骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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…注意喚起?
今回の話はグロテスクなシーンを含みます。
今まで散々あったような気もしますが一応…。


第179話 「帝国での戦闘【前哨戦】」

 バハルス帝国は前代未聞の危機を迎えていた。

 国を一体で滅ぼすと言われるデスナイトを複数使役する千年公と、悪魔の軍勢を率いてリ・エステーゼで猛威を振るったヤルダバオト。

 二体の化け物が結託して軍勢を連れて仕掛けてきたのだ。それだけでも滅亡の危機で対応するには人手も力も足りないというのに、国の混乱を悟ったのか近辺に潜んでいたゴブリンなどの低級モンスターも暴れだしたのだ。

 帝国魔法学園がある街とて例外でなく、今まで人間に恨み辛みを抱いていたゴブリン達が軍を成して襲っていた。数は400と少ないが子供ほどの小柄な彼らは家々の隙間を自由に行き来でき、機動力に長けていた。

 

 中央通り―石畳で舗装された道路を御輿に担がれた大柄なゴブリンがニタリと笑っていた。

 ゴブリンには種類がある。暮らす地形に応じて適応したや生まれつきのものなどで変わるが一番は役職だろう。ある特定の条件を満たす事で手に入れた役職により騎士を名乗るゴブリンナイトや魔法が使えるゴブリンキャスターなどが存在する。御輿で担がれたのは軍配を握り締め、多少は知恵を持った上位種のゴブリン――将軍の名を持ったゴブリンジェネラルである。ジェネラルは配下のゴブリンに絶対の命令を出来る存在で、配下に極僅かだがステータス上昇の効果を与える。

 ジェネラルを相手にするにはアダマンタイト級冒険者パーティを筆頭にオリハルコン冒険者チームを二つは用意しなければならない。

 しかし中央通りを守護していたのは対人戦闘を想定された騎士であり、一般人から集めた民兵。慣れない戦いを仕掛けてくる相手に撤退を余儀なくされた。

 ジェネラルは大口を開けて豪快に笑う。

 森の洞窟内で過ごしていたら人間たちがやってきて森を奪われた。

 仕返しと食料確保の為に村を何度も襲えば雇われた冒険者に返り討ちにあった。

 生きる為に困窮していると洞窟内に冒険者たちがやってきて長老や仲間たちを惨殺していった。

 それからというもの人間を恐れながらも恨みを忘れる事無く生き続けてきた。

 彼にしたら人間が必死に逃げ惑う姿は爽快で心地よいものだった。

 

 片手を振り上げて軍配を前に突き出すとゴブリン達と行動を共にしていたオーガ10匹が大きな棍棒を片手に進み始めた。すでに人間は逃げていたが彼らも鬱憤が溜まっており、前進しながら手当たり次第に周りの物を破壊して回っていた。ゴブリン達も人間達の家々に入り込んで珍しい物を物色しては遊んでいた。

 夫から妻へと送られたであろう装飾が施された宝石類を地面にばら撒いて斧や棍棒で叩きつける者。

 親から子供へ渡されお気に入りであったろう人形を柵に括り付けてナイフ投げの的にしている者。

 ひらひらとフリルがついたドレスやオーダーメイドのスーツを破いては捨てるを繰り返す者。

 遊び方は様々だ。

 少し油断しすぎとジェネラル自身も思ったが、配下のひとりが届けてくれたワインに口をつけた事で少しくらいは良いかと判断を鈍らせた。

 突然の爆音に酔いそうになったジェネラルは跳ね、目を見開いて爆発音の方向を見つめる。少し離れているが街から煙が上がっているのが見えた。何事かと確めるべく命令を下す前に次の爆発が起きた。一回や二回なんて数ではなく何度も何度も爆発音が聞こえてくる。

