骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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外伝11話 「異世界での国造り」

 異世界に転移したスレイン達はあの村に来ていた。

 村長の家の前には村民が全員並んで順番を待っていた。中にはプロフェッサーとミイ、そして皐月が中で作業を行なっていた。

 

 「はい、もう口閉じていいですよ」

 「はぁ…」

 「えーと、ミイさん異常は?」

 「………」

 「あの…ミイさん?」

 「無かったよ…」

 

 顔をそっぽに向けたミイにプロフェッサーと皐月が苦笑いをする。

 そんな光景に何も分かってない村民は首を傾げて聞きたそうにしていると「もう良いですよ」と建物からの退出を促す。

 

 「やはり私は嫌われたままなんでしょうね」

 「ははは、本当に何でこのメンバーで…理解はしているんですけど」

 

 今回このメンバーはこの異世界の人間と自分達が居た世界の人間は同じかどうかを調べる為に編成された。プロフェッサーは医学の知識を持っており簡易的に調査でミイが索敵能力で内面や隠された物を見破り、調べる途中で病気や怪我を発見したら皐月が治療とそれぞれ担当として申し分ない。

 ただミイとプロフェッサーの仲がNPCぼっちの件で悪い事以外は…

 

 「ところで君の彼氏だけど」

 「か、彼氏じゃありません///」

 「では、旦那…」

 「もう!怒りますよ!!」

 「あははは、申し訳ない。で、スレイン君は何を?」

 「スレインは…」

 

 

 

 白銀の鎧ではなく私服に片手剣のみの装備のスレインは村の中央にて若者達と模擬戦を行なっていた。

 現在村はソルブレイスの手によって強化されていた。

 プロフェッサーのNPCゴーレムと召喚ゴーレムを用いて城壁や建築物を造り、召喚された人型使い魔や魔法を扱って大きな畑や田んぼを作り食料の生産準備を始めた。

 ゴーレムは疲弊も疲れもせずに24時間働けるし、召喚された生物だって呼び直せば作業の手を止める事はない。ただ召喚された者では学問や剣術など頭を使うことは無理なようだった。

 スレインにエスデス、スサノオの三名は剣術などを教える為に若者を中心に防衛組織を作って剣術を教えていた。剣術だけではなくチーム戦や一対多数など今までユグドラシルで培ってきた戦術や戦略を説いたりもしている。

 

 「今日はこれくらいにしますか」

 「…そうですね」

 

 スレイン達三人を中心に200名もの若者が肩で息を切らしながら地面に倒れこんでいた。手加減していたとは言え100レベル三人相手にレベル10前後200名では相手にならなかった。それに体力の限界だ。

 

 「歯応えの無い連中ばかりだ」

 

 レイピアを納めながらつまらなさそうに呟くエスデスにそう言ってやるなよと言うがまったく聞いてはいなかった。苦笑いをしながら声が響く方へと視線を向ける。

 視線の先には子供達に教鞭をとっている一人の吸血鬼…ビオが立っていた。子供と言っても十歳未満の子から二十歳以上の青年まで幅のある年齢層相手にひとりで勉強を教えている。

 傍から見れば年下の奴らに口悪く怒鳴り散らしているように見えるが実際は事細かに一人一人に合わせた教え方をしていて生徒からは笑顔が向けられている。

 

 「本当に教授だったんだ…」

 「人気はありましたから」

 「クセが強いがな」

 

 リアルの教え子だった二人が言うことだから確かなんだろう。俺は威圧的に見えて苦手だが…。

 

 

 

 スレイン達がこの世界の住人達と関係を持ち始めて二ヶ月が経った。

 元の世界に戻る手筈が分からない以上この世界の事を知るのが妥当だろう。

 分かったのはこの世界はユグドラシルと同じ性能のキャラで魔法やスキルが使用できる。

 知っているモンスターも居れば未知のモンスターの存在も発見した。

 文明レベルは中世初期のヨーロッパぐらいで、現地人の学力も同等であった。

 ステータスはレベル5以下が平均だ。

 

 この程度の相手なら眼中に無く、自分達だけで生きていける仕組みを構築しようとか、俺ら王様とかなれるんじゃね?などという相手を軽視した意見が出てきているが賛成は出来ない。

 僕達はこの世界では異物だ。いや、異物であるとかないとかではなく、絶対的な強さを持っているからといって他人を支配しようなんて考えを受け入れられない。

 あの人なら絶対にしない行為だろうし…。

 

 現在ギルドのリーダーを誰に務めてもらうかと議論した結果、NPCのぼっちがその役目に付いている。

 本来ならスレインが行なうべき役職なのだが異世界に飛ばされてからどういう目標を立てて進めば良いのか判断できず、自分が知っている中で一番冷静で、人としての道を踏み外さないだろうと判断して臨時ギルド長の座に収まってもらっている。

