骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第178話 「動き出す者…」

 リ・エステーゼ王国よりアインズ・ウール・ゴウン魔導国国王であるアインズは、バハルス帝国への援助要請を聞いて対ヤルダバオト&千年公への指揮所に足を踏み入れていた。

 指揮所と言ってもバハルス帝国の将校のほとんどが席を外して、魔導国専用の部屋と化していた。アインズは別段なんとも思ってないが共としてついてきたアルベドは表情をあからさまに歪める。アインズとシズがドン引き(シズは表情では分からないが)していた。

 

 「どうしたのだアルベドよ…」

 「アインズ様が…私のアインズ様がたかが人間の頼みを寛大なるお心で聞きうけて下さったのに何の誠意も示さないなんて!!まぁ、人間如きが何をしたとしてもアインズ様を満足させれるとは思えないけれども…けれども!この扱いは…」

 「落ち着けアルベドよ」

 

 落ち着かせようと声をかけるが瞳に炎を宿したアルベドは今にも周囲一帯を消滅させそうな負のオーラを噴出させ続けている。話をしようにも落ち着かせなければ話も出来ない。微妙に頭を痛めながら悩んでいるとふと妙案を思いつき恥かしさで噛みそうになりながら一言告げた。

 

 「落ち着くのだ…わ、私のアルベドよ」

 「『私の』!今、『私の』と仰られましたか!!」

 「ああ…言った。言ったとも私にょアルベド」

 

 やっぱり噛んでしまったと余計に恥かしがるが当のアルベドはクフーと鼻息荒く興奮状態で叫んで聞こえてない。シズもシズで何処から取り出したか鮮やかな花びらをアルベドの頭上にふわりふわり撒いていた。

 何とか落ち着かせた………余計に悪化した気がするが話を進める。

 

 「兎に角落ち着くのだ。お前はこの私のつ…妻としてここにいるのだからな」

 「そ、そうでした。私とした事がとんでもない醜態を…」

 「解れば良い。それとここの奴らを悪く言ってやるな。程度も低く、有効打も与えれなかったとは言えあの二人にここまで持っているのだ。まぁ、かなり手加減されているがな」

 

 ヤルダバオトと千年公が砦を制圧してから帝都に向かわせないように、何度も何度も果敢に攻めた帝国騎士達は疲弊し怪我人も続出。保身第一の指揮官たちは逃げ出し、帝国の為にと命を捧げるような指揮官たちは部下達と共に駆け、戦死するか負傷して野戦病院で治療を受けながら作戦報告書に目を通していた。結果、アインズを持て成さなければならない上級武官達は皆入院中となってしまった。そもそも持て成すにしても物資も不足していて持て成しようもないのだが。

 ちなみに当初導入された帝国最強の四騎士は各地で帝国内に侵入してきたヤルダバオトと千年公に関係のないモンスター群の相手の為に各地を転々としていた為に指揮所から離れていた。

 

 「さて、ここで私が取る手はひとつか…」

 「はい。力の差を見せ付けるのが一番かと。ぼっち様のように懐柔策もあるでしょうが人間如きにアインズ様が…」

 「そこから先は言わずとも良い。にしても…」

 

 端から懐柔策を取る気もないし、アルベドがまた暴走しそうなので話を切ったが自分がどうするかよりもっと大きな問題が山済みになっていた。

 

 ひとつは何故か帝国に来ているぼっちだ。

 アインズも姿を変えて通学していた帝国魔法学園の生徒や一般人を鍛え上げて防衛しているという。初めてメッセージで聞いたときは本当にこの人はなにをしているんだ?と頭を悩ました。結果的に背後を気にする事もこれから長い付き合いを持つ帝国を担うであろう人材が奪われることはないと喜ぶべきなのだろうが、どうもぼっちさんは巻き込まれ体質にある気がしてきた。 とりあえずぼっちの件は放置でも何とかなるだろう。

 一番の問題はモミが私だけに直接伝えてきた案件…。

 以前モモンとして名を挙げた秘密結社ズーラーノーンの幹部であったカジット・デイル・バタンデールがエ・ランテルを死者の群れで覆い尽くそうとした事件があった。何の問題もなくモモンとナーベで解決した事件だったが、モミが何処からか拾って着た者が紛れもなくカジット本人であった。

 あの事件の時に完全に焼き払ったカジットが生きていた。低ランクの魔法で攻撃して奇跡的に助かったのならまだしも、この世界の人間が高レベルの攻撃魔法を受けて奇跡が起ころうと生きている筈がない。せめて識別できるぐらいに肉体が残っている程度だ。

 

 ―つまり死んだカジットを完全なる状態で蘇生した者がいる。

 

