骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第185話 「…退出」

 シャルティア・ブラッドフォールンはいつものドレスではなく鎧に身を包み、スポイトランスを手に持ち完全武装でぼっちの後を追従していた。横にはナーベラル・ガンマにぼっちの腕に擦りついているミイ…。

 

 「って!なにしてるでありんすか!!」

 「んー…匂い付けかにゃ」

 「自分に!?それともぼっち様に!?どっちにしろ離れろー!!」

 「い~や~にゃ~!」

 

 引っ付いているミイを無理やりにでも引き剥がそうとするがミイも離れまいと余計に抱き付く。おかげで引っ張りすぎるとぼっちに迷惑が掛かるので無理に引き剥がせなくなった。そんなよく目にするようになった光景にナーベラルは呆れると同時に羨ましくもあり、視線だけで人を殺せそうな冷たい眼光でミイとシャルティアを睨みつける。

 今日この四人がチームを組んでナザリック外へ出向いているのはモミが動向を気にし、ぼっちの前のギルメンであるプロフェッサーの居場所が分かったからである。モミの話では王国・帝国・法国のナザリック大墳墓近辺の国々を狙うかのように大量のゴーレムが潜まれているらしく、何でもゴーレムの製作に優れた人物という事でこの件に関わっていると推測しているとの事。ゆえにシャルティアは完全武装し、身の回りの世話と魔法職としてナーベラル、前衛兼索敵としてぼっちとミイが選ばれたのだ。

 リ・エステーゼ王国からスレイン法国へ秘密裏に侵入して報告された森の奥へと進んで行く。伸びきった木々の隙間から高台にある目的地、純白のお城でギルドホームのヴァイス城が姿を見せていた。

 城門を潜る手前でぼっちが立ち止まり振り替える。

 

 「これがぼっち様が以前居たと言うギルドホームですか」

 「・・・ん・・・トラップ仕掛けてあるから・・・ちゃんとついて来て」

 「了解でありん――すぅうう!?」

 

 引き剥がすのを諦め、警戒しつつ歩き出した瞬間シャルティアは浮遊感を味わう事になった。何事かと考える間もなくとっさに眼前に現れた壁にスポイトランスを突き刺して落下していた身体を支える。上を見るとカモフラージュされた開閉式の足場が見え、下を向くと恐怖公ではなくムカデがわらわらと蠢いていた。ランスを突き刺して落下を止めなかったあの中に突っ込んでいた。想像するだけでゾッとする。

 

 「にゃははははは!了解でありんすって言ったそばから落ちたにゃははははは」

 「五月蝿い!笑うな!」

 

 出だしから落とし穴に落ちて恥かしさから顔を赤らめたシャルティアが怒鳴りつけながら出てくると、笑い転げたミイの姿が消え穴が出来ていた。近付いて覗いてみると大の字で落ちないように踏ん張っているミイの姿が。

 

 「人の事を笑うからでありんすよ」

 「というよりも索敵を担当しているのに落ちるというのはどうなのです?そもそもここのギルドメンバーでしたよね」

 「もう何百年も来てないんだから覚えてないにゃよ」

 

 ふるふると震えながら耐えるミイを腕を伸ばしたぼっちが引っ張り上げて後ろに立たせる。申し訳なさそうな表情をしながらミイとシャルティアは続き、ナーベラルは自分だけは落ちないようにぼっちが歩いた後をしっかりと歩く。

 城門から中庭まで抜けると鐘が鳴り響く音がしてミイが「トラップを解除してくれたようにゃ」と呟き、後ろから横に飛び出てまたぼっちの腕にしがみ付く。ギリリと歯軋りを立てて睨みつけるが御方を護る為に警戒にすぐに戻った。

 ヴァイス城の入り口に差し掛かると中より白衣を着た長身の男がひょっこりと姿を現す。

 

 「・・・プロフェッサー」

 「あらあら、ミイさんが嬉しそうにしがみ付いているからもしやと思いましたが、その声、その喋り様はまさしくぼっちさんですか!いや~お懐かしい」

 「久しぶりにゃね…」

 「まだぼっちさん似のNPC創った事まだ怒ってるんですか?まぁ、別に嫌われても良いんですけれどね。それよりぼっちさん。お話したいことがあるんですよ!ささ、こちらに」

 「ちょ!ぼっちさんを勝手に連れて行くにゃ!!」

 

 よく分からない内にぼっちさんは今回会う目的だった人物と接触したがそのまま引っ張られたまま場内へ入っていってしまった。慌ててナーベラルと共に後を追って行くと連れて行かれたのは応接間だった。ナザリックにも劣らないほどの見事な調度品が並ぶ中、ウエディングドレスを着た女性がお茶の準備を進めている。匂いからして死体だとは分かったがゾンビではない。知っているモンスターのどれとも合わない事に疑問を覚えたが、それ以上に死体にしては美し過ぎる保存状態に魅入ってしまった。

 

 「そんなに気になりますか?」

 「―っ!」

 「槍を向けないで下さい。私はぼっちさんと違って戦闘能力の低いプレイヤーなんですから」

 「……失礼致しました。死体にしては見事だったもので」

 「おお!貴方は見る目がある!今まで彼女の存在を知った人は悪趣味だ死者への冒涜だと喚いた挙句に処分しようなどと戯けたことを抜かす美学の分からぬ者ばかり!

