ぼっちが元ギルドメンバーのプロフェッサーに会いに行って消えた詳細を聞いたアインズは胸にぽっかり穴が開いた喪失感を味わうが、すぐさま精神の安定化が起こり平静に引き戻される。何度も喪失感が起ころうとも同じ回数分だけ精神の安定化が起こって元に戻される。
玉座からぼっちを護れなかった事を悔やみ嘆くシャルティアとナーベラルを見つめる。周りに並ぶ各階層守護者は護れなかった二人に対する怒りや事実に悲しみ信じられないといった感情を各々出していた。ぼっちに創造されたモミを除いては…。
「二人ともご苦労だった。少し休むが良い」
「そんな!ぼっち様を護れなかった私にどうか出撃命令を!必ずあの者を捕縛してぼっち様に何をしたのかを聞き出して…」
「無駄だと思うよ」
泣きながら叫んだ言葉を頬を掻きながら困った表情をしたモミの言葉で掻き消された。
モミはぼっちにより様々な情報を持っている。プレイヤーがどんな存在なのか。私達の世界での事柄。ぼっちさんの趣味趣向など多種にわたって知っている。だから元ギルメンの事も知っているかもしれない。復讐しようにも敵の情報は必要だ。今はどんあ些細なものでもだ。
「モミよ。貴様はぼっちさんより色々聞かされて知っているようだな」
「何でもは知らないよ。知っていることだけ」
「ならば今回の件で知っている事をすべて話せ」
「かしこま」
いつものようににへらにへらと笑みを浮かべたモミは跪くシャルティアの横に並ぶ。
まるで悲しみすら感じていないように…。
いや、それは気丈に振舞っているだけなんだろうと先の考えを追い払い言葉を待つ。
「まずぼっちさ――まは二度と戻ってこられないかと」
「どういう事でありんすか!?アイテムで転移…もしくは何かの手段で即死させられたのではないのでありんすか!!」
「ただの転移なら今頃ひょっこりと戻ってきているし、死んでいるならアインズ様が復活させてるよ。
使われたアイテムは【ワールドエンド】というワールドアイテム。能力は対象に突き刺すことでログアウト……この世界からアインズ様やぼっち様が生まれ育った世界への強制送還。
あの世界からこちらの世界に戻れる手段はありませんからねぇ」
「どうりでぼっちさんの名前を確認したらログアウト状態になっていた訳だ。それでは呼び戻す事も不可能…」
「続いてシャルティアが復讐を考えているようだけどグリーザが居るんだったら無理」
「シャルティアでは勝てないとは相性的な意味でか?」
「それ以前に面子が足りない。例えアインズ様を含んだ階層守護者を総動員しても難しいかな。
あれはぼっち様が知っている怪獣……モンスターを再現した存在で対物理耐性に対魔法耐性が高い上に受けた魔法攻撃の何割かをHPに返還して回復するアイテムを取り付けられているんだよ。魔法詠唱者殺しも良い所でね…しかも短距離の回避用のテレポート魔法を随時使ってめんどくさいったらありゃしない。
派手さも殲滅能力も無いけど戦うとなると至高の御方が少なくとも4名は必要なんだよね」
グリードの性能を聞いた感じでは私でも難しいかと判断するしかない。
他に手段があるとすれば良いのだがモミは話さなかった。つまりは無いという事か…。
「モミ。君の言う通りなら魔法職は難しいとしても接近戦が得意なメンバーで組めば問題ないのではないかな?」
「おぉ…デミデミでもそう思うんだ。でも接近戦を仕掛けるって言ってもシャルティアにコキュートス、ステラにセバス。相手は回避用のテレポートと高い反応速度を駆使して攻撃して来るんだよ。シャルティアとミイ二人係でも傷一つ負わせれない相手に数だけ増やしても駄目。
ヤルならぼっち様みたいに回避する間も与えれない反応速度で斬りつけるか、ウルベルト様のような魔法の大火力で耐性と回復でも追い付けないほどのダメージを与えるしかない」
「ウルベルト様。もしくはぼっち様でないとなるとプロフェッサーなる人物は最初っから狙っていた可能性があるという事か」
ふむ…と短い言葉を漏らしながら背もたれに体重を預けて天上を見上げる。
正面からの戦いも勝ち目は無く、事前のモミの話ではすでに大量のゴーレム軍団を築き上げている事らしい。数でも質でも勝つことは出来ないのか…。
「アインズ様。これより私達はどう致しますか?」
「…ん?どうするかとはどういう意味だ?」
「敵は私達が束になっても勝てないNPCとナザリックの僕を超える軍団を保有しております。ぼっち様の敵を討つなど敵対するか服従・協力を申し出て機会を窺う。この二つの道がナザリックにはあります。または無視を決め込むことも…」