 プレイヤーであることは間違いないのだがこれには続きがあった。どうやらその蘇生した男は人間とゴーレム製作技術を合わせた独自の技術を用いる事で人間のゴーレム化させる事が可能なのだという。信じられないがモミが隔離した部屋では実際に自身も確認しており確かにその通りだった。

 モミがいろいろと動き回った情報ではこの世界に生きているプレイヤーは分かっているだけで四人。

 二人はナザリック地下大墳墓のアインズとぼっち。そしてぼっちの前のギルドに所属していたケット・シーのミイ。

 残った一人はゴーレム製作やギルドの防衛システム担当だったプロフェッサーという男。モミがカジットより聞き出した情報によるとこの男こそが件の者らしい。しかも秘密結社ズーラーノーンと何かを画策しており、近いうちに事を起こすとのこと。さすがに詳細までは教わってはいないとのことでこれ以上聞き出せなかったが厄介なものだ。

 

 まだこのことは同じギルド仲間だったぼっちやミイには伝えていない。

 もう少しモミに任せておこうか。下手にぼっちさんに教えて困らせるのもアレだしな…。

 

 「アインズ様。帝国の者が見えました」

 「うむ」

 

 シズの言葉に大きく返事をして立ち上がったアインズはこの考えが間違っていた事を今はまだ知らない…。

 

 

 

 

 

 

 蝋燭の灯りが細々と暗闇の一室を照らそうとするが弱々しくて置いてある机の上しか照らせてない。普通の人間では過ごすには不都合だがプロフェッサーにとっては然程不便ではなかった。

 

 「あんれ~?これではなかったか…ならこっちかなぁ?」

 

 手に取った資料が捜し求めていたものではなかった事に落胆しながら床へと手を伸ばす。暗くて見難いが床一面にありとあらゆる資料が散らばっており、入れるべきの本棚が溢れ返っていたりとかなり紙で溢れていた。

 新たな資料を手に取りながら中身を確認していると昔なつかしの受話器のベルを模したけたたましい音色が室内に広がった。

 

 「今度は何かな?っと受話器はどこにしまったかな?あぁ、フラン。受話器を知らないかい?」

 「―――アァ――ッウ」

 

 暗闇から継ぎ接ぎだらけの女性がうつらな瞳を向けながら歩み寄って来る。純白のウエディングドレスを身にまとった彼女は受話器を見つけて差し出す。

 フランと呼ばれた女性はプロフェッサーが研究に研究を重ねて造り上げた最高傑作で、人の死体を元に造り上げられたゴーレムである。手入れの行き届いた腰まで届くブロンドの髪に腐食が僅かも見られないことから彼の執着が見て取れる。スタイルはアルベドに近く出るところは出て、引っ込む所はきっちり引っ込んでいた。継ぎ接ぎだらけと言っても歪ではあるが生前の美しさを保っている。

 

 「すまないね。さてと誰からかな?」

 

 受話器を受け取ったプロフェッサーはニンマリと笑みを浮かべながら耳を傾けるとそこには聞き知った声が。

 

 『プロフェッサーか?』

 「おお!これはカジット君ではありませんか。どうしましたか?」

 『どうしたかではない。助けてくれ!』

 「ほう。声の感じからとても緊迫した状況らしいですね」

 『ああ、そうだ。あの後別れてから襲われてな。今は囚われの身だ』

 「囚われた?計画のことは話しましたか?」

 『いいや、話すわけがないだろう!』

 「それはよかった」

 『それで場所だが―』

 「大森林の近くでしょ?」

 『はぁ?何故それを…』

 「だって君の身体に発信機や盗聴器仕込んでるからさ」

 『ハッシンキ?トウチョウキ?一体何のことだ!?』

 「まぁまぁ、気にせず君はゆっくりそこで休暇でも楽しみたまえよ。計画実行時には必ず助けてあげるよ」

 『本当か!?』

 「勿論。だって君は私で。私は君だよ。じゃあまたね」

 

 返事を聞く事無く電話を切ったプロフェッサーは笑みを浮かべてフランに受話器を返す。頭をぼりぼりと掻き立ち上がる。ヤル気に満ちた表情で立ち上がったのだが、しわだらけのコートのような白衣に顔を顰める。

 

 「用意をする前に私はいつから風呂に入ってなかったかな?」

 「――シィ―――ァア」

 「たった四日か。でもまぁ、入っておくかな」

 

 白衣をフランに預けると資料の山を踏み締めながら簡易なシャワー室へ向かう。白衣を洗濯籠に叩き込むフランにシャワー室のプロフェッサーの声が響く。

 

 「フーラーン。着替えが終わったらヴァイス城に行くから神父ぼっちに連絡入れといて。それとここは引き払うから焼き払う準備とグリーザの起動宜しく」

 「――ウァ」


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