骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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外伝12話 「激突した人と吸血鬼」

 ギルド連合体であるソルブレイズには様々なギルドの団員が集まっている。

 ウルブスにサバトにエルドラド、デスサイズスなどなど。その中で長門武士団というギルドは一番支配欲の高い集団になっていた。支配して何を成すか、何をしたいかではなく力があるんだから弱い者を従えてみたいという理由でだ。

 これまでは口にするだけで気にも止めなかったが最近になってやたらと動きが活発化してきた。

 無理な勧誘や地元民に対する横暴な態度…終いには防衛拠点用城まで築く始末。

 

 フルブレイズとしてはこれ以上の横暴を見逃すわけにも行かず、NPCぼっちの号令の下に戦闘態勢を整えたが、集まったのは48人中18名。長門武士団は12名だけだったが長門武士団に付いた者が8名でたのだ。残りの10名は中立を貫いたり、様子見をしていたり、この場に居なかったりする者達。

 相手のほうが二人多い程度の戦力差なら隊長格が多いぼっち側が有利であった。あったのだ。八名の中にビオの姿がなければ…。

 

 ビオは対モンスタープレイヤーではなく対人戦闘を最も得意としていたプレイヤーでソルブレイブス内で接近戦ナンバー2の地位を持っていた。彼を倒すならばプレイヤーのぼっちが居ればよかったのだが、居ない現状ではスレインにスサノオとエスデス、皐月の四人がかりで相手を出来るレベル。しかしそれでは19対主戦力の抜けた14と数的にも実力的にも圧倒されてしまう。

 

 ソルブレイブスにとって悪い知らせはそれで留まらず、ビオが長門武士団に付いた事でプロフェッサーまでもが長門武士団側に移ったのだ。プロフェッサーは『ヴァイス城』の拠点防衛のゴーレムのマスターである事からゴーレムまでも敵に回り、ヴァイス城は実質長門武士団の手に落ちた。

 

 交渉は受け入れられず、彼らの考えを否定する為にも戦いを選び、野戦を仕掛けなくてはならなくなったソルブレイブスは長門武士団が造り上げた城の前に陣取った。というか陣取るしかなかったというほうが正しいか。本拠地は取られてゴーレムとの挟み撃ちを回避するにはヴァイス城に移る時間が無かった長門武士団側を城に押し込めるほかなかった。長門武士団もヴァイス城の占拠はプロフェッサーの独断だったが為に紙のような防御力しかない城から移るのが間に合わなかったのだ。

 

 この戦いの勝敗はすべてスレインに掛かっていた。

 交渉の話を持ち出した際にビオから『話し合い』に応じてもいいとメッセージにて返事があり、説得役として白羽の矢が立ったのがスレインだった。あまり大勢を行かせると武士団に攻められる可能性があるから一人なのだ。というかスレイン以外にビオに本音で話せる人間がいないと言うのもあるが…。

 

 兎に角、武士団側で最も強いビオを引き込めれば戦力を増やせるだけでなく、ビオにくっ付いて行ったプロフェッサー、プロフェッサーの指揮下にあるゴーレム達まで仲間になり、一気に優勢に立てる。問題はビオがそれほど上手く話を聞いてくれるかの一点だが…。

 

 「ちょ!おまっ!ふざけんなよ!!」

 「ふざけてなどおらぬわ!」

 「話し合いは何だったんだよ!?」

 「拳と拳で語り合おうってんだろうが」

 「そんなの俺が知ってる話し合いじゃねぇって!!」

 

 タワーシールドを構えたスレインはビオの連打を受け止めながら大声で怒鳴りつけるが、良い笑顔で殴りつけてくる相手に通じる訳もなく殴りを受け止めるだけだった。

 

 知らされた場所に注意しながら来たのだが、伏兵や罠の類はないので安心しきったところで正面から現れたビオに殴りかかられているのだがまったくもってどういう事だこれは!?

 

 「このっ…」

 「甘いわ!」

 「カハッ!?」

 

 連打を受け止めていたがさすがに受け続けるわけにもいかず、タイミングを見計らって弾き、ボディががら空きになった隙を逃す事無く剣で突くが、読まれていたらしく逆に腹部に蹴りを受けて地面を転がされる。転がされた勢いを生かしてそのまま立ち上がり防御の体勢をとる。流れるような動作にビオは驚きつつ、口笛を吹いて楽しそうな笑みを浮かべる。

 

 「やはりというか…強すぎるでしょ」

 「ふん!伊達にプレイヤー狩りをしていただけのやつではないだろう?」

 「ぼっちさんに出会う前ですか。しかし今の貴方がどうして武士団側に付いたんですか!」

 「確かに俺はぼっちさんに仕えた。

  あの人の強さは異常だった。なのに驕る事無く、仲間を無下にする事も無く、別れの日まで皆と共に歩んでいた。

  そんなぼっちさんに憧れ惹かれた。

  俺もあんな風になれればとな…」

 「だったら弱者を己が欲で虐げようとしている武士団の行為はぼっちさんの行いと正反対のものではないですか!」

 

