骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第162話 「ホニョペニョコとモモン」

 リ・エステーゼ王国のエ・ランテルにある冒険者組合所入り口には大変な人だかりが出来ていた。

 

 組合嬢の居るカウンター前の座席にはアダマンタイト級冒険者の『美姫』ナーベと漆黒の長い髪の美少女が向かい合っていた。ナーベは向かいに座りワインを口にする少女を見つめたままで。少女は年齢に合わないワインを口に含む。空になったワイングラスに隣の銀髪の少女が嬉しそうに微笑みながらワインを注いでいる。

 

 ただそれだけの光景なのだが三者三様に美しく、可憐で、綺麗な容姿に近寄りがたく、しかし見惚れずにはいられなかった。ゆえにその場に居た者は離れた席から盗み見るように、入り口付近の人だかりに紛れて見つめていた。

 

 「失礼。通して貰えるかな?」

 

 入り口の人だかりを掻き分けるように現れたのはアダマンタイト級『漆黒の英雄』ことモモンであった。漆黒の前身を覆うフルプレートに、両手でも振るのが難しいグレートソードを二本背負ってナーベのもとへと歩む。近付いたことでナーベは立ち上がって席をモモンに譲る。が、座る事もなく剣を抜いて剣先を少女に向ける。

 

 礼儀正しく、英雄と称されても奢る事のない紳士的なモモンらしからぬ行動に見ていた見物客が慌てる。

 

 「刃物を人に向けるなと教わらなかったのかね?」

 「ほう!貴様が人だとは知らなかった。カーミラ……カーミラ・ホニョペニョコ」

 

 その名を耳にした誰もが驚いた。ホニョペニョコとは王都をヤルダバオトから守ったモモンでさえ森の一部を消し飛ばすようなアイテムを使用しなければ勝てなかった吸血鬼。そしてモモンがこのエ・ランテルに残っている理由。モモンは遠い地より二匹の吸血鬼を追ってここまでやってきた。一匹は仕留めて残るもう一匹が眼前にいるのだ。驚かないほうが無理な話だ。

 

 「確かにそうだ。私とした事が失言だったか」

 「それに横に居るのはシャルティア・ブラッドフォールンか?」

 「私をご存知でありんしたか?」

 「当然だ。あれだけ王都で暴れておきながら」

 

 シャルティア・ブラッドフォールン

 

 王国の兵士最強のガゼフに同格のブレイン、アダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』を相手に掠り傷も受けずに圧倒した吸血鬼。アルカード伯の奮戦で引かせる事が出来た相手。

 

 「先に言っておくが私達は争いに来たのではないよ」

 「よく言う。強大な力を持つ同胞を連れて置いて」

 「なら、尚更だろう。そんな強大な吸血鬼と街中で遣り合っても君が困るだけだろう。私達は別に構わないが?」

 

 ゾッとする笑みと共に放たれた言葉はモモンではなく、周りから眺めている連中やエ・ランテルの住民に対して向けられていた。もしここで戦闘になるとしたらアダマンタイト最高峰と謳われるモモンが苦戦する相手を二人同時に戦わないといけないのだ。その戦火がどのようなものか子供でも容易に想像出来る。街ひとつ消滅する程度ですめば良いほうだ。

 

 チラリと周りを見渡したモモンは悔しそうに俯き、拳に力が入る。剣を元の位置に戻して多少乱暴に椅子に腰掛けた。

 

 「仇討ちでなければ何の用で来たというのだ?」

 「人前で話すのも何だから個室の用意できるかしら?」

 

 急に話し掛けられた受付嬢は困惑してすぐに対応できなかったがシャルティアの睨みを受けて震え上がりながらこちらですと弱々しく受け答えしながら案内した。モモンは彼女を守るように間に入ったときには心底安心したような表情をしていた。

 

 

 

 

 

 冒険者モモンを演じているアインズはナーベと冒険者組合長であるプルトン・アインザックと共にソファに腰掛、向かいにはシャルティアとカーミラを名乗って変化しているぼっちが座っていた。

 

 「詳しい話を聞こうか?」

 「一緒に吸血鬼狩りにいかないか?」

 「は?」

 

