骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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第151話 「アルカード旅館開店その壱」

 文化の違いこそ国の違いだと私は思う。

 

 王国には現在独立した地域が二つほど存在する。ひとつは以前にも立ち寄った事のあるカルネ村。カルネ独立自治区と呼んだほうが良いか。ゴブリンを主体とした5000を超す軍隊にドワーフの工匠達、アインズ・ウール・ゴウンとの独自の交渉ルートなど王国では手出し出来ないほどの力を有する為に、王国内の村でありながら独自の自治権を許された。が、独立と言っても人やモンスターの数が増えて生活が大きく変わったが、それでも王国の文化範囲内。

 

 もうひとつはアルカード・ブラウニー伯爵の領地で同じく独立性を持つアルカード領だ。領主になってから数年も経たないうちに独特な文化を広がらせていた。

 

 「やっぱ違うなここは!」

 「王国内の筈なのにまったく別の世界観なのである!」

 

 ルクルットは兎も角、ダインが興奮気味に喋っている事に驚くものの自分も見慣れない異国のような風景に興奮していた。

 

 レンガを積み重ねたり粘土で固めたような建築物ではなく、切り出した木や竹を主にした木造建築で屋根には瓦と呼ばれる焼き物を使用している。家も違えば衣類や食文化もまったく別で、ゆるりとしたコートのような衣類をお腹の辺りで巻いただけの衣類がここでは主流だ。着物に着流し、袴姿など王国のほかの都市では見る事のない服装を見る事が出来る。

 

 「お!格好良いなアレ」

 「和式ですね。始めて見ました」

 

 アルカード領の独特な文化を和風とか和式とか言うがペテルが言った和式はある冒険者の装備の話である。下は厚みのあるズボンにブーツ、上はインナーとチェインメイル…アルカード領では鎖帷子と防具としては薄すぎる装備の上から軽装甲の篭手や胸当てや膝当てをつけて着流しを着るというスタイルを誰かは知らないが始めたのがきっかけで広まっていったのだ。

 

 「俺もやってみようかな?」

 「止めといた方がいいですよ。一式揃えるの結構高いですし」

 「何言ってるんだよニニャ。ここを何処だと思ってるんだよ」

 「そういえばそうでしたね」

 

 剣ならまだしも刀を打っている職人は少ない。理由は簡単で刀一振りを作るより剣を打ったほうが手間も時間も良いのだ。手間や職人の少なさから刀の希少価値は上がり、一部では高級品として扱われている。安いものでも高価で買うには高すぎる買い物である。が、このアルカード領では剣より刀の生産が主となっているのと鉱山を持っていて移送費無しの原価で調達できる分かなり安く、自分達でも容易に手が出せるほどである。

 

 ここは王国内でありながら異国だと本当に思う。

 

 アルゼリア山脈の鉱山を手中に治めるだけでなく、アインズ・ウール・ゴウン魔導王と共に行ったドワーフ王国より鉱山のノウハウを学んで運営も行なえるようにしている。鉄だけでなく大きな農地経営なども行なって食物の流通も大いに賑わっている。居食住に加えて武器や武力も充実している。

 

 細道から大通りにぬけると馬車が五台並んで走れるほどの道幅の通りに食べ物屋がずらりと並んでいた。焼き鳥やにたこ焼きに焼きそば、串カツに牛好など珍しい料理を並べた屋台に目が移ってしまう。アルカード領に来て買っていくものと言えば回復効果を持ち、安値でありながらそこらの最高級ワイン以上の味わいを持つという葡萄酒だが、次に挙げるとすれば刀に並んで海鮮物だ。山や陸地しか持たない筈なのに海鮮物と言うのは妙な話なのだがそれが噂になるほど美味しいらしいのだ。噂では共存しているケット・シーから買っているらしいが真実かどうかは定かではない。

 

 「あぁ~良い匂いがするなぁ」

 「確かに良い匂いであるな。うなぎ屋であるか」

 「ここに居るだけでお腹が空いてきますね」

 「あそこでメシにしようぜ」

 「駄目ですよ。僕たちがここに来た訳を忘れたんですか?」

 「いや、忘れてねぇけどさ…」

 「はいはい、行きますよ」

 