 どうやらNPCは書き込まれた設定に忠実のようで、ぼっちは騎士としてのあり方などやプレイヤーのぼっちの事が書かれていて、その通りに動こうとしている。おかげでこちらは動きやすくて助かる。

 

 「…ところで兵士の育成だがどの程度まで?」

 「そうだなぁ。レベル15ぐらいには上げたいけど」

 「あの軟弱な集団に期待するだけ無駄なのでは?」

 「んー…やっぱりそう思うよな」

 

 最初に接触した村はこちらがモンスターから助けた事で絶対的な信頼を寄せており、NPCぼっちの考えでこちらに依存しないように自立できる程度には持てる技術を与えようという事になったのだがあまり芳しくない。

 

 医療技術は心得を持つプレイヤーが居ないが為にミイの索敵スキルで魔法特性のある農民に魔法詠唱士がヒールやポーション作成を教えているのだが、ヒールはヒールのレベルが低すぎて擦り傷を治す程度のもので、通常の赤いポーションを作れば回復能力と赤色の液体から『神の血』なんて大袈裟な名が付いた。現状ではヒールの錬度を鍛える為にMPギリギリまで使わせて微々たる物ではあるが錬度を上げている。ポーションを作成するスキルは無い為に索敵班にこの世界にある物で調合できないか調査中。

 モンスターから住民を守る為の武装組織はスレインを始めとする数名が教官として戦い方を叩き込んでいるが、動きだけではレベルは上がらず、モンスターを討伐してレベルをあげようとするが勝手が違って上手くいかなかった。ユグドラシルならば死んでもプレイヤー本人にはデメリットがなかったがここでの死はそのまま終焉を意味する。無茶なレベリングは出来ずに安全を第一に考えた微量のレベリングしか行なえず長期戦になるのは止むなしとなった。しかもゲームとは違って彼らにはHP・MP以外にスタミナの概念がある為に長時間の戦闘も不可能である。

 食糧事情は昔の農業事情を知識だけだが知っていてくれた者が居たから簡単に行くかと思われたのだが、己の損得無しにモンスターから人々を守る騎士が居ると噂が広まってしまい、村に許容できる範囲を超えた人間が集まってしまったのだ。予定していた生産力を軽く超えて、現在はギルドの食料生産系アイテムで賄っているが未来を見据えると農地の開拓は必須。しかし索敵スキルを持つ索敵班のほとんどが医療や付近の探索に出ていて人手が足りない。

 むしろビオが受け持っている学問や法律や村の運営所などのほうが現在一番上手くことが進んでいる。

 

 「多少無茶でも蘇生アイテムでも使用してみるか?」

 「死の恐怖を簡易的なものにして良いものか…」

 「いっその事、パーティを組むだけ組んでモンスターを討伐するのはどうだ」

 「どうだってお前…。戦うモンスターってギガントバジリスクとか彼らじゃ手も足も出ない奴だろう? 」

 「そうだ!」

 「駄目に決まっているだろう…絶対トラウマになる。それに実質の伴わない強さってあんまり意味無いと思うぞ」

 「…ふむ。つまらんな」

 

 ため息を吐き出しながら最近本気で戦えずに欲求不満になっているエスデスに呆れた視線を向けながら頭をガシガシと掻く。いろいろやる事が多すぎてパンク寸前。猫の手も借りたいぐらいなのに主戦力が減る事態に陥ったりしている。

 

 元々連盟となったギルドの残ったプレイヤーを集めた団体で一致団結をするのは難しく、あるグループが生まれつつあった。

 一つがスレインやNPCぼっちを始めとする住人に積極的に関わり、彼らにいろいろ教えているグループ。

 スレインのグループと真逆にこの世界の人々を軽視して善からぬ想いを抱いているグループ。

 どちらにもはっきりとは付いていない中立グループ。

 そしてギルドから脱退していった野良のグループ。

 この野良のグループには頼りになるクロノと二つ名持ちのみのりこも入っていた。元々警官だったクロノは村からこの世界ではモンスターに襲われるなんて日常茶飯事だと聞いて、人々を守ろうと行動したいと言い出したのだ。この右も左も分からぬ状況下で勿論反対する者もいたが、個人の自由を縛る気は無くスレインは送り出した。それにみのりこが付いていく事に。

 正しい判断だったと今でも思っているが後悔は絶えない。今、彼がいたらどれだけ楽だったのだろうか…。

 

 ちなみにミイもいずれギルドから離れると表明している。理由はNPCぼっちが嫌いだからだとか。何でもぼっちさんに似せて似てない行動や言動に苛立っているらしい。一緒にいるのも嫌だと…。

 

 再び大きくため息を吐いてから、気合を入れるべく頬を思いっきり叩く。バチン!と渇いた音が響き、地面に転がって息を荒げていた若者の視線が集まる。

 

 「さぁて、悩むのは後だ!後!!とりあえず目の前の仕事から終わらすか!」

 「ふふん。なら死なない程度にスパルタで行くか」

 

