骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第173話 「ジョルノ」

 「グラビティメイルシュトローム!!」

 「くううう!!」

 

 ディオと名乗っていたジョルノは一歩も動く事かなわず応戦していた。

 

 自分は願った。

 創造主である御方の復活を。

 口は悪く、厳しい面を多く見せるが本当は優しく、相手を気遣う心を持った方だと知っている。不敬ながらも自分はそんな主に父親に寄せるような感情を抱いていた。

 絶対的強さを持っていながら主君と定めた御方が行くであろう道を進み…亡くなった…。

 あの時、あの日、あの場所に間に合わなかった自分の落ち度だ…。

 そして僕の心はその日から死んだ。復活させる術はあるらしいが自身にその力は無く、蘇生アイテムは所持していなかった。

 ただただその日その日を過ごして行くうちに吸血鬼の中で重鎮になっており、かなりの力を持つようになっていた。別に力があろうがなかろうが自分にしたい事などありはしなかった。

 千年を超える時を生き長らえた僕に光明が差し込んだのはある事件がきっかけだった。

 ヤルダバオトという悪魔がリ・エステーゼとかいう王国を攻めた事件。事件事態には興味は無かったが、『蒼の薔薇』という冒険者チームの話には興味を持った。

 吸血鬼の会合で事件の話になったときにヤルダバオトを撃退しようとした人間達が話題となり、有名な冒険者の話になったのだ。『漆黒の英雄』モモンは勿論の事ながら『蒼の薔薇』も話題となった。そして蒼の薔薇のリーダーは蘇生術を持っていると。

 生物を蘇えらせるなどプレイヤーや一部のNPCのみが行なえる技法と思い込んでいた僕には寝耳に水だった。

 下僕に情報を集めさせて、蘇生のメリットやデメリットを調べ上げ、準備を行ってきた。

 すべてはあの御方を蘇えらせる為だけに!

 

 それが…僕の唯一の夢がこの数時間で潰えようとしている。

 

 「リアリティ・スラッシュ・・・あーんどグラスプ・ハート♪」

 「うぐぁ…ぐぅうううう!!」

 

 距離を取った位置より魔法を次から次へと魔法を放つモミの攻撃を魔法の攻撃力を70パーセント下げるゴッズアイテムを拳に装備して殴りつける。デメリットとしては確実に直撃場所をアイテムの所にしなければならない。ゆえに正面から飛んで来たリアリティ・スラッシュは防げても、内部への攻撃であるグラスプ・ハートは防げない。即死無効をつけていたが為に即死はしなかったが防いだ追加効果で朦朧状態にさせられる。

 

 覚束ない思考を無理やり動かして放たれる魔法を防ごうと腕を振るい続ける。遠慮の無い魔法攻撃でモミのマジックポイントはどんどん減っていくが、ジョルノのHPもガンガン減って行く。HPは減って行く一方でストレスだけは溜まっていく。

 

 「貴方には…」

 「ふひ?」

 「貴方には正々堂々戦おうという精神は無いのか!!」

 

 先ほどからジョルノが一歩も動けずに魔法を受け続けているのには理由があった。

 

 彼の背後には彼の創造主であるビオの遺体が収められた棺桶が立てかけてあり、モミはジョルノではなく棺桶を狙っていたのだ。無視すれば勝てるかも知れないがそれだけは出来ない。自分の身が砕けようとも守り続けなければならない。

 

 問われた一言にモミは一瞬俯いて、大きく頷いてから満面の笑顔を見せた。

 

 「勝てばよかろうなのだあああああ!!」

 「くっ…貴方のような外道は初めて見ましたよ!!」

 

 血が出るほど歯を食い縛って敵対する少女を睨みつける。次の魔法はシャークスサイクロンという竜巻の中に何匹もの鮫が潜んでいるものを放ってきた。迫り来る竜巻を前にジョルノはモミのMPを覗き見る。スクロールでつけた能力だが今はとてもありがたく感じる。残り僅かなMP量から希望を持てるからだ。

 

 「今!絶対にやつを倒さなくてはいけない!僕の夢のために!!」

 「ちょ!おまっ!!」

 

 いきなりシャークスサイクロンに突っ込んだと思いきや一撃で霧散した。70パーセントのダメージを無効にして30パーセントを受けるが足は止まりはしなかった。慌ててヘルフレイムを放つが同じように拳の一撃により消失。吸血鬼の身体能力を発揮して一気に距離を詰めてきた。