  アレだけの見た目を維持する為に人体の構造を調べ上げ、腐食を防ぐ効果のある薬品や魔法を調べ上げ、人体を縫合するのにはどの繊維が合い、それにはそんな縫い方が良いのかを徹底検証し、当時の私が持ちえたゴーレム技術と知識を総動員して創り上げた人類の夢である不老不死の第一歩だというのに」

 「不老不死?つまりはアンデットかでありんすか?」

 「いえ!全然違いますよ!あれは――」

 「それ話し長くなる奴でしょう」

 「貴方がぼっちさんに愚痴っていたよりは短いですよ」

 

 むくれながら会話に割り込んだが皮肉交じりの口調で言い返されたことが事実なだけに黙る。

 紅茶を受け取りながら座るプロフェッサーは、ぼっちに渡す筈のティーカップを受け取り、底に粉が溜まってないかを確認し、変な臭いがしないを嗅いで確め、持っていたスプーンで毒味を済ませて渡していた様子に苦笑をしていた。

 

 「・・・で、話とは?」

 「話と言うのはぼっちさんに私の大規模実験に協力して欲しいのです」

 「大規模実験?」

 「はい。私は長きに渡る研究の結果!ついに手に入れたのですよ。科学技術で秀でていた我らが世界でも成せなかった不老不死と罪を犯さない人間を創り上げる事に成功したのですよ!」

 「些細なものから大きなものまで鑑みて感情のある人間なら罪を犯さない人間は居ない。それとも薬物漬けした朦朧とした集団でも作る気か?」

 

 仮面を外して鋭い眼つきで睨む姿に恐れ身体が強張る。お優しいぼっち様のことだから下等な人間でも無下にするのを許せなかったのだろう。向かいに座っているプロフェッサーはニコニコと脅えた様子はない。

 

 「それも興味はありますがそれでは死の概念を忘れさせる事は出来ても不老不死には程遠いもの。私が行なおうとしているのは人間のゴーレムの融合体。人造人間…は、ホムンクルスだから増強種とでも呼びましょうか」

 

 満面の笑みで言うプロフェッサーはウエディング姿の女性に指示を出してホワイトボードと地図や人体やゴーレムを描かれた試料を貼り付けさせていく。

 

 「人間は肉体的にも精神的にも脆く。意図も容易く道を踏み外し、外道に堕ちる者もいる。ですがプログラミング可能なゴーレムと融合させる事でルールを破る事をさせず、従順に従わせる事も出来ます。

  しかも替えが効くゴーレムのパーツで組み合わせるので、移した人間の中枢である脳を潰されない限りは不死。見た目も自由自在で服を着替えるように変えれますよ」

 「実験の意図は?」

 「臨床実験はすでに成功したので集団での生活の実験場が欲しいのですよ。集落レベルなら何の問題もなかったんですけど国家レベルでは分かりませんからね。ゆえに合い異なる二国であるリ・エステーゼ王国とバハルス帝国を実験にしようしようかと。スレイン法国は約束したので手は出せ――」

 「却下だ」

 「説明を求めても?」

 「人道的観点からして認めないし、私は真っ向から否定する。強行するようなら武力を持ってしても止める」

 「お~怖い怖い。悪鬼羅刹の相手をするより貴方を相手にするほうが恐ろしい。そうですか…協力してくださらないのは非常に残念ですがね」

 

 諦めたのか苦笑いを浮かべながらぼっちに歩み寄り、手を差し出した。ぼっちは「分かってくれたか」と微笑み手を取って握手した。

 至高の御方の旧友との和解の現場に警戒が弛んでいた。………それが大きな過ちだった。

 

 ハグをするかのように引き寄せられたぼっちが応じようと手を回そうとして動きが止まった。微笑が困惑へと変わり腹部へと視線を落とす。二人が近付きすぎていて何が起こっているのか分からなかったが、一歩二歩と下がった所で腹部に突き刺さった短刀が姿を現した。

 

 「さようならですぼっちさん」

 

 腹部に刺さった短刀が崩れ、黒い液体となって内部へと入っていく。するとぼっちの身体がキラキラと光を纏い、指先から光の粒子になって消えていった。粒子化は止まらず肘へ肩へと伸び、身体中の至る所からも粒子化が起こっていた。

