骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第152話 「アルカード旅館開店その弐」

 応接間でニニャとツアレが感動の再会しているのを眺めたぼっちは満面の笑みを浮かべたまま、部屋からそっと出て行った。中にはセバスとペテル達が居るが自分は居た所で二人が離れていた時間を埋める話は持っていない。ならここは彼ら・彼女らのみにした方がいいだろう。

 

 この温泉旅館にはぼっちの関係者を大勢呼んでいた。女王のラナーに養子のクライムとガゼフ将軍と王国の中枢を担う人材。蒼の薔薇や漆黒の剣の冒険者チーム。王国に匹敵する戦力を誇るカルネ村の村長であるエンリとネム、そしてンフィーレアと結構な大物も含まれている。

 

 他には漆黒の英雄と呼ばれているモモン――アインズさんも呼ぼうとしたのだがどうも帝国で自分たちが主役のパレードが開かれて動けなくなったらしい。平凡な学生生活を送ってみたいなとぼやいていたのは何だったのだろうか?兎も角、冒険者モモンは呼べなかったがナーベは参加している。後は情報収集を行なっているセバス達。つまりはお嬢様役のソリュシャンに執事役のセバス、メイド役になったツアレである。

 

 「結構な大物が集まってるねぇ」

 

 階段前で声をかけてきたのは各地の反乱軍を殲滅し終えて帰還したクレマンティーヌであった。今日はビキニアーマーではなく、小さく金魚が描かれた黄色い浴衣姿である。衣装ケースより好きなのを選んでくれと言ったときにはまさか明るい物を選ぶとは思わなかったがこれはこれで中々…。

 

 「・・・戦闘厳禁」

 「分かってるって。でも戦士長…いんや、今は将軍だっけ?彼とは戦ってみたいね」

 

 本当に分かっているのか怪しい笑みを浮かべているのだが何処まで信じて良いのやら。するとちょうど良いところにマインが歩いてくるのが見えた。

 

 「・・・マインと・・・模擬戦」

 「んふふ、それも興味あったんだよね。じゃあ、お弟子さん借りてくよ」

 

 何事か理解出来ずに引っ張られ…いや、引き摺られて連れて行かれるマインを小さく手を振って見送る。なんかヒューズ中佐に連れ去られるウィンリーを見ているみたいだ。

 

 マインやクレマンティーヌ同様にアルカード領で働いている者も呼んでおり、将軍であるレイナースに刀鍛冶のレイルも居るのだがニグンは店の方で忙しく、クレマンティーヌが反抗軍相手に戦っていた遠征費やバスカヴィルの隊員の補充や怪我人の医療費などの費用の支払いなどに追われて来れないと平に平に謝ってきた。仕事押し付けすぎた感が半端ないのだが…。

 

 あー…そういえばまだ来てないケット・シー御一行は置いとくとしてもうひとグループ居たんだった。部屋から出て来ないだろうけど。

 

 ぼっちが建てた温泉旅館は五階建てで一階がメインの温泉施設で二回が遊技場や食事処、三階と四階が一般客の宿泊施設となっており、最上階である五階はスイートルームとなっている。今回は皆で楽しくをメインに呼んだのでラナー女王も一般の大部屋で過ごしてもらう事になっているのだがある人物だけはスイートルームのモニターに急遽なってもらったのだ。

 

 ある人物とは六大貴族で貴族会議議長の座に付いてもらったレエブン候である。話を聞いていると妻子持ちらしいので家族連れでの感想が欲しかったのと家族旅行も兼ねて呼んだのだが、アレは皆に見せては駄目だ。あの冷静沈着でヘビを思わせるような視線を向けるレエブン候にじかに話を持って行ったときはにこやかに受け答えしていた。それこそがぼっちの知っているレエブン候であったのだが次の瞬間には音を立ててというか爆発して消え去った。部屋に飲み物をお出ししようとしたお嫁さんが入ってきたのと同時に小さな子供も入ってきたのだ。突如のイレギュラーにレエブン候よりもお嫁さんの方が焦っていた。それも子供が入った事態ではなく、入った事でレエブン候を見て焦ったのだ。子供は舌足らずながらも礼儀正しく自己紹介をした。それを返し終わるとレエブン候が『よくご挨拶出来まちたね。りーたん』と子供を抱き締めながら言ったのだ。聞き間違いかと思って話を続けるといつも通りに返してくる。が、子供が何かするたびに『どうちまちたか?』と赤ちゃん言葉で子供に話しかけるのだ。来た理由を知ったお嫁さんに『出来れば皆さんに会わないようにお願い出来ないでしょうか』と頼まれて即答でスイートを用意した。スイートルームには部屋まで温泉を引いており、部屋内でも十分に楽しめるようになっている。

 

 威厳の欠片も感じなかったレエブン候の子煩悩な一面を思い返しながらエスカレーターを利用して五階を目指す。このエスカレーターはリアルにあった電気式ではなく、温泉を水車を動かす動力に回して動かしている。電気式ほどコンパクトな仕掛けは出来なかったが水車数十機を用いる事で再現できたのは行幸だと思う。本来ならばエレベーターを再現できないかと思ったが行きたいときに動かす機構を作ろうとしたらどう考えても温泉を利用するより魔法だよりになる為に断念したのだ。

 

 エスカレーターで五階に着くとレエブン候の部屋ではなく別室に急ぐ。招かざる客のもとへだ。部屋に入るとナーベラルとソリュシャンが会釈する。その間には縛られたモミがにへらと笑いながら座っていた。

 

 「・・・何故」

 「……面白そうだから?」

 「パレード・・・は?」

 「…家の事情とか言って抜けてきた」

 

 頭が痛い。一応アインズさんの護衛も兼ねて行った筈なのだが…。

 

 「護衛なら問題ないよ。人が多いからハイネに任せてきた」

 

 確かにハイネの操るマリオネットを使えば広範囲の防衛網が組める上に人が多いパレード中にはモミよりハイネのほうが有効。しかも人が大勢居るなら紛れ込ませれば見つかる事もない。モミの判断に納得しつつナーベラルとソリュシャンに視線を向ける。

 

 「判断的には正しいかと。しかし…」

 「アインズ様の命令を勝手に放棄したのは頂けないかと」

 「フヒ?一応許可は貰ったよ」

 「・・・貰ったのか」

 「ちょっと別件の用事もあったしね」

 「用事とはなんでしょうか?」

 「内容は話せないんだよなコレが」

 

 内容は言えないというのは気になるが許可を得て来たのならまぁ良いか。

 

 「ならば・・・歓迎しよう」

 「…フヒヒヒヒ。じゃあ楽しもう」

 「・・・暴走するなよ」

 

 肩を竦めながらナーベラルとソリュシャンを連れて部屋を出る。部屋を出るとナーベラルから冒険者のナーベに戻り、ソリュシャンもプレアデスからセバスの主人であるお嬢様に戻る。縄を解いていなかったのだがいつの間にか縄抜けをしてついて来ていた。

 

 付いてきた所で彼女達とはすぐさま別行動する事になるのだけどね。ニニャ達は昼飯を食べずに来たらしくてステータスに空腹が表示されていた。料理人に何か作って出す準備をしてもらおうか。

 

 この後、厨房に向かったぼっちだったが旅館の専属料理人たちは本日の夕方より着任する為に誰も居らず、結局自分で作る事になった。


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