 

 ずっと待っていた。魔法詠唱者の強みは魔法が使える一点に限る。逆に言えば魔法が使えなければ意味が無いのである。同じレベルでもステータスは近接戦をメインに育てられた者より格段に劣る。パーフェクト・ウォリアーという魔法でステータスだけは同レベルにする事が出来るがスキルは何も無く、魔法は使用できなくなる。だからモミのMPが減少するこの時を待ち続けたのだ。

 

 「リアリティ―」

 「させるか!タイム・ストップ!!ザ・ワールド!!」

 

 ジョルノを中心に生き物が、物体が、音が停止した。本来ならタイム・ストップと唱えるだけで発動する魔法だが創造主がそう付け加えていたのでいつの間にか癖になっていた。目の前で膠着したモミを真っ直ぐ見つめつつ拳に力を込める。一撃ですべてを終わらせるが為に…。

 

 「タイム・ストップ…」

 

 止まった時の中で誰かが呟いたような気がした。自分が止めた時の世界で動けるものなどいない筈だ。彼の中の常識ではそうだった。

 

 突如目の前に居たモミが消え去り、背後より強い衝撃を受け吹っ飛ばされた。コロッセオの観客席を転げ周り、背後に居るであろう者へと顔を向けた。

 

 そこには笑みを浮かべたモミが立っていた。

 

 「私が時を止めた。九秒の時点でな…なんてね」

 「どうして…」

 「時間を止める魔法は私も使えるし、対策もしているから。それが答えだよん」

 「あの御方より頂いた力が通じなかったのは初めてだ。だが、MPが切れた貴方に勝ち目は無い!」

 「それはどうかな。パーフェクト・ウォリアー!!」

 「ステータスを上げた所で……無駄ァ!!」

 「オゥラ!!」

 

 格闘戦スキルを持ち、モンクであるジョルノがステータスだけレベル100になったモミに負ける要素はなかった。

 

 が、結果は間逆でジョルノがモミに圧し負けるものとなった。

 

 「馬鹿な…ステータスだけレベル100の接近戦使用になったところで…」

 「種族ゴルゴーン・・・ゴルゴンの種族三人が繋がる事で三人のステータスを合計して平均的にステータスにプラスする。

  つーまーり!今の私はレベル100の戦士のステータスに、少なくとも妹の70剣士と自身の戦士としてのステータスを足して三で割った数字が計上されている」

 「つまりはステータスはレベル100以上の戦士…という訳か」

 「その通り!これこそゴルゴーンの本当の力!チート過ぎてプレイヤーが使うにはデメリット多めにされた理由である!!」

 

 ふひひひと嗤うモミにジョルノは立ち上がり拳に力を込めながら突き進む。

 

 「このジョルノには夢がある!」

 「・・・だから?」

 「貴方を倒して進ませてもらいます!!」

 「ふひひひひ♪じゃあ相手をしようか」

 「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!!」

 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!!」

 

 二人の拳が何度も何度も何度もぶつかり合い、互いを打ち負かそうと殴り合う。スキルを使って底上げするがチート気味のステータス上昇をしたモミに押されていく。一撃が腹部に直撃すると次々と殴られる回数が増えてくる。

 

 その度にあの御方との日々が…あの御方への想いが…やっと抱いた夢が…ボロボロと崩れていく。

 

 HPがレッドゾーンに突入したのを薄目で確認しつつ、意識が遠のいて行く。完全に防げなくなったジョルノへと今までで一番力の篭った一撃で観客席からコロッセオ中央へと吹っ飛ばされる。

 

 「………やりたいようにやったところで無駄だったようだなどっちみち…」

 

 そう呟きながら落下して行く。今なら少しの衝撃で死ねるだろう。

 

 主の姿を思い浮かべながら自由落下に身を任せていると何者かに手を掴まれ、地面にぶつかる事は無かった。

 

 「・・・ありがとう。ずっと守っていてくれたんだね。・・・・・・本当にありがとう」

 

 ゆっくり目を開けるとそこには瞳に涙を浮かべながらジョルノの手を取る黒髪の少女がミイに抱き付かれながら立っていた。

 

 

 

 腰の所にはヤルダバオトと共に王国で事を起こしたシャルティアがトロ顔で抱きついていた…。


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