 疑問符を浮かべたのはアインザックだった。それも当然か。すでにここにいる五人中四人が打ち合わせをすでに済ませてある。アインザックをこの場に置いたのはこの場の話し合いがどのようなものでだったかを証言してもらう為に参加してもらった。

 

 「何でありんすか?私達を見つめて…ああ!ここで狩りがしたかったでありんすか」

 「い、いや!違う…貴方方も吸血鬼。そのお二人が吸血鬼狩りなどと」

 「おかしな話だな」

 「別に。人が人を殺すように吸血鬼が吸血鬼を殺す事例がないわけではあるまいよ。まぁ、我々は遊び半分だが」

 「詳しい話を聞こう」

 

 聞こうもなにも知っているのだが聞かねばならない。内心ため息を吐きつつ真剣な面構えで聞く。といってもフルフェイスで表情なんて見えないのだが…。

 

 「吸血鬼の中に過去の遺物に縋る連中がいてね。それらが蘇生の手段を求めている」

 「そこで目をつけたのは蒼の薔薇のリーダーであるラキュース」

 「蒼の薔薇の!?彼女は確か蘇生魔法を使えると聞いた事があるが………彼女達なら吸血鬼に遅れをとることなど―」

 「下級吸血鬼20匹以上に中級吸血鬼5匹…上級吸血鬼1の軍勢と言っても?」

 「―っ!?」

 

 顔を青くして反応するアインザックには悪いが良い反応を見せてくれるから思わず笑いそうになる。求めていた反応通り過ぎだ。それで良いのだが。

 

 「それだけの数でラキュースひとりの捕縛……ではないだろう?他の狙いは何だ?」

 「狙いと言うか準備かな」

 「準備?」

 「長年眠り続けている吸血鬼が復活して一番に欲する物とは?命の通貨でもある血であり魂だ。かなりの大喰らいらしいな」

 「まさか生贄として大勢を攫うと?」

 「察しが悪いようだ」

 「それはどういう…」

 「アインザック組合長。奴は…カーミラはこう言いたいのです。『王都そのものを制圧して復活した吸血鬼の食糧庫にする』と」

 「馬鹿な!?そんな事が…」

 「王国の兵士は反乱を終結させたと言っても未だ疲弊したまま…むしろ生き残った者達も生き延びた事に喜んだお祭り騒ぎが抜け切っていない。それに王都警備隊は錬度が高い精鋭部隊でも吸血鬼の大部隊を抑えることは出来ない」

 「人の中には吸血鬼信仰者も居ることだしな。吸血鬼化して永遠の命を与えると言われたらどれほどの人間が拒む事が出来るかな?」

 

 王国の危機に対して放心して口をポカーンと開けてアインザックは動かなかった。当然の反応だがこれでは話が進まないな。肩をゆっくりと揺らして意識を戻させる。

 

 「アインザック組合長。このことを王都へ持って行って貰えますか?出来るだけ情報を漏らさないように」

 「あ、ああ…分かった」

 「民衆に知られたら大事だからな。パニックになって王都は大混乱し、吸血鬼たちに入り込む隙を与えてしまう」

 「隙を与えなくともお前たちは入り込んでいるがそこは後だ。共闘の話だが……受けよう」

 「そうか。それは楽しみだ」

 「だが、忘れるな。共闘が済めばお前を私は…」

 「当たり前だ。私も妹の仇討ちでもさせてもらおうかな?」

 

 くくくと笑うぼっちを見つめながら一息つく。これで演技は終了だ。作戦的にはファーストフェイズと言った所か。そして次はセカンドフェイズに移行する訳だがそちらはモミの役目だ。

 

 慌てて先の話を紙に纏めていくアインザックを見つめたのち退席する。外に出るとシャルティアとカーミラは日傘を差してエ・ランテルの外へと向かう。モモンとナーベは警戒している感を出しつつ送る。外に出たカーミラは大量の蝙蝠は体内から放って姿を覆い、そのまま去って行った。

 

 大規模作戦の二つ同時進行。

 

 これが終わればモモンの地位はもっと大きなものとなり、帝国はアインズ・ウール・ゴウン魔導国の同盟国となるだろう。

 

 帝国に同盟の話を持ちかければ二つ返事で同盟国になると言うことに本人はまだ気付いていない…。


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