骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第165話 「軍勢到着」

 ナザリックよりコキュートスに与えられたスケルトンの軍勢が、シャルティアのゲートを使用してカッツェ平野へ移動を完了し、コキュートスは現地にて軍勢の受け取りの為に指揮所から離れていた。デミウルゴスも悪魔の軍勢受け取りで来ている為に帝国大要塞の指揮所にはモミひとり残っている。

 

 「確カニ軍勢ヲ受領シタ」

 「じゅ、受領確認のサインをお願いします」

 「アア、コレデイイカ?」

 「あ、はい」

 

 マーレより渡された紙に自身の名を書いてそれを渡す。名前を確認して大きく頷いて受領を完了する。ここにマーレが居るのは受け渡しだけでなく、霧でアンデットやコキュートス達の姿を隠す事や魔法で監視魔法を弾く役目を受けている。

 

 軍勢の受け取りを終了して帰ろうとした所でメッセージが届いた。

 

 『はろはろ、受け取り順調?』

 「今終了シタ所ダ。ソレニシテモ何カアッタノカ?」

 『……帝国が攻めて来たよ』

 「ソウカ。対処出来ルカ」

 『必要ないでしょ。とりあえず反撃の命令だけ出して、相手の戦力を測ってはいるけどね』

 「分カッタ。本隊ヲ引キ連レテスグニ向カウ」

 『ゆっくりで良いよ。見てて面白いし…スケルトン一体倒しただけで大騒ぎしてるよ』

 

 手で指示するだけで軍団が整列し進軍を開始する。その光景を見たデミウルゴスは何かあった事を知り、小走りで駆けてくる。

 

 「何かあったのかね?」

 「指揮所ガ攻メラレテイルラシイ」

 「それはまた…彼らも必死だろうね。たかが6000程度の威力偵察部隊を倒す為だけに」

 「コレデハ私ガ指揮ガ出来ナイ」

 「戦争は始まったばかりだ。まだ活躍の機会はあるさ」

 「ナライイガ…」

 

 8000を超える悪魔とスケルトンの大部隊が進む方向へと歩み始めたコキュートスの背を見つめながらデミウルゴスは微笑む。

 

 「彼らの心が保てばですが…ね」

 

 

 

 

 

 

 「進めぇええええ!勝機は我らにあり!怯まず進めぇええええええ!!」

 

 全軍に向けられた将軍の声に兵士たちは活気付いていた。

 

 最初はアンデット相手に城を出て接近戦を仕掛けると聞いたときは兵士達も怯えていた。だが、結果は優勢である。そもそも4000と1万2000では数の利を得てる。三人で一体を片付ければ良いのだから。それにカストルに指示されて兵士たちはスケルトン対策として柄の長い打撃系の武器を装備している。装備できなかったやつは剣を鞘に収めたまま鈍器にしている。

 

 四騎士であるカストルとバジウッドは出る幕でもないと後方で待機している。兵士にも対スケルトン戦の訓練にはちょうどいいものだろう。

 

 「にしてもやる事ねぇな」

 「……」

 

 壁にもたれながら俯いたまま腕を組むカストルに、つまらなそうなバジウッドは声をかけるが予想通り無視されるが気にはしていない。近くにはバイアを含めたカストル直轄部隊も居たが話を聞くよりも、もしもの時に備えて警戒していてそんあ余裕は無かった。

 

 あまりにも暇すぎて欠伸をするが、警戒は怠ってはいない。4000のスケルトンは軍勢とは名ばかりの群れを相手に帝国軍は圧倒していた。噂に聞いたヤルダバオトや千年公の軍と聞いて少なからず恐怖を感じていたのが馬鹿馬鹿しく感じていた。

 

 「大した事なかったな」

 「………阿呆が」

 「なに?」

 「…………貴様は空を見上げる事はないのか」

 「空?――――ッ!?総員対空防御!!」

 

 言われて見上げてみれば空には多くのハゲタカ…いや、ボーン・ヴァルチャーの群れが上空より急降下していた。上への警戒を疎かにしていた騎士達が襲われその命を落とした。迎撃命令にそって弓を持っていた騎士達が一斉に矢を放つが骨の身体にはまったくの意味を成さずに地表へと落ちて行った。