 説得と言うよりは思っていたことをぶつけた。

 ビオがぼっちにどんな気持ちを抱いていたかはだいたいだが予想していたし、気付いていた。彼とてここでの生活を気に入っている事も。

 口が悪いのはいつもの事だがそれでも村人と接し、子供たちに教鞭をとり、暇があれば兵士達の特訓に付き合ったりしてくれていたのを住民もプレイヤーも知っている。

 顔を顰めながら口元に手を当てて悩み、大きく息を吐き出した。

 

 「あー…闘いたくなった」

 「闘いたくなったってそんなのいつだって言ってくれれば―」

 「それでは必死さは無いだろう。

  今の貴様はこの世界の住民の運命を背負っている。

  赤子も子供も青年も大人も老人も男も女も人間種も亜人種も異形種も――すべて生命の運命がお前達に掛かっているのだ。

  必死になるだろう。勝たなければならなく、負けるわけにはいかないのだからな」

 「ええ、負ける訳にはいかない。

  無闇に蹂躙する様を見たくないし、ぼっちさんが造ったギルド連合の結果をそんなものにしたくない。

  だけどそれより貴方が本気で『闘いたい』だけで動くとは考えられない。

  態度が大きく、口は悪い為に横暴な人だと勘違いされやすいけれど貴方はぼっちさんに近いタイプだ」

 「買い被り過ぎだ。俺は好きなようにするだけだ」

 「だけど自分が決めたルールは守る。

  無闇に襲うのではなく強い者のみを狙って弱いものは襲わない。

  相手を馬鹿にしたような口調で話す事はあるけど尊厳や意地をわざと踏みにじる事はしない。

  他にも――」

 「ったく、なら言い方を変えよう」

 

 ニヤリと笑い、赤く輝く瞳がギラリとさらに輝きを増してスレインを捕らえる。

 決して怯む事無く対峙したまま盾と剣を握り締める。

 

 「俺は人間ではない。俺は吸血鬼だ。

  今までは己の意思で人間としての理性で抑えてきた。だが―――俺は人間を止めるぞスレイン!

  本能の趣くまま血を啜り、弄り、支配し、殺してやろう!!」

 「…そうか。ならば俺は――止める」

 「殺すのではなく止めるか!良いだろう。一撃でも俺に浴びせてみろ!出来るものならな!!」

 

 駆け出したビオの速度は尋常なものではなかった。姿勢を低くして地面を抉りながら突進してくる。対してスレインが取れる戦法は盾でガードして隙を見て剣で突く防御主体のもの。本来なら魔法詠唱者やアタッカーが一緒にいてこそ生きる戦術。通じないとしても逃げるわけには行かなかった。

 

 『すべて生命の運命がお前達に掛かっているのだ』

 

 そうだ。

 ここで引いたらすべてが終わってしまう。

 住民は勿論俺達もどうなるか分からない。自分が死ぬぐらいなら良い。けれど今、自分の脳裏に浮かぶのは皐月の事ばかり。どうしようもなく彼女がやられる様を見たくない…。

 

 「まったく…」

 

 素早く装備を入れ替え今まで使ってこなかった腕だけを守るような長方形の盾を装備する。

 警戒しながらも拳にスキルを乗せて突っ込んでくるビオ。

 スレインは微笑みながら構える。

 

 「ウラァアア!!」

 「無駄!」

 

 右ストレートを盾でガードし、剣を振り下ろす。それを左のアッパーで弾かれ、即座に盾から離れた右の拳がスレインの顔目掛けて放たれる。いつもなら直撃していた攻撃が半歩ずらす事で眼前を通過していった。

 

 「なにっ!?」

 「俺はどうかしてるな」

 

 自身が隙だらけになった事を悟ったビオは直感的に飛び退いた。その感は当たっており、スレインはずらした足に合わせて身体の向きを変え、盾を突き出した状態でタックルしようとしてきたのだ。飛び退いたおかげで喰らう事は無かったがいつもと違いすぎる動きに驚きを隠せない。

 

 「動きが違いすぎる!」

 「何百、何千、何万、何億の人々より―」

 「なに!?なにを言っている!!」

 「皐月一人を護りたいなんてな!!」

 

 臆する事無く盾を構え、剣を振り上げたスレインは猪突猛進ではなく、勇猛果敢に斬り込んだ。纏った覇気に途惑いながらも笑みは絶やさない。

 

 剣と高質化を施された拳がぶつかり合い、火花を散らしながら辺りに衝撃で起きた風を吹き荒らす。

 

