骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 二週間以上も投稿出来ず申し訳ありません。
 ここ最近平日の午後は暑さで頭がボーとして打つ手が進まずようやく書けました。冷房機器も効かせ始めましたので来週からは一週間に二話ずつ投降できると思います。


第176話 「ぼっちがぼっちで帝国入りしたようです」

 『帝国に行って頂けますか?』

 

 ジョルノの吸血鬼騒動で出向いている間にユリのほうに届いていたメッセージだ。よくは知らないがなんでも帝国で商売してもいいとの事で王国側の先陣をきってほしいと。

 帝国には行った事がことがなかったから少し気になっていたんだよね。皇帝が優秀らしいから街もしっかりしているだろうし、何よりアニメで見た帝国ってどこか独特なんだよね。

 ほらコードギアスやヤマト、幼女戦記にゴルドランとか……あ、ゴルドランは帝国じゃなくてワルザック共和帝国だっけ?

 詳しい話は会ってからと付け加えられていたが楽しみで仕方がなくて吸血鬼騒動からそのまま行っちゃいました。王国での商業も楽しいのだが帝国で行なうとなれば別だ。王国の人間としてカウントされる身では動き難いだろう。王国から物資を輸送しようとしても高い関税をかけられるだろうし、生産拠点を得ようにも帝国の人間からは良く見られないだろうからすぐにすぐは上手くいかないだろう。

 難易度上げてやるのも楽しいだろう。

 

 と、言う訳でぼっちがぼっち(たったひとりで)で帝国に着ました。

 魔物がどうとかでルート変更させられて入国するところも制限されたりと大変だったけれど何とか着いたよ。商売を行なう前に観光もしたいし、帝国にあるという魔法の学校を見てみたいし、やる事がいっぱいだよ。

 

 整備された道に街並みに添った建物、利便性や合理性を重んじた街並み。そして―――人っ子一人いない街。

 

 なぁんでだ~れも居ないかな?と感想を抱きながらスキルで索敵を開始する。街道には人は見えないが屋内にはしっかりと反応がある。が、何処か怯えているようにも感じる。

 千年公とヤルダバオトを名乗るモミとデミウルゴスによるゆっくりとした手を抜いた侵略を受けて帝都からも人が離れつつある事を知らないのだ。

 

 仮面の上から頬を掻きながら街道に並ぶ店の看板を眺めながら適当な店を選ぶ。スキルを使えばこの世界の言葉を読めるが看板はそんな事をせずとも描かれている絵で見分けがつく。とりあえずパンの絵が描かれている店に入ってみる。

 

 「お邪魔・・・する・・・あれ?」

 

 店内に入ると商品のパンが並んであるのは何処でも変わらぬが店員が見当たらない。小首を傾げながらとりあえずトレイにパンを取っていく。その内出てくるだろうと思ったのだが一通り見て、欲しいパンを数点取っても誰も出てこない。キョロキョロと辺りを見渡しながらカウンターにベルが置いてある事に気付いて二度ほど鳴らす。甲高い音が静かな店内に短く響き渡る。奥から慌しそうに駆けて来た老人がぼっちの姿を見てギョッと驚く。

 

 「こ、こんな時期に貴族様が何の御用で?」

 「パン・・・買う・・・」

 「ヘイ。って金貨!?おつりは――」

 「・・・いい」

 

 袋にパンを詰めていた老人に金貨を渡してさっさと店を出る。本当なら「つりはいらねぇよ」みたいな事を言いたかったのだけれど見知らぬひとり相手だと精神安定が働かず、口が回らなかった。紙袋に詰められたフランスパンモドキを試しに頬張る。以前の王国の食物事情より豊富な分だけ美味しいがぱさぱさのすかすかである。まぁ、この値段ならそんなもんかと納得するがぼっちが求める基準からは低い。これならパン屋を帝国で開業しても問題なさそうだ。

 食べながら武器屋やアイテム屋へと足を運ぶも休業中だったり、入り口は開いているが店内は慌てて逃げ出したかのように物が散乱していた。夜逃げかと思いつつも残った品々をスキルで鑑定するも程度が低く、すべて西洋剣ばかりで日本刀がない…。それは置いておいても良い品は持って行っているだろうからどれほどか計り辛いけどね。

 

 にしても本当に通行人がいない。こうやって出歩いていても道で見かけたのは荷物を抱えて街から逃げ出すかのように大慌てで去って行く人と、人が居ない事をいいことに不逞を働く輩の二択だ。後者には犬神家のすけきお君みたく噴水へ叩き込んでおいたけど。

 仮面を付けなおしつつ公園のベンチに腰掛ける。子供が遊ぶ場所というよりは花壇で育てられている花を愛でたり、ゆっくりと過ごす場所らしく、ここに紅茶とお茶菓子があればよかったなと思う。

 

 なんかヤル気も無くなってただただボーとしていると徐々に騒がしくなってきた。あまりにボーとし過ぎて少し眠い。不眠のアイテムを外したままだったのを忘れていた。まぁ、別段このままゆっくりしてても良いか…。

