骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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クリスマスが近い事から休みにお菓子作りしていたら休みが消えた…
なぜに…


第009話 「小さな村の英雄」

 なんでこんなことになったのだろう…

 

 マイン・チェルシーは思い出す。今日は猟師の父さんの手伝いをしながら薬草を集め、昼には帰宅して昼ごはんを家族の皆と食べる。はずだったのに…

 準備をしてたら村に多くの騎士達が押し寄せてきた。

 村人を守ろうとした父はあっけなく斬り捨てられ、母は僕を守ろうとして殺された。守られるばっかりで守ることが出来なかった…

 そのまま剣を突きつけられ広場に連れて行かれた。

 多くの村人が集められていた。

 ちらほらと居ない人がいたがそれはもう父さん達と同じでもう生きてないんだろう…

 櫓の下に集められた子供達の中に押し込められた。みんなは不安と悲しみの表情をしていた。

 ボクはたぶん死んだ魚のような目をしているのだろう。この先には変える事のない『死』しか待っていないのだから…

 一人の男性が悲鳴を上げながら走ってきている。その後を追う兵士の表情はヘルムで分からないがなんとなく楽しんでいるのが分かる。

 よく知る人物ではあるが何の感情の湧かない…どうでもいい…男性に刃が近づいている。だが、刃が獲物に届くことはなかった。

 

 「な、何者だ貴様は!?」

 

 追っていた騎士が倒れた。いや斬られたのだ。その後ろに立っていた者に…

 まるで血を浴びたような赤いコートに闇夜のような真っ黒なスーツを着込んだ男。顔は右目だけ覗かせる白い面に腰まで長い黒髪。遠目で見ただけで分かる。あれは貴族なのだろう…服から手に持っている刀まで一級品だってのが素人のボクでも分かる。

 「・・・・・・?」

 

 彼は首を傾げるだけで答える気がないのだろう。そんな態度に苛立ったのだろう。指揮官らしき男が怒鳴り散らしている。

 

 「あの愚か者を斬り捨ててやれ!」

 

 殺気を剣に込めながら三人の騎士が動き出す。

 …こんなことを思うのはすでにボクが壊れているのだろう…だが、思うことを止めることは出来なかった。

 

 ……綺麗だ…

 

 彼は力技で斬りかかってくる騎士達とは違って、すべての太刀筋を見切って避けきっていた。しかも大きく動くのではなく最小限の動きで…まるで舞を舞うかのように、滑らかに流れるように…

 刃が輝いたように見えた。たぶん光の反射かなにかだったのだと思う。でも、ボクには刀が意思を持って主の意思を受け取った。そんな風に考えることしか出来ない。

 あっけなく三人の騎士は斬り捨てられた。それは残酷な人の命を刈り取る光景だ。先ほど村人の皆が味わったばかりだった…。けれども誰も彼に嫌な視線を向けるものなど居なかった。村人も騎士達も彼に魅せられたのだ。あの磨きぬかれた技の数々に…

 

 「なんだ・・・もう終わりか・・・」

 

 失望と怒りを併せ持った声が騎士達を越えボクらまで聞こえてきた。その言葉に耳を疑った。貴族は平民の事など虫けら程度にしか考えてない。そんなこと皆が分かりきっている。分かりきっているはずなのに彼は怒りを表していた。

 

 「高貴さも信念も理念もなく、喰うためでもないのに女・子供を皆殺し、挙句怯えて戦う事すらできない、貴様らそれでも騎士のつもりか、恥を知れ!」

 

 それは怒りの叫びだった。騎士とは人とはこのような物かと訴えかけてくる。

 

 「な、舐めてんじゃねーぞ!」

 

 また数人の騎士が突っ込んだ。今度は舞うようにではなく叩ききったのだ。だが、彼は冷静さを欠いた訳ではない。その証拠に彼は返り血を浴びないように避けていた。

 さっきまで威勢を張っていた指揮官はただ怯え、一歩ずつだが下がっていた。

 一人の騎士が襲い掛かった。この戦いで初めて彼が受け止めた。だが、すり抜けるように刀は騎士の横腹を斬り裂いていった。

 ガシャンと鎧が大きな音を立てた。斬られた男は脇腹を押さえつつ膝をついていた。彼はそんな男を見つめていた。

 

 「・・・名は・・・」

 

 ぽつりと彼が問う。騎士は膝をつきながら穏やかな顔つきで彼を見る。

 

 「ロンデス…ディ・クランプ」

 「良い一撃だった・・・」

 

 彼は悲しみを見せながらロンデスの首を刎ねた。ロンデスの肉体は力無く倒れこんだ。

 

