮かべているミイにも…。

 

 「あは…あははは、ビオ!お久しぶりですねぇ」

 「ああ、何百年ぶりか」

 「それは長すぎる眠りでした――ねぇ!!」

 

 不意打ちで袖の下に仕込んでいた猛毒を付与した飛びナイフを飛ばすが、右手は肘を付いたまま左でだけで容易く受け止められてしまった。

 ナイフをペンでも回すようにしながらゆっくりと笑みを絶やさずに近づいてきた。

 

 「プロフェッサーがゴーレムを使わずに戦いを挑むとは思わなかったな」

 「いっつも何かに潜んでいるのににゃんでかなぁ?」

 「お、落ち着きませんか」

 「大丈夫だ。俺は落ち着いているさ」

 「ミイも落ち着いてるにゃよ。それより冷や汗が凄いけど大丈夫かにゃ?」

 

 よろめきながら数歩下がるプロフェッサーの顔は冷や汗でびちょびちょに濡れていた。隣に居たフランは戦闘能力は皆無なのだが一応盾になるように立っている。

 

 「そ、そういえば死んでも復活させるなって言ってませんでしたっけ?」

 「そう言ったんだがな。ぼっちさんが俺を必要とするのだ。何時までも棺桶で寝ても要られまい」

 「ちなみにディオは置いて来たにゃ。復活させてから泣き叫んで五月蝿かったし…」

 「ははは…それは大変でしたね…」

 

 引き攣った笑いを浮かべたプロフェッサーの背に土の壁に当たり、これ以上進めない事を理解した。

 

 「ところでプロフェッサー。思いっきり殴れる右で殴られるか、殴りにくく何度も殴る事になる左―――どっちが良い?」

 

 見たことのないような微笑を浮かべられた事でガクッと肩を落として諦めた。フランを避けさせてビオから見て右を指差した。

 

 「一思いに右でお願いします…」

 「駄目だね」

 「え!?だったら左で――」

 「それも却下だ」

 「え?あ?は?……では―」

 「もしかしてのオラオラ―――もとい!無駄無駄だ!!」

 「ひぃっ!?」

 「ふっふっふっ、ではミイはぼっちさん直伝のオラオラで行くにゃよ!」

 「まっ、待って!!」

 「待った無し!!」

 「歯ぁ食い縛るにゃ!!」

 

 洞窟内にプロフェッサーの叫び声とビオとミイの連呼する声が響き渡るのであった…。

 

 

 

 


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