 

 「スケルトンには矢は駄目か……降りた所を叩け!!」

 

 すぐさま次の指示を飛ばし、理解した将軍が部隊を大きく二つに分けてスケルトンとバルチャーを別々に相手できるように陣形を変更した。おかげで大勢は立て直せた上に死者を大きく減らせる事が出来た。

 

 バルチャーの奇襲には驚いたが200程度ならどうにでもなる。スケルトン達に理性などはありはしない。数は居ても戦術や戦略は扱えない。烏合の衆に勝利を得た騎士達は大声で歓声を上げた。

 

 勝利した結果とこれで帝国が危険に晒される事がない事からほっと安堵の息を漏らした。

 

 歓声や雄叫びが挙がる戦場でパチパチと拍手が響く。音を聞いた兵士達が次第に静まり一点に視線を向ける。

 

 「いや~見事見事♪」

 「勇ましい戦いぶりでしたよ帝国騎士の皆様」

 「ヤルダバオトに…千年公か」

 

 二人が立っていたのは全軍が出撃した後の要塞の壁上だった。静けさが支配した中で異様な二人の雰囲気に飲まれそうになりつつもバジウッドは声を挙げる。

 

 「貴様らがヤルダバオトに千年公か!」

 「如何にも」

 「文に書いてあった約束は守ってくれるんだろうな!!」

 「それは勿論」

 「なら――」

 「実に見事でした。帝国の精鋭部隊が必死に陣地製作用の作業部隊に戦争を仕掛ける様は♪」

 「作業…部隊…」

 「ええ、私達の軍隊はあちらですので」

 

 指を指された方向に目をやると先のスケルトンと違い、弓兵に剣士、騎馬などそれぞれの戦闘に特化したスケルトンの上位種の軍勢に1000近い悪魔の群れ、指揮所のテントから現れたデスナイト15体…。

 

 「では、本当の戦をしましょうか?」

 

 前方は化け物の群れ、後方の要塞には化け物の中の化け物が二体。どちらも地獄の道の中、全軍は命からがらの撤退戦を開始するのであった…。

 

 

 

 

 

 「うーわぁ」

 

 アイスを食べながら撤退する帝国軍を眺めているモミはあんまりな光景に声を漏らす。何とか撤退しようとギリギリの指揮で動いている軍隊は一方的に壊滅させられようとしている。悪魔やデスナイトは待機でコキュートスが指揮を執っているスケルトン部隊が強すぎるのだ。前のリザードマンとの戦いで負けてから戦術・戦略の勉強をしてきて前よりも格段と上手くなっている。そんなコキュートスを相手にしなければならない士気が低下した帝国軍は本当にかわいそうだ。

 

 「どうしたのかね?こんな光景が耐えれないわけではないだろう」

 「圧倒的過ぎて面白みが無いって感じ」

 「?勝っていることはいいことだろう?」

 「あぁー……ぼっち様に似ちゃったのか…勝ち戦で戦うんじゃなくて負け戦を勝ち戦にするほうが燃えるっていうのかな…そんな感じ」

 「ふむ。私としてはよく理解できないのですが理解できるように務めましょう」

 「真面目だね…あ、何とか逃げ延びた奴がいんね」

 

 何とか逃げ延びた騎士達を見るが数は5000から6000。半分は死体となっている。あれを回収してナザリックに持ち帰るのは骨がかかりそうだ。というか服が汚れるからやりたくない。

 

 めんどくさくてため息を吐きながらアイスを食べる。

 

 「ところでそのアイスなんだね?アイスなのに糸を引いているように見えるんだが…」

 「これ?納豆アイスストロベリー味の特製アイス」

 「なっ……いや、そうか」

 

 視線をアイスから戦場へ戻したデミウルゴスは指を鳴らす。音に反応した悪魔達が動き出す。

 

 「さて、至高の御方が来られる前に用事を済ませるとしようか」


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