 目を閉じてそのままベンチで横になる。が、ほどなくして誰かに揺らされる。

 鬱陶しく突かれた物を手で払い横向きになって背を向ける。それでもしつこくしつこく突かれる。あまりにしつこくて苛立ちながら上半身を起こして振り向く。

 

 歪んだ笑みを浮かべたゴブリン数体が下卑た笑い声を上げながら見つめていた。

 

 大きくため息を吐き、帽子を直しつつ立ち上がる。ゴブリン達は慌てふためく様子を期待していたらしいが 違う様子に不思議そうに仲間同士で顔を見詰め合っていた。

 

 「折角の・・・」

 「ンァ?」

 「・・・快眠を」

 

 腰に提げていた刀の柄を掴み、刃をほんの少し覗かせ小さく弱い光を反射させたと思ったらカチリと音を立てて覗いた刃を戻した。

 

 「邪魔するな・・・」

 

 ぼそりぼそりと言い終える前にゴブリンの首がポトリと落ちた。全員の首が落ちる中、歩いてその場を離れた頃になって首から血飛沫が舞い上がった。

 気分直しに甘味処にでもと思って公園から出て道路へと出るとモンスターの群れが…。

 なんだ?帝国ではモンスターの放し飼いでもしているのか?それともなにかの行事か?

 

 「なんにしたって・・・やるか」

 

 ゴブリンに狼の群れをばったばったと斬り伏せていくと道路が死体の山で埋まってしまった。さすがにやりすぎたか。死体の処理は炎系の魔法を収めたスクロールでなんとかするか。

 抜き身の刃を眺めると予想以上に血が付いていたので拭き取らずに、勢いよく振って付いていた血を刃より粗方落とす。……血が落ちた事で刀身がはっきりと見えたことでかなり刃毀れしてしまったことに気付く。いつも装備している刀と思って使っていたが、腰に下げていたのはレイル作の刀だったのをすっかり忘れてしまっていた。

 結構気に入っていた日本刀の一本だったから心へのダメージが大きい。やってしまった感と共に鞘に収め、歩き出そうとすると視線を感じる。それも一つ二つではなくなんじゅうものだ。

 振り返ると騎士らしき集団に一般人が紛れて唖然とこちらを見つめていた。多くの視線が向けられたことで心拍数が上がり、精神の安定化が発動。安定化の光が見えるならクリスマスツリーよりも輝いて見えるだろう。

 

 「あ…あなたは一体…」

 

 恐る恐る口を開いた騎士の問いに少し悩む。一応許可は出ているとは言え王国からやってきた王国貴族の商人がいきなり何の用途かは知らないがモンスターを殲滅。闘技用とかなら損害賠償も起きる事案…。それ以上に【王国の貴族が】と騒がれて王国の名に泥を塗りたくる事になりかねない。だからと言って他の理由や正体を隠す方法も思いつかないためにそのまま名乗るしかないのだが…。

 

 「私はアルカード。

  リ・エステーゼ王国貴族のアルカード・ブラウニー伯爵です。

  此度はバハルス帝国皇帝陛下より自由貿e…」

 「アルカード・ブラウニ-って平野で王国の指揮をとった?」

 「ええ、とりましたが…あ」

 

 よくよく考えたらここて完全アウェーだよね。王国では勝利して大変喜ばれて忘れかけていたけど、ここでは帝国を敗北させた相手なんだった。ラナーちゃんに会ってから来るべきだったか。もしくは荷物を護送をしているマインと一緒に来ればよかったか。

 

 「そんな奴が帝国に何のようだ!!」

 「え、あ、んー…ラナーちゃ――女王からバハルス帝国の皇帝陛下と話がついてて先行(下見)して来ただけだ。そちらに危害を加える気はさらさらない」

 「護衛は居ないのか?」

 「現在王国より物資(売り物)を運んでいるのでそれの護送に回している」

 

 かなり警戒しつつあった騎士達が徐々に神妙な顔つきに変わってきた。唸るように悩み、仲間と話し合い始めた。スキルを使えば聞こえるだろうが素直に待つことにする。人前で兎耳だして盗聴してますなんて出来ないしね。

 それにしてもボソボソとずっと仲間内で話して一向に動けないんですけど…。

 

 「すまないが状況を教えてくれないか?」

 「―ッ!?アンタ…まさか…」

 「私がなにか?」

 「王国からの援軍なのか?」

 

 ――――ん?どゆこと?

 

 「そういう事ならついてきてくれ。仮の指揮所があるからそこで話を」

 「あ、はい」

 

 何故か嬉しそうに案内をする騎士に疑問符を浮かべながらついて行く。

 帝国騎士は王国と帝国で話がついたなどで将として有名な彼が補給物資を持って千年公とヤルダバオトに襲われている帝都へ援軍として来てくれたと勘違いし、ぼっちはぼっちでラナーと皇帝の間でそういう話になっていたのかと勘違いをしたまま指揮所へ向かうのであった。


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