骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第160話 「貴族会議」

 アルカード領で久しぶりの家族との団欒を楽しんだレエブン候は呆れた心情を隠しつつ腰を降ろす。

 

 リ・エステーゼ王国王都にて王国の貴族が会議の為に集結している。議長を務めるは貴族会議議長に任命されているレエブン候。副議長にはリットン伯が任命されている。

 

 今思えば王国で六大貴族とまで呼ばれた者はもはや自分とリットン伯しか居ないのだなと。ブルムラシュー侯は帝国と繋がりを暴かれ、ボウロロープ侯は帝国での戦で討ち死にされ、ウロヴァーナ辺境伯とペスペア侯は国家に仇名した罪として領地のほとんどを没収され貴族の位も取り上げられた。

 

 どうなったかだけを書き連ねれば何の繋がりもないが、どうなってかを言えばある繋がりを見る事が出来る。

 

 ブルムラシュー侯が帝国に繋がっている事を暴いたのはラナー女王とアルカード伯。ボウロロープ侯が討ち死にした原因はアルカード伯が力を増して、自身の派閥の力を削いでいった焦り。ウロヴァーナ辺境伯とペスペア侯は反旗を翻す理由こそ伯ではなかったものの、王国屈指の軍事力を持つアルカード伯がタイミングを狙ったかのように外出した時に反旗を翻し、アルカード伯により捕縛された。

 

 すべての元凶はアルカード伯に繋がり、彼は英雄とも明主とも称えられている。

 

 知力ある者は彼の計算し尽くされた事柄に恐怖し、知力なき者は彼の力に慄く。その割りに民衆からの支持は良好。誰も彼に手を出そうとは思わないし、咎める者もありはしない。

 

 だが、この場に彼は居ない。よってここにいる大多数の経験の浅き若手貴族と元反乱に加担していた貴族達を止める力がないのだ。

 

 「王国は帝国を攻めるべきではありませんか?戦力が整ってない今なら勝てるでしょうに」

 「そうですな。今や帝国などに怯える事などありませんな」

 「帝国もですが法国も良いのでは?あそこもカッツェ平野の所有権があるなどと戯言を言ってましたし」

 

 どうしてこうも血の気の多い奴らばかりなのだろうか?そして考えが浅はかな者ばかり。未来を見通す目を持てとは言わないからせめて少し先を見るように考えて欲しいものだ。

 

 「どうでしょうか議長閣下。帝国か法国かどちらに攻めるか投票をしませんか?」

 

 本気で頭が痛くなる。もしアルカード伯や私が居なくなればこの国は確実に滅んでしまうだろうな。

 

 「攻める事は決定事項なのか?」

 「え?」

 「まぁ攻めて勝つ事は出来るだろう。我が王国は一部勢力が反乱を起こしたが」

 「――っ…」

 「いまだ主力軍は健在。各部隊の錬度も多少なりとも上がりつつある。それでも足りなければ軍略に長けたアルカード伯に動いてもらえれば余裕だろう。他にもアインズ殿に援軍を頼む事も出来る」

 「ええ、そうです。勝ち戦です」

 

 反乱と口にすると一部の者達の顔色が青くなったが勝てるだけの兵力があると言うと見るからにホッと安堵していた。まったく馬鹿者共が。他国に容易く援軍を求めるなど付け入る隙を見せるだけだという事が分からないのか?

 

 「しかし、その後はどうするつもりかね?」

 「その後?」

 「占領後の配置はどうするのかね?世界には王国以外に帝国と法国しかない訳ではない。占領したらその国の防備が必要となる。もちろん占領した地の兵士をそれに当てても良いが王国に良い感情は持っていまい。もし他の国が王国に宣戦布告でもしようものなら一緒に攻めてくるだろう。広大すぎる土地に兵士たちが枯渇し、各戦線は人手不足。内部は反乱…法国の場合はエルフ達と戦争状態であるからしてエルフが仕返しにと法国のエリアに攻め込んでくるかもしれないしな。さて、これらをどうするのかね?」

 「え、いや…その…」

 「何か具体策を持っていたからこそ発言していたのだろう?」

 

 静まった会場を見渡してようやく話を進められると息をつく。今発言した話はアルカード伯に相談した回答に近いものだ。何でも数倍も数で勝る相手を圧倒した軍事力を誇った国があったらしく、いざ侵攻作戦を開始すると数の足りなさが露見して、そこを攻められ敗北したのだとか。記録を探しているのだが何処の国なのだろうか?伯が言っていたジオンなる国は…。

 

 「具体策がないようなので次の議題に移ろうか」

 

 そこからの議題は難なく進んで行った。内乱で被害を受けた地域の補修費用の算出に兵士の補充計画。後はアインズ魔導王からフロイド・ドラゴンを用いた航空便なるものを使用する発着場を許可するか否か。他にも民衆からの要望なども多くあったが意外とすんなり片付いた。

 

 「そういえば噂なのですが…ヤルダバオトが目撃されたなんていうのがありましたな」

 

 その名にレエブンとリットン、そして前々から王都に出入りしている貴族達の顔が青くなった。王都で多大な損害を出し、悪魔の軍勢を引き連れた大悪魔。今まで行方どころか生存までつかめなかった奴が噂とはいえ話しに出るとは思わなかった。出来れば聞きたくなかったというのが正解か。

 

 「何処で見かけたのです?」

 「確か…帝国との国境付近でしたかね。噂の内容では数十名の悪魔を連れて帝国へ向かったとか…」

 「おや?私のほうでも似たような噂が流れてますが私のほうはヤルダバオトではなく千年公とかいうゴブ―」

 

 大きな物音がして話が止まった。音の発生源は千年公に襲われた経験のあるリットンであった。口から泡を吹いて椅子から転げ落ちていた。

 

 「警備兵、リットン伯を医務室へ」

 

 近くで警備についていた兵士に短く命じて運ばせる。ヤルダバオトにしても千年公にしても超がつくほど厄介な危険人物だ。国が崩壊するレベルの災害だ。頭を痛める話にうんざりしながら頭を回す。

 

 「この事は私から女王陛下に伝えましょう。将軍には早急に調べてもらいます。モモン殿にも話を通しておかなければなりませんか」

 あれに対抗出来る者は王国兵士には存在しない。ガゼフ将軍でもブレイン・アングラウスが共闘しようとも勝てるわけがない。対抗できる者は『漆黒の英雄』モモンのみである。次点でアルカード伯ぐらいだ。以前王都に進行してきたヤルダバオトより格下と名乗ったシャルティアと名乗った吸血鬼と同等の戦いを繰り広げた。

 

 今のアルカード伯は王国の精鋭も足元に及ばないほどの者達を抱え込んでいる。アルカード領の全軍を用いれば倒す事も可能かもしれない。

 

 希望を込めた考えを思い浮かべていると扉を思いっきり開けてきた兵士がいた。何事かと警備の兵が警戒し、貴族達の視線が集中した。息を切らして汗だくの伝令は大きく息を吸い込み口を開いた。

 

 「申し上げます!エ・ランテルにシャルティア・ブラッドフォールンが現れました!!」

 

 何を言われたのか理解出来なかった。危険が迫っているどころの話ではなくなり、焦りが頭から爪先まで広がっていく。すでに思考が回らないというのに伝令はさらに言葉を続ける。

 

 「それと…ホニョペニョコと名乗る吸血鬼も…」

 


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