「却下だな。アルベドよ…私は今までに無いほど怒っているのだよ。ぼっちさんには救ってくれた恩義もあったんだ。そんな人を消した張本人に裁きを下さずに無視?協力?服従?ありえんよ」
「ならば打って出ますか?」
「それに関しては私に良い考えがありますよ~」
モミがそう提案したのは敵の思惑を利用した殲滅戦――防衛戦だった。
確認できたゴーレムの総数は百万以上。シャルティアの証言からプロフェッサーは帝国に王国、法国の三カ国を相手に戦争を仕掛けるらしい。簡単に一国30万を振り分けるとして、魔導国が仲介に入って王国と帝国に連合軍を組ませて中間地点のカッツェ平野かエ・ランテルで迎え撃たせる。以前の戦いでも四十万に近い戦力を出していた。帝国は前より少ない兵力だとしてもエンリ・エモットの軍団にコキュートスのリザードマンの軍勢も含めればかなりの補強・増強になるだろう。そこに魔導国よりアインズとアルベドが、リザードマンの大将としてコキュートス、王国に滞在して動きやすいセバスにソリュシャン、冒険者モモンに成りすましたパンドラズ・アクターとナーベ、縄張り争いという事でシャルティアも向かわせても良い。後はデスナイトやオールド・ガーターなどの軍勢で固めれば六十万程度のゴーレムなど殲滅できる。
法国は別に見捨てても良いのだがザーバはぼっちの命令で出向く元スレイン法国陽光聖典だったニグン達が向かうので、何を考えていたか分からないが意思を理解するまで滅んでも困るという事で残るそうだ。さすがに死にそうになったら逃げるらしいから多少の時間稼ぎ程度だ。
どうもこちらにも派兵の動きが見られるらしく、ナザリックの守りも固めておく必要がある。ナザリックの守りはモミを始めとする第11階層の面子にデミウルゴス、アウラ、マーレの階層守護者とナーベラルとソリュシャンを除くプレアデス。そしてほとんどの僕で防衛するとの事だった。
まず王国・帝国・魔導国連合軍で初戦の軍隊を殲滅すればプロフェッサーは嫌でもグリーザを割り当てなければならない。戦力も無限ではないのでナザリックと法国に向けていた軍団を差し向ければモミ達が挟撃できるし、そのままならグリーザを無視してプロフェッサーが居るであろう場所に誰かが攻め込めば良い。
一番怪しいヴァイス城だがそこにはミイとマインに攻め込んでもらう。プロフェッサーはレベル100だがマインでも十分対処出来るし、これ以上ナザリックの戦力を割きたくないとの事。もし居なければ索敵に戻ってもらえれば良い。
モミの提案に納得し会議を終了させると各々が持ち場に戻り準備に入る。その最中でアインズはモミと二人で執務室に居た。プレアデスもメイドもアルベドも立ち入り禁止の命令を出して。
「モミよ。一つ聞きたい」
「何かな?何かな?」
「……お前はぼっちさんが消えた事をどう思っている?」
会議の時から気にかかっていた。最初は気丈に振舞っているのだろうと思ったが、アレがそんなものじゃない。他人事というか別段気にしていないように次々と話し出すモミを見ていると消えた事などどうでも良いように見えて仕方がなかった。
手で顎の辺りを撫でながら顔を顰めていた。
「どう思っているか…かぁ。どうなんだろう?奇妙?安心?納得?喪失感?」
もんもんと唸りながら言葉にしようとしているのだろうがどうにも納得できるものが出て来ないらしい。その場で胡坐を掻きながら唸り首を捻っているとようやく言葉になったのかポンッと手を叩いた。
「確かにぼっちさんを失ったのは手痛い戦力ダウンだけどナザリックを統括する至高の御方が一人になったのは良いことかな。指導者になれる人物が二人以上居る状態は宜しくないかったし」
「…それだけか?」
平然と述べた答えに怒りと同時に悲しみを覚えた。創造主…父親的な関係なのかと思っていたが存外に冷たい。それに人の気持ちでなく合理性でのみぼっちさんを捉えている。これが悲しく感じないで如何なるものか。
「でもさぁ…腹立つんだよね」
「腹が立つ?」
「私はナザリックを守護する為だけの存在だから攻めて来る相手に殺意を覚えるのは当たり前なんだけどさ。なんていうのかモヤモヤするんだよね。気持ち悪くて、苛々して、腹が立って仕方がないんだ」
「…そうか…そうなのだな」
本気で怒りを露にしているモミに安心して笑みを零す。
なんだ。持っているんじゃないかと…。