 「ま、待ってくれ!お、俺を助けてくれれば…金、金をやろう!」

 

 指揮官は騎士の死を見て命乞いを始めた。自分は散々殺しておいて…なんて醜い… 

 

 「200金貨だ。い、い、いや、500金貨やろう!だから…」

 

 彼は歩みを止めない。光り輝く刃が指揮官の足を切断した。

 

 「ぎゃああああああああああ!!」

 

 劈くような悲鳴が上がった。その音源を今度は侮蔑の視線を向けながら見ていた。

 

 「あんたの血は臭い。とても臭いんだ。指揮官の器じゃないね」

 

 片目が残った4人の騎士を睨みつける。すでに戦意を喪失しており泣きながら頭を垂れていた。

 

 「そこまでです」

 

 空中にまたしも仮面で顔を隠した人物が浮いていた。黒いローブを着込み、フルプレートの女性を連れている。ローブの男の声を聞き彼は刀を鞘に納めた。

 後から来たアインズという人は二度とここで悪さしないことを騎士達に約束させ逃がしてやった。なにやら助けに来たマジックキャスターなんだと言う。フルプレートの女性の後ろには保護されたエンリ・エモットと妹のネムが連れられていた。

 村長とアインズさんが喋っていると彼が足を斬られて逃げることの出来なかった指揮官を引きずりながら歩いてきた。騎士達の置いていった剣を複数持ちながら…

 乱暴に剣と指揮官をボクらの近くに投げてきた。唖然としてボクたちは彼を見つめる。

 

 「殺れ」

 

 一言だった。出来るわけが無い。昨日まで命の駆け引きどころか剣すら持ったことすらないんだ。

 

 「殺るんだ」

 

 何の反応も得られない彼が二言目を発した。目の前に立っていた男が首を横に振った。

 

 「駄目だ、殺るんだ。殺るんだ、殺らぬばならぬのだ」

 

 指揮官を指していた指を家の付近で死んでいる者を指差す。

 

 「ここがどこでお前らが誰であろうと仇はお前らが討たねばならぬ、あの子が応報せよと言っている!!」

 

 彼の言葉が心の奥まで染み渡っていくのを感じた。ボクはいつの間にか剣を手にしていた。村人のほとんどの者が何かしら武器を手にし始めた。あのエンリでさえも…ボクは何の感情もなく、未だに命乞いを続けている物に剣を突き刺した…

 

 何度も刺して原型を留めてなかった。誰かが剣を落としたのを合図に動きが止まった。彼を見ると笑っていた。心の底から。まるで無邪気な子供のように…

 

 「良か」

 

 身体の中に何かが戻ってくるような感覚に襲われ、ボクは泣いていた。彼はそんな僕の頭を撫でてくれた。

 

 「お、お名、えっぐ、お名前はなんと…言うんですか?」

 

 撫でていた手を止め彼はさっきとは違い、優しげな声で答えてくれた。

 

 「・・・アルカード・・・」

 

 

 

 どうしよう。現状その一言に尽きる。アインズさんは村長さんと難しいお話し中。俺は警護としてまた壁にもたれかかって待機中。

 なんかこっちに来て反省ばかりしている気がしてきた。

 最初は騎士達を簡単に倒す自分が助けに来た英雄みたいなんじゃねって、思い上がったところから始まって、旦那が俺にぺらぺら台詞を言わすんだもん。そして旦那の次には妖怪首おいてけだよ。もう恥ずかしくて死にたい。

 誰かに突っ込んで欲しい気持ちを知らずにアルベドが

 

 「さすがですぼっち様。ぼっち様が発せられた言葉の数々は虫けらだけではなく私の心の奥まで染み渡ってくるようです。最後に虫けら共に虫けらの掃除をさせるところなんか心躍るようでした」

 

 何処をどう聞いたらそんな賛辞が出てくるんだよ。普通はドン引きだろうよ。何あいつ漫画の台詞を叫んでるの?って。特に最後の奴はモモンガさんでもドン引きしてたわ!気付けよアルベド。

 あと、スルーしたけど虫けら呼ばわりはよして……俺ら元虫けらになっちゃうから…

 

 そういえばモモンガさんがクリスマスの日に問答無用で運営からプレゼントされた嫉妬マスクをかぶって来たときなんか爆笑を我慢するの大変だったんですから。……ぶっ、くくく…またわらけてきた…

 死体を使って召喚した《デスナイト》連れていたのにはびっくりしてたなあ。村人が…

 そんなことよか一番どうしようと思うのが男の子がずーと俺を見ているんですが……止めて、どんな攻撃よりも見つめる攻撃に弱いんだから…




ぼっち視点より他者視点のほうがぼっちが仕事をしているように見える…

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