 放っておけばそのままフラフラと屋台に行きそうだったルクルットの背を押しながら先を急ぐ。今回ニニャ達がここに来ているのはモンスター退治の依頼などでなく、アルカード・ブラウニー伯爵にお誘いを受けたからだ。前々より建設していた温泉旅館が完成したから見知った人を呼んで楽しんで貰いたいとの事だった。一応伯爵からのお誘いだったので衣類にも気をつけた方が良いかと思ったのだが招待状には普段どおりの服装で良いと書いてあったのでいつも通りの服装で来たのだが…。

 

 招待状通りに普段どおりの服装で来たことをニニャは後悔した。書いてあった住所に近付くに当たって綺麗な朱色に染まったとても大きな建築物が目に入ってきた。正面から見た大きさは王都に行った際に目にした貴族の豪邸以上で、見た目の美しさは王宮並みであった。お喋りのルクルットも次第に黙り、皆の足が止まり始める。分不相応過ぎる建物に気が引けて踵を返したくなる。

 

 「どうします?」

 「どうするっつたって…なぁ?」

 「行くしかないのである」

 「そうですよね。伯爵の誘いを断るのはアレですし…」

 「そ、それにただ行って楽しむだけだ。ここで気負っても仕方がねぇって」

 「うん、い、行きましょうか」

 

 自分に言い聞かすように言い合って重たくなった足を動かしてどんどん近付いて行く。黒と朱で出来た木造建築には繋ぎ目などは見えず、すべてが一個の物として出来上がってあったのではないかと思えるほどだ。所々に木彫りの彫刻が施されており、それらが目に映る度に気後れしてしまう。

 

 建物にある一団が入っていくのが遠めに見えて動きがまた止まってしまった。話した事は無いが王都での戦闘前後に目にしたアダマンタイト級冒険者チームの蒼の薔薇だったように見えた。次に以前共にカルネ村に行ったアダマンタイト級冒険者で『美姫』と呼ばれるナーベが入っていった。他にもカルネ村の村長であるエンリ・エモット一向の姿も見えた。この時点でそうそうたるメンバーであるのだが一台の王族専用の馬車が止まった事でメンバーの豪華さが倍増した。女王であるラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフとクライム・ブラウニーが降り立ったのだ。

 

 ますます重くなった足を無理やり動かし入り口に近付く。すでに心臓はバクバクと音を立てて今にも破裂しそうだったが今更準備する時間もお金もない。というかあのメンバーと並べる服装や装備を買うとなると全員の資金を合わせても足りやしない。

 

 ニニャ達は覚悟を決めれずに暖簾を潜る。すると仲居用の桃色の着物を着た少女達が出迎えてくれたのだが緊張のあまりルクルットは口説き文句を口に出来ず、ニニャは驚きのあまり倒れそうになる。

 

 「―いらっしゃいませ」

 「いらっしゃいませ!」

 「ませ!」

 

 迎えてくれたのは王国最強の魔法詠唱者でアルカード領の魔法学校の魔法の師を務めているアルシェだった。横に並ぶ幼い少女達はアルシェの妹のクーデリカとウレイリカである。ニニャも何度かアルシェの講義を受けており、尊敬する師として接していた。それが目の前で膝をつき、手を添えて、頭を下げて出迎えているのだ。どういう対応をすれば良いのか分からず膠着してしまうだろう。

 

 「……来たね」

 

 奥からは赤いスーツを着込んだアルカード伯爵まで現れいよいよテンパッテどうすればいいのか分からない。それを察したのかアルカードはふふふと笑う。

 

 「そんなに硬くならないで。気を楽にしてくだされば良いのですから」

 「は、はい!」

 「すぐには無理そうですね」

 「あ、あの、す、すみません…」

 「そういえばニニャさんに会って欲しい人が居るのですが……ちょうど来ましたね」

 「え?」

 

 言われて振り向くと暖簾を潜ってシャキと背筋を伸ばした老執事と共にニニャ似の女性が入ってきたのだ。

 

 「姉さん!?」

 

 ニニャとツアレニーニャ・ベイロンはお互いに見つめあい驚きの色で表情が染まった…。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに温泉旅館の温泉を掘り当てたのはぼっちただ一人である。


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