 気付けば辺りは火の海。ジェネラルは罠にはまってしまったのだと理解し、御輿を担いでいたゴブリンに引き返すように命じる。直衛のゴブリンナイト五匹と20のゴブリン、オーガ6匹が引き返し始めると、撤退を始めることに気付いて進軍していたゴブリン達も引き返そうとするがジェネラルとの間に火炎が撃ち込まれる。

 見上げれば数人の魔法詠唱者が杖を構えて見下ろしていた。苦虫を潰したかのような面で睨むと、怯えながらその場を下がった。上から撃たれては勝ち目がなかった為にホッとしたのもつかの間…何かが退路を塞いでいた。

 

 「貴方たちを逃がすなと仰せつかっているので――首を置いていって貰います」

 

 何ともにこやかに告げる子供の雄に恐怖を覚える。いや、交配の為に他種族を襲う為に鋭くなったゴブリンの嗅覚が雌だと判断する。どちらにしてもまだ幼さを残した雌に恐怖するなど今までなかった。確かに冒険者には雌もいたが目の前の雌ほど幼くはなく、武装もしっかりしていた。

 

 「多分ですがボク一人でも処理は出来るのでしょうが念には念を。あと二回しか使えないんですけど使いましょうか」

 

 腰に下げている刀を抜きながらゆっくりと近付いてくる。

 命令を下す筈の口が動かず、戦略を立てれる頭は機能していない。

 それほどに目の前に相手が怖かった…。

 

 「1000引く7は?」

 

 俯き気味に何かを呟き始めた。寒気が身体を支配して息すらままならない。何度も呟かれる言葉にオーガが雄叫びを上げて恐怖を払おうと必死に棍棒を振り上げて突撃して行った。

 建物でさえ一撃で粉砕するオーガの攻撃は雌に当たる直前で止められた。離れていて良く見えないが何か伸縮性のある黒い物で防いだようだ。

 

 「1000引く7はぁああああはははははははははははは!!」

 

 叫び声をともに黒い物が一つから四つに増えて防いでる一つ以外がオーガに食い付いて文字通り引き裂いた。

 目を見張ったジェネラルの目には四匹の大ムカデが姿を現していた。すべての大ムカデが雌の背中より伸びており、どうやら雌の意思通りに動くように調教されているのだろう。

 大ムカデたちを操り、移動にも攻撃にも防御にも使い、見たことのない軌道を描きながら、目にも止まらぬ速さで次々とゴブリン達を引き千切り、叩き潰し、食い散らかし、噛み砕き、押し潰し、擦り潰し、絞め殺し、吹き飛ばし、投げ飛ばし、貫き殺して行く。

 身の毛も弥立つ光景に御輿を担いでいたゴブリンは逃げ出そうとするがすでに他のゴブリンとオーガを殺した雌の視界に捉えられた。大ムカデを使った跳躍でジェネラルと御輿を跳び越え逃げ出したゴブリンの真ん中に着地。軽くターンを決めただけで大ムカデがぶつかり、ゴブリン達を一撃で骨まで砕いて何かにぶつかるまで吹き飛ばした。

 腰が抜けて動けないジェネラルにニコリニコリと笑いながら近付いた雌は細腕を伸ばしてジェネラルの顔に優しく手の平を置く。

 満面の笑みを向けられたジェネラルは鼻水をたらし、泣きながら笑みを返す。

 

 「敵を前にしたら手足が千切れようとも足掻きましょうよ」

 

 その言葉を告げた雌の顔が一気に冷たい表情に変わり、顔を握りつぶすような勢いで掴んだ。痛みで咄嗟に細腕を掴んで解こうとするがビクともしない。

 雌は軽々と片手で掴んだジェネラルを持ち上げると全速力で駆け出した。道の真ん中から長く続く壁沿いに近付き、走りながら顔を壁に押し当てる。

 

 ぞるい…

 

 生ぬるい感触と壁を擦られる摩擦で生じた熱を感じて叫び声を上げる。痛みからと生ぬるい感触が自分が流した血だと分かり、耳が引き千切れた事を理解した。

 必死に助けを求めるように泣き叫ぶが…。

 