 「クハハハ!何を言うかと思えば一人の女の為か」

 「そうだ。一人の女の為だ!」

 「すべての生物よりもか!面白い。面白いな!」

 「言ってろクソ吸血鬼!」

 

 二人は至近距離で各々の獲物を振り回し、掠り傷を増やしていく。

 ユグドラシルでは多少HPが減るだけの攻撃だがこの世界に転移した事で、ユグドラシルの身体はデータの集合体から実際の肉体として変化した。ゆえにHPと関係なく、腕を斬りおとされれば腕は落ち、胴体を引き裂かれればその通りになる。

 剣が頬を掠れば表皮は破れ、傷が生まれる。

 鉱物さえも砕く拳が掠れば痣が出来る。

 何度も、何度も、何度も拳と剣が行き交うがお互いに一撃を決めれないでいた。

 ビオは直撃しそうな一撃だけを回避し、スレインは防ぐのだ。

 

 「無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!!」

 「無駄無駄五月蝿い!!っつあ!?」

 

 拳で殴り続けていた為にスレインの意識が拳に向いていた為に足元がお留守になってしまった。そこにビオは蹴りを入れて体勢だけを崩す。ここで本気の蹴りを入れて距離をとられれば警戒されて無駄な一撃になってしまう。しかし、体勢を崩す程度なら距離をとる時間を与えないまま、無防備なスレインに連打を当てることが出来る。

 

 「勝った!」

 「まだだ!!」

 

 振り被った一撃を繰り出すと同時に何かが眼前まで迫っていた。

 

 それは盾だった。

 

 守る為の盾が眼前に迫っている事に理解が追いつかなかったが、身体は素直に防御に動いた。殴りかかろうとした右腕の肘を折り曲げて、顔の前に無理に移動させる。ガードする為に顔の前に出した腕の血肉を盾が抉り取っていく。痛みに声をあげる事はしなかったが、自分が仕出かした悪手に思わず舌打ちをする。

 顔を守るためとは言え、眼前に腕があっては前が見えない。結果、スレインの剣に反応できず左肩が突かれてしまった。刺された傷口より血が溢れ出て、スレインに飛び散った。今度は返り血が目に入ったスレインが反応できず、ビオのパンチをもろに受けてしまった。しかも顔面に。

 

 声を漏らしながら吹っ飛ばされたスレインは顔を抑えつつ立ち上がった。衝撃で脳が揺れて視界が定まらないが、転がっていたら成すすべなくやられてしまう。だから立ったのだが――ビオは鼻を鳴らしてその場に腰を降ろした。

 

 「俺の負けだ…」

 「へ?……どういう―」

 「俺の負けだと言っただろう!!二度も言わせるな!!」

 「お、おう…」

 

 あまりの怒声に肩を震わせ返事をする。どうやらこれ以上闘う気はないらしい。ホッと安心して自身もその場に腰を降ろした。

 

 「さっきな」

 「うん?」

 「さっき言った理由は全部嘘だ」

 「知ってるよ。分かりきっている。」

 「くっ、なら良い」

 「だけど本当の理由が分からない」

 「自分で考えろ!」

 「折角勝ったんだから教えてくれたって良いだろ?初の勝利なんだし」

 「………試しただけだ…」

 「ごめん。聞き取れ難かったんだけど」

 「試しただけだ!ぼっちさんが残したギルドをお前達に預けていいものかどうかをだ!!」

 「ちょっと待て!別に試されるのは…腹は立つが今は置いておくとしてもお前が武士団に付く理由にはならないだろが」

 「簡単な事だ。正面からぶつかり合うよりは弱ったところを側面から思いっきり殴ったほうが効果があるだろう」

 「……つまり…なんだ。もし俺が合格を貰えなければ武士団と戦わせて、両方を相手にしようとしていたのか?」

 「俺だけじゃない。プロフェッサーとディオも一緒にな」

 「なんだそれ…最初ッから俺達に付いてくれてても良かったんじゃないか」

 「それでは意味が無い。俺に対峙しても自分の正義を貫こうとする意思を確認できないじゃぁないか」

 「なら俺は合格なんだな?」

 「ああ、満点以上のな…」

 「だったら早く終わらそうか。あの馬鹿騒ぎを」

 「フン…良いだろう」

 

 スレインの意思を確認したビオが武士団側からスレイン側に移ったことは即座に両陣営に伝えられ、諦めの悪い武士団側はスレインとビオが戦列に加わる前に攻勢に出たが、正面のソルブレイブスを相手にしている最中に背後からプロフェッサーとディオの不意打ち、何とか間に合ったビオとスレインの左翼からの強襲。そしてプロフェッサーのゴーレム達がソルブレイブスに合流した事で戦意を喪失。全員が降伏投降する事に。罰として一部アイテムの没収に国造りの強制労働で済んだがNPCぼっちは何処か納得していない様子ではあった…。


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