骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第153話 「アルカード旅館開店その参」

 フローリングや大理石ではなく一面畳が敷かれた70畳ほどの大宴会場でニニャは感嘆の声を漏らしていた。

 

 アルカード伯爵の温泉旅館に到着したニニャは貴族に連れて行かれた姉と感動の再会を果たした。今までどんな暮らしをしていたかを途中昼食を食べていないと知ったアルカード伯に昼食を出された時以外はずっと話し続けていた。漆黒の剣のメンバーであるペテルやダイン、ルクルットが冒険の話をしたり、姉の隣に座っている老紳士のセバスさんが詳しく姉さんの最近の生活を話してくれたりと夕方になるまでずっと語り合った。話の中でセバスさんと恋仲になっていることに一番驚いたが、幸せそうで本当に安心した。

 

 夕方まで話し続けていた私達の元に服の端とかが切れてたマインさんが夕食ですから大宴会場に集まってくださいと呼びに来てくれた。そこでどれだけ時間が経っていたのかを知り、一旦お開きにして急いで来たのだが集まっていたメンバーを見て改めて場違い感を思い知る破目に…。

 

 入り口でも見たラナー女王に王女の騎士クライム、ガゼフ・ストロノーム大将軍にガゼフと同格の腕前を持つブレイン・アングラウス。冒険者最高峰であるアダマンタイト級の『蒼の薔薇』に『漆黒』の美姫ナーベ。姉のツアレと恋人のセバスさんが仕えている貴族のお嬢様。前に寄った時と立場が変わり過ぎているカルネ村の村長のエンリ・エモットと妹のネム・エモットにンフィーレア・バレアレ。アルカード領の将軍で元帝国の四騎士であったレイナース・ロックブルズにアルカード伯爵の弟子で王国上位に上っている剣士のマイン・チェルシー。刀鍛冶で最も名が売れているレイル・ロックベルと錚々たる人物が揃っていた。

 

 しかし中には知らない人物も居り、アルゼリア山脈に住まうケット・シーのギルド『山猫』のミュラン代表代行とアルカード領村長代表孫であるジェイル・ヴァイロンも来ていた。二人は仲良く隣同士で話している。近くにはミュランの護衛としてイノと孫だけでは心配とコル・ヴァイロンも来ている。一番ニニャが分からないのはモミだろう。有名な人物でもなく貴族らしくもない。役職についているようにも見えない。それでもこの席に堂々と居るのだから何かしら凄い人なのだろうと判断したが。

 

 招待されたメンバーが全員揃うとアルカード・ブラウニー伯爵が手を二度ほど鳴らすと襖が開いて仲居用の着物を着た女性達がお膳に乗せた料理を運んできた。目の前に小さな台が置かれ、冷やっこにお吸い物、刺身、筑前煮、天ぷら、焼き魚、茶碗蒸し、白米、たくあんが並べられる。ポピュラーな料理でなく、アルカード領で有名になった『和食』と呼ばれる料理に感嘆を漏らしたのだ。ちなみに運んだ者の中には王国最強の魔法詠唱者でアルカードより航空魔道師の新たな役職を与えられたアルシェ・イーブ・リイル・フルトも居た。

 

 豪華なメンバーと共に食事に箸をつけ、あまり慣れてない味に目を見開きながら頬を弛ませた。素材を生かした味付けに驚きつつも箸がどんどん進んで行く。

 

 「…イイ食べっぷりだね」

 「はむ?」

 

 食べるのに夢中で隣に腰掛けている少女にまったく気付かなかった。振り向きながら口に含んだ刺身を飲み込つつ相手を確認する。隣に座った少女は魔法詠唱者らしいローブを羽織っており、目の下には大きなクマ、長い髪を手入れした様子がないことから不健康であまり身嗜みに興味が無いのだろう。

 

 「…隣良いかな?」

 「あ、はい。どうぞ」

 「私はモミ…同じ魔法詠唱者同士仲良くしようね」

 「僕はニニャと言います。こちらこそ宜しくお願いしますね」

 

 にへらと笑うモミに笑みを返すと同時にその席に座っていたダインが居ない事に気付く。ビンをトンっと置いて腰を降ろしながら反応を見て理解してある一点を指差す。その方向へと視線を向けると一部人だかりが出来ていた。ダインにイノ、ガゼフが上半身裸になって自分の筋肉を見せ付けるように何かをしていた。それを見ていたルクルットとペテルにブレインが大声で馬鹿笑いしていた。近くには大量の酒瓶が転がっている事から相当酔っているのだろう。

 

 「あ~あ、皆何やって…」

 「さっきぼ…アルカード伯が無礼講だってさ」

 「だからって女王陛下も居るんだよ」

 「本人は気にしてないみたいだけどね」

 

 確かにクライムと何か話しながらそんな光景を気にしている様子はなかった。ないどころか黙認している節があるのでアルカード伯が言った通り無礼講なのだろう。

 

 「…どう一献?」

 「一献ってお酒は駄目ですよ」

 「お酒じゃないよ。ただの葡萄のジュース」

 「ジュースですか?」

 「そうそう。アルカード領で一番有名なのは葡萄酒だけど葡萄を熟して作ったジュースも有名なんだ」

 「へぇ、ジュースだったら…」

 

 自分の空になっていたコップを差し出すとビンを持ち上げてなみなみに注いできた。零さぬようにゆっくりと口元に運ぶ途中で腕を優しく掴まれて止められた。

 

 「ちょっと良いかな?」

 「あ、アルカードさん!?」

 「これは何かな?」

 「…じゅ…ジュースダヨー。タダノブドウノジュースダヨ」

 「そうか…」

 「ちょ、え!?」

 

 持っていたコップを取ったアルカード伯は一気に飲み干した。にへらと笑ったまま顔が青ざめていくモミとは反対に満面の笑みを浮かべるアルカード伯はどことなく怒っている感じがする。

 

 「お酒だね。これ」

 「落ち着こう。ね?」

 「マイン」

 「はい!」

 

 呼ばれた事でモミの背後に立ったマインもニニャもアルカード伯の言葉を待つ。

 

 「モミ…ギルティー」

 「ちょっとま…ラサイ!!」

 

 マインは制止を聞く前にモミの腰を力強く抱き締めて、立ったままブリッジの体勢に移行する。自然と持ち上げられ後頭部から畳みに打ち付けられた。プロレス技のバックドロップであるがこの世界にはない競技の技に驚きつつも皆が見つめる。笑ったり驚いたりと人それぞれだがニニャは別の反応をしていた。顔を真っ赤に染めながらアルカード伯をただ見つめていた。

 

 アルカード伯はなにも気にせず飲んだがそのコップはすでにニニャの使用後で、それに口を付けたとなるとニニャの中では大変な大騒ぎになっていた。それに気付いた酔っ払い…いや、酔ってなくても絡んできただろうルクルットがにたにたした表情で近づいてきた。

 

 「ニニャとアルカードの旦那が間接キッス」

 「―ッ!?なななな、何を言ってるんですか///」

 

 言い当てられてさらに顔を真っ赤にしたニニャに全員の視線が注がれる。ミュランとジェイルは微笑ましく、ツアレとセバスは優しく見守るように笑みを浮かべていた。

 

 ただ冒険者ナーベと貴族のお嬢様役であるソリュシャンの二名は目を見開いた後、薄っすらと殺気の篭った目でニニャを睨んでいた。

 


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