 何が起こっているか分からない中で困惑した表情を浮かべていたぼっちは悲しそうに微笑みながら私の頭をひと撫でしてくれた。

 

 「・・・撤退しろ・・・すまないな・・・私の・・・」

 

 そこまで告げるとぱぁと身体全体が粒子となって飛び散った。舞い上がる光の粒子を眺めて呆けていたシャルティアは椅子に再び腰掛けたプロフェッサーの紅茶を啜る音を耳にして意識を取り戻した。

 

 「おおおおおお、お前!ぼっち様になにをしたぁ!!」

 

 爆発的な加速と共に接近しスポイトランスで薙ぎ払う。

 怒りに支配されたシャルティアは目の前の対象を殺すことしか頭にない。何の躊躇もない一撃を振るう前に立ちふさがったのは、入ったときから窓際に置物のように立っていた丸っこいフルプレートの西洋甲冑姿の者だった。それが何者だろうと関係なく槍を振るった。

 

 「邪魔をするなああああああ!かふっ!?」

 

 振るったランスを避ける動作しなかった西洋甲冑は気がついたら真横に立っており、腹部に裏拳を喰らって壁際まで吹き飛ばされる。一瞬の出来事に困惑する中でミイが飛び掛り、ナーベラルが鬼のような形相で魔法を放つ。ミイの爪を用いた乱れ引っ掻きをフラフラと規則性のない動きと軽く手で払って捌ききり、首根っこを掴まれ空中で回して背中から地面に叩き付けた。踏みつけようとした隙にナーベラルがチェイン・ドラゴン・ライトニングを放ったが、直撃する直前に見えない壁のようなものにぶつかって弱まり、身体に吸い込まれるように消えて行った。

 

 「ああ、無駄ですよ。私が創り出した最高傑作の戦闘用ゴーレム【グリーザ】はレベル100のプレイヤー十人がかりでも戦える代物で、対魔法耐性に対物理耐性はかなり高めて魔法吸収なんかを習得させてますから。それに接近戦ように自動転移魔法の小を極めていますから攻撃なんて中々当たりませんしね。このスコーン美味いねフラン」

 「――ぁう」

 

 目の前の戦闘を見物しながらお茶をしているプロフェッサーを睨みつけながら斬りかかろうとするがグリーザに阻まれる。何としても殺そうと殺気立つナーベラルとシャルティアをミイが素早く抱えてその場から離れる。

 

 「なにを!?」

 「放すでありんす!!」

 「五月蝿い!このまま戦っても勝てない!」

 「だからって――」

 「ぼっちさんも言ったにゃ。撤退しろって…今は退くしかないの!!」

 

 苦々しくもミイの言葉とぼっちの言葉に苦々しくも撤退する事に暴れずにされるがままになる。悲しみとも憎しみとも判断し難い感情を抱きながら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 息が苦しい…ここは何処だ?

 

 ぼやける視界の中で何かに捕まり、ふらつく足取りで兎も角前に進む。

 

 確か俺はモモンガさんやナザリックの皆と共に異世界に飛ばされて色々したり仕出かしたりして…なにしてたっけ?そうだプロフェッサーに会いに行って昔スレイン達とイベントで勝ち取ったワールドアイテム【ワールドエンド】で刺されたんだった。確か能力は強制的なログアウトだったっけ。回線から追い出すまで数分間情報処理で何もない空間で待機し、脳の安全を確保してログアウトさせて一日はイン出来ない。使用後は消滅するから一回しか使えないし、使いどころもめんどくさいわでどっかに仕舞っていたな。

 

 息苦しさやふらつきなど体長不良を感じていたが、歩くたびに頭痛まで起こり意識が朦朧としてきた。

 

 そんな状態でふと気がついた。

 

 歩いている道に凸凹がなく、砂の感じがない。むしろ舗装されすぎている。

 

 触っている手摺だが均一な形を維持した金属で異世界にはそんな技術はなかったはずだ。

 

 「君!そこでなにをしているんだい?」

 「・・・あ?」

 「マスクも付けずに危険では―って君!しっかりしたまえ君!」

 

 誰かに声をかけられるが返事をすることも出来ず、立っているのにも耐え切れずその場に倒れこむとその者は心配そうに駆け寄ってきた。薄っすらと見える人影に驚愕し、先ほどの気がついたことに納得した。

 

 「こちら――。―――通りでマスクを付けてない一般人を発見。意識が朦朧として歩けない模様。急ぎ救急車の手配を願います。繰り返します。―――通りで―」

 

 ぼやける青い制服の男性に転んで身体全体で感じるアスファルト…

 

 俺は帰ってきてしまったのか…この世界に。

 

 


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