 気合を入れなおしたスレインと怪しげな笑みを浮かべるエスデスに青ざめた顔で引きつる若者達。助けを求めようと若者達の視線がスサノオに向けられるが庇いきれないのを解りきっている為にそっぽを向かれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 ソルブレイブスが保護している住民達は各々の住まいに戻り、皆が皆休息をとっている闇夜が支配する深夜にビオは保護エリアから離れた洋館の書斎にてワインを楽しんでいた。 

 書斎として使っているが壁一面に本棚が置かれ、ヴァイス城の自室より持ち出した本がずらりと並べられ、図書館といった方が正しい気がする。内部にはビオが腰掛ける椅子とワインと数冊の本を置けるだけの小さな机、薄っすらと辺りを照らすろうそくが置かれているだけだった。

 種族が吸血鬼なだけあって蝋燭のか細い灯り一つ無くても暗闇の空間すべてを見ることは出来る。他に多種族の誰かがいるのなら別だが、ここには吸血鬼しか居ない。なら点けなくて良いではないかと思うかも知れないが、単に蝋燭の灯りが灯っているという雰囲気が欲しくて点けているのだ。

 

 「ふむ…これは読んだな」

 

 適当に選んだ本と無造作に投げ捨てる。それを本棚と本棚の間に立っている柱に背を預けていた男が拾って元の本棚に納める。男の名はジョルノと言って、ビオが唯一創造した吸血鬼のNPCである。整った顔立ちに金髪はビオのキャラクターに似ているが真面目そうな面構えに学生服からの印象で理性的な事が伺える。

 つまらなさそうに鼻を鳴らして、机の上に積み重ねた一冊を手に取る。ぺらりとページをめくって、片手をワイングラスへと伸ばす。味わうようにではなく一気に飲み干して、机にグラスを戻すとジョルノが次の一杯を注ぐ。

 この行動を朝まで繰り返すのが彼らの日課であり、ここに来てから唯一普遍の日常である。

 

 保護エリア外堀に洋館を建てたのは広がったエリア防衛の拠点を確保する為だった。洋館の周りにはプロフェッサーが創り上げたゴーレム達が異常がないかを常に見張っていた。もし敵襲があれば待機しているプレイヤーが敵の排除。もしくは時間を稼ぐことになっている。同様の建物が東西南北の四箇所に建てられているがビオがいる洋館以外は小さな一軒家で常に二人で詰めている。何故一箇所だけ洋館が建てられているかと言うと『夜ぐらい静かに過ごしたい』というビオが自ら建てた為だ。

 

 ページをめくる紙が擦れた音が支配した部屋でいつも通りの日常を過ごしていたビオはピタリと指を止めた。外に人の気配を…いや、臭いを嗅ぎ取ったからだ。

 

 「ジョルノ」

 「ええ、分かりました」

 

 ビオと同じく気付いたジョルノは背筋を伸ばしたまま部屋を出て行く。敵襲であればビオも出なければならないが、その場合はゴーレム達が騒ぎ出すだろう。声は出せないから地面を何度も何度も打ち付けて大きな揺れを起こすので本が散らばって迷惑極まりないのだが。

 

 再び部屋に戻ってきたジョルノの後ろには長門武士団の武士が三人ほど並んでいた。見覚えのある面子にため息を漏らしつつ視線を戻す。

 

 「話は聞かんぞ」

 「そこを何とかお願いします!」

 「くどい!この俺が貴様らの片棒を担いで何になるというのだ!!」

 

 長門武士団はこの世界を支配しようと一番に言い始めたグループだ。しかしスレインなどの主メンバーに反対され、武力を行使しようとしても実力者もスレイン派についており、手も足も出ない状況に追い込まれた。ゆえに二つ名持ちで単独プレーが多いビオを引き込もうと必死なのだ。現状のソルブレイブスではビオに勝るプレイヤーはいない。ビオがどちらにつくかで優劣が付いてしまうのだ。もし互角近くに戦えるとしたらクロノやみのりこ、可能性は低いがスレインぐらいである。

 

 「お願いです!部隊構成も砦である城の建設も順調。後はビオさんが加わってくれるだけでこの世界は私達の物となるのですよ!?」

 「フン!貴様らと支配する気は無い。するのなら俺が!俺一人が絶対の王として支配してやるわ!!」

 

 本を机に叩きつけながら睨みを利かせる。何度目か分からぬ引抜に相当イライラが積もってた。殴り飛ばしてもいいだろうと拳を握り締めながら立ち上がった所で一人の武士が立ち上がった。

 

 『――――――』

 「………ふむ」

 

 メッセージで伝えられた言葉に考え込みながら不敵な笑みを浮かべた。まるで一ヶ月間ありつけなかった獲物を目の前にした肉食獣のように血に飢えた瞳をしていた……。


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