骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第170話 「吸血鬼VS人間」

 音が聞こえる…。

 

 激しく金属がぶつかり合う音…。

 

 それに時折辺りを照らし、相手を妬き尽くそうとする雷の鳴き声が…。

 

 シャルティア・ブラッドフォールンは片目を吊り上げて、目の前に相対する神父を睨みつける。刈り揃えられた短い金髪に頬の大きな傷痕など着ている神父服がなければ誰も神父だと気付かないだろう。顔の作りもそうだがその瞳には戦いの歓喜や相手に対する絶望の色は無く、ただただ冷ややかだった。種族は人間であろう筈なのにまるでオートマトンのように感情の色が無かった。

 

 すでにその身には幾度とダメージを負わせているが決して引く気はないらしい。すでに右手の麻痺は解けているが火傷のダメージの回復が行なえない。相手に与えたダメージ量によって自身への回復量が変わるスポイトランスもすべて受け流されては意味が無い。

 

 「いい加減終わらせないと…至高の御方に失望されてしまう…」

 「こちらも同感だ。ここで終焉を迎えるわけにもいかない」

 

 反応速度以外のステータスで勝っている筈なのに勝てない。油断はしていた。だが、右手にダメージを負ってからは本気で挑んでいる。なのに…。

 

 「シャアアアアア!!」

 「馬鹿の一つ覚えみたいに!!」

 

 顔を前に突き出した状態で突っ込んでくる。斜め後ろへと伸ばされた手に握られるそれぞれの刀はまるで鳥の翼のようにも見える。こいつはいずれ飛ぶのではないかと。両足を踏ん張ってランスを横薙ぎに払う。神父はランスに合わせるように刀を振るう。刀とランスがぶつかり合ってシャルティアは微動だにせず、神父は力負けして吹き飛ばされ5メートルほど飛翔、地面に激突するなりごろごろと転がりまくった後に、手を着いて回転を止めてこちらを睨みつける。跪いている姿はすでにボロボロで本来なら死んでいるだろう。NPCゆえに大丈夫なのか分からないが、その様子は異常すぎた。吸血鬼であるシャルティアが化け物と認知するほどに。

 

 「何故…何故そうまで立ち上がるんでありんすか?」

 

 ぽつりと漏らした言葉に神父は何の感情も見せなかった。シャルティアは戦い続けた神父に意思のようなものを感じないのだ。何かを守る意思だとか自身に向けられている敵意も感じないのだ。意図して息をしていないかのように当たり前で無意識の作業を行なっているように戦っている。そう感じる。

 

 「そうですね。私は騎士として生を受けました。私を創造された方と同胞である騎士の皆様が尊敬し、憧れたプレイヤー様を模して作られました。そして人々を助け、人類の敵を打ち払い、世界を守護するようにと命じられました。

  ゆえに私の意志はそこに存在せず、私は義務で貴方に立ち向かっています」

 「義務で戦うでありんすか」

 「こちらも問いましょう。貴方は何故戦うのです?」

 「勿論至高の御方の為でありんすよ。その為ならばこの命、惜しくはありんせん」

 「それはそれは…羨ましい」

 

 胸を張って誇りながら答えた一言に初めて感情を見せた。切なく、寂しげで、悲しみの篭った瞳…。

 

 「私もそのような意思をもてたらどれだけ良かったか。いいえ、死ぬ事を許可されてない私はそのような意思が無くてよかったと思う出来でしょうか」

 「意思が無くて良い?おかしな事を申しますね。主の命で生きろと言われているなら誇りと歓喜を持って役目をこなすべきでしょう?」

 「いえ、意思があれば罪悪感で押し潰されましょう。――――私は何人もの騎士様達を殺めましたから」

 「―ッ!?自身の主君たちを殺したというの!」

 「ええ、彼らが世界の敵となられましたので」

 「貴方…正気?」

 「勿論正気ですよ。私は与えられた義務として全うしたのみ。そこに正気を疑われる余地があるとは思いませんでした」

 「少しでも同じNPCと思った私が愚かでありんした」

 「それは残念です。では、戦いを続けましょうか」

 「なら眷属招来!」

 

 シャルティアを中心に大量の古種吸血蝙蝠(エルダー・ヴァンパイア・バット)に吸血鬼の狼(ヴァンパイアウルフ)の群れが召喚され、一斉に神父目掛けて襲い掛かった。

 

 「雷斬!!」

 

 地面に刺した刀を叫ぶと共に青白い電撃が地面から放たれ、辺りに広がっていく。その雷撃に襲い掛かろうとした蝙蝠も狼を一瞬にて焼き払われた。地面から放たれた衝撃で神父のあたりは砂煙で覆われた。目を凝らして何処から来るかと見つめているとまた馬鹿正直に正面から飛び出してきた。またしても頭を前に両手と刀を伸ばして突っ込んでくる。

 

 「不浄衝撃盾!」

 「雷斬!」

 

 一日に二回しか使えない不浄衝撃盾で吹き飛ばしてやろうと放つと同時に雷撃を撃って来た。シャルティアに向かってではなく自身の足元へだ。不浄衝撃盾がぶつかる前に雷撃の反動にて宙を舞う。不浄衝撃盾を跳び越えた神父は雷斬とは別の刀を向けてきた。

 

 「束縛しろ!『天羽々斬』!!」

 

 刀より八匹の大蛇が伸びてシャルティアの手足に絡みつく。神父自体のステータス以上にあの刀が厄介だ。

 

 「これで動けまい。焼け『雷斬』」

 「うきゃう!?このッ!不浄衝撃盾!!」

 「ぐおっ!?」

 「そして清浄投擲槍!!」

 

 短く舌打ちしながら今度こそ不浄衝撃盾でふっとばし、追い討ちで清浄投擲槍を投げた。雷撃ごと不浄衝撃盾を受けたが清浄投擲槍は何らかのアイテム、もしくはスキルを持った一撃で相殺した。

 

 まだ立ち上がってくる神父に苛立ちを隠せないでいた。一日に回数つきのスキルを使用してもまだ立ち上がるだけでもイラつくのに一発無駄撃ちさせられた。

 

 「大丈夫かシャルティア?存外に苦戦しているようだが」

 

 二人に気付かせること無く立っていた少女――カーミラを名乗るぼっちに申し訳なさそうに視線を向けるが、当のぼっちは驚きと獰猛な笑みをあわせ持った笑みを浮かべていた。

 


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