 「わからないよ。なにを言っているかさっぱり分からないよ。人の言葉を喋らないなら―――死ねよ」

 

 さらに強く押し付けられた顔の皮膚が壁にこびり付いてゆく。血管が破れて血のあとを残しながらただひたすらに前へと突き進む。痛みと恐怖で顔をゆがめていたが徐々にその顔も無くなり、顔の皮一枚になったところで雌は立ち止まり、つまらなそうに投げ捨てた。

 

 

 

 

 

 

 ぼっちは司令室として使われている帝国魔法学園の会議室で頭を抱えて項垂れていた。

 目の前では街を飛行中の航空魔導士(アルカード領のアルシェを隊長にした飛行魔法と攻撃魔法、高い飛行技術を持ち備えた私兵)より送られてきた映像が流されていた。

 

 どんな相手にも全力を出すというのはまぁ良いとしよう。しかしなぜあっちを使ってしまった?エントマを巻き込んでカネキ君と同じのを作れると嬉々と作業したのは間違いなく自分なのだがどうよこれ?

 

 またゴブリンが惨たらしく死ぬ様子にがっくりと肩を落としつつ映像を送ってくれていた航空魔導士に別の仕事を命じてその場から離れさす。

 ぼっちがナイフバット製作の条件を用いて新しく作った術式の中で今回のはとびきりヤバイ奴だった。四匹の大ムカデを使役して使用することで攻撃から防御、移動まで多種多様の使用を出来る。かなりのメリットなのだがデメリットが大きすぎた。背中から生やす事に拘った結果、動くたびに皮膚が裂けて強烈な痛みを生じさせるのだ。しかも痛みだけでなく出血や骨折まで。それを緩和する為に脳内ドーピングして感覚麻痺に気分向上、再生能力の向上、肉体強化など補助魔法も付与した。

 そして戦闘狂で狂戦士で化け物としか見えない愛弟子が出来上がった。一応女の子なんだよねマイン?

 

 弟子の戦闘や言動から教育方針を間違えたかなと頭を悩ますぼっちの横でバハルス帝国皇帝のジルクニフは愕然としていた。

 フライの魔法を使える学生に赤と白の旗を渡して行なう上空からの情報収集システムに、そこから得た情報を手旗などという簡単な暗号で飛行中の魔法詠唱士を使った情報伝達システム。

 おかげで敵のゴブリンは機動力で勝っていた以前の問題となり、すべての行動・行き先・人数が露になり、すべての対策を練られて駆逐されていった。

 しかし一番驚くのはそんな驚くべき状況で別の事を思案しているぼっち――アルカード伯だった。

 これは今までに存在しなかった情報戦術であり、他国の者に見せ付けるような軽いものではない。それを見せ付けるわけでもなく息をするかのように平然と行なっている。

 

 ――王国ではこの新戦術が霞むぐらいの戦術が運用されているのか?

 

 勝手な思い違いで勝手に苦しんでいるが、これは王国も知らない魔法詠唱士を使った戦法で、ぼっち的には価値など感じずフライを使える学生を上手く使えないかと観測しにしただけなのだが…。

 大きくため息をつく二人を余所に街からゴブリンは一層されつつあった。

 中央通りを侵攻していた主力隊は魔法学園学生の支援魔法とマインにより薩摩兵子へと豹変した一般兵士の命を捨てるような猛攻により壊滅。散らばっていたゴブリンは帝国臣民の避難は完了しているので建物ごとやっちゃえと許可を得て、建物ごと崩壊させられ潰されていく。

 

 こうして前哨戦でもある街での戦闘は終わりを告げ、メインディッシュであるヤルダバオトと千年公が占拠した砦攻略がアインズ・ウール・ゴウン魔導王の手により行なわれるのであった。


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