「凄い!凄いわ!!」
ぼっちは生暖かい目で世話しなく動き回る皆を眺める。今日の昼にはここを出る為に急いで他人や自分のお土産を選んでいるのだ。一階にはお土産コーナーがあって温泉関連の商品にアルカード領の特産品などが並んでいて目移りしてしまっている。
ただ一名は別の物でだが…
「ねぇねぇこれ凄くない!!」
「お、おう…」
「…分かった。分かったから落ち着こう」
「私は十分に落ち着いているわよ」
「…これは駄目だ」
ラキュースさんが武器コーナーの前でテンション上がり過ぎているのですが。目をキラキラと輝かせながら、手に取った武器を振り回す様はどう見ても落ち着いているようには見えないのですが。
『私は冷静だ!』
うん。落ち着いてないときの台詞だ。とある三男さんは置いといてあの絶賛興奮中の中二病患者をどうしようかな?さっきからアサシンブレードを出したり入れたりを繰り返して危ない。彼女がではなく周りが。
この武器コーナーには変わった武器を展示している。普通の武器も置いてあるのだがお土産で買って行く事を考えて、変わった武器のほうが多い。紋章を彫った篭手に仕込んだ小さな剣が飛び出す仕掛けになっている『アサシンブレード』、剣の刃を何段にも分離してワイヤーで繋いである『蛇腹剣』、軍用ナイフのようにごついナイフだが背が櫛状に凹凸のある『ソードブレイカー』、一見ただの杖にしか見えないが柄の部分を引くと刀身が姿を現す『仕込み杖』などが置いてある。ただ注意書きにもあるように問題も多くある。蛇腹剣は扱いにくく攻撃力を発揮する事が難しかったり、仕込み杖は奇襲や単なる護身用程度なら良いが剣を交えて戦う場合は強度的に弱かったりとするのだ。
全部買いそうなラキュースに対して呆れ顔を浮かべる蒼の薔薇の面々。視線を食べ物系のエリアへ目を向けると他の面々は温泉饅頭や葡萄酒などを手にとってどうしようか悩んでいた。ラナーちゃんに至っては温泉饅頭を買って、近くにテーブルと椅子を用意させてクライム君とお茶をしている。そして何故か視線が合うと照れたように笑うニニャちゃん…。朝の温泉のあれってやっぱり告白だったのかな?聞くものスキルを使うのも怖くて出来ないし、勘違いなんておちは恥かしい。そもそもリアルの私とでは年齢差がありすぎる。父親と娘ぐらいの歳の差なんですが…。
「これって何かしら?」
まだ興奮状態にあったラキュースは近くに飾ってあった棒状のナイフを手に取っていた。両手で振り回すが扱い辛くて首を捻る。その声でいろいろ考えていた事から意識を戻せたのだが…。
「おいおい、あんまり振り回すなよ」
「…何が起こるか分からない」
「何言ってるのよ二人とも。ナイフが飛んで行く訳でもない限り大丈夫よ」
「げんにナイフ・バットという飛行するナイフもあるのだが」
「そんな貴重な物を触れるように置かないでしょう」
あははと笑いながら軽く振ったナイフがカチリと音を発した。棒状の柄に内蔵されたバネの起動スイッチが入って刃が射出される。驚いた蒼の薔薇一行は刃の射出先を見つめる。
「・・・ヘルメットがなければ即死だったとは」
「…ヘルメットじゃなくて仮面ね」
飛んできたナイフの刃はぼっちの仮面…しかも額部分に直撃したが、ナイフの攻撃力と仮面の防御力に開きがありすぎて傷一つ付かなかった。モミはぼっちの呟きに突っ込みを入れながら殺気だったナーベとソリュシャンを手で制する。セバスはツアレがモミを見て止める。
「凄い!刃が飛んだ!!」
「違う。確かに凄いけど違う、そうじゃない」
「ハッ!伯爵ご無事で」
「私は問題ないが…」
後ろを振り返るとルクルットのすぐ横をすり抜けて壁に突き刺さる刃が視界に入った。カタカタと震えているが当たっていないようなのでよしとする。朝の覗きの未遂犯でもあるしね。
「うん。問題は無いね」
「そうですね」
「ちょ!旦那もニニャもひでぇな!!」
はははと笑いながら何気なく近づいてきたクレマンティーヌの手を掴む。人肌ではなく金属の感触にため息をつきつつ振り向くといたずらがばれた子供のような顔をしていた。
「あっちゃあ、やっぱりばれちゃう?」
「兎も角アサシンブレードを戻しておいで」
何事も無かったように戻って行くクレマンティーヌに遠めで見ていたアルシェは呆れた視線を送っていた。やはりナザリック組(モミを除く)は殺気だったが同様に止められている。
にしても皆が大荷物である。ガゼフは身近な部下に、エンリ達はカルネ村の皆に、ミュランは一族に葡萄酒や温泉饅頭などのお土産を買い、レイナースは自身を飾る装飾品を買っていた。ナーベやソリュシャン達はナザリックのお土産だろう。ラキュースはガガーランが抱えている身近な相手へのお土産以外に武器を大量に抱えていた。
これは早いうちにアインズさんのフロスト・ドラゴン輸送と契約を交わした方が良さそうだね。今回はうちのフロスト達にやらせるけど一応防衛戦力だから動かしたくないし。
「アルカードさん」
「何かな?」
「また来てもいいですか?」
隣に来ていたニニャが下から上目遣いで言った言葉に微笑み頭を撫でつつ頷いた。
「もちろんですとも。またのお越しを楽しみにしています」
アルカードに見惚れてぼーとしてしまったニニャをルクルットたちはニヤニヤと笑い、ツアレとセバスは微笑んで眺めている。気付いたニニャは真っ赤になった顔を両手で隠してそっぽを向く。
「楽しかったですわアルカード伯」
「それは良かったよ」
「それでアルカード伯は今後どうなさるので?」
「今後ですか…そうですね」
「若手貴族を集めた会合があるそうですけど欠席なさるのでしょう?」
「少し用事がありまして…レエブン候にお任せするつもりです」
現在スイートルームで親馬鹿発動中のレエブン候ではなく威厳のあるレエブン候にお願いしている。問題はないだろう。
「ふふふ、分かりました。それと別に彼女はどうするんです?」
「彼女…ニニャちゃんですか」
「かなり伯爵を好いているようにお見受けしますが」
「どうしましょうかね」
からかってくる仲間に対して恥かしそうに照れ隠しをするニニャを苦笑いして眺めることしか出来ないぼっちはラナーの言葉に頭を痛める。
本当にどうしよう…。